AIを活用したクロスデバイスターゲティング広告の「Appier」が日本進出
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on 2014年10月28日 in(ライター:柏木 恵子)
DSP事業者である「Appier」(日本語表記:エイピアー、本社:台湾)は、2014年7月に東京都港区に日本オフィスを設立し、日本担当ヴァイスプレジデントとして、元楽天の井料武志氏が就任した。Appierは、AI(人工知能)を活用してユーザーの行動と関心を予測し、学習を続けることによる精度の高いターゲティング広告を配信するのが特徴。ユーザーにとって、最適なデバイス(スマートフォン、タブレット、PCなど)に、最適なタイミングで広告を配信するクロスデバイスターゲティングを実現する。現時点で日本語、英語、中国語に対応しており、今後6カ月以内に日本国内を対象にクロスデバイスターゲティングを開始する予定だ。
ロボットや自動走行車で培ったAI技術を広告配信に転用
スタンフォード大学とハーバード大学のAI研究所出身のデータサイエンティスト、システムエンジニア、また大手グローバル企業出身のデジタルマーケターなどによって2012年に創業されたAppier。共同創業者兼CEOのチハン・ユー氏は、スタンフォード大学とハーバード大学で博士号と修士号を取得しており、ロボットや自動走行車のプロジェクトを通して人工知能を研究。いずれのプロジェクトもGoogleに買収されている。周囲の状況を把握して自動的に判断を下すAIを使ったロボットや車の研究が、ユーザーのビヘイビアに応じた広告の最適化に転用されている。
時代はPCからスマートフォンへとシフトしているが、今後10年のトレンドとして、クラウドの普及、デバイスのさらなる多様化、コンテンツのクロスデバイス化が挙げられる。特にデバイスに関しては、タブレットやスマートフォンに加えて、Googleグラス、スマートウォッチ、スマートテレビなど、新しいスクリーンが次々と登場している。ターゲットユーザーにリーチするためには、これら多様なデバイス間での連携が必要だが、その膨大な処理はデジタル広告の大きな課題として残っている。この課題の解決こそがAppierが掲げるミッションであり、クロスデバイスターゲティングを提供するマーケティングソリューションとしてはアジア地域初となると言う。
タイペイ、東京、シンガポール、シドニー、サンフランシスコに拠点を設け、現在はアジア・パシフィックでサービスを提供しているが、今後は全世界へ拡大の方針だ。すでに、KATE(ケイト)、日産、シュウ ウエムラ、ヤマハなどの日本企業や、ハイネケン、イケア、ナイキなどのグローバルブランド企業、著名なゲーム制作会社などが活用している。日本企業の中には、すでに東南アジアでの広告配信の利用事例もある。また同社は、アジア最大のモバイルデータを所有しており、1カ月当たりのユニークユーザー数は世界で14億人、インプレッションは1.6兆回。アジア(中国、インドを除く)における1カ月当たりのユニークユーザー数は2億7000万人を誇る。
0.1秒で実現する、AIとビッグデータを活用した高精度ターゲティング
広告主が、時間帯で広告枠を買うテレビやラジオなどと違って、デジタル広告では特定のターゲットやグループに対して広告を購入できる上、インプレッションやタイミングも選ぶことが可能だ。しかし、従来のデジタル広告バイイングでは、ユーザーターゲティング戦略と、入札戦略が不十分だった。広告主にとって、興味のないユーザーに広告を見せることはマーケティングコストの無駄でしかなく、繰り返し関係のない広告を見せられる消費者のユーザー体験には不満が残る。Appierのソリューションでは、RTB、AI、ビッグデータを組み合わせたAppier Engineが、高い広告効果を実現する。
そのプロセスは、まずターゲットとなるユーザーのプロファイルとデータベースを作成し、そこから適正なオーディエンスを見つけることから始まる。AIエンジンは、ユーザーの行動と関心を予測し、リーチに適正なタイミングとコンテンツを見つける。そして、AIが適正価格を予測して最適な入札を行う。AIエンジンは適正なタイミング、広告クリエイティブ、ユーザーへの配信を続け、学習し続けることで正確さを増していく。ターゲットユーザーがサイトを訪問し、在庫がRTBでアナウンスされ、Appier EngineのAIが在庫の適性を判断、オークションを経て適切な在庫へ入札、という一連の流れがたったの0.1秒で完了する。
ユーザーの行動パターンを熟知して実現するクロスデバイスターゲティング
最近のユーザーはPC、スマートフォン、タブレットなど多様なデバイスを持っており、それを触るタイミングもさまざまだ。そのため、最も効果的な広告配信のタイミングやデバイスを見極めるのは非常に難しい。ユーザー行動のパターンを認識できていないと、仕事中で広告が見られないユーザーに対しても配信してしまう可能性がある。また、同一ユーザーが異なるデバイスを保持していることを認識できないと、全てのデバイスに同じ広告が配信されることになり、ROIが下がってしまう。
Appierのクロスデバイスターゲティングでは、デバイスDNAという考え方で、まずターゲットユーザーが所有するデバイスを特定する。具体的には、PCのCookie、匿名のユーザーID、Android IDやIDFA(Apple iOS)などのデバイスのIDを蓄積して行動履歴を比較し、同一人物のデバイスと認識したグループを作る。このデバイスDNAをもとに、デバイスごとにユーザー行動に基づいた広告配信を行う。また、デバイスをまたいだリターゲティングや、デバイスをまたいでの表示回数制限ができる。AppierのAIが、これまで課題だったユーザー行動に関する膨大な情報の紐付けを実現した。
図 Appierのクロスデバイスターゲティング認識プロセス
例えば、AIによる分析結果が、「Aさんは、勤務中には仕事にまつわるサイトのみ閲覧するが、プライベートな時間には、タブレット、スマートフォンで好みの情報に触れ、広告をクリックすることがある」というものだった場合、AIは「PCには広告を配信せず、夜間にタブレットやスマートフォンに配信する」という判断を自動的にする。これにより、広告主はマーケティングコストの無駄を減らすことができ、ユーザーもまた、邪魔になる広告を見ないですむ。他にも、「PCでお台場の不動産を検索した人のスマホに、お台場に近づいたら関係する広告を配信する」、「ECサイトのモバイルアプリをダウンロードした人には、PCでも広告を出す」といったことが可能になる。
(編集:三橋 ゆか里)
ABOUT 大山 忍
ExchangeWire Japan 編集長 米国大学卒業。外資系企業を経て2000年にネット広告効果測定ツールを提供するベンチャーに創業メンバーとして参画。その後、バリューコマース株式会社と合併。 2007年1月にオムニチュア株式会社(現Adobe)に参加、コンサルティングサービスを立ち上げる。ビジネスコンサルタントとして米国のベスト プラクティスを日本の課題やニーズに合わせて提供、ウェブ解析やガバナンス(データ主導の組織・仕組化)に関する執筆・講演を行う。