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Now & Next: アドブロック

 
 

(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)

Now & Next はExchangeWireリサーチによる新コラムである。Now & Nextでは、アドテク、マーケティングテクノロジーに関して、最新のリサーチの結果を元に現状のトレンドと将来の予想を実施する。今回はアドブロックについて取り上げたい。

アドブロックの新星

デジタルの時代になり、パブリッシャーや広告主はオンライン広告の報酬に関して、新たな機会を掴みつつある。広告主はオフラインからオンラインに予算を移しつつあり、オンラインの広告投資は2010年の523億ドルから、2018年には1810億ドルへと増加することが予想されている。

広告の数量は増えているものの、それらを閲覧するユーザーの数は減っている。
IABの6月のレポートによると、消費者は広告の閲覧状況に関して失望しており、妨害のない形でのウェブ閲覧を望んでいる。突如現れるプロモーション情報、ユーザーが望まないサウンド付きコンテンツなどによって、否定的な感情が生まれ、アドブロッカーの導入が促進されている。

アドブロックテクノロジーの基本的な前提はシンプルなものである。パブリッシャーと広告サーバーの間の通信をソフトウェアによってストップさせるか、広告と認識をされるコンテンツのHTMLを隠す動作をする。アドブロッカーの人気は非常に高まってきている。2015年の6月と2016年の2月を比較すると、英国での普及度は15%から22%に上昇している。

デバイス間のアドブロック

現在までのところ、アドブロッカーはPC環境において主に用いられている。
しかしながら、これも変化を見せはじめている。ラップトップ、デスクトップ環境でのアドブロッカーの導入は、2015年6月の80%と46%から2016年の2月には72%と41%にそれぞれ落ち込んでいる。逆に、スマートフォンによるアドブロッカーの導入は、19%から26%への7%の上昇を見せており、タブレットでの広告導入も19%から21%に増えている。

消費者がデバイス間において、閲覧する広告の数を制限したいという要求は大きくなっている。UKのインターネットユーザーのうち、サイトから要求された場合にアドブロッカーをオフにするユーザーは3%しかおらず、31%は自分のお気に入りのページにおいてのみオフにすると回答している。このような背景からテクノロジー企業はアドブロックのソフトウェアを商品化している。サムソンは自社のアンドロイド端末にアドブロッカーを搭載しており、AppleのiOS9においてもSafari上でアドブロッカーをオンにすることができる。

パブリッシャー間の争い

消費者の間でアドブロックのソフトウェアの人気が高まる一方で、広告主とパブリッシャーの関係性に変化が生まれてきている。アドブロッカーの提供者は、広告主からお金を得ることで該当の広告をブロックから外す動きを行っており、業界の怒りを招いている。しかしながら、この変化の根本にあるのは、パブリッシャーと広告主の収入の落ち込みである。2億人もの人々が現在アドブロッカーを利用しており、この数字はサムソンとAppleの対応により上昇していくと考えられている。パブリッシャー及び放送業者は2020年までに270億ドルもの損失を被ることとなる。

この問題は、アドブロッカーと業界で権威をもつパブリッシャーの間での争いへと至っている。ソーシャルの巨人Facebookは最近広告コンテンツを特定するコードを変更し、アドブロックを迂回し、広告収益を向上させるような変更を行っている。しかしながら、数時間もしない間にソフトウェア企業のAdblock Plus社はこのコードをすり抜け、広告コンテンツを隠す方法を開発してしまった。Facebookはこのフィルターへの対応を現在模索している。パブリッシャーが自身で広告を配信し、広告に関するコードを監修するような状況においては、アドブロック業者がこの戦いに勝ち抜くのは難しいように思われる。

Facebookに続くのはどの企業か?

アドブロックの将来は、ソフトウェア企業がパブリッシャーの抵抗に対して如何に対処し、また同様の技術がモバイルやタブレットに広がるかという点を中心に展開されていくだろう。

アドブロッカーがパブリッシャーからの抵抗に対処できるかどうかは、対処しなくてはならないパブリッシャーの数に依存する。Facebookの行動に追随する企業はどのくらいいるだろうか?パブリッシャーとアドブロッカーの間の争いは必ず継続されるだろうが、小規模のパブリッシャーはこの動きには関わらないだろう。彼らはFacebook程の規模もなく、自身で広告を配信せず、またアドブロックのテクノロジーに追随するのは困難である。「小規模パブリッシャー」のサイトは消費者に一般的には別の選択肢があると捉えられている。このことにより、彼らはアドブロッカーの利用に無理に対抗して、読者を苦悩させるような行動は行えないだろう。

アドブロッカーによる本当の争いは、Facebookと同様の規模をもつパブリッシャーに対してであろう。これらの企業は、アドブロックのソフトウェアを迂回し、ソーシャルの巨人に対抗するようにオンライン広告の収入を確保する動きを見せるだろう。しかしながら、今後、これらの争いはPC環境だけではなく、モバイル及びタブレットへと移っていく。

モバイルの争い

これから数年のうちに、モバイルデバイスの普及は一層進み、2019年までには世界的なスマートフォンのユーザーは26.6億人と、2014年の15.9億人から大きく増加する。大規模のパブリッシャーのトラフィックはこれらモバイルプラットフォームによるものに変化する。英国におけるモバイルプラットフォームへのマーケティング支出は今後数年大きく変化する。2014年の段階では、小売店の10.4%が11-25%の費用をモバイルに向けているだけだったが、2019年には23.2%まで増加する見込みである。

以前述べた通り、スマートフォンメーカーはモバイルでの対応を既に始めており、デバイスのインターネット閲覧ブラウザーでのアドブロックをオプションとして適用している。しかしながら、英国でのモバイル広告収入は2016年の43.5億ドルから2021年の107.3億ドルまで増える見込みで、パブリッシャー及び広告主は、この収入の増加機会をみすみす逃しはしないだろう。大規模のパブリッシャーとアドブロッカーの争いは続くだろうが、その戦いの場はモバイルへと移っていく。

アドブロッカーの未来

アドブロッカーは、恐らくPC環境で得たのと同様の成功をモバイルデバイスのブラウザー環境でも得られるだろう。しかしながら、アドブロッカーにとってゲーム内広告は問題である。英国でモバイルやスマートフォンでビデオゲームを楽しむ人の割合は、2010年の9%から2015年の26%に増加している。この環境では、(ゲームのレベルをクリアした場合など)広告はより自然なタイミングで配信される。加えて、ゲームでは閲覧に応じてバーチャル通貨が提供され、プレイヤーが次のレベルに行き着くのをサポートしている。
ゲーム内広告は、デスクトップ環境にてコンテンツ消費の邪魔となる場合と異なり、一定の利益を消費者に提供するので、この環境でのアドブロックソフトウェアの需要はそれほど高くない。
モバイルゲームに関しては、広告主及びパブリッシャーが収益を得られる機会は非常に大きく、アドブロッカーは難しい対応を迫られるだろう。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。