広告主・代理店・ツールベンダーでの経験を活かして立ち上げる課題解決型の新組織「モデューロ」の狙い <インタビュー>

DACグループのモデューロは、4月1日付けで酒井克明氏が取締役に就任する人事を発表した。酒井氏とモデューロ代表取締役社長である重原洋祐氏に、新組織などの戦略についてお話を伺った。

 (聞き手: ExchangeWire Japan編集長 大山忍)

 

 

 

 

 

豊富な経験をモデューロに活かす

 

 

まず酒井さんのビジネスのバックグラウンドを教えてください。

 

Modulo_Mr.Sakai酒井:元々はエンジニア出身で、ネットワークインフラを作っていたエンジニアからキャリアをスタートしました。その後、ネット専業広告会社に移り、リスティング広告のビットツールの開発や、ソリューション営業部門の立ち上げ。さらに、ベンダーでの事業開発や、広告主側でのマーケティング責任者も経験しました。

 

 

広告主はどういう分野ですか。

 

酒井:ホテルです。シティホテルとビジネスホテルのちょうど中間に位置するようなホテルで、そもそもどこに出店するかというエリアマーケティングや、Webサイトの構築、宿泊予約を増やすためのマーケティング活動を行いました。ホテルが面白いのは予約者と宿泊者が必ずしも一致しません。デジタルの経験が長いのですが、データを100%信じるのではなく、実際に宿泊にきた人はどういう人なのか、駐車場で寝泊まりし、来客者の車のナンバー調査等も行いましたし、実際にチェックイン時にフロントに立って調査もしました。そこでリアルとデジタルという関係性を少なからず学べたと思っています。また、新聞出稿等の経験もしました。さらに、地方では大きな建物がないため、ホテルそのものが広告だったりします。リアルの広告や、広告ではないマーケティング手法の感覚をその経験で持てた気がします。その後、総合広告会社に移り、Omnitureとのパートナーシップ、コンサルチームの立ち上げ、アドテクノロジーを活用した運用体制の構築、データマネジメント環境の構築などを手がけました。

 

 

モデューロのビジネス概要を教えてください。

 

重原:モデューロは昨年7月アイメディアドライブから分社し、その事業を引き継いでいる会社です。アイメディアドライブは2006年アイスタイルとDACの合弁で設立された会社で、アドネットワークであるimpActネットワークを中心として事業を行っておりました。現在はモデューロがimpActネットワークを中心としたアドネットワーク事業を継承し、それだけでなく、DMP(Data Management Platform)であるAudienceOneを中心としたデータマネジメント事業などを行っています。

 

 

モデューロにおける酒井さんのミッションは何でしょうか。

 

酒井:日本のマーケットでは、本来アドテクノロジーが進むべき方向に向かっていないのではないかと感じています。例えば、DSPはDemand-Side Platformという名前の通り、本来ディスプレイ広告全てを管理するバイイングプラットフォームになるべきですが、今のところRTB(リアルタイム入札)で買えるレムナント在庫といわれる余剰在庫の最適化、または獲得系クライアントのためのリターゲティング用マシーンとしてしか使われていません。しかし本来は、純広告やプレミアムなメディアも含めてプログラマティックに買うからこそ、届けたい人に、届けたいメッセージを、届けたいタイミングで届けられますし、バイイングする側も安心して出稿できる、そういう本来DSPが持つテクノロジーが正しく使われていないと感じています。もちろんプラットフォームを提供する側にもまだまだ問題もありますし、媒体者側、販売する代理店側にも問題があり、こういった現状になっているのではと思います。第三者配信アドサーバーに関してもそうです。Impressionも含めてあらゆるメディアを横断してユーザーの接触をトラッキングすることはある程度できてきましたが、トラッキングプラットフォームとしての機能だけでなく、広告主サイドでアドサーバーを持つということがどういうことなのか、このメリットや価値がまだまだ伝わっていませんし、そういう使われ方がされていないと感じています。

