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アドテク業界 2014年の振り返りと2015年の見通し−編集部の視点

明けましておめでとうございます。本年も引き続き、ExchangeWireJAPANをよろしくお願いいたします。編集部が注目する日本のアドテク業界の2014年の振り返りと、2015年の見通しについてお届けいたします。なお、本年より編集部の担当が一部変更となりました。引き続きよろしくお願い申し上げます。


 

1.アドテク企業の上場ラッシュ

2014年、国内ではITベンチャー界隈で上場ラッシュが続いた。アドテク業界では、VOYAGE GROUPや、FreakOut、ロックオン、サイジニアなどが上場した。数年前まで、アドテク領域では特定の領域に先行して参入し、大手事業者による買収や出資を受けてExitするのが、アドテクベンチャー企業のゴールであるかのようであった。だが、2014年の各社の上場事例は、今後続くアドテクベンチャーに幅広い道筋を示したと言える。今年はどのような企業がIPOをするのか注目される。

 

2.データドリブンなマーケティングの試行錯誤

国内では2013年春に、複数の国内事業者がほぼ同じタイミングで一斉にDMPをリリースして以降、徐々に普及が進んできた。2014年には、Googleをはじめ、これまで企業のサプライサイドのデータを統合化してきたSalesforceやOracle、SAP、Adobe連合などのグローバルデータソリューションベンダーがこの領域に参入した。

一方、サードパーティーのデータセラー側の動向も注目された。CCCによるヤフーやマイクロアドとの提携が進むなど、大手事業者間の連携が進みつつあるが、今年新たな動きが注目される。

 

2014年はまた、先駆的な広告主がプライベートDMPを導入し、その成果や課題が業界内での事例として共有された。同時に、これらのツールを活用したデータドリブンなマーケティングを実現する上で、広告主側、あるいはベンダー側の人材育成の重要性が改めて認識された。

数年前にDMPの概念が日本に入ってきたころに期待されたパブリックDMPによるデータ流通市場については、今のところ、当初予想されていたような絵にはなっていない。

今年プライバシー保護に関連する法規制についてのルール作りが進むことが見通されるが、その結果により、今後データ活用のあるべき方向性が大枠で決まることとなり、業界動向が大きく変わる可能性がある。

 

また、国内でもマーケティングオートメーションの普及がみられる。広告配信が、統合化・自動化されていく企業のマーケティング活動の中で、どのようなデータをどのように活用し、どのように変化していくのかは今後注目すべき点である。

 

3.モバイルプログラマティックへの挑戦

今年多くのアドテク企業にとって挑戦となるのが、拡大するモバイルチャネルへの本格的な対応であろう。米国のインターネット広告市場においては、デスクトップチャネルが2013年を機にピークアウトしたと言われている。国内に関しても、時間差はあるにしろ同様のトレンドをたどるであろう。検索連動型広告、ディスプレイのリザベーション広告 (純広告)の需要は、既に前年を割り込んでいるようだが、2015年はそのトレンドが加速することが予想される。

これまで成長が続いてきた国内のデスクトップ領域のプログラマティック広告需要だが、2014年半ば以降、成熟化に向かっている。

欧米市場では2014年半ば以降、CPG系のブランド広告主をはじめ、大手広告主がモバイルプログラマティックへの投資を進めている。日本においても、モバイルプログラマティックは今年市場の成長ドライブの一つとして注目される領域である。

一方で、モバイルプログラマティックの領域には、アドテクノロジーが克服すべき2つのフラグメンテーションという課題が依然として残されている。

1つ目は、PC、スマートフォン、タブレットなどのディバイス間のフラグメンテーションであり、もう2つ目はスマートフォン・タブレット端末内におけるブラウザ、アプリ間のフラグメンテーションである。

これらを解決する方法として最有望視されているのは、ユーザーIDデータの活用である。

多くの事業者がクッキーに代わるターゲティング手法を模索する中で、チャネルに依存しない1stParty(ファーストパーティ)データの活用が注目される。2014年にスマートフォン広告市場で飛躍的な売上成長を遂げたFacebookが、ユーザーIDデータの活用が現状における最適解であることを実践して証明した。

