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「成長を続ける市場、変わるエコシステム」——モバイルシフトの中でも変わらぬメディアレップの役割【前編】 [インタビュー]

スマートデバイスの普及とともに、デジタル広告市場におけるモバイル領域の重要性はさらに高まりつつある。これにより、デジタル広告業界のエコシステムは日々変化し、メディアレップの役割もまた大きく変わりつつある。デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社 プロダクト開発本部プロデューサー 砂田 和宏氏と、プロダクト開発本部 広告技術研究室長 永松 範之氏にインタビューを行った。モバイル広告市場の直近の動向と今後、そして、その中でメディアレップはどんな役割を果たしていくのか。2回に分けてお届けする。

なお同社に例年協力いただいている「モバイルカオスマップ」の最新版もお届けする。(文末に掲載)

(聞き手:ExchangeWire Japan 野下智之)

 

 

この1年で変化したモバイル広告市場のエコシステム

 
―今年も、貴社にモバイル広告市場のカオスマップを作成いただきました。モバイル広告市場の直近の市況感についてぜひ教えてください。

左:永松 範之氏  右:砂田 和宏氏

砂田氏:まず、ユーザーのオンライン上の消費時間がモバイルに完全にシフトをしています。それに伴い、マーケティングも大きくモバイルに移っていく過渡期にあります。

ただ、LINEやYahoo!JAPANなどを除くと、モバイルでその受け皿となる規模に至る媒体は少ない状況です。

となると、広告の出し先はアドネットワークが中心になります。ラグジュアリー系のブランド広告主などは、アドネットワークへの広告配信に対して慎重な姿勢を見せるケースが多いのが現状です。そのため、これらの広告主がモバイルに予算を大幅シフトさせるのには、もう少し時間がかかると見ています。

 
―PCの時と同様に、リーチが取れるメディアは今後モバイルでも登場するでしょうか。それとも何らかの構造的な変化と理解したほうがよろしいのでしょうか。

永松氏:もちろん構造的な面はあるとは思います。ただ、今後大きな単一媒体成立の可能性がないわけではありません。モバイルサービスのLINEは、非常に多くのユーザー数を抱えています。

モバイルとPCとの大きな違いは、多くのユーザーを持つメディアになるためには、プラットフォームとして強くなる必要があるということが挙げられます。私たちも、2011年時点では、LINEのようなプラットフォームが生まれてくるとは全く想像していませんでした。今後も新たなプラットフォームが成立する可能性はありますが、直近でそれほど大規模なメディアの誕生はないかもしれません。したがって、多数の媒体をデータで繋いでいくというのが現状のモバイルマーケティングの主流です。第三者配信などを活用しながらデータを集め、DMPでコントロールするという方法へとシフトしています。

今のデータドリブンな状況の背景には、PC中心の時代から、面から人へとターゲティングの対象が変わってきたことがあります。モバイル中心へと移行して、優良な面がまだ少ないということもあり、データドリブンがさらに加速していると感じています。

 
-マーケット自体は引き続き伸びてはいると思いますが、消化不良と言いますか、PCでネット広告の予算を大量に使っていた企業による砂田 和宏氏モバイルへの予算シフトがまだ出来ていないという印象ですか。

砂田氏:例えばですが、Facebook、Twitter、それからYDN、GDNなどブランドセーフがある程度保たれており、プラットフォームとして認知されているメディアだけを見ると、予算はモバイルにシフトし続けています。しかし、先ほどお話したとおり、消化不良とまでは言わないものの、モバイルの面が限られているということが、予算はあるもののモバイルへの出稿が伸びきらないといった課題をもたらしていると思います。

 
-今回、DACさんにモバイル広告業界のランドスケープを更新していただきました。前回作成いただいた時から、業界もかなり変わっていると思います。全体としては、どのような方向に向かっているでしょうか。

永松 範之氏永松氏:そうですね。モバイルのマップに関しては、データ周りのプラットフォーマーの進出が進んできています。DMPや、位置情報データのサービスプロバイダ、あるいはこれらを活用したモバイル向けのマーケティングソリューションベンダーなどの領域は、プレイヤーが充実してきています。もちろん、DSP、SSPなどの広告自動取引に関連するプレイヤーも同様に増えています。

