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ブランド企業は100%のビューアビリティを目指すべきか

(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)

ビューアビリティの目標値についてブランド企業に尋ねると、多くの場合100%という回答が返ってくる。ビューアビリティはエンゲージメントの前提で、閲覧されることがなければエンゲージメントに至ることは無いため、これは理解できる目標値である。

プレミアムパブリッシャーの中には、既に100%の視認性のサービスを提供している事業者もあり、IPAのディレクターであるPaul Bainsfair氏はFacebookやGoogleに対して広告配信の視認性が100%確保されるよう努力するよう投げかけている。

しかしながらブランド企業にとって100%のビューアビリティを目指すことは最適なことなのだろうか?The Exchange Lab社のCMOであるNikki Hawke氏はExchangeWireに、100%のビューアビリティという究極的なゴールを目指す前にブランド企業が行うべきことについて説明してくれた。

ビューアビリティの基準にはばらつきがある

ビューアビリティに関する様々な議論にもかかわらず、ビューアビリティが実際に意味するものについて、業界全体のコンセンサスはまだ明確ではありません。 ビューアビリティに関する標準化は通常、視野範囲のピクセルの割合と視界の時間の2つの部分で構成されますが、視認可能なインプレッションの定義は大きく異なります。

例えばFacebookは視認可能なインプレッションを1秒間に50%表示すると考えています。 Twitterはそれが100%であるべきだと述べています。 IABには、広告ユニットのサイズに応じて50%または30%のいずれかであることが記載されています。

動画広告におけるビューアビリティの定義も同様に曖昧です。 特定の標準では、動画広告を2秒間表示する必要がありますが、他の広告では動画の半分を閲覧する必要があります。 動画広告の標準がないことから、ユーザを「閲覧済み」とみなすためには、ユーザは15〜20秒間広告を視聴する必要があります。 動画開始の方法についても、ユーザが自ら動画をスタートさせたのか、自動的にスタートされたのか、音声についてはどうだったのか、などの要素が考慮される必要があります。

FacebookのIan Edwards氏は、全てに適応できる標準を目指すのは非効率だと考えています。ブランド企業はビューアビリティのための標準値の選択肢が与えられることで、自社に適当な選択ができるべきだと主張しています。Edwards氏は、動画の再生時間が短い場合、インプレッションが安いダイレクトレスポンス広告主にとっては効果的ですが、長時間視聴するとプレミアムブランドには不十分であると考えています。

ビューアビリティを100%保証するインベントリへの投資を行う前に、ブランド企業はその数値の背景を理解する必要があります。 パブリッシャーのビューアビリティの定義があなたの考えるものと一致しない場合、あなたの考える視認性を100%満たすことのない広告に対して支払いを行うことになります。一方エージェンシー側においては、ブランド企業が求める測定方法に沿った形で対応するところもありますが、全てのエージェンシーがそのような対応を行うわけではありません。特に複数のブランド企業を担当し、それぞれのブランド企業が異なる標準値を求める場合には、全てのキャンペーンで対応するのは頭痛のタネとなります。

ビューアビリティはユーザエクスピリエンスに影響

理論上は100%のビューアビリティは素敵なアイデアのように聞こえるのですが、消費者はそのために利用される変化を常に歓迎するとは限りません。 Nielsen Norman Group社の調査に示されているように、最も視認性の高い広告フォーマットは非常に迷惑であったり、邪魔に感じられることが多いのです。 この調査では、デスクトップ上に最も嫌われている3つの広告フォーマットは、本来閲覧したいコンテンツにアクセスするために閉じなければなりないようなモーダル型の広告やポップアップ、自動再生型のビデオ広告と、ページ閲覧中にスタートし画面を支配するようなコンテンツ広告が挙げられます。

上記の3つの広告フォーマットはすべてビューアビリティが高く、これらの手法を使用することでビューアビリティに関するスコアが向上しますが、消費者体験の向上、ブランドイメージの向上、顧客ロイヤルティの向上につながるでしょうか。 恐らくそうではありません。 キャンペーンがユーザ体験を損ねるものである場合エンゲージメントには寄与しません。 反対にブランドの評判が損なわれ、アドブロックの増加につながる可能性があります。 消費者の視線の先に手を伸ばすことは、キャンペーンでは最も重要な目標の1つですが、クリエイティビティは非常に重要です。

クリエイティブが全て

結局のところ、ビューアビリティは、消費者が広告を見る機会を提供するための指標にすぎず、エンゲージメントを保証するものではありません。 視認可能な広告にブランド企業がどれくらい費やしているかは問題ではありません。広告が創造性をかきたてるものでなければ、期待するビジネス成果を上げることはできません。 同様に、視聴可能な広告であっても、商品に関心のない人や、関係のない環境に配信したり、ユーザがエンゲージメントを行えないようなタイミングで配信されるものは成果が得られません。

ブランド企業が消費者の注意を集めて効果を生むためにはビューアビリティ標準ではなく、クリエイティブの向上や、データ重視のオーディエンスターゲティング、コンテキストの適正化などに努める必要があります。成功する広告はキャンペーン実行前に、消費者の心を惹きつけることです。広告主は、大量の貴重な顧客データにアクセスすることができ、貴重な顧客データを活用し、クリエイティブをより適正に、ターゲットを狙った形でより賢明に配信するべきなのです。データ重視のクリエイティブとプログラマティックを組み合わせることで、広告主がクリエイティブを試験的に運用しながらリアルタイムで最適化できるようになります。これは、効果的で魅力的な広告を提供するための完璧な組み合わせです。

ビューアビリティの価値とティッピングポイント

「お金に見合う成果」とは、広告業界全体に適用される格言です。可能な限り低いCPMを達成するためにプログラマティックを利用する広告主は必然的に視認性が低くなります。 しかしながら、必ずしも100%の視認性のために大きな投資を行うことが最良の結果を生むというわけではありません。 視認性が保証されているパブリッシャーは高いプレミアムを獲得でき、視認性が高いほどコンバージョンが増加しますが、投資に見合った結果が得られる保証はありません。

ブランド企業はビューアビリティとパフォーマンスのバランスを考慮し、ビューアビリティが向上してもROIが向上しない閾値について理解する必要があります。 ビューアビリティの価値は主観的なものであり、キャンペーンの目標に応じて異なるため、パフォーマンスマーケティングやダイレクトレスポンスキャンペーンでは、この閾値はブランドマーケティングよりもはるかに低くなり得ます。 広告主は100%のビューアビリティ達成を徹底的に追い求めるよりも、自社の広告をベンチマークし、どのようなビューアビリティに関するターゲットが各キャンペーンで機能するかを判断する必要があります。

ビューアビリティが重要な指標であることを否定する人はいません。これは、 基本的な指標でこそあれ、広告キャンペーンの最大の目的ではありません。 ブランド企業は100%のビューアビリティを絶えず追求するのではなく、本来のキャンペーン目標達成のために機能するような基準値を求める必要があります。 本来の目的は、素晴らしいクリティティブを、ユーザ体験を損ねない形で、ターゲットに対して適切な瞬間に配信することです。消費者に対してそれらを実現できて初めて、実際のビジネス成果を生むことができるのではないでしょうか。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。