 

本来、アドテクノロジーで実現できることがきちんと伝わっておらず、一部の機能のみが使われていてそのイメージが強くなってしまっています。DSPでいうと、まだまだレムナント在庫で、しかもどこに配信されたかブラックボックスな点も多くその点も誤解を招いてしまっていると感じています。使い方次第ではもっと広告主の皆さんの課題解決ができる、本来持つテクノロジーで実現できる世界はもっと素晴らしいものだということを啓蒙していきたいと思います。

 

 

 

DMP周辺ソリューションでマーケティングの課題解決を

 

モデューロで新たに作る組織について教えてください。

 

酒井:今までテクノロジーベンダーは、機能やスペックの紹介に寄りがちで、マーケティング目線で語れる人が少なく、経営層へのメリット、マーケッターにとってのメリットを上手く伝えてこれなかったという課題があります。新しいモデューロは単純にDMPを売るだけではなく、DMPを核としながらも、その周辺のテクノロジーソリューションを駆使してお客様のマーケティング課題を解決していく組織を作りたいと思っています。

 

重原:広告主さんにどう貢献できるのかまで伝えていかないと、DMPはデータを貯めるだけの箱になってしまいます。ただの箱で終わらせるのではなく、DMPはマーケティング活動の中心にくるものです。だからこそ、マーケティングに活用できる提案、組織が必要だというところで、タイミング良くお話があって酒井さんにはジョインしていただく形になりました。

 

 

酒井:DACグループ全体で見てみると、MarketOneというDSP、YieldOneというSSP、サードパーティ配信エンジンであるi-Effectや、媒体社さんに採用いただいてきたアドサーバーであるiPS−Xなど、既にあらゆるソリューションを持っていますし、DMPであるAudienceOneとの連携も済んでおり、DMPを中心に、これらのソリューションをフル活用しながら課題を解決できる点が本来の強みだと思います。

ただ、これまでは残念ながらDSPならDSP単体でのセールスが主でした。そうではなく、これらのソリューションを統合的に活用するともっと世界が広がり、解決できる課題がたくさんあるのです。

 

 

重原:広告主さんが使うツールはさまざまです。我々はDACが持つツールを最大限駆使していきますし、既にAudienceOneを中心とした連携が完了しているという点が最大の強みではありますが、広告主さんが望むツール、既に広告主さんがお使いのツールとの連携にも応えたいと思っています。

そういった柔軟性を持った開発体制や、サービスであるという点も強みだと思っています。

 

 

 

スペシャリスト集団が提供する新たな価値

 

 

エンジニアから代理店、広告主へというキャリアはアメリカなどでは一般的ですが、日本では珍しい印象です。両サイドの経験をサービスに反映できますね。

 

 

酒井:そういう人材をどれだけ育てられるかは一つの課題です。この領域は、テクノロジーとマーケティングの知識を備え、DSPやDMPといった最新の技術を理解し、そしてテクノロジーを使ってPDCAをまわしていく、運用していくスペシャルな能力も求められます。これらのスペシャルな能力を兼ね備え、かつ全体像と個別最適をバランス良く取り入れられるジェネラリストになることが、今求められていると思います。

簡単なことではありません。ただ、やらない限りは人も育たない。

DSPやDMP、広くいえばサーチも含めてお客様からマーケティング予算を預かり、それらを高いレベルでチューニングしながら日々成果を出していく、広い意味での「運用」ができる、ここにこそ価値があると思います。だからこそこの領域に、人とお金が集まるようにならないといけないと思っています。

