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パブリッシャーに力を:コントロールの強化でより明るい未来が待っている

ヘッダー入札は、アジア太平洋地域のパブリッシャーに広告決定権をとりもどし、大規模なプログラマティック在庫にアクセスを可能にしています。しかし、各国の市場において、それぞれ異なる考慮が必要な課題はあります。PubMaticアジア太平洋地域マーケティング担当ディレクターNigel Kwan氏(写真下)をはじめとする各地域の担当者が、状況を解説する。

広告詐欺、ビューアビリティ、ウォールドガーデンなど、存在にかかわる危機の連続に揺れるなか、揺るがない事実があります。プログラマティックがこの数年にわたってメインストリームであり続け、議論の中心となって、世界中でマーケティングのプランニングと予算の枠組みを形づくっているという事実です。

プログラマティックは目覚ましく進化しています。余剰在庫の「無法な西部」の時代から、洗練されたエコシステムへと数年で進化しました。今では、データ主導の意思決定とプログラマティックなワークフローによる効率化によって、大手ブランドのマーケターによるプレミアムインベントリの購入量がどんどん増えています。

こうした急速な進化を牽引してきたのは、業界の加速的成熟と今日の洗練された需要です。先ごろP&GのMarc Pritchard氏が IAB Annual Leadership Meeting において明らかにしたように、ブランドは今、透明性と開放性のレベルに関する最終的提案を策定中です。デマンドサイドは、オープンオークションを通じた低価格なだけのインベントリではなく、PMPとプログラマティックダイレクトを通じた質の高いインベントリへの優先アクセスにますます注力しています。サプライサイドは、かつてないほどの自信と影響力を取り戻し、パブリッシャーはGoogleとFacebookの二強支配に挑んで、マネタイズのコントロールを取り戻そうとしています。

Nigel Kwan氏、PubMatic社 アジア太平洋地域マーケティング担当ディレクター

エコシステムの力学が変化し、活動の場が均質化するなか、かつてない影響力があることに気づき始めているパブリッシャーたちは、このチャンスを十分に活かすにはどうすればよいのかと問うています。私たちの見るところ、考えるべき重要な要素は3つあります。1つ目は、広告選定権を取り戻すこと。2つ目は相互運用性の価値。3つ目は、二強に取って代わる信頼できる存在の重要性です。以下、説明します。

広告選定のコントロールをいかに取り戻すか:ヘッダー入札なら、パブリッシャーはさまざまなバイヤーにインベントリを同時に提供し、広告選定のコントロールを取り戻せます。それにより競争が高まって収益が最大化し、CPMが最大で30%アップします¹。

相互運用性の価値:ラッパーはヘッダー入札戦術の自然な進化形として始まりました。パブリッシャーはラッパーを使って、レイテンシやページ読み込みスピードの低下を引き起こすことなく複数のヘッダー入札ソリューションを管理できます。加えて、パブリッシャーはすべてのヘッダータグにおける管理と最適化に役立つコントロールと指標を手にし、収益の最大化と広告主のROIの向上に努めることができます。そのためには「オープンな」ラッパーソリューションを選ぶことが重要です。ラッパーソリューションは、すべてのデマンドソースとのシームレスな統合をもたらさなければ、真の価値を発揮できません。しかし、この分野のテックベンダーのなかには「自社独自のラッパー」というアプローチを採用しているところや、新しいデマンドパートナーの統合に乗り気ではない(さらには渋るような)アドエクスチェンジやSSPプロバイダーがあり、マーケットプレイスの問題を増やしています。

二強に取って代わる信頼できる存在の重要性:広告主にとって重大なのは、ヘッダー入札によってパブリッシャーのインベントリが丸見えになったおかげで、以前ならダイレクト販売でしか利用できなかったインベントリへのファーストルック(優先)アクセスが可能となり、キャンペーンのパフォーマンスが最大で20%向上していることです²。パブリッシャーは、アジア太平洋地域で大規模なプログラマティックインベントリへのアクセスを提供できるようになり、これが、GoogleとFacebookの二強に取って代わる信頼できる存在になっています。ビューアビリティの標準化と測定に関して、ウォールドガーデンがもたらしている課題をただちに解決できる対策はありませんが、ヘッダー入札ならば、そういった懸念のないところで広告主がパブリッシャーと大規模に連携できます。

もちろん、アジア太平洋地域のさまざまな市場には、それぞれ細かい違いがあります。以下、PubMaticのアジア太平洋各地域の担当者が説明します。

Sudipto Das、PubMaticカントリーマネージャー、インド担当

インドでは、ヘッダー入札を実装する際、ページのレイテンシがパブリッシャーにとって大きな懸念点です。インドはデータ通信のスピードが安定しないため、特にモバイルウェブへの組み込みで問題となります。パブリッシャーがこの組み込みの複雑さを切り抜けるのを支援するには、市場の中にチームがいることが重要です。

ラッパーの導入では、特に複数のパートナーがラッパー内で動いている場合、パブリッシャーはレポーティングの統一という課題に直面します。アナリティクスとインサイトを簡素化するレポーティングサービスを備えた、オープンソースのラッパーソリューションを利用することが重要です。

パブリッシャーがプログラマティックに移行する際、社内でプログラマティックを脅威に感じているダイレクト販売のチームと衝突する可能性があります。成功しているインドのパブリッシャーは、プログラマティックが脅威ではなくチャンスになるように、販売組織の再編、再訓練、補償を適切に実施しています。

