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テレビCMに比肩するブランド広告プラットフォームを構築-GumGumが目指す日本のデジタル広告市場の変革 [インタビュー]

2020年の東京オリンピックに向けて存在感を高めているAI企業が、アメリカ・サンタモニカ発のGumGum(ガムガム)だ。

スポーツ報道写真などの画像内に広告を配信する技術を持つ同社の真の狙いは、獲得型広告偏重となっている日本市場の変革。その展望について話を聞いた。

(聞き手:ExchangeWire Japan 長野雅俊)

ネイティブ形式の画像内広告フォーマットを開発

― 自己紹介をお願いします。

ガムガムインターナショナル・ディベロップメント担当シニアバイスプレジデントを務めるグレッグ・プリチャードと申します。GumGumは2008年に設立された、画像認識技術に特化したAI企業です。ネイティブ形式の画像内広告という独自の広告フォーマットの開発企業として知られています。現在は米国のサンタモニカに加えて、2017年に開設した日本を含む世界16カ所に事務所があり、社員は250名在籍しています。ガムのようにユーザーの興味があるコンテンツにStick(張り付く)する広告、つまりは消費者の心の中にずっと残る広告を提供したいという思いから、GumGumという社名が付けられました。

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GumGumの画像内広告フォーマット

― 改めて貴社の事業モデルについてお聞かせください。

オリンピックやアカデミー賞授賞式といった巨大イベントの模様を写した画像を起因とした広告技術を提供しています。当社が有する精緻な画像認識技術により、画像に写った対象物を正確に識別し、更にセマンティック・アナリシスを行うことにより、記事内容に合った広告を配信することができます。人間であれば特定の芸能人やスポーツ選手の顔を、車であれば特定の車種を見分けることなどができます。

当社の広告技術をご活用される広告主には、50~150個の関連キーワードのリストを作成していただき、キャンペーンの設定を行います。例えばオリンピックに関連した画像に広告を展開したいということであれば「オリンピック」「平昌」「フィギュアスケート」「羽生結弦」といった単語がキーワードになり得ます。これらのキーワードを取り込んだ当社のアドサーバーが、提携する媒体社のウェブサイトに接続。リアルタイムで各媒体社の各ページをスキャンしながら画像処理とセマンティック・アナリシスを行い、先のキーワードのリストと関連した画像と広告を「画像内広告」というフォーマットを用いてマッチングさせるのです。

ユーザーはまず画像に目が行きます。ユーザーが相当な時間を画像の閲覧に費やしていることは、各種の視線計測調査の結果からも明らかです。画像との境界に広告を配置すれば、自ずとビューアビリティ、エンゲージメント、ブランド認知といった数値は向上します。

人間的な文脈に沿った判断の難しさ

― 画像認識技術自体は様々な広告技術に活用されていると思いますが、貴社技術の差別化要因を教えてください。

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「ブランドセーフティーを確保できる」というのが最大の差別化要因です。一般的な画像認識技術や神経回路網的なアプローチを用いれば、例えば「画像内に猫が写っているかどうか」を容易に判断することができます。ただブランドセーフであるか否かといった人間的な文脈に沿った判断は非常に難しい。

例えば広告主が「肌の露出度が高い画像内に広告を掲載するのは控えよう」という判断を下すとします。我々が特許を取得した技術では、機械的に肌の露出度を計算することができます。画像内で顔がどこに位置しているか、身体がどちらの方向を向いているかも合わせて判断できるので、被写体がどのような行為を行っているかまで分かります。さらに身体の部位も峻別できるので、身体の特定の部位を写している写真はNGとすることもできます。

こういった文脈を判断するのは、膨大な量の機械学習を繰り返さなければなりません。我々は既に10年を費やしました。新規参入は非常に難しい分野だと考えています。

― 貴社の顧客層を教えてください。

日本国内だけに限定しても、広告主40社、媒体社50社に加えて、国内外の主要広告代理店とお取引があります。媒体社はニュースサイトから、自動車、スポーツ、料理、レシピ、旅行、美容、ファッション関連といった画像を大々的に使用する媒体に積極的にご利用いただいています。

