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アドブロックの議論が高めるAPACでのユーザーエクスペリエンスの重要性

Vikas Gulati氏 Opera Mediaworks社

(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)

アドブロックツールの影響と広告と広告収入に対する潜在的な影響については多くの議論がなされてきた。特にモバイルに関しては、ユーザーの使用時間が増え、マーケティング担当者の注目度も上がっており、なおさらのことだ。

ただし、その議論の内容はアドブロッカーへの対処法についてではなく、むしろ広告主は、消費者が広告をブロックしようと思わなくなるような魅力の高いコンテンツを作成することを考え始める必要がある。
 

ExchangeWireとの質疑応答で、Opera Mediaworks社のアジア担当マネージングディレクターのVikas Gulati氏は、同地域のモバイルユーザーはその時間のほとんどをモバイルブラウザではなくモバイルアプリに費やしているため、現在のアドブロックツールの影響は減少していると述べている。

アドブロッカーの議論が盛り上がる中で、Gulati氏は押しつけがましくない広告を打ち出し、アドテク業界が収益化と望ましいユーザーエクスペリエンスの提供とのバランスを見出す必要性を強調している。
 

―ExchangeWire: アドブロッカーに関するアジア太平洋地域のアドテク業界の反応はどのようなものですか?

Vikas Gulati氏: まず、アドブロックは新しい概念ではないということを強調したいです。アドブロックはデスクトップの領域では以前から存在していました。したがって、この問題はユーザーエクスペリエンスの観点から総合的に検討する必要があります。モバイルデバイスでは、コンテンツは主にモバイルブラウザではなくアプリで利用されます。Appleのアドブロック機能は自社のモバイルブラウザSafariでのアドブロックだけを対象にしています。

コンテンツパブリッシャーが優れたコンテンツを生み出し、それを提供することができるのは、広告によってうまく収益化がなされている場合に限られます。裏を返せば、パブリッシャーは、自社サイトやアプリにつぎ込む資金のほとんどを、広告収入に依存しています。このエコシステムを維持するためには、ユーザーは広告を受け入れる必要があります。ユーザーは、広告により様々なハイクオリティーなメディア体験を無料もしくは低価格で楽しむことが出来るのです。

Opera Mediaworks社による2015年第2四半期のアジア太平洋地域のモバイル広告の現状レポートで、Apple iOSは同地域での普及は限定的で、Google Androidがモバイルプラットフォームでトップにランクされました。

アドブロック議論で明らかになったのは、アジア太平洋だけでなく世界的な、ユーザーエクスペリエンスの重視です。モバイル広告業界は、押しつけがましくない、面白くて楽しめる広告付きのコンテンツを生み出していくことが必要です。
 

―モバイルが広告主やマーケティング担当者にとってますます人気のプラットフォームとなる中で、特にモバイルファーストとされるアジア太平洋地域において、ユーザーはモバイルの画面が、見たくもないプレロール広告やバナー広告ばかりになってしまう点を気にしているのではないでしょうか?

広告費が、ユーザーが滞在する場所とメディアに使う時間に応じて費やされるのは自然なことです。消費者に届けるべきものはより良い体験です。パブリッシャーは、コンテンツを収益化する適切な方法を見つけて、コンテンツとの境がなく、押しつけがましく見えないようにする必要があります。業界は、ネイティブ広告やインフィード広告動画、スポンサー付きコンテンツに移行しようとしています。

Opera Mediaworks社が実施したInstant-Play HDビデオキャンペーンを通じて、正しくコンテンツをユーザーに届けることが出来れば、動画完了率は90%に、クリック率は5%に達し、ユーザーのエンゲージメントも高くなる事が実証されました。このことはつまり、ユーザーは動画広告が自分に関連がありモバイル体験の邪魔にならない限り積極的に見たがっているといえます。

広告業界はこの変化を目の当たりにして、収益化とユーザーエクスペリエンスとの間の適切なバランスを見つけるために一致協力して取り組んでいます。
 

―モバイル広告がユーザーにとって特に深刻な悩みとされるのは、モバイルデータ料金が高くモバイルブロードバンドのインフラが未発達の一部のアジア太平洋市場ではないでしょうか?こうした市場では自動再生されるモバイル動画広告は悪夢であるとは考えられないでしょうか?

