ATS Tokyo 2016開催、広告のクオリティーとエンゲージメントが焦点に

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(翻訳:シード・プランニング 長野 雅俊)

日本の広告テクノロジー業界は、広告配信の質とユーザーのエンゲージメントを高めることに向けてその軸足を移す必要がある。なぜならば、両者ともに凋落の傾向が見られるからだ。

ATS Tokyo 2016に登壇したユニリーバジャパン・カスタマーマーケティング株式会社メディア・ダイレクターの山縣亜己氏は、デジタル時代の到来により、媒体の広告スペースを自動的に購入できるようになったことで、広告主は多大な恩恵を受けたと述べた。とりわけマーケッターにとっては、競合社による様々な施策に対してより迅速に対応できるようになったことが大きな意味を持つという。

また以前はキャンペーンを行う際に、予め定められた料金に従う形で広告掲載の2カ月前から広告枠を買い押さえておかなければいけなかったが、プログラマティック・バイイングの導入で、広告を買い付けてから実際に掲載されるまでの期間を短縮し、また広告主が予算をより効率的にコントロールできるようになったなどの利点も挙げている。

unilever社 山縣氏

しかしながら、デジタル時代は量と質の両面における課題をも同時にもたらした。山縣氏は、広告インベントリの少なさについての懸念を表明。これはその他のアジア地域においても問題視されている課題だ。
同氏は、いまだ混乱状態にあるYouTube動画を除けば利用可能な動画広告インベントリの量が十分ではないと指摘した上で、プログラマティックまたはリアルタイム入札を推進するためにはこの不足分を埋める必要があると述べている。

「質の面においても課題はあります。広告がきちんと表示されないことさえしばしばあるからです」と山縣氏は言う。媒体主は自らのインベントリに掲載された広告が然るべき形式で表示されるように管理すべきであるにも関わらず、必ずしもそうした対応が取られていないという現状にも言及。かつて広告業界の主要プレイヤーであった新聞は、掲載広告に加えて、その印刷媒体に掲載されたすべての情報に対して責任を負っていた。しかし、「新聞業界は彼らの発行物を注意深く見守っていましたが、(現代のデジタル媒体では)そうした意識が希薄になってきています」。デジタル・プラットフォームを扱う大多数のメディアを相手とする場合、広告主は自社の広告が適切なプラットフォームに表示されたことを確認し、さらにはその効果を評価するためには、自らモニタリングを実施しなければならない。

山縣氏は、媒体主はこの課題と向き合うことに消極的になっているのかもしれないと指摘している。課題に対して真剣に取り組もうとすれば、必要とされる広告インベントリを提供する能力が試されるからだ。また頻繁に議論の対象となっているブランドセーフティーの問題にも言及。媒体主は、広告がどのような形式で彼らのコンテンツ上に表示されるかについてより厳格な管理を行うべきだと述べた。

クリック数はKPIとなり得るか

消費者全体のうち57%は広告をクリックしないという事実を知れば、日本のマーケッターは不安を覚えるのではないだろうか。「クリック数が低いからといって、コンバージョンが低いとは限りません」というのがAdRoll株式会社の代表取締役社長を務める香村竜一郎氏の見解だ。

同社が行った調査によると、半数以上がランディング・ページを見ていない一方で、8割以上がオンライン上での購入に至っている。この調査結果を見れば、広告キャンペーンの成果をクリック数のみで測ることの是非を再度検討し直す必要を感じるだろう。しかしながら同調査によると、多くの広告主は現在でもクリック単価とクリック数を主要なKPIとして位置づけている。 

65%の消費者はたとえクリックしなかったオンライン広告でもその内容を覚えており、また63%は商品広告を目にした数日後にその商品を購入するという。この調査結果は、広告主はより長い時間軸で広告効果を測る必要があることを示しているのかもしれない。

一方で、広告主はあまりに過剰に広告を出すことを控えるべきだ。顧客から敬遠されてしまう原因となりかねない。回答者の77%は、複数回にわたり広告を「わずらわしい」と感じたことがあるという。例えば携帯電話のスクリーン全体が広告に覆われてしまったときなどだ。

また50%はまるでストーカーのように広告に追い掛け回されることを嫌がり、また30%は購入済みの商品についての広告が再三にわたり表示されるといったような、しつこい広告に対して拒否反応を示すという。約52%の消費者は、繰り返し表示されるしつこい広告を見れば、その広告を出したブランドに対するイメージや評判に否定的な印象を持つようになると答えている。

広告主は、当然のことながらそのような反応を引き起こすことは避けたいと願っている。しかしながら、そうした広告主たちが、複数のSSP、媒体社及びマーケット・プレイヤーを利用することで問題を悪化させていると香村氏は指摘。広告インベントリが重複し、また異なるルートを通じて同じ広告が表示されてしまう可能性を高めているという。

