3000億円の潜在市場を掘り起こすアドテクのサービスたち [インタビュー]
アドテクノロジーはコモディティー化したともいわれるが、まだ活用されきれていない領域もある。それは中小企業向けの市場だ。
GoogleAdWordsは既に数十万のアカウントがあるといわれているし、手軽に使えるFacebook広告も、既に多くの企業が利用している。だが全国にある約410万の総経営組織数、そして175万の企業数という母数と照らし合わせると、まだまだ限定的であるし、アカウントを開いたとしても、中小企業にとりこれを継続させるのはなかなか難しかったりもする。
【経営組織別企業数等】
経済産業省 平成26年 経済センサス(PDF)
【経営組織別企業数等】
経済産業省 平成26年 経済センサス(PDF)
感覚的だが、広告・マーケティングにある程度の時間を割ける担当者を配置できる企業は、20名以上であろうか。少なくとも、上図にある約130万社に及ぶ10人未満の企業では、ECに特化した一部の企業を除き、多岐に渡る広告プラットフォームの管理画面を器用に操り、器用に広告の運用をすることについては、「二の次」どころか「三の次」、「四の次」とされているのが恐らく実情であろう。であればテクノロジーを活用し、出来るだけ人手をかけずに、効果のある運用支援をすることが解決策の一つになる。
データフィードサプライヤー大手のフィードフォースがリリースしたGoogle ショッピング広告配信プラットフォーム、EC Boosterは、まさにそこを狙っている。中小企業のEC担当者をターゲットとしたこのプロダクトは、データフィードの準備が必要なGoogle ショッピング広告の配信を、人手をかけずに最短5分で準備が出来、あとはEC Boosterの最適化エンジンが自動で運用してくれる。
出典:同社HP
同社でプロダクト開発の責任者を務める川田 智明氏は、EC市場における大手偏重の構造に、課題を感じてきたという。「このギャップについてテクノロジーを使って埋める必要があります。Googleの検索結果の一等地で自社商品を宣伝できるGoogle ショッピング広告(データフィード広告)は、初期設定のハードルが高くてこれまで中小規模のお客様にとって非常にハードルが高いものでした。この現状に対するソリューションの提供を目指しました。」と、その開発背景を述べる。
EC Boosterは大手カートASP4サービスとの連携をしており、これらのサービスを利用するECサイト運営者は簡単に利用することが可能となる。一般的にEC事業者が利用するカートASPは、EC事業者のサイト立ち上げ時は無料で利用可能だが、サイトの規模が大きくなり、ECサイトを本格的に運営していくには、有料プランに入ることが必要となる。本来はこのときこそ今後どう集客を進めるかを考える必要があるのだが、同時にこのタイミングはビジネス環境の変化に戸惑うタイミングでもある。同サービスは、このタイミングの支援ツールとして使ってもらうことを想定している。
データフィード広告の設定は、中小規模の広告主のみならず、多くの広告代理店にとってもハードルは高い。川田氏によるとフィードの設定は、広告主が自社で運用する場合にはタグやフィードに関する専門知識を持つ担当者がいても準備に1-2カ月を要し、広告代理店に依頼しても早くても2週間ほどは要するそうだ。
EC Boosterは、初めてのユーザーでも簡単に設定が出来、その後の運用が自動化されているので、マーケティング担当がいない中小規模の広告主にとっても導入しやすいことを売りにしている。また、価格面についても、1日最低1,000円から始めることができる。同社では、今後1年間で、数百社への導入を見込む。また今後は運用の対象をGoogle ショッピング広告以外の媒体にも広げていく意向だ。
3000億円規模の伸び白があるといわれている中小企業向けのデジタル広告市場ではあるが、これまで多くの広告会社にとり人的サポートを提供するにはなかなか収益が合いづらく「魔のセグメント」とも呼ばれてきたそうだ。人で“合わない”のであれば、機械が出来るところは機械に任せてしまえばよい。実際に中小企業の広告運用を支援するアドテクは増えてきた。これらに共通しているのは、コンセプトが分かりやすく、サービスがパッケージ化されており、誰でも簡単に使えること。
リクルートコミュニケーションズのLiercoは、2012年からこの領域を開拓しており、現在数万社規模のアカウント数を持つ。ソウルドアウトの子会社テクロコも、幾つかのユニークなプロダクトをリリースしている。また、サイバーエージェントグループ出身者が設立したSHIROFUNEは、リスティング広告の自動入札ツールを皮切りに、3月にはディスプレイ広告やリスティング広告の運用自動化ツールをリリース。
利用者の運用型広告における全ての運用業務の”オペレーションレス”を訴求している。
アドテクノロジーが普及すべき先は、まだまだ沢山ある。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長 慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。