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Googleのサーチリスティングの変更はSEOや小規模広告主に打撃

(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)

2月19日にGoogleは、密かに検索エンジンの結果ページ(SERP)の右側の広告を全て消したようだ。同時にオーガニック検索結果の上のページトップに表示される広告の数を3から4に増やした。

デスクトップのSERPが非常に少なく見えるのはさておき、この変更は元々のプログラマティック広告チャネルとの関係について広告主の間に問題を引き起こした。

よくある検索ワード「自動車保険」のGoogleでの簡易検索の結果(下の写真)が示す新しいSERPレイアウトでは基本的に有料広告で挟まれる形になっている。
Car-Insurance-Search-Results

Googleはこの件についてどちらかと言えば沈黙したままだが、決して気まぐれで変更したわけではない。この変更が決定されるまでに様々なSERP形式についてユーザーの反応を何回もテストしているはずだ。さらにここしばらくは一部のユーザーでこの変更のベータテストが行われている。もっとも、SEOに慣れ親しんだ人はこの変更の背後にある金銭的な動機を疑っているかも知れない。ページのオーガニック検索結果数はほとんど影響を受けないままだが、検索結果のほとんど全てが今のところスクロールしないと見られない。オーガニック検索は現在、どんなデバイスでもスクロールしないで見られることは極めて少ない。さらにリスティング広告とオーガニック検索結果の違いが見分けにくく、結果的にオーガニック検索のクリック率が落ちて有料広告収入が伸びる可能性がある。

ExchangeWireでは、この変更に対する業界の反応を確かめるために、Googleの意図とマーケティング担当者にとっての意味について業界のリーダーに意見を求めた。

大手広告主の優遇

モバイルがますます主役となる世界において、この変更は業界のトレンドに乗ったものだ。テクノロジー企業は統合された製品の開発を目指しており、モバイルは機能、使い易さ、デザインにおいてその中核にある。デスクトップPCのSERPをGoogleのモバイルエクスペリエンスに合わせることで統合ビューに向けて一歩進んだが、果たしてこれがソーシャルプラットフォームで見られる様な、コンテキストベース広告のような機能に向かってSERPがさらに進化することにつながるのだろうか。

この変更は、最も金になるページトップの4つの場所をめぐって争うことが出来、広告の表示を維持出来るだけの多額のリスティング広告予算を持っている広告主を優遇しているように思える。「サイド広告」がなくなったため、これまで平均的に下の場所に表示されていた広告主は全体として広告の場所が少なくなった影響を受けるはずだ。場合によっては見向きもされない「2ページ目」に追いやられるかも知れない。

ページトップの場所を争う広告主が増えるため、入札価格が高騰する可能性が高く、Googleはサイド広告を削除したことによる収入の減少分を補う必要がある。費用を抑えるサイド広告がないと、Google検索で広告表示を維持するには投資を増やす必要があるだろう。とは言え、結果的にROIや採算性の面で打撃を被る可能性がある。チャンスを最大にするには広告主がより独創性を発揮し、入札に集中してKPIを達成することだ。Googleはリスティング広告とオーガニック検索の境をさらに曖昧にしようとしているため、この業界の大変革は実質的には、検索連動型広告チャネルを通じてマーケティングをより効果的にする要因となるかも知れない。

Paul Kasamias氏
​英国​Starcom Mediavest​グループ、ビディングメディア統括長​

モバイルとデスクトップの境を曖昧にする

Googleがページ右側のテキスト広告を消す選択をしたことでデスクトップとモバイルの境界がさらに曖昧になった。長年の間、モバイル検索は対前年比で拡大を続けてきたが、将来性を重視しない企業にとっては、2番目の選択対象とされていた。今ではモバイルの検索結果の方がデスクトップより多くなった。我々は皆モバイルファーストの世界に生きていることに気付いている。モバイルの検索結果がデスクトップの検索結果にとうとう肩を並べたと言っても過言ではないかも知れない。我々広告業界にいる者は、この変更はクリック単価とユーザーエクスペリエンスに影響すると見ている。Amit Singhal氏は、現在は検索の責任者の地位を退いており、人工知能工学の専門家のJohn Giannandrea氏が後任なので、近い将来変更やテストの強化が期待できそうだ。相変わらず機械学習に翻弄されているが、機械が収集するデータは我々検索者の指示によるものであることを忘れてはならない。また検索する側の視点でこの変更を捉えなければならない。この変更によってさまざまな検索結果がもたらされる可能性があるが、筆者の考えでは結果は常に良好だ。