さらには広告主がクリック率ばかりに関心を寄せていることが問題を悪化させている。必要以上に広告の表示回数を増やそうという動機付けとなってしまうからだ。

香村氏は、広告代理店が一業種一社制を取らない日本では、広告代理店が同一業界内にいる複数の広告主及びITベンダーと連携して多様なキャンペーンを打ち出す環境ができたのではないかとの見方を提示。より適切なアトリビューション分析を行うためには、ベンダーの数は1社ないし2社までに絞ることを推奨している。

ユーザー・エンゲージメント向上に向けた動き

Teads Japan 社の Head of International Salesを務めるEmmanuel Fischmeister氏は、各ブランドは消費者のエンゲージメントと信頼を高めるために、ユーザー体験を注視する必要性が高まるだろうと予測。「ユーザーはクオリティーの低いクリエイティブ、的外れなターゲティング、表示速度の遅いページを嫌う」と述べる同氏によると、72%の消費者がアドブロックをインストールする理由として目障りで迷惑な広告の存在を挙げている。Teads社の独自調査では、62%がウェブサイトのパフォーマンスに影響を与えた際に、さらには61%が広告が過剰に表示されていると感じた際にアドブロック機能をインストールしていると回答。comScore社によれば、60%のプレロール広告は消費者に閲覧されておらず、広告主がターゲットとする消費者に向けた動画広告の配信は功を奏していないようにも見受けられる。

Fischmeister氏は、一方でマネタイズするための動画コンテンツを持たない媒体にも新たな動画広告のインベントリを提供したアウトストリーム広告を高く評価している。アウトストリーム広告であれば、ウェブサイト上のあらゆる記事上に動画広告を掲載することができるからだ。

ATS Tokyo 2016

The Trade Desk社のカントリーマネージャー日本を務める新谷哲也氏は、ビューアビリティや広告詐欺、ディールIDといった要素の重要性について触れながら、業界の関心は広告枠から人そのものへ移っていると述べた。2016年9月の統計によると、同社における日本のネットワーク全体のインプレッションのうち、閲覧可能なものは全体の39%に留まったという。この数字を引き合いに出して、ユーザー体験を高めるためにはビューアビリティを向上させる必要があるというのが同氏の考えだ。

スマートニュース株式会社のブランド広告責任者である菅原健一氏は、携帯電話を通じて消費者が時間と場所を選ばず様々な情報にアクセスできるようになったことで、メディア消費やユーザーによる情報入手のあり方は著しく変化したと語った。こうした変化は、より効率的に消費者へとリーチするようなメディア流通を促し、特定のプラットフォームに最適化したコンテンツを配信する必要性を高めたという。マーケッターは様々なプラットフォームの特性を把握し、彼らの広告をそれぞれのプラットフォーム用に最適化しなければならない。もしこのような工程を軽視すれば、消費者はアドブロック機能を利用するようになるという菅原氏の意見は、先に紹介したFischmeister氏の見解にも沿っている。

菅原氏は、表示速度を遅らせずに広告を表示し、各種のスクリーンに応じてコンテンツを最適化した上で、クオリティーの高いクリエイティブを提供するといった、ユーザー体験を向上させるためのいくつかの重要な施策に優先順位を付けているという。消費者が広告を嫌ってしまいやすい状況においては、マーケッターはデータ・インサイトとブランドを発展させるためのクリエイティブを活用する必要が出てくるだろうというのが菅原氏の考えだ。

日本航空株式会社 web販売部主任の小川拓也氏は、旅行業界では異なる機器の利用に対するサポート体制が必要だと論じた。消費者は携帯電話上で旅行プランを検討するが、旅行代金の支払いはPC上で行う。つまり、航空会社は携帯電話を通じて消費者とのエンゲージメントを図り、様々なプラットフォーム上の閲覧または購入パターンを踏まえた上でブランドを築き上げていかなければならない。

化粧品販売を行う株式会社マードゥレクスは、リアルの販売チャンネルをもデジタル戦略の視野の中に入れている。取締役の藤原尚也氏によると、同社のマーケティング活動はデジタル・プラットフォーム、携帯電話、テレビそして630店舗にわたる直販店を網羅。「キャンペーン効果を最大限にまで高めるために、当社ではオンラインのデジタル・チャンネルとリアルな店舗の活動を合わせるようにしています」と述べた。

また「スマートフォンは常に消費者の手元にあるので、消費者がいる場所に応じたリアルタイムのマーケティングが可能になった」と指摘。例えばネイル・サロンで長時間を費やす女性がいるが、彼女たちが施術を受けている時間は、同社の化粧品を宣伝するための機会になり得るとの考えを示している。

藤原氏は、コンテンツ・マーケティングの有効性についても論じた。同社ではニキビのケアに関する情報を提供するポータルサイトを運営。このウェブサイトにアクセスした人々に向けてニキビ製品に関する広告を配信するのだという。この方法を通じて、例えば大人向けニキビ製品が青少年に配信されることを防ぎ、また青少年向けのニキビ製品に関するリターゲティング広告を10代の子供を持つ親に向けて配信することが可能になるという。

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ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長
慶應義塾大学経済学部卒業。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2014年10月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価機関デジタルインファクトを設立し、プロジェクトディレクターに就任。