レコメンドウィジェットから総合的なプラットフォームへ-事業領域を拡大するアウトブレインの転身 [インタビュー]

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世界のレコメンドウィジェット市場を牽引するイスラエル企業の日本支社であるアウトブレインジャパンが今、大きな転換期を迎えている。過去の事業モデルの否定とも受け取られかねない事業モデルの見直しの狙いは何か。同社マーケティング・マネージャーの堀之内美帆氏に話を聞いた。

(聞き手:ExchangeWire Japan 長野雅俊)

ユーザーの無意識に触れる「ディスカバリー・モード」

― 改めて貴社の事業をご紹介ください。

ウェブ上の記事を閲覧したユーザーに対して、それぞれの興味・関心に基づいたお勧めのコンテンツを紹介するレコメンドウィジェットを提供しています。紹介されるコンテンツを並べたレコメンド枠は、どういうコンテキストが人気か、一人ひとりのユーザーはこれまでどんな内容のものを読んできたのか、類似ユーザーは何を読むのかといった約50種類の要素を反映したアルゴリズムによって自動生成されます。

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このアルゴリズムを用いて、ユーザーの興味・関心に沿ったコンテンツを我々が「ディスカバリー・モード」と呼ぶタイミングで当てるというのが基本的な仕組みです。ディスカバリー・モードとは、言わばユーザーが予期していなかったコンテンツを読む気になっている状態、簡単に言えば読み物モードの時間を指します。マーケティング担当の方であれば誰しもニュースレターを送った経験があると思いますが、実際のところ、仕事中は差し迫った案件を示したメールではないとあまり読む気になりませんよね。

ユーザーは、全体の27%~47%に及ぶコンテンツを予期せずに接触しています。予期していない、つまり新しいコンテンツをユーザーに発見してもらうという行為を我々は重要視しています。

― 検索行為を通じては知りえない情報をユーザーに届けるという点においては、SNSの事業モデルとよく似ていますね。

ユーザーが何に興味を示しているかを示すデータを取得した上でサービス展開するSNSも確かにマーケティングには有用だと思います。一方で、サービスのベースとなるデータの偏りはあると思います。つまり、SNSという一定の社会性があるツールにおいて、とりわけ匿名性がない世界においては、各ユーザーが自らの趣味嗜好をどこまで正直に公開するのか。例えば一般的にはスポーツ、テレビ、美容、ファッション、映画などが人気カテゴリーとなりますが、ユーザーが積極的にシェアするコンテンツとなると、自然災害、教育、アートといった少しお堅い内容になる傾向にあります。当社では、ユーザーがほぼ無意識にどのようなものを読んでいるかを示すデータを持っています。またSNSは、非常にパーソナルなものであり、その情報もパーソナルであることが求められるため、自分や友人が触れない情報を新たに発見、「ディスカバリー」する体験に必ずしも適してはおりません。

未開拓だった獲得型広告取り込みにも着手

― ユーザーに紹介するコンテンツはどのようなものなのでしょうか。

今までは媒体社やオウンドメディアが提供する記事型ないし記事広告型のコンテンツのみを主な配信対象としていましたが、最近では動画さらにはランディング・ページ(LP)も一定要件を満たすことを前提として、限定的に含めるようになりました。現在では、ユーザーが興味を持つものであれば、フォーマットを限定するのではなく、包括的にサポートしていくという立ち位置を取らせていただいています。

― 貴社だけでなく、これまで多くのレコメンドウィジェット事業者が「ユーザー体験を阻害したくない」「レコメンドウィジェットはブランディングに活用すべき」などを理由として、LPを配信対象とすることに抵抗を示していました。

確かに従来はオウンドメディア支援、コンテンツマーケティング、ブランディングといった分野を注力領域としていたので、配信対象は記事型コンテンツにほぼ特化していました。一方で、データの高度な活用およびプログラマティックによる効率性向上により、活用例を狭めるのではなく、むしろ広げることで最適なコンテンツを最適なユーザーに当てることが技術的に可能になってきたのです。

ユーザー体験の重要性に対する認識には変わりありません。ただ今まではユーザー体験の在り方に若干偏りがあった感もあります。例えば検索連動型広告のように、ユーザーの求める適切なモーメントでのLPは有益な情報であり、高いユーザー体験が得られると考えています。そこで現在ではブランディングに加えて獲得系の案件にも前向きに取り組んでいます。

― 方針の変更に対する反応はありましたか。

媒体社の方々とは既に長いお付き合いがあるので、弊社が普段から厳しい広告審査を行っており、また単純に枠をLPに開放するといったものではなく、当社の保有する興味・関心データと高度なアルゴリズムにより、適切なユーザーと適切なモーメントを判別出来ていることをご理解していただいていることもあり、否定的な反応は見られませんでした。また媒体社様もユーザー体験を限定せずにマネタイズを向上させたいという気持ちを強く持っているので、全体的に歓迎していただいています。これまでブランディングに特化したキャンペーンにご利用いただいたマーケッターの方々には、改めてきちんと説明を行うことでご理解を得ることができたらと考えています。

