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APACのモバイルマーケッターはアプリ開発の次を見据えるべき [インタビュー]

(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)

モバイルマーケティングはキャンペーン用にアプリを作る等の作業以上の価値を産みだし、広告主はオーディエンスにリーチする為に、今までにない他の方法を考えなければならない。

モバイルマーケティング協会(MMA)のAPACのマネージングディレクターであるRohit Dadwal氏は、APACのブランドは消費者のエンゲージメントを高める為の様々な方法に目を向け、モバイルアプリやブラウザーそれぞれに異なる戦略を持たなくてはいけないと語る。

ExchangeWireとのインタビューにてDadwal氏は、広告のレリバンシーの改善や、アドブロッカーへの対策として、マーケッターがするべきことについて言及した。

―ExchangeWire: モバイル広告の発展という点で2015年を振り返ってもらえますか?

Rohit Dadwal氏: 今年はモバイル広告の分野において業界全体の取り組みに変化が見られました。モバイルが現実のものとなり、大企業がモバイルはスタンドアローンの出費ではなく、大きなメディア予算の一つを占めるものだという点に気付き始めました。Facebookのバイル広告のセグメントは、大きな収入源となり、同社の収益成長を大きく支えました。モバイル広告の最大手InMobiは中国で最大の広告プラットフォームに成長しました。9月にはInMobiが、ユーザーのモバイルスクリーンのカスタマイズサービスにより世界最大のアンドロイドユーザーシステムを保持する中国のAPUSグループとのパートナー締結を行いました。これにより、InMobiは中国のおよそ5億人の新規ユーザーにアクセス出来るようになります。

私たちは、モバイルでのマイクロ・モーメント(人々が何かを欲した瞬間に行うモバイル機器での検索行為)を紐解くことが、メディアにとり最適なリーチを行うための、プラットフォームの最適化に繋がる点を学びました。これらのモーメント(瞬間)はリアルタイムの知見による消費者の購入ファネルに基づいており、ブランド企業が、モバイル広告におけるターゲティングのための、より多くの消費者データを抽出・活用する機会を提供しています。

したがって、プログラマティックの活用が2015年は飛躍的に伸び、APACのプログラマティック広告を活用する広告主の9割が、モバイル広告においてもプログラマティックを活用しています。

このような成長は消費者や広告主だけでなく、パブリッシャーにとってもより良いユーザーエクスピリエンスをもたらしています。というのは、アプリやモバイルサイト上でのユーザーの動きやデモグラフィックについてデータが蓄積され、より明確に把握できるようになったからです。パブリッシャーが広告収益化におけるユーザー体験をカスタマイズする事で、モバイル広告において徐々に適切なコンテンツがユーザーに提供されるようになりました。

―今年、モバイルによるキャンペーンで著しい成長を見せたのはアジアのどの市場でしょうか?

Rohit Dadwal 氏、モバイルマーケティング協会(MMA)

Rohit Dadwal 氏

全体的に、ユーザーを巻き込んだモバイル主体のキャンペーンという観点ではAPACの各国で多くの進歩がありました。今年私たちは、先進国のスマートフォンの高い人気や、新興国のモバイル普及率の高まりに乗じて数々のキャンペーンが成功を収めるのを目の当たりにしてきました。特にインドでの成長は著しく、ラジオやアウトドアを上回るものでした。インドネシアやベトナムでも大きな成長を遂げました。

―2016年に大きなモバイル広告の成長を見せる市場はどこでしょうか?また同時に翌年どういった問題がこれらの市場で見られるでしょうか?

新しい年においても、インド、ベトナム、中国、インドネシアといった国で引き続きモバイル広告は高い成長を遂げると思われます。

最も成長の速い国の一つ、インドでは12億6800万人もの人口がおり、2億4300万人のアクティブなインターネットユーザーと1億2400万人のアクティブなソーシャルメディアユーザーが存在します。インドでのモバイル広告支出は、消費者のモバイルデバイスの利用に合せて大きな成長を見せています。しかしながら、モバイルが全ての人々の生活にとって欠かせないものになるにはまだ時間がかかると思います。インターネット及びモバイルの普及という点では、都市と地方との間で大きな格差が存在しており、この格差は2016年になっても大きな挑戦となります。地方のインターネット普及率は7%にしか過ぎません。

―広告主、エージェンシー、パブリッシャーにとってモバイルキャンペーンを行う上で問題となるのはどういった点でしょうか?

問題の一つはデジタルプラットフォームでの評価方法の標準化です。特にそれぞれのプラットフォームが異なる測定基準を採用している現状におけるチャレンジとなります。しかしながら昨今、インドではNielsenがNielsen Digital Ad Ratingsと言われるデジタル広告配信システムを開発し、インターネット及びモバイルにおけるキャンペーンの共通評価方法を提供し始めました。

―アドテク企業がモバイルに関してまだ正しく対応していないのはどのような点でしょうか?

