何故、オムニチャネルマーケティングが銀行にとって必須なのか
(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)
消費者はデジタル化している。このことを銀行業界よりも知っている人々はいないだろう。ExchangeWireはBackbase社CEO Jouk Pleiter氏に、デジタル化に関して銀行業界がどのような点に目を向けて注意を促し、顧客がどこにいるのかを把握するために、いかにオムニチャネルに真剣に取り組むべきかについての話を聞いた。
以前、銀行の顧客は、昼食時間に店頭で取引をしたり、店頭に行き金融に関する相談をしたりすることに満足していました。しかしそれは既に過去のことです。
今日のスピードの早い世の中において、時間の制約がより大きくなり、消費者は自分の好む形で、いつでもどこでも、サービスや企業とのやりとりをしたいと感じています。
自身の余暇の過ごし方を考えるとこの点は明確になるでしょう。ビデオオンデマンドによりモバイル、タブレット、PCやテレビで、好きな番組をスケジュールに沿ってではなく、好きな時間に視聴することが容易になっています。さらにNetflixにより、一つのデバイスで視聴を行った後、別のデバイスで続きを視聴するというような、より柔軟な視聴が可能になっています。
銀行は、この変化を認識しています。英国銀行協会によると、モバイルアプリでの取引が昨年、最もよく使われる取引方法となりました。しかし古いインフラを所有する4大銀行が、業界に新規参入してくる新世代のプレイヤーに対抗するには、今以上の取り組みが必要です。イノベーターのジレンマは、一つのチャネルではなく、全てのチャネルにおいて適切かつ強力な顧客対応を提供し続けなくてはならないことにあります。
銀行はこのことを理解しています。当社が小売金融組織のEfmaと共同で作成した、世界中の100以上のCレベルの銀行に関する調査レポート「銀行のオムニチャネル:デジタルへの変革のロードマップ」の中で、61%もの銀行がオムニチャネルは銀行のサービスにおいて、「非常に重要である」と回答しています。
ですが問題は、オムニチャネルの戦略を実行しているのは、全体の1/5に過ぎないということです。
何故でしょうか?業界の崩壊が、人々が予期するよりも早く起きるのはよくある話です。Taxiの運転手はUberのようなサービスが現れるとは予期していませんでした。現在「銀行業界のUber」と呼ばれるLending Club社は大きく成長しており、その企業価値はアメリカの銀行13個分よりも大きなものとなっています。
大手銀行はこのゲームの先頭にいる必要があります。調査によると、彼らにとっての最も大きな脅威は、テクノロジー企業でありスタートアップです。しかし、36%のみが自身をイノベーションに関して「リーダー」と考えておらず、ほとんどがフォロワーであると信じています。
金融機関は、新興企業に自身のビジネス領域において打ち勝ち、自らが新興プレイヤーとなることでマーケットシェアを保持することができます。
最も重要な一歩は、戦略的な優先度を変え、チャネルについて考える代わりに顧客について第一に考えることです。伝統的な銀行は未だにサイロの中で物事を考えます。調査に回答した4分の1の企業が顧客体験を改善させることが彼らにとっての一番の問題だと回答しています。
デジタル化への成功は、チャネルやデバイスを横断した顧客体験と趣向を理解することから始まります。顧客中心の変革を実施するためには、アジャイルな戦略やリーンなIT活用が鍵になります。
これらは全ての銀行商品に当てはまりますが、その中でもオムニチャネルによるアプローチにおいては必須です。マルチチャネル活用において皮肉的な点は、
他のテクノロジー企業やスタートアップ、デジタル「新銀行」が行っているように、単一のプラットフォームの方が遥かに効率的に管理を実施できる点です。
しかしこのような形でオペレーションを行っているのは、13%の銀行のみです。
その結果、例えば顧客が不満をメールし、銀行に向かったところ、その記録が残っていなかったといった体験が多く見られるようになります。消費者は全ての銀行とのやりとりが引き継がれるような体験を求めています。Netflixの一時停止・再開のような体験の銀行版です。
その点において、53%もの銀行が2020年までに顧客プラットフォームを一元管理したいと考えているのは好意的な傾向です。銀行は主要なプロセスや核となるシステムに対する柔軟なAPIを有し、ハンドオーバーやセッションの持続管理を行うためのオーケストレーション層をサポートする必要があります。これはデバイス間のシームレスなやりとりを実施するために鍵となる項目です。
しかし、オムニチャネルの実現にはテクノロジー以上のことが必要です。オムニチャネルにおいてプレゼンスを高めるためには、全てのタッチポイントにおいて強力な、認識されやすいブランドを確立する必要があります。銀行のブランドは、店頭、ATM、モバイルバンクアプリ等の全てのチャネルにおいて、視覚的かつ経験的に、同じような形で消費者に届けられるべきです。
同様に、ユーザエクスピリエンスやマーケティングもオムニチャネル戦略にとり最も重要な点になります。タッチポイントに関わらず、元となるプロセスが異なるものであっても、消費者が同じような経験を得られることが重要です。
Googleの調査によると、98%の米国人が1日の中で、デバイス間のスイッチを行うとの結果が出ています。しかしながら、全てのデバイスが同じ目的で使われるわけではありません。異なるデバイスにおいて全く同じようなアプリとサイトを制作するのは間違いです。特定のデバイスを特定の消費者行動や期待値に紐付けた方が効果的です。
一方、消費者が時間を費やす場所に応じてマーケティング費用を投下する点は重要です。多くの銀行が、全てのデジタルマーケティング予算をウェブチャネルに投下していますが、実際には多くのトラフィックはモバイルに移行しています。銀行はモバイルを取引のための手段としてではなく、マーケティングチャネルとして捉えることが重要です。
モバイルはマーケティングキャンペーンに応じて正しいコンテキストを届けられるテクノロジーを有している点において、非常に大きなマーケティングチャンスを言えます。例えばBarclays社は、モバイルアプリにおいて消費者に彼らのローン商品の広告を配信していますが、それはポップアップなどのようなユーザーに迷惑な方法によってではなく、顧客の取引記録リストのすぐそばに掲載されています。
これは素晴らしい方法です。というのは、商品がユーティリティ及びコミュニケーション媒体の両方の場合には、それらを効率的に消費者に届けることが必要です。私たちの調査により、銀行のスタッフがIT部門の関与なく提供できるデジタルチャネルは、公開ウェブサイト及びキャンペーンページのみであることが明らかになりました。インターネットバンクのプラットフォームやモバイルアプリなどは対象外なのです。
簡単にいうと、マーケティングチームはユーザーエクスピリエンスチームやテクノロジーチームと一緒に、消費者が利用する核となるプラットフォームへのアクセスを求めるべきです。
そうすることで初めて、消費者は他のサービスで得られているのと同様の体験を銀行業務から得られるようになるのです。
ExchangeWire.comMarketerインタビューオムニチャネル
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長 慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。