広告主は大塚製薬様、サントリー様、日本ロレアル様、ニューバランス様、ジープ様など。いずれも購買ファネルの上部におけるブランド認知を目的としたマーケティングを主な目的としている企業ばかりです。だから当社では、ビューアビリティなどブランド広告との関連性が高い指標を注視するようにしています。

日本のデジタル業界ではブランド広告領域へのシフト傾向が加速

― ブランド広告に注力するのはなぜでしょうか。

「コンテンツと親和性の高い画像内に広告を掲載する」という手法とブランド広告キャンペーンとの相性が良いからです。先日も日本の事業パートナーと打ち合わせをした際に、日本における70%の予算はいわゆる獲得型広告に割かれていると言われました。そして残りの30%は、ブランド広告キャンペーンと言いながらもある特定の決まった広告媒体を繰り返し利用しているのが実態であると聞きました。

逆に言えば、日本のブランド広告市場は発展の余地が大いにあるということ。これまで適切なプロダクトが日本市場に存在しなかっただけなのです。プログラマティック取引とりわけリターゲティング広告を中心とする獲得型広告関連の技術がその精度を急速に高めていったのと対照的です。「日本にはデジタルのブランド広告市場がない」という誤解が広まってしまった結果、そうしたプロダクトを海外から持ち込もうとする試みさえ牽制されていた節があります。

しかも日本ではテレビにおいても一般的に利用されているのは5チャンネル前後しかありません。だからテレビ広告の広告在庫が限られていて、ゆえに高額です。当社はテレビCMと同じ効果があるデジタル広告フォーマットをつくったという自負を持っています。テレビCMの莫大な予算を用意できない広告主も、GumGumを活用することで同様の効果を見込むことができるのです。

再度言いますが、日本の広告市場が獲得型広告に偏っていたのは、適切なソリューションがなかったからです。GumGumがそのソリューションを提供することで、今後数年間で、日本のブランド広告市場は急伸するでしょう。実際に米国では既に成熟したブランド広告市場があり、日本も同様の動きになると思います。日本のデジタル広告市場全体の拡大にもつながると思います。

― 獲得型広告の市場が拡大した理由の一つとして、効果測定がしやすいというのもあると思います。

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確かに日本の広告主や広告代理店は、デジタル広告におけるブランディング効果の計測に関するノウハウを得る必要があります。例を挙げましょう。例えばGumGumの広告をテレビCMと同じファネル上位でのマーケティングとして位置付けると、ブランド名の事後露出や検索行動などを測定することでその効果を計ることができます。広告キャンペーンを実施後、Googleの検索エンジンで特定のブランド名の検索がどれだけ変容したかを測定するのです。

またはビュースルー計測も指標の一つになるでしょう。あるブランド広告をユーザーがGumGumで最初に閲覧。その後、ユーザーがそのブランド名をGoogleで検索した後でランディング・ページから画面遷移し、コンバージョンしたとします。GumGumが最初にユーザーの目に入った広告であれば、ブランド効果があったことになります。当社の広告主の中には、データ企業との提携などを通じて、このような精緻なアトリビューション分析を行なっている企業が多くあります。我々としてはこのような分析手法が普及していけば、日本のブランド広告市場は急速に成長していくのではないかと思います。

―「巨大イベントの模様を写した画像に広告を挿入する」技術を持つ貴社の日本オフィスの開設は、2020年の東京五輪を見据えた動きなのでしょうか。

正直に言うと、日本進出を計画した当初は、東京五輪についての動向はそれほど意識していなかったのです。ただ日本で本格的な活動を始めた後で、東京五輪と連動した広告キャンペーンの一つとして当社の技術に注目する広告主が多くいることが分かってきました。

五輪開催期間に大量に生み出されるデジタル・コンテンツをブランド広告フォーマットとして統合するプラットフォームになるというのが当面の目標です。そしてテレビCMと肩を並べるブランド広告向けプラットフォームとして広く活用いただきたいと思っています。

ABOUT 長野 雅俊

長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。