― 今後は獲得系の案件を増やしていく見通しなのでしょうか。

レコメンドウィジェット事業において「プレミアムメディアに対してブランド広告を配信する」という点においては当社が最大の強みを持っていると認識しているので、今後もその領域に最も注力していきます。ただ獲得系の案件にもご活用しやすいメニューやツールも今後は増やしていきたいです。

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その一つとして、2018年4月よりインタレスト・ターゲティングを開始しています。今までは設定の段階で例えば「自動車に興味がある人」を選ぶことができなかったのですが、これが可能になりました。もともと当社のベーシック配信の性能が高かったので、わざわざ事前に「自動車に興味がある人」とターゲティングをしなくても、自動車に興味を持つ人に届いているとの自負もありました。その上でさらにターゲティングするとなれば、配信対象を限定し過ぎてしまうとの危惧もあったのです。

一方で、購買ファネルの下部に注力したマーケティングを行うマーケッターの中には、出来る限りターゲティング領域を特定したいと考える方たちも多くいます。そうした多様な目的に沿えるようにインタレスト・ターゲティングという機能もご用意することにしました。

― ブランド広告主向けにはどのようなサービスを提供していますか。

同じく4月よりVideo配信サービスを開始しました。まだ数社にお試しいただいている段階ですが、従来の動画サービスとの違いは、ユーザーの興味・関心に基づき配信されること、またユーザーが自ら選んで視聴をするものですので、10分といった長尺なものでも最後まで見てもらえるという点です。動画配信のインフラは確実に整ってきたのですが、ウェブ配信用の動画コンテンツを持ち合わせていないお客様はまだ多いです。また効果測定も動画特有の指標が必要となります。動画サービスが本来の意味で浸透していくまでにはまだもう少しの時間がかかるかもしれません。

コンテンツ制作者の思いと実際のユーザーの動きの乖離を解消

― 貴社が日本オフィスを開設してから4年半が経過しました。その他にどんな変化がありましたか。

社員を大幅に増員したことで、広告主様や媒体社様に対してコンテンツ分析やアトリビューション分析サービスを提供できるようになりました。記事制作や広告制作の参考になる様々なデータをお渡ししています。

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例えば自動車コンテンツに役立つデータの例を挙げましょう。こうしたコンテンツにおいて最も多く使用されているのは「新型」「登場」「発売」といったキーワードなのですが、実際に最もクリックされているのは「ディーゼル」「受賞」「予約」。また美容コンテンツで最も使用されているのは「歳」「女性」「方法」ですが、クリックされているのは「世代」「すっぴん」「購入」といったキーワードです。コンテンツ制作者の思いと実際のユーザーの動きに乖離があることが分かります。

記事が読まれる時間帯にもカテゴリーごとに特徴があります。自動車コンテンツは、営業職の方々が訪問先の仕事を終えたばかりというような夕方に読まれることが多いのに対して、美容系コンテンツはお化粧を落とす前後と想定される夜中が多い。こうしたデータを活用すれば、マーケティングの精度を高めることができると考えています。

― アトリビューション分析サービスを活用する企業は多いのでしょうか。

今まではコンテンツの読了率や滞在時間といったエンゲージメント、特定のリンク先から自社のサイトに飛んだかどうか、または購入に至ったかどうかのラストタッチしか見ていなかったが、現在ではユーザーが通過するポイントにタグを設置することで、ユーザーの離脱、休眠、他記事の閲覧状況などをカスタマー・ジャーニーとして把握したり、コンテンツごとのコンバージョンへの貢献度のスコアリングなどを行うようになったという広告主は確実に増えています。ただし、本格的なアトリビューション分析を行うとそれなりのリソースがかかるので、アトリビューション分析を必要としているにもかかわらず、実際には実施していない広告主様は意外と多いという印象です。

―「本格的なアトリビューション分析」を行なっている広告主はどれほどいるのでしょうか。

肌感でいうと、カスタマー・ジャーニー全体を通しての分析が出来ているのは全体の2割ぐらいでしょうか。ただし、当社の提供するデータを見て「参考になりました」で終わってしまう企業様もいれば、PDCAサイクルにきっちりと組み込んでいる企業様もいます。また広告運用を代理店様に全般的に委託している広告主様が多い中で、アトリビューション分析が精緻になりすぎると今度は代理店様の業務が増え過ぎてしまうなど、まだまだ課題は多くあるというのは事実です。

― 国内レコメンドウィジェット市場の動向についての印象をお聞かせください。

国内でも国外でも厳しい競争が続いています。ただあと1、2年である程度まで淘汰されるのではないかとも思います。ここ数年で関連事業者数があまりに増えすぎました。勝ち目のないところは減っていくというのが自然な流れでしょう。当社としては今後もユーザー、マーケッター、パブリッシャーの三方良しを実現すべく、サービスの改善を続けていくことができたらと願っています。

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長野 雅俊

ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。