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「コンテンツ・イズ・キング」 高クオリティー動画メディア「ルトロン(LeTRONC)」と動画メディアの未来

大人の女性向けのおでかけ動画マガジン「 LeTRONC(ルトロン)」を運営するオープンエイト。SEOに特化したキュレーション型メディアとは対極的に、自社のリソースによる高クオリティーへのこだわりを持ち、11月には動画メディアとして唯一の渋谷区観光協会公認メディアに認定されている。そのビジネスモデルや取り組みについて、同社代表取締役社長兼CEOの高松 雄康氏にお話を伺った。

(聞き手: ExchangeWire Japan 野下 智之)

動画は、よりユーザーの心を動かせると証明したかった

― まず、ルトロンの位置づけについて教えてください。

写真:高松 雄康氏

オープンエイトは「ユーザーの心を動かす体験を作り続ける」をビジョンに掲げています。ユーザーが何かを欲しい、したいと感じてアクションするまでの行動を「入り口」「出口」に分けた時、ほとんどのインターネットビジネスは出口が戦略です。例えば焼肉を食べたいと思った時、すでに行きたいお店があってその場所や評価、他との比較を知りたいときに活用するのがウェブです。ですが、お店を知る最初のきっかけはいまだにテレビなどのマスコンテンツが強い。地方に行けば尚更です。僕たちがやりたい動画はそれと同じ、知ったり買ったりする行動を促すきっかけとなる入り口の方なのです。

ルトロンを始めた理由は、動画はよりユーザーの心を動かせるということを証明したかったから。自分たちでオリジナルの動画を作ってユーザーと向き合い、外に連れ出すことで需要を喚起して新しい経済活動を生み出したいと思っています。

ルトロンの特徴はいくつかありますが、代表的なものは月間で約200本の動画を自社でロケ中心に制作していることと、クオリティーが高いといわれていること。あとは分散型メディアであることです。コンセプトは“プチ贅沢”を女性に向けて。ユーザーはF1層が4割で、立ち上げから半年でソーシャルを含むと月間3000万リーチ超、一次メディアを中心とするのべUUも約60万人と急成長しています。

― 分散型メディアではソーシャルのリーチをどのように測っているのですか?

他社も同じかと思いますが各プラットフォーム毎にツールがあるのでそれを見ています。正直に言うと僕は、どうでもいいと思っています。リーチや再生数は広告を打てば買えるんですよ。それよりも、どれだけのユーザーがアクティブに使ってくれるか、いわゆる従来型のメディアの価値を担保することの方が重要。僕たちが分散型でやっているのは、分散型で価値を見出すためではなくて、あくまでもユーザーがいる場所にコンテンツを置いて、ルトロンを知ってもらうためのプロモーシャルな仕組みでしかないのです。

重要なのはエンゲージメント、「コンテンツ・イズ・キング」

最近の動画メディアは再生数とリーチ数をアピールしていますが、コンテンツを認知させるためには重要かもしれないけれど、それでひとの気持ちを動かせるかと言ったら、実はそんなことはない。重要なのはエンゲージメントで、Facebookでいえば「いいね!」やコメント、シェアですが、それはどうしたらなりえるかといえば仕組みではなく、やっぱりコンテンツの中身が重要。「コンテンツ・イズ・キング」なんです。

以前、広告を打つとその後どのような効果が得られるかについて、立ち上がりすぐに月2000万円くらいを投資して試してみました。確かにリーチや再生数はとても伸びるしファン数も増えていくんですけど、反応率の高いロイヤリティユーザーが多いオーガニックの数字が伸びるかというと全然そんなことはない。結果、広告を止めて緻密にユーザーと向き合ってコンテンツを見直したら、オーガニックやエンゲージメントの数字が急伸しました。