2015年の中頃に、多くのアドテク企業がパートナー締結や、ビジビリティ向上やデータインサイトの改善、デスクトップでのクリックとモバイルのコンバージョンの紐付け等の新機能によって、異なるデバイス間の消費者をターゲットする計画を発表しました。しかしながら、これらの発表はちょうどアドブロッキングの問題に直面したため、多くのアドテク企業の利用がモバイルブラウザ上でのウェブの表示スピードを劣化させるのではないかという疑念を引き起こしてしまいました。アドブロックの問題により、アドテク企業は、配信する広告がモバイルウェブのスピードを劣化させない点について特別により多くの注意を払う必要があります。

―2016年、モバイル化の進行率が非常の高いAPACにおいては、アドブロックの問題は、モバイル広告主にとってどの程度大きな問題となるでしょうか?

既に2015年も終わろうとしていますが、業界ニュースを見直してみると、多くのアドブロックの問題についてのニュースがあり、それらは実際多くの広告業界の心配を増大させました。消費者がインターネット閲覧中の邪魔、不必要なデータプランの利用、バッテリーの消費を避けるために、アドブロックソフトを利用することは何の不思議もないことです。長年の間、ポップアップ広告を閉じるような動作は本能的に行われています。

われわれはアドブロッカーが2016年のモバイル広告主にとっての天罰の意味を持つと予想しています。アドブロックソフトウェアによって、広告は遮られCPMは制限されます。APACにおいては、アドブロッカーは引き続き脅威であり、特に中国やインドで人気となっているアドブロックがビルトインされたUCブラウザーやMaxathon等への影響は甚大です。ほとんどのアドブロックはデスクトップ上で起きていますが、iOS9でサポートされているSafariのアドブロック機能により、Apple社のモバイルブラウザ上でコンテンツを排除することが可能になります。これはモバイル広告市場の発展を制限しかねません。この機能を利用するユーザー率についてはもう少し様子を見ないとわかりませんが、潜在的には世界中で10億を超えるiOS機器へのアクセスを制限することに繋がります。

とはいえ、モバイル広告主が消費者にとって適切で有益なコンテンツを届け続ける限り、アドブロックは壊滅的な影響を与える存在とは成り得ません。その場合、モバイル広告主は広告ブロッカーに対して適切な対応をおこない成長を続けることでしょう。

―マーケッターはこの問題を解決するために何をすべきでしょうか?

マーケッターは消費者とより密接な結びつきを持つためには、自分たちだけで活動をしたり、独自の測定方法でしか機能しないプラットフォームや技術ツールを選択すべきではありません。アドブロックの問題が顕在化するにつれ、コンテキストがより重要になってきます。マーケッターはネイティブ広告やリアルタイム・ロケーションベースのターゲティングについて、より理解を深めるべきです。さもないと、誤ったコンテンツを誤ったタイミングで消費者に配信し続ける結果となるでしょう。

関連したところでは、マーケッターは消費者セグメンテーションのツールとしてより正確な位置情報を活用することが出来ます。今日、IPアドレスがアドテク業界では標準的な位置情報データとなっています。しかしながら、より正確なユーザーの位置情報を得ることで、マーケッターはより適切な広告を配信し、ユーザーの実在位置情報からより深い理解を得ることが出来ます。

例えばアドテク企業のBlisMediaは、殆どのスマートフォンやウェアラブルデバイスで取得可能な気圧情報を利用する新技術を展開する予定があります。これによって広告主は消費者の位置情報に関して3次元での情報を得ることが出来ます。

―APACの広告主が抱いているモバイルに関しての誤解の主なものは何でしょうか?

モバイルマーケティングとはモバイルアプリの開発全てに関してのことです。モバイルアプリの変化は激しく、且つモバイルマーケティングはモバイルアプリによるリーチやエンゲージメント以上のもの求められます。アプリは、消費者がアクセスに利用する際の一つのツールにしか過ぎず、例えばモバイルウェブにもアクセスします。広告主は商品ローンチやキャンペーンの為に新たなモバイルアプリをリリースしてきましたが、エンゲージメントを高めるようなアプリ内のサービスに投資をすべきです。

マーケッターはモバイルアプリとウェブでは異なる戦略を持つ必要があります。

―来年のMMAのAPACにおける注力領域と計画について教えてもらえますか?

モバイルマーケティングの将来への鍵はイノベーションと教育です。われわれの2016年の優先事項は、この二つに関してのものになります。私たちは消費者が必要とする事にフォーカスし、モバイルの即時性を利用していかにエンゲージメントを高めていくかという点に注力します。その為に、マーケティングエコシステムにおける業界パートナーやエージェンシー、他のステークホルダーとの提携を検討しています。よりイノベーティブな習慣に拍車をかけ、異なるテクノロジーやモバイルの可能性に関して、より強力な事例を作り上げていくつもりです。

※本記事は、ExchangeWire.comで2015年12月に掲載された記事を翻訳しております。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。