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メディアとテクノロジーから見る、モバイル広告市場の今 [インタビュー]

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このほど、当サイトでは、デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社(DAC)協力の元、モバイル広告業界マップのアップデートを実施した。

変化の著しいモバイル広告市場の今について、DAC取締役執行役員メディアサービス担当 メディア本部長兼ブランドマーケティング本部長 豊福直紀氏と同社取締役執行役員ソリューションサービス担当田中雄三氏に、メディアとテクノロジーそれぞれの観点からお話を伺った。

(聞き手:ExchangeWire JAPAN 野下 智之)

変わりつつある位置情報の計測手法

― 過去1年間でのモバイル広告市場では、どのような変化がありましたか?

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豊福氏 まず、ネイティブ広告が広告市場として大きく伸びました。また、Facebook、Twitter、LINEやYahoo!のスマホメニューやニュースアプリに加え、分野特化型のバーティカルメディアの影響力が大きくなったことも、変化の一つだと思います。

― 2018年のテクノロジーやメディア領域における大きなトレンドについてお聞かせください。

豊福氏 モバイルでは、従来のCookie情報よりも、IDFAやAAIDなど端末のアプリで利用される広告IDを使ったターゲティング手法が主流になってきました。人ベースで考え、世代ごとの生活などを知るうえで、モバイルから取得し得るデータでは、位置情報データが必須となるでしょう。広告主からのニーズとして、ビーコンなど位置情報を利用した来店計測レポーティングなども重要視されるようにもなってきています。

ただ、従来から言われているようにGPSなどの位置情報を基準にターゲティングすると、粒度が細かくなりすぎ、広告配信時に一定のボリュームを確保するのが困難になるという課題があります。

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田中氏 当社は以前から位置情報の活用に取り組んでいますが、粒度は郵便番号までに留めています。

決済の分野では、ポイントサービスや購買データを保有している会社との連携を行い、人ベースのターゲティングを実証実験しています。こうしたことが一般的な手法になるのは間もなくでしょう。

― 来店計測に関する実用化の現状はいかがでしょうか?

田中氏 現状としては、傾向値を測っている段階です。ただ、既に当社では、メッセージング管理ソリューション「DialogOne?」を用い、位置情報やビーコンを活用した取り組みを行っています。

ウェブからアプリへのチャネルシフトはおこるか?

― モバイルは、ユーザーに対してウェブサイトとアプリという2つの接点を持っていますが、今後、それぞれの展開についてはどのようにお考えですか。

田中氏 事業者視点で考えると、アプリは、利用してもらうためにユーザーにダウンロードしてもらう必要があるため、ウェブサイトよりもサービスの本格展開に至るまでにマーケティングコストを要します。基本的には、ウェブサイトでサービスを開始した後にアプリへ移行させる方法が一般的だと思います。

計測の面で、ウェブサイトとアプリの両方にまたがるビジネスにおいては特に、クロスデバイス技術を活用した分析が非常に重要になってきます。ブラウザとアプリのデータをいかにつなげるかが要となっており、実際クロスデバイスを利用すると、キャンペーンの費用対効果も良くなるので、当社でも積極的に導入を進めております。現時点でもかなり精度の高いマッチングが可能になっています。

求められる、モバイルならではの基準

― 日本のモバイル広告市場が成長する上で、課題となることは何でしょうか?

豊福氏 これまでずっと、「モバイル端末に最適な広告は何か」という課題があったところに最近は、インフィード広告がその解答例として定着をしてきた感がありますね。

田中氏 ビューアビリティの観点からいえば、モバイル端末は画面が小さい分、PCよりも下の画面へ移動するスピードが速く、PCのビューアビリティの概念をそのままモバイル端末に適用するということは難しいと考えています。今後は、モバイル広告の適切なビューアビリティについて、定義を作らねばならないでしょう。

また、ファーストビューについても、モバイルにおいて考えねばらない問題です。そもそもがPCを基準に発生した概念ですし、モバイル端末では占有率が大きいとすぐに広告の40%、50%が見えてしまいます。また、一概には言えませんが、モバイル端末において、画面の一部分に追尾して表示されるオーバーレイ広告のユーザビリティはよくないといえるでしょう。

モバイル比率の概念は不要に

― モバイル広告のシェアが70%くらいまで伸びているようですが、今後はどうなるとお考えでしょうか。

豊福氏 最近はPCよりもモバイルのほうがスタンダードになり、個別にモバイル広告のシェアを追う必要もなくなりつつあります。媒体側も、PCとスマホの比率を情報として出さなくなりつつあります。FacebookやYouTubeをはじめ、既にモバイルファーストになっていますね。

注目領域は動画、音声、そしてODM

― 貴社の注力する分野について、メディアとテクノロジーの両面からお聞かせいただけますか。

豊福氏 メディアの領域では間違いなく動画が1つの鍵だと考えています。バーティカルメディアの動画広告も進化してきていますし、TVerの見逃し視聴などでも動画広告がメニューとして顕在化しつつあります。

それから、これはモバイルに限定されることではありませんが、AmazonなどEコマースのプラットフォームが広告ビジネスに進出してきており、今後、マーケティングプラットフォームとしてどのような展開をしていくか、注目すべきだと考えています。

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また、音声広告の領域も、今後注力すべきであると考えています。海外発の音楽ストリーミング配信サービスではすでに音声広告に取り組んでおり、広告はラジオと同じように聞こえ、画面にも表示されるようになっています。音楽を聴いているユーザーに、CMと同じ出演者がカスタマイズされたメッセージを伝えるなど、ネイティブ広告のような聴きやすい広告の出し方をしており、面白いと思います。

また、音声広告は、AmazonEchoやGoogleHomeなどのスマートスピーカーも対象になり得ます。

プラットフォームごとに、さまざまな広告が開発されると考えられ、当社としても新たな広告体験の提供に貢献したいと考えています。

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田中氏 マスメディアがデジタル化している流れでは、デジタルとOOH(アウトドアメディア)との融合がスマートデバイスによって進んでいくと感じており、そこに新たな可能性を感じます。デジタルサイネージや位置情報との連携が、これまで認識出来なかった広告効果の可視化に役立つのではないかとも考えています。

個人情報対策は必須

田中氏 ソリューション提供側としては、個人情報への対応について、常に課題意識を持っているべきだと考えています。広告主がユーザーに対して個人情報の利用規約をはっきり表示しているかどうかが最近議論されるようになってきましたが、現状ではまだ不十分な対応も見受けられます。今後、有効な広告配信をするためには、媒体と広告主、あるいは、業種が異なる広告主同士でデータを補完し合う必要性が高まってきます。その鍵となるデバイスがスマホであり、IDを用いたデータの流通がさらに進められていくことになるでしょう。当社は、内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室、総務省、経済産業省におけるワーキンググループの検討を踏まえて2017年11月に設立された一般社団法人データ流通推進協議会に、設立以前の発起人会から参画しています。モバイル広告市場においても、公正で健全なデータの流通に貢献したいと考えています。

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最終更新日:9/8/2018

CategoryDefinition_mobile2018

本マップは、米LUMA Partners社のLUMAscapeのカテゴリをベースに、日本国内でのサービス提供を確認できたカテゴリのみ掲載しています。

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問い合わせ先: japan[アット]exchangewire[ドット]com

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。