残念ながら広告業界で言うと、クリエイターやマーケッターはいわゆる花形職で、スポットライトがあたりますが、今のデジタル広告業界はこういったスペシャルな運用をできる人材にスポットライトがあたっていないと感じています。運用という言葉自体も入札調整のような作業的なイメージが強く、上記の様な運用を意味していないで使われていることも多く、運用者は安い人件費で雇われ、たくさんのスペシャルな能力があるにも関わらずスポットライトがあたらず疲弊して辞めていく。構造的にここを変えなくてはいけないと思っています。デジタルマーケティングにおいては彼らにこそ価値があるし、彼らこそが広告主さんの課題を解決でき、価値を返せる人材です。新生モデューロはこういったスペシャルな人材が集まる環境作りに取り組み、そしてチーム全体で課題解決ができるようサービス提供をしていこうと考えています。

 

 

— DMP導入を推進されて、最近広告主さんはどんな課題を抱えていますか。

 

Modulo_Mr.Shigehara重原:DMPで何ができるのかがまだまだ浸透していないと感じています。DMPを大局的に捉えすぎて魔法の杖のように考えている方も入れば、単なる広告のターゲティングマシーンとしてしか捉えていない方もいます。本来DMPが提供する価値は何なのか、マーケティング課題を解決するためにDMPをどう使えばどんなことができるのか、どんな課題が解決できるのか、活用法をもっともっと広めて、単なるツールの提案ではない、個々の広告主さんのために考えられた提案にシフトしていきたいですね。

 

 

単なるツール導入の枠を越えたDMPの役割について、経営者やマネージメントにどう伝えるのでしょうか。

 

酒井:DMPは企業にとって中核を担って行くプラットフォーム、ある意味インフラになっていくシステムで、企業が既に持っているデータという資産をマーケティング活用しながら新しいマネタイズのチャンスがある、という話ができると思います。DMPは単に広告配信用のデータを格納するだけではありません。企業が既に持っている、会員データやPOSのデータ、商品データ、コールセンターのデータ等々あらゆるデータが資産であり、広告主サイドにはあまりにもたくさんのデータが眠っています。どんなデータが眠っていてどれをどう使えば良いのか、そのデータという資産をどう使えばお金に変えられるのかがまだお分かり頂けてないケースが多いので、この点を話していきたいと思っています。

 

 

どんな体制で、どんなスピード感で進めていかれますか。

 

酒井:組織でやっていくためには、スペシャリストをどんどん増やさなければなりません。DMPを中心に部分的ではなく、全体的に預かっていかないと課題解決自体が難しい場合もあります。お客様とパートナーシップを長期に結べるような関係を築いていく必要があります。その規模次第では、どんどん人を増やしていきたいと思います。

 

 

コンサルティングを有料で提供していくということでしょうか。

 

酒井:そうしていくことにもなるとは思います。ただ、コンサルティングに留まらず、施策を考え実行していくアクションの部分、ある意味トレーディングデスクのような部分も含めて丸ごと預けていただくことになると思います。根本的な課題解決のためにはそれが必要だと考えています。

 

 

 

インハウスでのデータ活用も積極的に支援

 

 

日本のアドテク業界でも、昨年くらいからインハウスという言葉が聞かれます。DMPまわりでもインハウス化が進んできていますか。

 

Modulo_Mr.Sakai酒井:今のところ、全てをインハウス化できる広告主さんはそれ程多くないと思います。ただし一部の先進的な広告主さんでは既にインハウス化を進めていらっしゃる企業も出始めています。自らが持つ資産を活かすためには自らでやってみる、当然の流れだと思います。一方、エージェンシーサイドはテクノロジー面でのキャッチアップが遅い場合も多く、提供すべきトレーニングなどを提供しきれていませんし、メディアセールスの側面が強いのでどうしてもこの枠を売らないといけないであったり、マージン商売が故に高グロスな商品を売らないと儲からないモデルであり、その力学が働いてしまい、広告主さんに情報のバイアスがかかって届いてしまうケースも正直あります。また、プロダクトを作ってきた経験も多くないのでテクノロジーの裏側や本来提供できる価値を見落としがちだと思っています。特にDMPにおいては広告主さんの資産であるデータをお預かりするという意味では、インハウスでという流れは非常に多いと思っています。ただ、広告主もまだまだこれらを使いこなすまでには至っていません。我々がテクノロジーを使った課題解決といった領域をサポート、さらにエージェンシーによるクリエイティブやメディアバイイングでの既存サポートとあわせ、両者による相乗効果をもたらしていく。その方が広告主さんにとっても良い結果をもたらすのではないかと思っています。