また、早ければプライバシー保護に関するルールが国内でも今年半ばには整備されると言われている。これを所与として、今後いかに複数デバイス、あるいはWebやアプリを横断して広告効果を適正に評価し、最適な広告配信を実現するのか、各社の戦略と動向が注目されるところである。

 

4.プライベートマーケットプレイスとサプライサイドの動向

これまでデマンドサイドに比べるとやや盛り上がりに欠けていたサプライサイド側で、リザベーション広告(純広告)を含むメディア側のソリューションの拡充とプライベートマーケットプレイスの本格的な構築が予想される。

昨年、グローバルで展開するサプライサイドの大手ソリューションベンダー PubMatic が参入し、電通がGoogleとプライベートマーケットプレイスの構築を発表した。

メディアのトラフィックの比重が、急速にモバイルにシフトするという環境の大きな変化を前提とし、プライベートマーケットプレイスへの参画を含め、メディア側でどのような対応が進むかが注目される。

 

5.動画広告・ネイティブ広告・データフィードによるクリエイティブ最適化

これらのキーワードは、今年も引き続きアドテクノロジーの文脈においても注目すべきである。

今年、動画広告市場はモバイル領域での成長が期待される。米国やアジア市場では、モバイルディスプレイ広告のフォーマット画像バナーから、動画をはじめとするリッチメディアへと移行しつつあり、大手アドネットワークによる提供が進みつつあるが、国内でも同様のトレンドとなるかが注目されるところである。

また、国内で現在市場の大半のシェアを持つYouTube以外でのインベントリーの拡充と、効果指標の確立に向けた取り組みが引き続き期待される。

 

2014年に国内でも大いに話題となったネイティブ広告であるが、ユーザーに嫌われないフォーマットの在り方と、メディアコンテンツと広告との親和性の2つが議論になっている。

前者については、特にユーザートラフィックがシフトしているスマートフォン上で最適な広告フォーマットが、FacebookやTwitterに見られるスクロール型が普及しつつあるという実態が先行している。市場の中で、今後、広告主やユーザーに許容される最適なフォーマットに収束していくであろう。

後者については、ネイティブ広告が企業のコンテンツマーケティングのチャネルとして活用されていけば、メディアという場とオーディエンスとを一旦引き離したテクノロジーが、今度は再び両者を引き合わせるという役割を担う可能性がある。

 

ダイナミッククリエイティブに象徴される、データフィードを活用した広告クリエイティブを最適化するテクノロジーの領域は着実に普及しており、今年も需要が大きく拡大することが見込まれる。

この領域では、近年Criteoは国内で飛躍的な売上成長を遂げており、今年は米国大手事業者による参入が予定されている。Googleは、動的リマーケティングを2014年秋にリリースし、また検索連動型広告の領域では、2012年にリリースしたProductListingAds(商品リスト広告)の普及に注力している。

 

6.位置情報の活用

モバイルならではの位置情報を活用したユーザーの行動予測に基づくターゲティングも、今年注目すべきトピックである。サイバーエージェントのAIR TRACKや、シンガポールを拠点とするAdNear、国内ベンチャーのジオロジックなどが昨年後半に参入を表明しており、DSPやアドネットワークと連携が進み、広告配信における活用や、オムニチャネル領域での事例などが注目される。

 

7.アジアマーケットとの交流

ここ数年、アドテク企業を含め、広告事業者の海外展開が進んでいる。中国、韓国はもとより、東南アジア地域への著しい進出がみられる。代表例としては、DSP最大手のマイクロアドは、中国、韓国などの東アジア、また、インド、ベトナム、フィリピンなどを含むアジア10の国・地域で拠点を構えている。一方、インドの老舗 InMobi 、台湾に本社を置くVponやAppier、香港のhotmobなど、東アジアのアドテク事業者がそれぞれユニークなポジショニングで日本市場に参入している。これらの背景の一つには、国内市場の成熟を迎えるにあたっての新規市場の開拓のほか、国内モバイルゲーム会社の海外展開におけるプロモーション需要の拡大や、円安を背景に流入が続く海外からの旅行客を取り込むためのインバウンドプロモーション需要の拡大などが挙げられる。このトレンドは今後も続くと予想され、日本市場とアジア市場で、国内外の事業者同士の交流がさらに活発化していくことだろう。

 

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。