×

APACで広がるモバイルプログラマティックの課題について

(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)

モバイルプログラマティックはAPAC地域で成長を見せている。しかしながら、この地域では他のメディアと異なるインフラの対応や、それに伴う機能やスキルの面で様々な苦労があるようだ。

ExchangeWireのインタビューに対して、InMobiのAPAC地域のバイスプレシデント兼ジェネラルマネージャーであるJayesh Easwaramony氏は、広告主はモバイル広告にて、ブランド認知、アプリインストール、リードの生成、トラフィック増加などを通じたパフォーマンス向上を期待していることを説明してくれた。実際、APACでは、アプリインストールなどのパフォーマンスベースの広告が70%を占めるらしい。

APACでのモバイルプログラマティックの現状について理解するために、今年初頭に、InMobiはAPAC地域の、東南アジア、オーストラリア、インド、韓国の企業及びエージェンシー50社のデジタルマーケターに対して調査を実施した。この調査結果として、71%がモバイルプログラマティックを何かしらの形で利用しており、29%は今後開始したいと回答した。

87%のマーケターが、少なくとも半分のデジタルメディアの予算をプログラマティックに投資する予定だと回答した。加えて、80%程度がすでにパフォーマンスマーケティングのためにプログラマティックを導入しており、67%はリターゲティングに、60%はリテンションに利用していると回答した。

しかしながら、Easwaramony氏によると、モバイルプログラマティックをパフォーマンス目的で、キャンペーンでのコスト削減を目的に活用している企業は失敗することが多いようである。「これは、彼らがテクノロジー、リソース、インベントリーの専門知識が必要とされる最適化のアルゴリズムよりも、コストを重視し、安いインプレッションを購入することに原因があります」。
彼は、マーケターが、モバイルプログラマティックの効率性を注視し、廉価なインベントリーの購入に依存しすぎる点に警告を鳴らしている。モバイルアプリは、高パフォーマンスのため、モバイルウェブよりも40%ほどより高額である点についても言及した。

Photo

Jayesh Easwaramony氏
InMobi社 APAC地域 VP 兼 GM

また、業界全体が、プログラマティックをインベントリーの状況が確認可能な高品質のマーケットプレースとすることを目指し、透明性を確保する点の必要性についても説いてくれた。この点は、マーケターがプラットフォームを利用する上での懸念となっている。

複雑性と知識不足の問題

InMobiの調査結果によると、58%のモバイルプログラマティックを利用したことのない回答者が、テクノロジーの難しさを障壁として挙げていた。また、42%はスキル不足、33%が教育不足を原因として挙げている。

モバイルプログラマティックを展開する中で、50%の広告主がプラットフォームの難解さについて言及している。また、46%がROIの計測が難しい点が障害となっていると述べ、43%はプログラマティックキャンペーン実施に関する理解不足を挙げている。

Easwaramony氏は、地域のほとんどにおいて、モバイルプログラマティックはまだ異なる段階にあり、広告フォーマットを元とした施策を実行している段階であると述べている。共通の問題点として、インベントリーのオプションの少なさが挙げられる。多くのDSPがモバイルネイティブのフォーマットの取り扱いができず、モバイルリッチメディアを利用している。

「彼らは多くのモバイルデータを有しておらず、クッキーを利用しています。そのため、デスクトップでは作用するものの、モバイルでは機能しません。また、利用可能な広告フォーマットが全てのデバイスで機能するわけではありません。そのため、ユーザーエクスピリエンスの面でも問題を抱えています」。

クッキーとデバイスIDのテクノロジーを組み合わせ、データを生成するには非常に多くの時間がかかる。多くのDSPがデータを拡張し、サードパーティのオーディエンス活用などを行おうと試みているが、まだ初期の段階でニッチな状況にあるらしい。

Easwaramony氏は次のように説明を加えてくれた。「モバイルのテクノロジーアーキテクトは、OS、デバイス、スクリーンに関連する多くの対応が必要となり、デスクトップより複雑です。動画、ネイティブ、リッチメディア、モバイルウェブ、モバイルアプリなど多くのフォーマットが現存します。」

「それゆえ、エンジニア作業による正確さ、改善の作業が必要なのです」と彼は述べている。多くのDSPがモバイルウェブに関する知識を有するものの、最良のインベントリーとパフォーマンスを提供するモバイルアプリについてはこれからの状況らしい。

拡張性にも問題を抱えている。「ほとんどのDSPがキャンペーンを実施した際にのみデータにアクセスできるため、多くのインベントリーを利用してキャンペーンを実施することによってのみ経験値を積むことができます。モバイルプログラマティックはまだ立ち上げ期で、ユーザに関する知識は大企業やSDKを提供するアドネットワークに偏っています。そのため、拡張性を考えた展開は難しいのが現状です」。

彼は、DSPがテクノロジー重視のモバイルアプリにより多くの投資を行い、企業への対応としてよりアプリユーザーを獲得するべきだと提言している。また位置情報をデータとしてサポートすることの重要性についても述べてくれた。

モバイルファーストを意識したクリエイティブも重要である。動画はバーティカル動画など多くの新たなオプションがあり、スタートとしては取り扱いやすいメディアとして考えられる。

APACのモバイルに依存した現状を鑑みると、DSPは、拡張性の高いインフラを、全ての市場でレイテンシーのない形で展開する必要があると説明してくれた。「もし地域全体をカバーしたいのであれば、強力なデータセンター戦略が必要です。例えば中国と東南アジアではエコシステムが大きく異なります。よってニーズも同じではありません」。

プログラマティックが自動化を先導する一方で、DSPは地域の市場を正しく理解するローカルサービスチームが必要となる。

広告主も同様で、アドテクパートナーと密接に協業し、プラットフォームの難解性を乗り越え、モバイルプログラマティックのアプローチを進めるべきである。Easwaramony氏は次のように述べている。「例えば、オーディエンスベースではなくサイトベースでの購入をするなどの古い習慣を継続してはいけません」。

「ターゲティングを狭めすぎることで、作業が複雑化する問題があります」とも付け加えてくれた。「企業は、先天的なユーザ知識に依存しすぎるよりも、広く最適化されたキャンペーンの結果をすることで、より多くの新たなユーザにリーチできる可能性が広がると考えられます」。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。