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TVとソーシャルの融合が、新しいメディア体験の「共有化」を促進する[アドテック東京2013レポート] (Day1 前編)

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(ライター:中村研太)

2013年9月18日、東京国際フォーラムにてアドテック東京2013が2日間にわたって開催された。アドテックは、マーケティングに携わるビジネスリーダーに向けて「デジタル時代におけるマーケティングのベストプラクティス」を提供する世界最大級のデジタルマーケティングイベント。全世界8都市で毎年開催されており、東京での開催は今回が5回目となる。今年の総来場者数は13,864名(前年比115%)を数え、デジタルマーケティングへの関心の広がりを感じさせた。

 

今回のレポートでは、米国Twitter社のチーフメディアサイエンティストDeb Roy(デブ・ロイ)氏がスピーカーを務めた初日のキーノートの模様をお伝えする。

 

キーノート1「ソーシャルサウンドトラックの出現がもたらす、マーケティングの新たな形」

デブ・ロイ氏
Twitter チーフメディアサイエンティスト / MIT 准教授

 

 

TVとソーシャルメディアの融合

 

これまで、TVは「受動的」なメディアだと言われてきたが、ソーシャルとの融合によりこれは変化してきている。この気づきは、Twitterのデータがもたらしたと言っても過言ではないだろう。Twitterというソーシャルプラットフォームを提供する中で、それを使うユーザの動きが自然と原動力となり、TVなど既存のメディアのソーシャルとの融合が始まった。この視聴者側の動きの変化を受けて、業界側も変化し始めている。

 

Twitter_デブ・ロイ氏まず、今起こっている変化について話す前に、TVが人類にもたらしたものについて改めて話してみたい。例えば、美しい夕焼けが見るものに与えるインパクトを考えてみてほしい。そして、この夕日を一人で見ている時、誰かと一緒に見ている時、そしてその美しさを誰かと語り合うことができる時で、心がそれぞれ動かされる。一つの体験をシェアすることにより、その体験が持つ意味そのものが劇的に変わる。人と共有することで、体験そのものが記憶に鮮明に残る。

 

次に、Twitterがもたらしたものについて考えてみよう。Twitterはソフトウェアであり、またメディアでもある。その大きな特徴は、「公共性(public)」、「対話形式(conversational)」、「即時性(live)」の3つだ。世の中に、「リアルタイム」で反映されるプラットフォームはたくさんある。しかし、Twitterはそのテクノロジーがリアルタイムであるだけでなく、そこに提供されるコンテンツが「ライブ」である点が他と異なる。例えば、全米で「sunset(夕焼け)」を含むツイートのデータをグラフにすると、全米各地の日没の時間を示す美しい波形が表れる。このようにTwitterは、人生の、とある瞬間の体験を共有体験にする「ソーシャルサウンドトラック」と呼ぶことができると思う。

 

映像というメディアは、100年前にサイレント映画から始まった。そして、サウンドトラックが開発され、映像と同時に音を楽しめる映画の世界が誕生。映画サウンドトラックの導入初期には、これが映画業界のマーケットに対してマイナスの影響をもたらすと主張した人もいた。しかし実際には、サウンドトラックの開発により映画業界は飛躍的に成長した。

 

一方、TVの世界はどうだろうか。人は、「つながりたい」、「体験を共有したい」と感じる社会的な生き物だ。かつては、街頭TVに人々が群がった時代があったが、一家に一台、一人一台となり、TVという体験を人と共有する場が少なくなってきた。また、TV番組も多様化・個別化されることにより「社会性」という特徴も希薄している。

 

今後、Twitter無しでTVを見ることは無声映画を見るようなもの、と言えるような時代が来るのかもしれない。

 

 

Twitter活用のTVと連動するオンラインマーケティング事例

 

TwitterとTVとの連動について、米国の事例を見てみよう。今年の3月、全米で「Walking Dead」というホラー映画が放送された。放送中、この映画に関わるツイート数のインプレッションは1540万回に及び、320万人のユニークユーザーに届いた。ツイートに関するこうしたデータは、ネット視聴率の調査会社ニールセンでも、TVのリーチ数の指標として使われている。

 

このTwitterにおけるライブリーチのデータを活用することで、「ソーシャルサウンドトラック」を作ることができる。特定の出来事をオーディエンスがどう感じ、何を発信したかがサウンドトラックとして残る。このデータを活用すれば、例えばあるスポーツ番組に関するツイートを見たユーザに対し、そのユーザが直接放送を見ていなくてもESPN(米国スポーツ専門チャンネル)の公式Twitterアカウントから動画コンテンツをプッシュ配信することで番組視聴を促し、体験の「共有化」をはかることが可能だ。このプッシュ配信はプログラム化されており、自動的かつリアルタイムで、TVのライブリーチをTwitterで拡散できる。さらに、Twitterで配信する動画に小さなプリロール広告を流すことで、TVのスポンサー広告と同じコンテンツをTwitter上で流せる。米国のTV業界では、このTwitterの新しい機能が多くのスポンサー契約を後押ししている。

 

 

「ダイナミズム」という新時代プロモーションの新たな指標

 

Twitter_デブ・ロイ氏_2最後のトピックとして、「ダイナミズム」を取り上げたい。Twitterでは、ライブメディアであるが故に、新たなマーケティング指標の必要性が見えてきている。例えば、「ある番組を1日1人ずつ合計100人に見せた場合」と、「同じ動画を同時に100人に見せた場合」とでは、インパクトにどのような差が生まれるのか。

 

これまでの指標は、基本的に「リーチ数≒接触した人の数」でインパクトを計測するため、上記例のインパクトは同じであると算出される。しかし、実際のインパクトは異なる。実際、「ネット上で個別視聴された番組」と「ライブ&パブリック(現在放送中)の番組」とでは、リーチ数は同じでもインパクトに大きな差が生まれている。「他の人が見ていると自分も見たくなる」というアテンションの効果により、自分の周りで多くつぶやかれている番組を見たくなるのというわけだ。オーディエンスがオーディエンスを持つことでインパクトは大きく左右される。

 

TVとソーシャルメディアの融合は、今後マーケティングに対して新たに「ダイナミズム」の考え方を持ち込むことになるだろう。

 (編集:三橋ゆか里)

 

ABOUT 大山 忍

大山 忍

ExchangeWire Japan 編集長 米国大学卒業。外資系企業を経て2000年にネット広告効果測定ツールを提供するベンチャーに創業メンバーとして参画。その後、バリューコマース株式会社と合併。 2007年1月にオムニチュア株式会社(現Adobe)に参加、コンサルティングサービスを立ち上げる。ビジネスコンサルタントとして米国のベスト プラクティスを日本の課題やニーズに合わせて提供、ウェブ解析やガバナンス(データ主導の組織・仕組化)に関する執筆・講演を行う。