― コンテンツにこだわる理由もお聞かせいただけますか。

ユーザーが一気に伸びてきたのはここ最近なのですが、実は11月に、社内の体制を一気に変えました。きっかけはユーザーからの「行ってみた」「やってみた」という声が集まってきたことですね。今まではあまり企画に時間をかけず、コンテンツを安く多く生産するというやり方をしていました。動画をつくる体制に注力して、撮影機材はどうするか、ディレクターの役割分担はと全部マニュアル化し効率化しましたが、企画に関してはとりあえずひたすら情報をネットで探してロケに行くという姿勢でした。

編集長を軸にして、動画を最終的なアウトプットまでイメージする企画会議というのは、すごく大変です。ですが、コンテンツのエンゲージメントが低いのにどんなに広告費でリーチと再生数を稼いでもこれはまずいな、と。実際自分たちで見て全然つまらないし、行きたいと思わない。で、やはりその道のプロをプロデューサーに立てて、ひたすらユーザーと向き合っていく、動画が仕上がった後まで全体を一括管理する仕組みに変えました。

スタッフは、主にカメラマンを中心に外部パートナーを入れて25人くらいです。
企画自体も仕組み化しました。企画内容は、どんな思いでどんなコンセプトでどう見られるかなど複数項目を設定。企画者が書き込んだものを全員でチェックし、判断します。ルールに合わないものは排除し、昨日の会議では100本のうち残った企画は40本くらい。労働工数は上がりますが、ユーザーと向き合ってより良いものを作るのに人材も企画を練る時間も増やしています。

方針を変えた結果はすぐ数字として表れました。他社動画コンテンツの数倍のエンゲージメント率になったことで、広告を投下せずともコンテンツさえ良ければ数字は伸びていくこと、リーチや再生数が必ずしも重要じゃないと分かったのです。ただ、いいものは、安くは作れません。ある程度費用をかけてちゃんとコンテンツを磨かないといけない。安価で作る仕組みはできるけれども、それではユーザーはついてこないということですね。

旬なイベントの即時取材を強みに

旬なイベント取材、即時配信はルトロンの特徴のひとつです。10月に六本木で開かれた金土日だけの期間限定のイベント「六本木アートナイト2016」の場合だと、金曜に撮影に行って、土曜の朝一には編集して公開しています。なぜそれが重要かというと、イベントの告知は大きなテレビCMは行いませんがなるべく多くのひとに伝えたい、かつ動画でなくては分からないことが、特にイベントではたくさんあります。それを即時に行い、コンテンツ配信が出来るスキームを強みにしています。

また、浴衣の着方の動画の後に温泉のコンテンツを流すなど、ユーザーからするとつけた知識を活用できる、共感できるストーリーを描いてあげることも重要です。

― SEOは意識されているのでしょうか。

写真:高松 雄康氏

ほとんど意識していないです(笑)。サイトとしての最低限のSEO対策はありますが、記事に大事なのはルトロンのセンセプトに合うか合わないかで、SEOはまったく関係ありません。

記事をたくさん作ること、そのストックは重要です。ストックしたコンテンツは、自分たちでキュレーションしています。「エッグベネディクト3選」「コーヒー3選」などの記事は、元々それぞれが別のコンテンツだったんです。おいしい都内のコーヒー屋さんを取材してストックしていくうちに、そのなかから選りすぐりのものをチョイスして3選ができるんですよ。キュレーションの考え方ってそういうことが重要で、自分たちが持っているコンテンツを再編集すれば、誰にも迷惑かけないし、全部一時メディアなんですよ。これはほかがやっていない、僕たちだけの特徴的ですね。

エリアコミュニティーでマネタイズを図る

― 渋谷区観光協会の公認メディアに認定された経緯について教えてください。

オリンピックも含めて、世界中から注目されている街だと思います。当社のオフィスが渋谷にあることもですが、本当に魅力的なスポットやイベントが多いのに、それらがちゃんと認知されていないことがもったいないなと。渋谷はひとつのエリアとして、日本のシンボルだと思うんですよ。そこの特集をやらなくてはと渋谷区へ働きかけたら、渋谷区側も同じことを考えていました。大金をかけてというよりも、ちゃんとストックされてそこそこのクオリティーの動画をやっていかないといけないと思っていたそうです。イルミネーションの4K撮影や、渋谷区が300個のビーコンを設置してIT化を進めている「PLAY! DIVERSITY SHIBUYA」プロジェクトへ動画が活用されます。

