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パブリッシャーはプログラマティックにおいて公正な取引ができていない

(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)

10月のIABにて、IABのディスプレイトレーディング委員会が、最新のプログラマティックのハンドブックをリリースした。プログラマティック業界のエキスパートによるトレンドやインサイトなどの情報を網羅し、IAB UKが2014年にハンドブックをリリースしてからの業界の進化について明らかにしている。ExchangeWireは、現状の業界の動向について、Pulsepoint社のEMEAのプログラマティックオペレーション部門のVPであるGareth Shaw氏から売り手側からの市場についての概念を語ってもらい、Rubicon Project、Amobee社、Guardian News & Media社のそれぞれからコメントをもらうことに成功した。

プログラマティック以前においては、広告取引はマニュアルでの「バルク購入」のプロセスで、多くのプレミアムパブリッシャーに好まれるやり方だった。バルク購入からプログラマティック購入への変化によって、パブリッシャーのコンテンツからオーディエンス中心の購入へと変化していった。この変化によって、企業はより賢明でリアルタイムによる方法で、正しいユーザーに正しいタイミングでリーチすることが可能になり、プレミアムパブリッシャーのサイトのコンテンツを探したり、個別に購入する必要がなくなった。

プログラマティック取引により、パブリッシャーの大小を問わず公平な競争の場が与えられる一方で、多くのパブリッシャーが競争のためにインベントリ費用を下げざるをえない状況に陥った。7年経過して、パブリッシャーは、プログラマティック環境にて公正な取引を行うための同様の問題を抱えている。しかしながら、よりインプレッションの浪費が少なくなり、プログラマティックにより自動効率化、データの効果的な配信プロセスなど、買い手の要求を満たすこれらの利点は、決して無視することなどできないほど強力である。

IABディスプレイトレーディング委員会は、プログラマティック取引が英国のディスプレイ市場においてどの程度浸透してきたのかを理解するために、2013年と2014年のデータを調査会社のMtM社の協力を得て抽出する一方、2015年はプライスウォーターハウスクーパースの協力を得ながらIABのUK広告支出レポートを元に調査した。それぞれの場合において、売り手側からみた市場は、それぞれのパブリッシャーが収入のうち、プログラマティックによる取引の割合を回答する形態での想定市場となっている。

2013年に、英国のディスプレイ市場は18.6億ポンド市場であり、そのうち28%がプログラマティックによるものであった。2014年に市場は24.2億ポンドに成長し、プログラマティックの割合は47%に増加している。2015年においては、26.8億ドルに市場は増加し、プログラマティックは60%に至っている。1/3程度だったプログラマティックの割合は2/3まで増え、この3年間での投資の費用は劇的に増加している。

パブリッシャーは、プログラマティックの潜在性を享受している

「プログラマティックテクノロジーのビジネスへの導入が進むにつれて、パブリッシャーはより多くのバイヤーと取引をする機会を得て、自社のダイレクト営業チームがリーチできなかったやりとりを得るに至りました。プログラマティックによって、パブリッシャーの持つオーディエンスの価値が見直され、収入機会の増大以外においても、パブリッシャーは自動化がビジネスにもたらすコスト上の利点について実感することができるでしょう」。

Rubicon Project、UK及びノルディック地域のマネージングディレクター
James Brown

「プログラマティックによって、パブリッシャーはインベントリの収益化をより効果的に行うことができ、サプライとデマンドのマッチングを行うことができるようになりました。このプロセスを効率的にしているのは、データが購買プロセスへと繋がっている点です。特定のバーティカルやデモグラフィックによって広告主がインプレッションを購入していたのは過去の話です。プログラマティックによって、広告主は非常に詳細な基準によって広告を購入することができるようになり、そのことが逆にプログラマティックのパフォーマンス改善にもつながっています」

Amobee社、コマーシャルパートナーシップ部門バイスプレシデント
Samantha Wade

「パブリッシャーの観点からいうと、プログラマティックの潜在性は効率性にあるかと思います。メディア購入の自動化によって、営業チームが不必要なショム作業に時間を費やす必要がなくなるからです。標準的なマニュアルの予約プロセスは無くなり、インベントリの処理はリアルタイムに行われるため、データ間の齟齬などは無くなります。パブリッシャーはプログラマティックによって、より多くのインベントリの活用が可能になり、特に以前は利用価値がないと思われていた在庫に関しても、需要に応じてより公正な市場価格での取引を行うことができます」

Guardian News & Media社、デジタル及びプログラマティック部門インベストメントマネージャー
Paul Floyer

デジタル環境における潜在的な落とし穴

「細分化されたテクノロジー環境においてソリューションを求めているパブリッシャーは、注意深く取り組んでいく必要があります。現在の環境においては、正しいパートナーを選択することができたる環境で成功を収める上で欠かせません。プレミアムパブリッシャーの持つオーディエンスの価値とマーケットプレースにおけるデータセグメントを正しく理解することは不可欠で、消費者の変わりやすい行動を把握することも同様です。数ヶ月もあれば、競争が取り残されることさえもありえます。」

Rubicon Project、UK及びノルディック地域のマネージングディレクター
James Brown

「プログラマティックは多大な機会をパブリッシャーに提供しています。しかしながら、調査を進めるうちに顕在化してきた問題があります。透明化が希薄な点、管理不足やデータ漏洩の危険などです。透明化の希薄や管理不足などの問題は、購入後に買い手がインベントリに対して行う事項について、売り手がほとんど知ることがない点に起因します。再販売を行っているのか、広告表示の形態について正しいやりとりをしているかなどの管理は困難です。この点のもう一つの問題点はデータ漏洩です。プログラマティックエコシステムにおける売り手は、買い手がパブリッシャーのオーディエンスを自社利用するような便乗手法をリアルタイムでブロックする方策を持たない限り、データ盗難後に対応を行うことしかできません」。

Guardian News & Media社、プログラマティックソリューションマネージャー
Andrew Hayward-Wright

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。