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プログラマティックでタクシー広告の世界を塗り替える、IRISの取り組み [インタビュー]

都内最大手のタクシー会社である日本交通グループのJapanTaxi株式会社(以降JapanTaxi)と、株式会社フリークアウト・ホールディングス(以降フリークアウト・ホールディングス)の合弁会社、株式会社IRISは、Googleとの接続によりプログラマティックを活用したタクシー動画広告の配信を開始した。

同社取締役 COO 飽浦 尚氏と、セールスマネージャー 内田 まあさ氏に、開発段階のことや現在の状況、さらに今後の展開について聞いた。

(聞き手:ExchangeWire JAPAN 野下 智之)

決済もできる端末がカギ タクシーの乗車体験を内側から変える「Tokyo Prime」

― 貴社が展開しているプラットフォームについてお話しいただけますか。

飽浦氏 当社は「Tokyo Prime」という媒体名で日本交通タクシー車両の後部座席にデジタル・サイネージを設置し、動画広告を販売しています。売上は順調に拡大しており、2017年10-12月期は前年比で14倍以上に成長しました。また2018年の6月末までは、既に広告枠が埋まるほどのご好評をいただいています。

そのような状況を踏まえてこの度、Tokyo Primeの配信エリアを拡大する予定です。神奈川、札幌、名古屋、京都、大阪、福岡などの都市圏で、日本交通以外のタクシー会社も対象に含めた展開を進めています。

日本交通以外のタクシー会社にも当社のデジタル・サイネージを導入していただけるニーズが高まっている理由は二つあります。
一つ目はクレジットカード等の決済端末として使えることです。タクシー業界は売上に対する人件費比率が高く利益率が低くなる構造の産業で、追加の設備投資に費用捻出しづらいという問題を抱えています。特に東京以外の都市では高価な決済端末のイニシャルコストと毎月のランニングコストとなる手数料を捻出して決済機を導入することが出来ず、お客様がクレジットカード等の決済が出来ないタクシーが多数あります。
ですが、当社のデジタル・サイネージは導入にあたってJapanTaxiと連携し、配車アプリや広告の収益を見込んだうえでイニシャルとランニングの費用を抑えたご提案をしており、導入における課題を解決しています。

二つ目は広告売上のレベニューシェアです。当社の広告売上の一部を端末導入タクシー会社に分配しており、広告収益が見込まれます。広告の専門知識がないタクシー会社に、端末を導入いただくことで広告収益をもたらすことが出来ます。
我々はタクシーの乗車体験を内側から変えていきたいと思っています。当社ではタクシー業界の大きなペインのうちの一つは乗車体験にあると思っており、そこを変えていきたいと考えています。決済などはその解決策のひとつです。さらに、広告もコンプレックス商材のチラシではなくブランド広告主中心のもので、見ていて気持ちの良い動画になっています。また、新聞や雑誌などのコンテンツも読むことができます。こうした乗車体験の変化の一端をTokyo Primeが担えると思っています。

Googleとの接続でプログラマティック配信を実現!

― Googleとの接続についてお聞かせください

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飽浦氏 デジタル広告が広告費予算として増加傾向の中で、OOH・交通媒体である当社もそこにアプローチできるような仕組作りが必要でした。また、全国展開に伴う広告在庫の増大を見据えて、純広告商品のみではなくプログラマティックに在庫を捌く仕組みを作る必要がありました。そのためのパートナーとして組ませていただきたかったのがGoogleでした。

この度の接続で、当社が運営するTokyo PrimeはDoubleClick Bid Managerからプログラマティックに広告を買い付けすることが可能になりました。もっとも、そこに至るまでには長い道のりでした。

最初に私がGoogleの方々に、Tokyo Primeをプログラマティックに買い付け出来るようにしたいという想いをお伝えしてから、契約までに半年間、そして開発に更に半年間を要しました。

開発の折には、技術的な側面から様々な苦労もありましたが、当社技術チームとGoogleの皆様の対応のおかげで2017年10月末には開発を完了し、テスト配信を重ねて2017年12月からテスト販売を開始しました。

― Googleとの取り組みで、今後考えていらっしゃることはありますか?