― マネタイズはどのように考えていらっしゃいますか。

実はまだ一銭も稼いでない(笑)。よくルトロンのコンテンツがペイドだと勘違いする方がいますが違います。まさにこれからですし、今後お金を頂いた場合は記事内にPRなどユーザーに誤解が発生しないよう表記します。まだ発表できませんが広告宣伝っていう領域でないことも検討しています。
僕たちがやりたいことの一つに明確なのが地方創生やインバウンドなどのエリアコミュニティーですね。渋谷のケースがひとつの形になれば、各地方自治体が同様のことを試み、地方創生へ動いていくと考えています。

もちろんブランド企業さんともなにかしらやっていきます。まだ煮詰めていかないといけないのですが、トライアル的なサービスを作って営業がこれから各社を回っていくとおもいます。

特にスポットやイベントでは成功パターンが見えてきているので、強力なプッシュができると思います。ストックコンテンツとしても価値があるし、クオリティーも高いですから。作ったコンテンツを使ってCM化して僕たちの動画広告ネットワークに流すということもできますよ。

― 動画コンテンツ固有の強みとはどのようなものなのでしょうか。

すべての動画コンテンツは動画で見るべき理由が必要で、写真と記事でいいのだったらそっちのほうが強い。そういうものはやるべきではないと思っています。おでかけ領域はロケが大変なのと費用がかかるので、参入障壁はなかなか高いんですよね。そこをいかに効率よくやるかっていう体制や仕組みづくりはすごく重要です。おでかけ領域は動画で見て始めて感動を覚えるもの。水族館もそうですね。それこそが動画の本当の役割だと思います。

キュレーションメディアの一次化は避けられない

― キュレーション騒動で、一次メディアのビジネスは変わると思いますか。

写真:高松 雄康氏

変わるのではないでしょうか。今の一次メディアが変わることもそうですが、キュレーションメディアが一次メディア化してくるのは避けられないし、そうすると思う。その時にキュレーションメディアをやっていた方たちがそのプラットフォームを使って、ちゃんと自分たちでライターを雇いゼロから作るコンテンツを大量に用意できるかどうかが、次のステージですよね。多分、会社の体力的にそれをできる会社もあるでしょう。その領域はお金がかかるので、今ほど効率重視な世の中にはならないと思います。

ただ、キュレーションやクラウドソーシングの仕組みは否定しません。今までなかったアイデアで、それをうまく使える構造にする法整備やルールがちゃんとされれば、よりよくなるかなと考えています。

― 今後動画メディアはどうなると考えますか。

ふたつに分かれると思います。ひとつは、エンターテインメント系。HuluやNetflixのように、一次コンテンツとして長尺ものでやっていくでしょうね。あと360度やライブ系は絶対にくるなと。ルトロンでもこれから手がけようと思っています。イベント中継もライブのほうがいいじゃないですか。テレビのように大掛かりではなくても、その領域に近づいていくでしょうね。

僕たちの動画サービスもまだ構想上はかなり初期段階で、まだまだやることあります!
例えば今後はライブ系と融合していくかもしれませんね。そのあとではVRもあるんですが、機材の普及にはもうちょっと時間がかかると踏んでいます。僕たちもPlayStationVRなどで実験してはいるのですが、VR酔いもしますしね。この2~3年でくるかというと否定的で、火がつくとしたら2020年のオリンピック頃が契機になるかもしれません。

この十何年で、メールからチャット、SNSなどプラットフォームはどんどん変わっており、今あるプラットフォームが次の5年にあるかどうかもわからないですから。だから自分たちがやるのは、良質なコンテンツと時代に合わせたプラットフォームを活用すること。
一次メディアをやるうえで重要なのはそこだと思います。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。