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ExchangeWireが予測する、2014年、アドテク業界で起こるべきで多分起こらないこと【前編】

2014年も年明け、長めの正月休みぼけから、そろそろ完全な仕事モードへと頭のスイッチが切り替わった頃ではないでしょうか。
2013年、日本のアドテク市場では、DMPのような新しい概念を持つサービスが注目され、各分野の外資系ベンダーの日本参入や、反対に日本のベンダーが東南アジアを中心にサービスを拡大するニュースで賑わいました。最近の業界の流れをみると、少しずつグローバル化のハードルが低くなりつつあり、アドテクプレイヤーには世界の動向を見つつ、日本市場への戦略を考える「鳥の目・虫の目・魚の目」が求められている気がします。
そこで、今回は年明けにExchangeWireロンドンのエディターが投稿した「The Things That Should Happen In Ad Tech In 2014... But Probably Won't」の記事をご紹介します。

 

代理店は、テクノロジーや代理店を買うべきではない-必要なのは、広告ネットワークの購入だ

現在、代理店が検討すべきは、既にインフラが存在している状態でなぜテクノロジーを構築するのか、ということだ。Google、 AppNexus、MediaMathあるいはIPONWEBなど、パイプは既に敷設されているのだ。また、大して差別化に役立たない別の代理店を買収する必要があるのだろうか。

代理店に今必要なのは、エグゼキューション(実行)レイヤーだ。トレーディング・デスクが予算に対して強い主導権をとるにつれ、広告主の為に成果を上げられるノウハウやスタッフが必要となる。代理店は今やそうした能力を有していると主張するが、実際には、プランの大多数において今もなおネットワーク(またはITD(Independent Trading Desk=独立系トレーディング・デスク))の方がエージェンシー・トレーディング・デスクを上回るパフォーマンスを堅持している。世界最高のトレーダーは、未だに広告ネットワークレベルにあり、そのほとんどはヨーロッパに存在している。

昨年、フランス市場では、中間プレーヤー周辺での統合が数多く起こった。今年は、M&A部門が次世代広告ネットワークを真剣に検討するようになるだろう。持ち株グループにとって、InfectiousMediaIQBannerConnect は、重要な買収候補に違いない。もしそうでなければ、MediacomMindshare(両社は独自のトレーディング・プロポジションを作り上げたとの噂さが流れている。)のような広告代理店が戦略的バイイングによるオペレーション強化を図るだろう。

なぜヨーロッパ系広告ネットワークなのか?ヨーロッパ系のほとんどは、ベンチャーキャピタルの投資を受けておらず、どれも収益性がある。大がかりで柔軟性に欠けるアメリカ系のソリューションに比べると、ヨーロッパ系トレーダーは割安なのだ。仮に代理店がこうしたスペシャリストの活用を見送った結果、一部の「漸進的な」ブランド(いくつか存在する)がこうした高度な専門技術を買い込むことになったとしても驚くには至らない。

 

スーパー・イールド・オプティマイザーの台頭と、セルサイドへの方向転換

数週間前に、小紙は代理店レベルでの予算統合の動きを取り上げ、最終的にはサードパーティバイヤーに商業的圧力をかけることになるだろうと論じた。エージェンシー・トレーディング・デスクがメディア予算の配分増を期待する一方で、これらのスペシャリストは予算へのアクセスが益々難しくなっていることに気づくだろう。バイサイドにおいて扉が閉ざされつつあるとすれば、媒体社側には拡大する機会があることになる。

媒体社は現在、プログラマティックに溺れかけている。テクノロジー、データ、そしてトレーディングの常識によって打ち負かされ、媒体社は「プログラマティック」チャネルにほとんど活路を見出せないでいる。2014年は、メガ・プレミアムパブリッシャーによるRTB価値の実現を支援しようと、益々多くの独立系トレーダーが転換を図る年になるだろう。未だに多くのSSPがこの媒体社向けプロセスを管理している状況で、今後の展開は興味深いものになりそうだ。

しかし既に、こうしたインサイダー・ナレッジ(現場の知見)を媒体社につなげるPubSquaredYield Coalitionのようなサービスが出現している。媒体社が一層の透明性を求めるようになると、焦点は、セルサイド・テクノロジー向けに管理されたサービスからシフトするかもしれない。バイサイドのスペシャリストにとって転換の機会は多分にあるが、おそらく、彼らは想定される利害の抵触を回避するために別会社を立ち上げるだろう。

 

