×

狙いは購買ファネルの中位-アドビが提案するDCOの活用 [インタビュー]

サービスを通して顧客のカスタマーエクスペリエンスを最大化することを目指すアドビは、ディスプレイ広告のDCO(ダイナミック・クリエイティブ・オプティマイゼーション)ソリューションをリリースした。デジタルマーケティングの一手法であるDCOを通して、どのようにその実現を目指すのか。アドビが提案するDCOの活用法について、同社 執行役員 近藤 弘忠氏にお話を伺った。

(聞き手:ExchangeWire Japan 野下 智之)

Adobe のフルファネルソリューションとDCOの位置づけ

― 近藤さんが事業統括をされている、 Adobe Advertising Cloudの概要と構成についてお聞かせください。

図1:Adobe Experience Cloud Solutions

出典:アドビ

Adobe Advertising Cloudは、ダイレクトレスポンスのサーチ領域で、購買ファネルの最下部をカバーするAdobe Media Manager Search(旧Efficient Frontier、以降Search)、そして購買ファネルの上位をカバーするAdobe Media Manager DSP(旧TubeMogul、以降DSP)、そして後ほどご紹介するAdobe Media Manager DCO(以降DCO)とで構成される購買ファネル全体をサポートすることが出来るペイドメディアをマネージするツールです。これが基本的なAdobe Advertising Cloudの概要です。

アドビが別途提供しているAnalytics Cloudとの連携により、顧客側に入っているデータ基盤と連結させることで、さらに高度なマーケティングの実現が可能になることがこのサービスの大きな強みです。ブランド広告主が持っているデータアセットを、広告に活用することが出来るようになるための機能統合を、2017年年間を通して進めてまいりました。
Adobeプラットフォームで使われている共通のIDを活用して、シームレスかつ簡単に他のプロダクトで利用されているデータを広告のターゲティング配信に利用することが可能になりました。

Adobe Advertising Cloudと同じサービスレイヤーには、Adobe Marketing Cloud、Adobe Analytics Cloudがあり、これらの上位コンセプトをAdobe Experience Cloudが統括しています。アドビがこのようなサービス体系にしたのは、2017年3月です。

― Adobe Advertising Cloudは、広告主が直接運用しているのでしょうか?

写真2

プロダクトによりけりですが、全体としては日本ではほとんどのケースにおいて広告会社が広告主に代わり運用をしています。DSPの場合運用については広告会社が再度当社に委託するケースもありますし、一部の広告会社については、広告主のインハウス運用におけるオペレーションだけ請負、運用されているケースもあります。

― Adobe Advertising Cloudはどのような企業をターゲットにしているのでしょうか?

まずはアドビの他のプロダクトを導入されている大手企業に、使っていただきたいということで、ご案内をしています。
Adobe Advertising Cloudのみで導入いただくケースもありますが、Adobe Analyticsなど他のプラットフォームと連携してお使いいただくことで有効的に活用いただけるようになります。

購買ファネルの真ん中のコミュニケーションをサポート

― 貴社が提案するDCOについて、お聞かせください。このソリューションも、買収により獲得された機能でしょうか?

DCOという新しい機能は日本では2017年の秋から本格展開を開始しました。
デジタル広告の出稿をするときに、3つ重要なことがあります。一つはオーディエンス。誰に広告を当てるのかということです。もう一つは、メディア。すなわち、どこの場所に出すかということです。そしてもう一つはクリエイティブです。この三つがバランスよく使いこなされて最大限の効果が得られます。このうち、クリエイティブをカバーするのが、DCOです。DCOの前身は、2015年にCollective社から買収したEnsembleというプロダクトになります。

― いわゆる従来のリターゲティング広告で使われているダイナミッククリエイティブと同じようなイメージでしょうか?データフィードを使ってクリエイティブを回すという世界観でしょうか?

図2:ダイレクトレスポンス施策の課題
図3:ダイレクトレスポンスの課題を解決するには

出典:アドビ

データフィードももちろん使えます。外資系のリターゲティング大手広告プラットフォームと大きなイメージとしては同じですが、当社のDCOは狙っているポジションが異なります。既存の大手広告プラットフォーマーがフォーカスしているのは、購買ファネルの最下部の領域で、刈り取りに特化しています。検索連動型広告も含めて、購買ファネルの最下部の領域に関する領域は現在かなり成熟しつつあり、マーケッターは顧客獲得において頭打ち感を感じ始めているのも事実です。
もちろん、ファネル最下位の領域に対するダイナミッククリエイティブを使った施策にも、大きな価値はあります。ですが、アドビからの今回のご提案は、マーケッターの方々にビジネスを大きくしていただく為に必要なのは、購買ファネル全体を大きくしていただくことです。それにより、リターゲティングでの刈取り候補者を多くしていただきたいのです。

