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小売の進化はデータを利用した顧客理解にあり

(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)

先ごろ、Pitney Bowes Software 社ディレクターのMarc Hobell博士(下の写真)が毎年恒例のオムニチャネルリテールサミットにて、位置情報と小売業界の顧客インテリジェンスを支える技術について講演したのを聞き、ExchangeWireは強い関心を抱いた。今回のコラムでHobell博士はExchangeWireに対して、顧客を正確に理解し、実店舗の場所を知らせるだけでなく、オムニチャネルによるコミュニケーションのアプローチを行うために、小売業界でデータとテクノロジーを活用する重要性を説明してくれた。

小売業はリスクの高い業界だ。ヨーロッパ中の街や村の大通りを見れば、空き店舗や「貸し出し中」の看板の数の多さからそのリスクの高さが分かる。サービス産業はますますその存在感を増し、刺青の店とネイルサロンがコーヒーショップやファストフード店と肩を寄せ合っている。家族経営が多い小規模な店が値踏みされて大通りから追い出されるのは、買い物客が大型ショッピングセンターをひいきにして小規模店には見向きもしないか、またはオンラインショッピングに流れるためだ。

多くの小売業者にとって実店舗の存在は依然としてオムニチャネル戦略の重要な要素だ。つまり、顧客は購入前に商品を手に取って触ってみたり、商品の専門家に尋ねることも出来る。一方小売店側にとっては取扱商品を紹介するチャンスが得られ、「click and collect(ネットで購入し、店舗で受け取り)」のベースになり顧客がまた来てくれる。eコマースは3.2兆米ドルにのぼる成長著しい産業だが、Time Tradeの調査では消費者の85%が店舗で買い物することを選んでいる。同調査によると消費者の90%が効果的な店舗アドバイザーの支援があると購入の可能性が高いことも明らかになった。またミレニアル世代の92%が昨年同様、少なくとも2016年は店舗で買い物する可能性が高いという。

Marc Hobell 博士, Pitney Bowes Software社 Photo利益を確保しながら、消費者の行動変化に対応しながら実店舗の存在感を維持することは小売業者にとってともに大きな課題だ。とはいえ、小売業者がリスクを減らし、成功の可能性を高める方法はある。答えは、ありがちな表現だが、データの中にある。

小売業者は、地理空間データやロケーションインテリジェンスを利用して、顧客や見込み客を詳細かつ、精度よく、正確に理解できる。また、全組織から様々な顧客データを引き出しシングル・カスタマー・ビューを得ることで、業績を押し上げ、世界に通用するサービス体験を提供することが出来る。

重要なのは位置情報だ

まずはロケーションインテリジェンスに注目しよう。小売業においてロケーションインテリジェンスは非常に強力だ。ターゲット層が集まることが分かっている地域に店舗をオープンするのと、ただ店を開いて顧客が来るのをずっと待っているのとでは差がある。何の知見も持たずに店舗をオープンしている小売業者が多いと言っているのではない。ロケーションインテリジェンスを利用し、インサイトを得てビジネス上の意思決定に役立てている人はリスクを最小化しているということだ。以下に小売業者に役立つ点を紹介したい。

• リーチの最適化、消費者の購買性向の最も高い物理的な地域を特定するのに役立つ
• 高い利益を生む可能性が最も高い地域への直接投資
• 取引レベルで顧客を見るようになる
•「縄張り争い」を避ける、新規店が既存店の売上を奪うリスクを最小化する
• 店を成長させる方法を理解できる。より長い期間、投資の見返りが得られる地域を特定する
• 事業に対する全体的な視点を踏まえて各店舗の収益を管理する
• 業績悪化の特徴を明らかにし、それを避けるとともに不採算店を特定し、閉店または移転の決断をする
• 競争戦略と成長基盤にかなう立地を見つける

シングル・カスタマー・ビュー

賢明な小売業者はクライアント別に明快かつ正確、詳細にデータを分析している。調査によると(PDFアイコンPDF)企業の40%は顧客データの80%以上を組織中の別々のシステムに保存していることが明らかになった。正しく活用すれば、こうしたデータは手付かずの情報の宝庫だ。逆に言うと、データが不正確だったり、重複していたり、保護していないと貴重なビジネスを失い、法定の罰金を負担する可能性すらあり得る。

解決法は、ソフトウェアを使ってシングル・カスタマー・ビューを実現することだ。
これにより事業全体から集めた知見をまとめて点と点を繋げることが出来、企業は実店舗のチャネルとネットのチャネルからなるエコシステム全体に的を絞った、魅力的な、関連性の高いメッセージを届けることが可能になる。シングル・カスタマー・ビューを実現することで小売業者は以下のことが可能になる。

• 将来の買手の行動を自信を持って予想できる、企業は具体的な商品やサービスでしっかり顧客に的を絞ることが可能になる
• 購買性向や購入のきっかけ、季節ごとの購買行動に関する情報を活用して予想の精度を向上させる
• 事実に基づく正確性で商品開発を改善、強化する
• システムを統合することで企業全体の生産性と効率性を向上させる
• 顧客のライフサイクル管理の精度と正確性を向上させる
• 住所の検証はタイムラグなく行うことで事業リスクを最小化する
• 法規制を順守する

正確なデータがオムニチャネルによるエンゲージメントの強化に

シングル・カスタマー・ビューを実現することで間違いのない正確なデータが得られ消費者とのコミュニケーションにオムニチャネルによるアプローチが可能になる。データが正確であれば、高度にターゲット化された、関連性の高い、個人に即したメッセージを好みのチャネル(例えば、動画など)を通じて顧客に届けることが可能だ。動画はとても人気が高く(毎日1億人のインターネットユーザーがオンライン動画を視聴している)、ますます効果的な顧客とのエンゲージメントチャネルとなっている。双方向かつパーソナライズ化された動画において、顧客データと予測分析の組み合わせ、リアルタイムで個人に即した動画を配信する。企業はこの動画を利用して顧客のエンゲージメントを強化し、新規の顧客にカスタマイズされた情報を提示して顧客に即したアップセルやクロスセルの機会を提供する。

現在の消費者の期待は高い。一生懸命働いてお金を稼ぎ、取引の見返りに合理化されたサービス体験を期待する。優れた小売業者はこの課題に力を入れている。結果を出している業者(最終的には成功する)は正確なデータを技術革新と組み合わせて、精度の高い、個人に即したリテール・エクスペリエンスを実現している。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。