Peter Barry、PubMaticカントリーマネージャー、オーストラリアおよびニュージーランド担当

パブリッシャーは、市場内に物理的に存在する顧客中心主義のパートナーを選択する必要があります。成功するためには、実際に顔を合わせて課題に取り組むことが極めて重要です。

パブリッシャーは、ヘッダー入札やラッパーソリューションを実装する前に、リソースと時間を回すように社内の関係者を説得し、また、古いウォーターフォール型の設定を解体する必要があります。ウォーターフォールは効率が悪く、(ほとんどの場合)Googleのようなプレイヤーにしか恩恵がないのですが、長らく使われていることから、ヘッダー入札に移行したがらないパブリッシャーもいます。

オーストラリアとニュージーランドのパブリッシャーは、レイテンシの削減が課題で、実際にビジネスの重点分野になっています。PubMaticのラッパーを組み込むことによりパフォーマンスが素晴らしく向上していますが、それでもレイテンシが障害となる場合もあります。そこで、サーバーサイドのラッパーソリューションへの移行が見られるようになりました。

Jason Barnes、PubMatic ヴァイスプレジデント、アジア太平洋地域担当

東南アジアは市場が細分化されているため、規模を大きくするのが本当に難しく、バイヤーはプライベートマーケットプレイス(PMP)での取引を効果的なものにするために必要なだけのオーディエンスにリーチできません。これはFacebookとGoogleに有利に働きます。両社はこの地域でもかなりの規模があり、そのため極端に大きなシェアを占めているのです。ヘッダー入札とラッパーソリューションなら、バイヤーがクッキープールの全体を見ることができ、したがってプログラマティック広告のインベントリのサイズが著しく増大するので、今ではPMPにおける取引の規模を拡大することが容易になり、個々のパブリッシャーのバイヤーに対する訴求力も強まりました。

東南アジアのパブリッシャーは、全般的に運営チームもエンジニアリングチームも小さく、現場はいつもリソースが不足気味です。ヘッダー入札やラッパーはページにコードが必要なので、それを実装しテストするのに必要な人員の確保に時間がかかることがあります。そのため、この地域ではサービスとサポートがとても重要です。

質が高く大規模なファーストパーティデータが利用できることはまれで、これもまたFacebookとGoogleに有利に働きます。両社は大きなオーディエンスに対して活かせるデータを持っているからです。これからは、クレジットカードの発行会社や通信事業者ブランドなど、ファーストパーティデータが豊富なパートナーとパブリッシャーが提携し、ターゲティングの選択肢を質量ともに増やして、インベントリの価値と独自性を向上させることが増えていくでしょう。

廣瀬道輝、カスタマーサクセスディレクター、日本担当

日本では本質的なプログラマティックへのシフトは未だアーリーステージにあると感じます。ディスプレイの純広告販売は減少し、代わりに運用型広告と呼ばれるディスプレイ広告が主流となっています。そのためRTBやPMPの利用も認知されてきてはいるものの、パブリッシャーはマネタイゼーションにおいて未だアドネットワークとSSPをアドサーバー内で同列に扱っています。マネタイズ担当チームは小さく、効率を追い求め純広告以外の自社在庫のマネタイズを他社へアウトソースしているパブリッシャーも少なくありません。ヘッダー入札についても同様にアーリーステージにあり、DFP以外のアドサーバー利用率も未だ高く、ヘッダー入札を導入中のパブリッシャーは多くありません。しかし、理解を深め複数のヘッダー入札の導入に挑戦しているパブリッシャーも増えてきています。

日本では、純広告営業チームと広告運用チームが分離されている事が多く、特に広告運用チームのリソースが十分でないようです。そのため、プログラマティックで広告を販売する体制が整っておらず、プログラマティックはマネタイズの効率を上げる手段もしくは魔法の杖と考えられる傾向にあります。このため、複数のSSPやエクスチェンジ、アドネットワークを活用したマネタイズの支援事業(アウトソース)にニーズがあります。また、自社のオーディエンスデータを外部に出すことに抵抗感があるパブリッシャーが存在しますが、DMPの活用は着実に進んでいます。

日本のパブリッシャーの課題は、如何にオープンオークションから脱却するかにあります。そのためには、プログラマティックの観点からバイヤーサイドが自社のインベントリをどう判断しているか、また、その価値をどのように伝えるかを考える必要があります。体制面では、広告収益を拡大させるために専任プログラマティック広告チーム、純広告とプログラマティック広告を販売、評価できる体制を構築することで、効率的かつ中長期的なプログラマティック広告販売戦略ことになるでしょう。このような発展をし、ヘッダー入札の導入を進めることにより、パブリッシャーはデマンドサイドが自社のインベントリに適切にアクセスできる環境を整えることで、バイヤーサイドに自社資産の価値を伝えることができるようになります。さらに、ファーストパーティデータを活用できるパブリッシャーが広告売上を伸ばせる機会を得るようになるでしょう。

このようにパブリッシャーの未来は輝いています。ひたむきなリーダーシップチーム、適切な販売戦略と販売組織、そして特に大切なのが、適切なアドテクパートナー。こういったものを手にすることで、パブリッシャーは自信をもって広告選定のコントロールを取り戻すことが可能で、エコシステムが急速に進化するなか、今後のマネタイズのチャンスを有効に利用する備えをすることもできます。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。