 

砂田氏:トラッキングツールの領域には、現在多くのプレイヤーが参入しています。トラッキングツールで蓄積したデータや広告主のCRMデータをもとに、購買ファネルに当てはめてDSPで広告配信をして購買に至らせる。この施策は、海外では既に一般化しつつあります。ツールやソリューションは競争が激化しており、ほぼ差別化できない状態だと言えます。現在は各ツールが個別に存在していますが、今後は少しずつワンストップソリューションになり、数社の強者に集約されていくことが想定されます。当社もその中で競争に勝つための取り組みを進めています。

その他、新たに盛り上がりを見せているものに、モバイルマーケティング、メッセージングの領域があります。当社が提供するDialogOneも、LINEビジネスコネクトとの連携により、企業がユーザーとLINEを使った1 to 1コミュニケーションが出来るようになり注目を集めています。

 
―このサービス領域は、いわゆる広告媒体とは違う世界になるのですか。それともメッセージングというカテゴリの広告媒体として見るべきでしょうか。

砂田氏:そうですね。以前は、SMSもソリューションとして位置づけられていましたが、LINEに関してはメディアとしての注目度が高まっており、広告寄りのサービスとも言えなくはないです。ですが、先日F8でFacebookが発表した「企業のコマースサイトの中に、FacebookメッセンジャーのSDKやタグを入れることで顧客とチャットしながらオンラインで買い物ができる」ソリューションがありますが、ここまで来るとメディアとソリューションとの区別が付かなくなりますね(笑)。

スマートフォン端末では、メールが担っていた役割に、メッセージアプリが徐々に取って代わりつつあります。恐らく、モバイルキャリアのメールも使われなくなってきているのではないかと。その代替として、ユーザーとダイレクトなコミュニケーションを図るものとしてメッセージアプリは今後より重視されていくでしょう。

 
―アドネットワークやデジタルギフトなど、他のレイヤーについてはどのように見ておられますか?

砂田氏:この領域は、レッドオーシャン化が進んでおり、今後ここから発展的な方向に進むかどうかの見通しがつきにくいと感じています。

また、アドネットワークがネイティブ広告を開始し、業界全体がこれに飛びつきました。しかし、現状普及しているネイティブ広告は、広告主からすると「クリックで買うための手法の1つに過ぎない」という認識です。

ネイティブ広告に関しては、当社で取り組んでいるプロジェクトがありますが、ネイティブ広告を有効に活用するために、いかに計測指標が重要であるかを痛感しています。

同じクリックでも、バナー広告のミスタップによるクリックと、ネイティブアドのクリックとでは、ネイティブ広告のほうが価値は高いはずだという予測のもと、それを明らかにするための計測指標について様々な方法を考えています。それが証明できれば、ネイティブ広告はメディアにとって救世主になりますし、広告主は効率的なマーケティングが実現できるようになります。そうすれば、ネイティブ広告の活用が次のステップに進んでいくのではないかと思っています。

とは言え、私たちがその価値を数字で証明したところで、現在1クリック15円や20円で買える広告枠を50円、80円と伝えても、広告主に納得していただくのは容易ではありません。非常に難しいところですが、納得感のある指標がどこかにあるはずですので、相談しながら進めていくべき領域だと考えています。

ネイティブ広告をどのように計測して、どんな効果指標で判断するのか。一言でブランドリフトと言いますが、果たしてそれでいいのかを含めて社内で議論しています。
 

 



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最終更新日:8/17/2015

 

CategoryDefinition_mobile2015

本マップは、米LUMA Partners社のLUMAscapeのカテゴリをベースに、日本国内でのサービス提供を確認できたカテゴリのみ掲載しています。

本マップ作成にあたり、事前にロゴ・サービス名称の表記に関して事前許諾を得ておりませんので、もし本マップへの掲載に問題がある場合は、 ExchangeWire Japanまでご連絡ください。問題箇所に関しましては、できる限り迅速に対応させていただきます。

問い合わせ先: japan[アット]exchangewire[ドット]com

 

(編集:三橋ゆか里)

 

 

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。