Rob Watkins氏
​Sumsung社検索部門マネージャー​

​広告主へのインパクトは限定的​

Googleのこの変更について驚きはない。というのも今のところデバイスをまたいでも、ユーザーエクスペリエンスの一貫性が担保されるはずだからだ。上位4つより下の右側の広告のクリック率はこれまでも低かったし、Googleが以前からこの形式をテストしていたことを考えれば、クリック率や実績になんらマイナスの影響はないと思う。むしろ検索結果下部に広告を出す拡張機能でサイド広告よりクリック率が増えるはずだ。

検索連動型広告に関しては、向こう1,2カ月はクリック単価に変動が見られると予想している。広告主が限られた上位の場所を奪い合うからだ。だがこれもやがて落ち着くと考えられる。慎重に管理された入札方法とデータに基づいたアプローチによってほとんどの広告主は採算が悪化することはないはずだ。最も大きな影響が出るのは、SEO対策である可能性が高い。リスティング広告がSERPをさらに押し下げ、ページの下にも広告が出るので5番目から10番目の検索結果のクリック率は低下する可能性が高い。従って広告主は全体的な検索アプローチを取ることが必要不可欠になる。

Suzie Rafla氏
​Ecselis社パフォーマンス部門統括長​

ユーザーエクスペリエンスの向上

Googleによる変更で結果としてクリック単価が上がる可能性はある。ただし、ユーザーの視点では、「少ない方が効果的だ」。今回のアップデートが参考にしたGoogleのモバイル広告を見れば、気を散らされないクリーンなユーザーエクスペリエンスが上位広告のクリック率を上げることが分かる。

さらに、もしクリック単価の上昇が起これば、製品と市場が適合していなかった競争相手をオークションの入札で蹴散らせるかもしれない。気を散らされるものが少なくなれば、広告主は現在の顧客や将来の顧客とつながる時間を持ちやすくなると見ている。実績とユーザーエクスペリエンスを注視していくつもりだ。

商品リスト広告(PLAs)は右側の広告除外の対象にならないことを覚えておくといい。もしeコマースの広告主なら誰もが欲しがるスペースを最大限に活用することが最も重要だ。すなわち、情報を最適化し狙い通りに入札出来るようにすることだ。

Tim Collin氏
​Marin Software社 EMEA地域バイスプレシデント 兼 マネージングディレクター​

ハンディをなくす

右側の広告を消すGoogleの決定には明らかに含みがある。クリック単価が上がり、リスティング検索とオーガニック検索の変化が両者の統合を進めることになることは十分予想している。

ここ数年検索結果ページに加えられた変更によって、右側のクリック率は、広告をページ下部に移しても実績にほとんど影響しないほど低下した。右側の広告を完全に消すというGoogleの決断はユーザーにとっては広告が少なくなることを意味し、結果として検索がより効率的になる。その一方で、広告枠を狙う競争が激化するが、枠を獲得出来る広告主は減るのでクリックによる見返りは大きくなる。この変更によってハンディが無くなるのは間違いない。単に大きな予算を付けることがもはや成功の決定的な要因ではないからだ。検索結果の特等席はその重要性において今までにないレベルに達している。広告代理店にとってはいいことずくめだ。クライアントのためにリスティング広告とオーガニック検索の戦略バランスを効果的に管理する新たなチャンスが生まれるからだ。

Niel Bornman氏
iProspect社グローバル製品責任者

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。