スマートフォンの急速な普及で同地域のデータコストは一層の低価格化が進み、インターネット接続に様々なデバイスの選択肢が持てるようになりました。

アジア太平洋地域のモバイルユーザーのモバイルコンテンツの利用は世界のモバイルコンテンツの利用とほぼ同じくらいになっています。実際、インド、インドネシア、フィリピン、ベトナム(これらの地域をモバイル広告の成長をけん引する「パワー4」市場と呼んでいます)のモバイルユーザーの76%がモバイルデバイスからコンテンツにアクセスしています。インドネシアは、モバイルデバイスでコンテンツを利用するインターネットユーザーが93%と群を抜いています。ベトナムは、平均的なユーザーのモバイルデバイスでのデータ利用が月間85MBで、世界平均の月間90MBに少しだけ足りないだけです。

目下の問題は、ユーザーの邪魔とならない、付加価値と楽しく素晴らしい体験をもたらす、より効果的なターゲット広告を如何にして配信するかです。つまり、必ずしもデータコストだけの問題ではないのです。
 

―アジアのモバイルユーザーへの広告配信でブランドが留意すべきことは何ですか?

ブランドは、ユーザーの非常に速いスピードでのモバイルへの移行によってモバイル広告から大きな利益を得ています。アジア太平洋地域のスマートフォン普及率は2013年初めから545%高まっています。ベトナムとフィリピンはともにヘビーユーザーすなわち週に5日以上モバイルサイトやアプリにアクセスするユーザーの割合が高い国です。

comScore社と一緒に行った最近のネイティブ動画広告に関する調査では、専用に作られたネイティブ動画広告には大きなブランドリフト効果があり、ブランドメトリクスの上流ファネルと下流ファネルにわたってモバイルの標準値を上回っていることを示しました。

このことは、繰り返しになりますが、ユーザーは面白くて、自分に関係した邪魔にならない広告は視聴したがっているという証なのです。

ブランドがこのかなり新しい媒体に取り組むに連れて、最適なタイミングでユーザーを効率的かつ正確にリーチするには、モバイルが最も優れた媒体であることに気づくことでしょう。これはモバイルが従来のメディアに比べた技術的優位性によるものです。
 

―Appleによって現在では開発者はアドブロッカーの開発がしやすくなっていますが、アジア太平洋地域のモバイルユーザーの間でこうしたツールの普及率は高いでしょうか?

アドブロッカーの普及率についてコメントするにはまだ時期尚早です。現時点では、バランスが必要だと考えています。

質の高いコンテンツはサブスクリプションモデルによって収益化出来ますが、もっと一般的なコンテンツは常に広告収入が必要なことをパブリッシャーは理解しています。ユーザーがアドブロックツールを使い続ければ、パブリッシャーは次第にユーザーをモバイルウェブからアプリに移行せざるを得ないでしょう。アプリではアドブロックが効かないからです。

モバイル広告業界は広告とコンテンツの価値交換を理にかなった方法でバランスをとる方法を見つける必要があります。
 

―アドブロッカーがアジア太平洋地域のモバイル広告業界に近い将来どのような影響をもたらすとお考えですか?

現在ではユーザーは(モバイルブラウザと比べた際に)自分の時間の70%以上をアプリに費やしています。ほとんどのアジア諸国においてiOSの普及は緩やかでアドブロックアプリが効果を発揮するのはモバイルブラウザだけであることを考えると、アジアのモバイル広告エコシステムにアドブロックアプリが深刻な影響を及ぼすとは考えていません。更にいいますと、世界的にもないと考えています。

広告主はもう既にアプリ内広告がより効果を生み、価値があることに気付いています。

モバイル広告業界の現在の優先事項は、マーケティング担当者と共に、よりユーザーに即した、関連性の深い、コンテンツに親和性の高い、ユーザーとのつながりの大きな広告体験を提供し続けることです。

モバイル広告業界に身を置くには良い時代です。創造性と技術の融合により、多くのデバイスにまたがる体験や、iPadとのマルチタスク、ディープリンク、ピクチャ・イン・ピクチャといった使い方が可能になるまたとない時代にいるのです。

 

 

 

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。