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2017年の業界予想(後編):企業、ベンダー、エージェンシーの関係の将来像

(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)

2016年はデジタル広告市場のエコシステムがダイナミックに変化した年だった。濃淡はあったものの、記憶すべき一年というべきだろう。今回は2017年を予想する恒例のコラムとして、ExchangeWireは業界のリーダー100名以上の意見を募り、彼らの業界予測を収集した。このシリーズの最新コラムとして、本稿では、エージェンシーとベンダー、企業の2017年の関係性について取り上げていきたい。

企業からエージェンシーへより大きな指示が出される

Rob Jonas氏

「企業は徐々にエージェンシーに対して、利用ツールや戦術について指示を出すようになるでしょう。企業はエージェンシーに会うのと同様の頻度でテクノロジー企業と会っており、また、彼らは賢明な人々です。自身のトレーディングデスクを打ち出すにせよ、消費者をターゲット化する新たな方法を見つけるにせよ、企業はデジタルについて今までになく詳しくなっており、エージェンシーに指示出しをすることを恐れなくなっています。2017年はテクノロジーを活用した企業発の革新的な広告を目にすることになるでしょう。エージェンシーは以前と異なる活動をすることが求められます。プログラマティックの利用が増え、企業が予算施行に関してより厳しい目を向けるにつれ、構造や戦略の変更を求められるようになるでしょう。2017年の終わりまでに、エージェンシーの姿は大きく変わっていくことでしょう。主要アカウントに対して、今までと同じようなサポートを提供するのに加えて、より多くの選択肢を明示することが求められるでしょう」。

Factual社、歳入部門SVP、Rob Jonas氏

財務運用が関係性を決定づける

Matt Byrne氏

「ベンダーとパブリッシャーは、2017年のオペレーションにおいて3つの鍵となる選択が必要となります。第一に、申し込みベースでの広告の取り扱いに従事するのか、プログラマティックを活用するのかという点です。プログラマティックによる収入は大抵、資本の回転が早まることになります。Googleなどのデマンドパートナーはエージェンシーや企業よりも支払いのタイミングが早いからです。しかしながら、個別に広告を受け付けた場合はCPMが高く、マージンの劣化の問題に対しての対抗策となります。2つ目はエージェンシー経由で業務を行うか企業と直接取引をするのかという点です。当然、クライアントとエージェンシーの間の信頼関係がない場合などは後者のほうが魅力的にうつりますが、エージェンシーから関係性を絶たれる可能性もあります。エージェンシーは自身が支払いを受け取るまで支払いを完了しない傾向があるため、仲買となる企業を割愛することは、より早期に支払いが行われることにつながります。3つ目はベンダーが、マネージドサービスを利用するか、Saasを利用してクライアントに提供するかの選択です。月額収入を得る形態の方が資本の面で安定する一方で、古くからあるマネージドサービスの方が直接的にメディア支出を取扱うことから収益は高くなります。多くのアドテク企業は、Saasによる平均収益の方が高いことからマーケティングテクノロジー企業として自身を位置付けようとしています」。

FastPay社、英国ディレクター、Matt Byrne氏

プログラマティックとエージェンシーの監査作業

Charles Cantu氏

「多くの企業が、密かにエージェンシーに対して、今まで支払っている費用の価値があるのかという観点から見直しを始めています。2017年にかけて、より多くの企業が、提供内容の価値を真に理解することで、エージェンシーと企業の関係に影響を及ぼすでしょう。私の楽観的な味方ですが、この変化によって全ての人が恩恵を受ける可能性があります。パブリッシャーは公正なCPMを得ているかを知ることができ、広告主は実際のビジネスにつながる形で、彼らのインプレッション投資が成され、効果のあるCPA/ROIが達成できているかを理解し、エージェンシーは最も効率的な形でクライアントの予算を施工し、時間やCPM獲得への努力を無駄にせずに、サービス提供を行えるようになるのです。」

Huddled Masses社、CEO兼創業者、 Charles Cantu氏

エージェンシーの付加価値に関するプレッシャーが増加

Ravi Prashad氏

「2017年には、CMOがより複雑な業務や要望に自身の時間とリソースを使うようになるでしょう。同様に、CMOは現状のコミュニケーション以上の付加価値の提供をエージェンシーに求めるようになります。私たちはこのような変化を、先進的なクライアントのビジネスにおいて目にしています。CMOがエージェンシーに対して、業務を理解し、明確にすべきことを定義し、CEOが理解できるような形で結果を提供することを求めるようになってきています。CMOの信頼を受けるために「私たちはあなたの望むことを何でもします。ただし決定はあなたがしてください」というような態度のエージェンシーは関係を絶たれることでしょう。CMOは信頼を確立し、複雑な課題を達成し、統合的なソリューションを提供するエージェンシーを切望しています」。

GALE社、戦略部門SVP、Ravi Prashad

広告主がテクノロジーの選択においてより重要な役割を果たす

Michael Greene氏

「広告主のなかには「インハウス」でのプログラマティック管理を選択する企業もいますが、エージェンシー、広告主、テクノロジーベンダーの関係性が近くなるにつれて、ハイブリッドモデルを模索する企業が増えることでしょう。プログラマティック初期のブラックボックス状態とは異なり、広告主はテクノロジーの選択において、より重大な関与を行う一方で、エージェンシーにはオペレーション及び実行面での専門性を求めています。この変化の最も大きな効果は技術の統合でしょう。グローバル企業がGoogle、YouTube、Facebookのようなウォールドガーデンの企業と継続的に業務を続ける一方で、50から60あるDSPのパートナーから5、6程度のDSPを選別するような動きを行うでしょう。この選別で残るのは、効率化、グローバル化、中国のような成長市場へのリーチ、特定のヘッダー入札のツールなどの技術を持つようなグループでしょう。更に、サードパーティ計測や最適化などの観点では、エージェンシーの企画、購買、(オープンAPI及びリアルタイムデータフィードの)分析ツールへの統合の容易さや柔軟性などが、バイサイドのプラットフォームにおける明確な差別化となってくるでしょう。」

AudienceScience社、商品戦略VP、Michael Greene氏

メディアエージェシーへの革新的でクリエイティブなコンテンツを求めるプレッシャー

Lon Otremba氏

「多くの大企業がインハウスでのコンテンツマーケティングを手がけようとしています。企業はプログラマティックやコンテンツマーケティングをインハウスで手がける努力を進めており、これらの努力が結果に繋がり始めています。これによる広告主とエージェンシーの関係性への影響はどのようなものでしょうか?エージェンシーメディアに対して、新しく革新的な方法でのコンテンツ作成を求める大きな圧力がもたらされるようになるでしょう」

Bidtellect社、CEO、Lon Otremba氏

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。