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内田氏 ターゲティング可能な要素と計測できる指標を増やしたいと考えています。現段階ではターゲティングできる要素と計測できる指標が限定的であるため、今後はそこを改善し、費用対効果を明確に広告主にフィードバックできるようにしたいと考えています。

Tokyo Primeが出来ること

― クライアントは、Tokyo Primeをプログラマティックで配信できることについてどのような点を評価していますか?

飽浦氏 時間帯や曜日、男女で出し分けができる点、配信結果がログベースで計測できる点を評価していただいています。インターネット広告と比較するとまだまだ機能は限定的ですが、OOH・交通媒体としては新しく、まずは最小の機能になりますが現時点ではご評価いただいています。ただし、現状では出来ることがまだ限られているのでさらに開発を進めたいと考えています。

また上記に加えて、コンバージョントラッキングにも挑戦しています。Tokyo Primeを見たユーザーが、サイネージ画面上でのインタラクションの後、実際に商品を購入したかどうかを、トラッキングすることが可能です。こちらも機能拡充していき、広告主、広告代理店からご評価いただけるレベルに持っていきたいです。

― どのような広告主がターゲットになりますか?

内田氏 相性がいいクライアントはBtoB企業です。タクシーに乗るユーザーの属性として役職層や富裕層がやはり多いので、そうした方々にリーチできることに魅力を感じていらっしゃるようです。BtoC企業では旅行や不動産、金融などが多いですね。

飽浦氏 販売は、基本的に広告代理店を通しています。総合代理店様が中心ですが、最近大手デジタル広告代理店様から頂く発注も増えつつあります。

内田氏 この取り組みを始める前は、当社の広告はOOH・交通広告とされてきて、予算の出所もOOH予算でした。ですが、プログラマティックにしたことで、デジタル予算からも出稿いただけるようになってきています。

― タクシーだからこそのクリエイティブというものはあるのでしょうか?

飽浦氏 タクシーは静かで落ち着いたプライベートな空間です。ビジネス移動の休憩みたいな時間にあたるので、うるさかったり、点滅が多かったり、不快になるものは避けたほうがよいですし、お断りしています。タクシー独特のものだと「乗車中のみなさん、おつかれさまです」と声かけをするようなものがあります。落ち着いた感じの、癒しの空間に誘う旅行の広告などは、反響が大きいです。

内田氏 1対1のコミュニケーションが可能になる媒体なので、ストーリー性があって泣けるものに反響があります。また、乗車してすぐは最大1分間動画を流せる「Premium Video Ads」という枠があるのですが、その枠にはそういったものが多いように思います。

飽浦氏 最後の告知用の静止画だけでもタクシー用にしようというお客様が増えてきています。今後は、タクシー用のクリエイティブも増えることが予想されます。

全国で最大5万台への導入を目指す

― タクシーのデジタル・サイネージは貴社だけが手がけているものなのでしょうか?マーケットの全体像はどのようになっているのですか?

飽浦氏 他社でも手がけているところはありますが、東京都内のシェアは当社が最も高い状況です。
タクシー内の動画広告という点でいうと、マーケットはまだ立ち上がり段階にあると考えています。
そもそも「タクシー×ブランド動画広告」が成り立つことがあり得ないと思われていました。これまでタクシー広告の対象はコンプレックス商材がほとんどで、ブランド広告主が広告を出稿することはないと言われてきた世界でした。したがって当社も当初は相当な苦労がありました。ですが、Tokyo Primeが拡大していく中で、今後ブランド広告主の出稿は増えていくのではないかと考えています。

また、当社の配信システムはデジタル・サイネージを通信とアドサーバで制御するものですが、この仕組みはフリークアウトの支援を受けた独自性の高いものになっています。開発には苦労しており、移動する車内で動画を事故なく配信するために、何度も試行錯誤を繰り返しました。直近1年間の稼働で安定性が向上し、全国に広げても問題ないといえるシステムになりました。

― タクシーは今全国に何台くらいあり、その中で貴社は何台への導入を目指しているのでしょうか?

飽浦氏 現在、タクシー車両数は全国に約25万台程度あり、そのうち、東京都内では法人タクシーが約3万台、個人タクシーが約1万台走っています。オリンピックイヤーの2020年までに東京と地方都市の合計で5万台のネットワークにすることを目標にしています。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。