 

 

— DMPは企業の中核となりうるデータで、最初にきちんと導入できれば今後ビジネスには切り離せないものとして根付いていけますね。

 

重原:DMPでは、広告主さんからも既に直接たくさんの問い合わせをいただいています。必要以上に外部にデータを見せたくない、データの部分は自社で抱えたいという要望の強さをセールスしていく中でも感じています。

 

 

— DMPを活用したマーケティングに携わる人材に必要な要素を教えてください。

 

酒井:データをちゃんと料理できる人だと思います。たくさん集まったデータを料理していく料理人が必要で、データは多ければいいというものでもありません。むしろ捨てる部分も出てきます。料理と一緒です。材料のどの部分をどう使うか、捨てる部分と、使う部分、それを美味しく仕上げるか、不味くなるかも料理人の腕次第だと思います。その料理人をどれだけ集められるか、育成できるかが大事だと思います。そして料理人も一度美味しいものを作れば終わりではありません。何が美味しかったのかを日々考えて腕を磨かないといけません。いくら美味しいものが出てきても毎日それが続けばユーザーは飽きてしまいます。それだけユーザーの気持ちや行動は移り気です。だからこそ日々腕を磨いて、また新しい美味しいものを作っていく必要があります。データを中心としたマーケティング活動も同じだと思います。データを必要なものに削ぎ落とす、美味しいか美味しくないかを日々ユーザーのリアクションを見ながら調整、運用していく。この一連の活動こそが価値であり、必要な要素だと思います。

今は、個人では難しくても、チームとしてそうしたことが実現できるようにしていきたいと思います。

 

 

最後に、御社が伝えたいメッセージを教えてください。

 

酒井:我々は単純なアドテクノロジー企業ではありません。広告主さんの課題はアドだけでは解決できません。アドだけでない「マーケティングテクノロジー」を使ってお客様の課題を解決する企業になるよう努力していきます。

情報を欲しがっている人はどんな人なのか、 届けたい想いは何なのか、どんなにテクノロジーが進化しても 常にユーザー、広告主、メディアの皆さんの「キモチ」に想いを馳せ、 その「キモチ」をどのように繋ぐのかを考え、最先端のマーケティングテクノロジーを適切に駆使し、 ユーザーが欲しい情報を、適切なタイミングで、 広告主、メディアが届けたい情報を適切な人へ、適切なタイミングで届けられるよう努力します。

「企業」と「ユーザー」を「テクノロジー」を使って「繋ぐ」ことで 企業とユーザーを幸せにする企業でありたいと思っています。

テクノロジーの進化でユーザー行動とマーケティング活動は変わっています。しかしそれを適切に解決するのもまた、テクノロジー。 最高のコミュニケーションを最高のテクノロジーで。

モデューロが実現する新しいデジタルマーケティングの世界にご期待いただければと思います。

 

 

 

 

(編集:三橋 ゆか里)

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大山 忍

ExchangeWire Japan 編集長 米国大学卒業。外資系企業を経て2000年にネット広告効果測定ツールを提供するベンチャーに創業メンバーとして参画。その後、バリューコマース株式会社と合併。 2007年1月にオムニチュア株式会社(現Adobe)に参加、コンサルティングサービスを立ち上げる。ビジネスコンサルタントとして米国のベスト プラクティスを日本の課題やニーズに合わせて提供、ウェブ解析やガバナンス(データ主導の組織・仕組化)に関する執筆・講演を行う。