写真3

DCOを通してやりたいのは、認知の下位層にあたる、興味・関心と検討に対する施策です。
ダイナミッククリエイティブは、ある程度特定したユーザーにマッチする情報を届けることが出来ます。

アドビが実現したいのは、カスタマーエクスペリエンスを最大化するということです。広告の領域でもこれを実現したいと思っています。私たちの顧客が、マッチした人にマッチした情報を、広告主としてしっかりと広告で送り届ける。そういう状況をお手伝いしたいと考えています。

最適化はSEE -KNOW- HEAR- LEARNの4つのプロセスで

― ダイナミッククリエイティブ広告の配信は、旧TubeMogulのDSPを使うことになるのでしょうか?

図4:Dynamic Creative Optimization

はい、その通りです。現状は静止画が対象ですが、今後動画の配信も視野に入れています。
既存の大手ダイナミッククリエイティブ広告のプラットフォーマーは、ユーザーの刈取りを目的としていますが、私たちが提案をするのは、ディスプレイ広告の領域をフルカスタマイズするソリューションです。
クリエイティブの素材を色々と差し換えられるテンプレートから自由に作っていただくことが出来るというプロダクトです。
広告の配信時には、データフィードと当社のAdobe Audience ManagerのAdobe Analyticsツールと連動させて、活用いただくというのが理想ですが、プレイスメントターゲティングにおいて、クリエイティブを差し替えるという活用も可能です。

アドビが提供するDCOは、SEE -KNOW- HEAR- LEARN というプロセスでクリエイティブの最適化を図ります。SEEはユーザーの行動履歴を意味します。例えば、広告主のサイト内でのユーザーの行動情報を、DCOに活用することが出来る。これが、SEEの部分です。例えば、ユーザーがフロリダのホテルを探しているといような情報をもとに、クリエイティブの背景をフロリダに関連したものにするなどのことが出来ます。
また、KNOWを意味する、位置情報や現在時刻などを加味したクリエイティブを配信することが出来ます。
次に、HEARですが、サードパーティーが保有する、年齢や性別、家族構成などのユーザー情報をもとにクリエイティブを生成。
LEARNは、A/Bテストによるクリエイティブの最適化を意味しています。

このようなプロセスで、DCOは、オーディエンスにとって一番心地が良いクリエイティブを完成させていくのです。

既に、広告主の皆様にも直接ご案内をしており、2018年の初頭には実際に走り始める案件も出る予定です。広告主は、購買ファネルの刈取りをした次に、どのような打ち手をすべきであるかということに課題を感じています。また、ラグジュアリブランド系の広告主の場合、ラストクリックを最適化するのではなく、クリエイティブの最適化を通してコミュニケーションを豊かにしていきたいというご要望があります。マーケティングシナリオをどのように組むのかということは広告主や広告会社にとっての課題です。当社はDCOを通して、購買ファネルの真ん中の領域をどのようにすればいいかということを提供しています。

私たちは、Adobe AnalyticsやAdobe Audience Managerを扱えるパートナーを求めています。ダイレクトレスポンスの領域にこれまで取り組まれてきて、現在頭打ち感を感じて新しい領域に取り組まれているデジタル専業広告会社をはじめ、総合広告会社、その他様々な立場の方々と、私たちのビジネスのパートナーになっていただけると思っています。

当社は、Adobe Analyticsや、Adobe Audience Managerを導入していただいている大手企業にDCOを活用いただこうと考えており、ここでパートナーとご一緒させていただくことが出来ると思っております。例えば、当社のプロダクトを使って、高度なマーケティング支援をしていただけるパートナーに、当社から顧客企業をご紹介させて頂くというケースもあります。

一方で、広告主の全てのマーケティング施策を支援される総合広告会社が、デジタルの施策において購買ファネルの真ん中の領域を支援されるところをDCOでお手伝いをさせて頂くことも出来ます。

― DCOの広告配信先はいわゆる一般的なDSPの配信先という認識でよいのでしょうか?

はい、その通りです。国内外の主要アドエクスチェンジやSSPを通して広告配信を行います。DSPとしては、動画SSPとの接続も行っているので、ゆくゆくはDCOにおいて動画対応も視野に入れております。

― 貴社のサービスの全体としての方向性についてお聞かせください

写真4

私たちが提供したいことは、アドビとして掲げている「カスタマーエクスペリエンスを最大化する」というコンセプトを広告にも同様反映させていくことです。広告というのは嫌われるものと、言われがちです。その理由は、自分に合っていないからです。嫌われがちな広告を、必要な情報に変えていくための一つの手段として、DCOのようなサービスを提供して、アドビ全体で提唱する「カスタマーエクスペリエンスを最大化する」ことをお手伝いできればと考えております。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。