Twitter社はビッダー(Bidder=入札管理システム)を買収し、ネットワーク購入のためにツイッターデータを束ねる

Twitter社がいかに収入拡大を加速するかという点で、MoPubの買収は興味深いものであったが、そのプロセスは未だに遅々としている。同社に必要なのはバイサイドの戦略だ。プロモツイートについては忘れることだ。同社には、ウェブを横断したリアルタイムデータの活用が必要だ。そのために代理店が持つ予算にアクセスするビッダーを購入または構築することになるだろう。Twitter社は巨大な代理店営業部隊を有している。また、プログラマティックへの予算投下が爆発的に増加した際に、もしリアルタイムのツイッターデータをあらかじめ読み込ませたバイイング・ソリューション(広告買付けのためのソリューション)を提供できれば、シェアを握る好位置につけるかもしれない。

Twitter社による中規模ビッダーの買収を期待したい。筆者は、MediaMathTurnの両社共、自社に法外な値段の企業価値をつけているものと推測している。むしろ、Twitter社は、2億から4億ドル(200〜300億円)といった価格の範囲内でDataXuあるいはThe Trade Deskの買収を決定するかもしれない。それが不成立に終われば、グローバル収益責任者Adam Bainらは差別化されたビッダーを構築するためにBoris(*1)やロシア系企業に目を向けるだろう。

*1: ボリス・ムーズカンツキー博士。IPONWEBの創立者、CEOおよび主席サイエンティスト。英国のケンブリッジ大学で物理学の教鞭をとっていたユニークな経歴の持ち主で、彼の確率モデルの知見はアドテクプラットフォームの創成期における開発において大きな影響を与えた。欧州のアドテク系コンファレンスでは人気の講演者。

 

Facebook社は自社での広告テクノロジーは実行不可と認識し、点と点を結ぶためにAppNexusを買収

2013年、業界紙を賑わしたFBX (Facebook Exchange)に関する誇大広告は常軌を逸していた。その騒ぎにも関わらず、Facebook社のSheryl Sandberg(シェリル・サンドバーグ)COOは、FBXが同社の収入のごく一部に相当するに過ぎないことを明らかにした。同社にとってモバイルのようなホームランでなかったことは明らかだ。同社の動向には理解に苦しむ。酷評された技術の一部にすぎないAtlasを買収しているが、それ以後、Atlasはアイドリング状態だ。Google社のバイサイド・アドサーバーに匹敵するソリューションを提供するという野望は二の次になっている。FacebookがAtlasをどうするのかはいまだに全くの謎である。

プログラマティックが進展すればするほど、Atlasの買収はまるで高価だが処理能力に欠けた排出パイプに一億ドルを無駄にしたかのようだ。Twitter社同様、Facebook社もビッダーを必要としている。それ以上に重要なことだが、前々からの懸案であるロングテール市場向けアドネットワークの稼働や、バイサイドの野望を実現するインフラ策の必要性だ。その戦略は単純だ。つまり、大手広告代理店の営業部隊を活用し、ソーシャルセグメントを搭載したビッダーを広告代理店や顧客に直接販売すること。そして、そのビッダーを介してFBXへのアクセスのみを提供し、第三者の入札管理システムへのアクセスをそこで終わらせるというものだ。同戦略は、リターゲティングに多額の投資をしているマーケターやEコマース担当者を惹きつけるだろう。この戦略の達成を支援できるのは、唯一AppNexus社のみである。

しかし、ザッカーバーグが、Snapchatのような「セクスティング(性的に露骨な写真やメッセージを送る)」ツールを40億ドルの小切手で追う代わりに、一アドテック企業に数十億を支払う覚悟があるかどうか、その答えは高い腰掛けに座った哲学者達に任せておこう。Facebook社が市場の期待通りに成長するとするならば、同社は早急にアドテック企業になる必要がある。

(編集:三橋 ゆか里)

 

 

ABOUT 大山 忍

大山 忍

ExchangeWire Japan 編集長 米国大学卒業。外資系企業を経て2000年にネット広告効果測定ツールを提供するベンチャーに創業メンバーとして参画。その後、バリューコマース株式会社と合併。 2007年1月にオムニチュア株式会社(現Adobe)に参加、コンサルティングサービスを立ち上げる。ビジネスコンサルタントとして米国のベスト プラクティスを日本の課題やニーズに合わせて提供、ウェブ解析やガバナンス(データ主導の組織・仕組化)に関する執筆・講演を行う。