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若き起業家が、楽天広告事業に参画した想いと志 [インタビュー]

ECモール事業者向けの広告配信プラットフォームの開発を行うLOBは、楽天グループの完全子会社となり、同社の広告事業に参画。今後は楽天向けの製品開発に注力し、グローバル広告プラットフォーム開発を中心に担う予定である。

同社の代表を務める竹林史貴氏に、その背景と今後の取り組みについて伺った。

(聞き手:ExchangeWire JAPAN 野下 智之)

大手企業の子会社社長からLOBの設立

― LOBという会社について、お聞かせください。創業の背景などもお話しいただけますでしょうか。

私は大学を卒業後、サイバーエージェントに新卒で入社しました。入社後は「子会社の社長になりたい」とずっと言い続けたことで新規事業を任せていただき、最初に担当した新規事業がスマートフォンアドネットワークのAmeAd(アメアド)でした。その後約半年後にDeNA社との合弁会社AMoAd社となり、3代目の社長として代表に就任したのが私の最初の代表経験でした。

その後、20代後半に差し掛かり、同世代のスタートアップの経営者の知人友人が自然と増えていった頃です。彼らから苦労話や会社の成長の話、また上場やM&Aなどの話を聞くようになり、それがとても刺激的に感じるようになりました。

私は大手企業を母体にもつ子会社の代表だったこともあり、そのリソースをフルに活用して大きくなろう、つまり「事業の成長」にフォーカスをしていた働き方をしていたのですが、親会社に頼らず自分で会社と事業を作っている同世代の社長は、事業成長だけでなく、事業の選定や資金調達、オフィス戦略や会計まで、全て自分たちでイチから始めていて、彼らと私とでは経験してきたことの種類が全然違うと感じ、徐々にそちらで勝負してみたいという気持ちが出てきました。

2015年末にサイバーエージェントを退職後、4カ月くらいはフリーランスで知人の会社を手伝うなどをしたのちに、LOBを設立しました。設立当初は、個人としてコンサルや受託のような仕事をしながら2-3名雇用できるように売上を立てつつ、いつかはスポーツに関する事業を展開していこうと考えていました。

長く携わってきた広告業界自体は好きでしたが、スマホデバイスの浸透でSNSプラットフォーマーの力が大きくなるにつれ、FacebookやGoogleなどの大手が独立系のアドテク会社を取り入れていくような戦略を描いているのが見えてくるようになり、今独立してアドテクを始めるのはタイミング的に違うなと思っていました。スマホからのデバイスシフトや、VRやARなどの技術革新のタイミングであれば可能性もありますが、飛躍的に成長する事業を立ち上げていくには厳しい時期だったと思います。

一方で、スポーツ業界はレガシーに頼っている部分が多かったですし、広告代理店とアドテクは最適化の塊ですからその知見を生かそうとしていました。ただ、今思えばこれも随分思い上がりだったなと反省しています。

その後、スポーツ関連事業で試行錯誤を繰り返しながら創業メンバーと相談し、広告のバックグラウンドがあるメンバーだからこそ、改めて広告事業を作っていって徐々にチャンスを伺おうと再度広告をやっていくことを決めました。

その後複数の投資家と相談していく中で出たアイディアが、「ECモール向けの広告製品のOEM」から入ってレベニューシェアで売上を立てつつ、DMPでデータを獲得していく戦略です。それを創り始めている中で、楽天と出会っていくことになります。

楽天がLOBをリクルートした理由

― そこからEC向けのプラットフォームをリリースされたのですね。

楽天からお話をいただいたのは、会社を設立して1年半後、ちょうどEC向けの広告プラットフォームをつくっている最中でした。Amazonやアリババが広告ビジネスで大きく成長していることを知っていたのと、ZOZOTOWNも広告事業に力を入れていくと聞き、少しタイミングが遅れてしまったかと正直焦りましたが、本来ECサイトと広告ビジネスの相性は抜群なので、まだチャンスはあると考えていました。むしろAmazonのような大手プラットフォーマー以外は、自社で広告商品を手掛けていないところがほとんどだったからです。その話を大先輩にあたる方に相談したところ、楽天にお繋ぎいただいて今に至ります。

― 楽天は貴社のどこを評価したと思っていますか?

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私に広告プラットフォームビジネスの経験があったこと、そして当社のエンジニアの技術力と経験でしょうか。また中長期でみたときに、技術レベルの高い集団を継続的に大きくしていけるかどうか、というのも大事な観点だったように思います。

私個人としては、広告代理店の営業、媒体営業、アドテク製品のプロジェクトマネジメント、アドテク会社の経営まで経験しているので、まずはそのような経験が大前提として必要だったように思います。

また、当社のエンジニアは約半数がアドテク業界経験者で、残り半数が未経験でも技術レベルの非常に高いメンバーが揃っていると自負しています。広告でも活かせそうなゲームのエンジニアリング経験があったり、アルゴリズムを考えるなど研究よりのメンバーであったりするのです。ほかにもtoC向けのサービスのフロントを作っていた優秀なメンバーが、アドテクに挑戦したいと当社に集まってくれました。そこも高く評価していただいたポイントなのではないかと思っています。

2000億円というテーマが会社を大きくする力に

― 最終的には、なぜ楽天に参画することにしたのでしょうか?楽天に参画することで、ある意味においては「独立した会社の社長になる」という想いとは、方向性がまた変わられたという印象を受けますが、いかがでしょうか?

前職を退職してからの約2年間は、「このビジネスをやっていこう」という事業テーマを見つけることができずにいました。なんとか一人二人分の生活費を稼ぐことはできていましたが、本来私は会社を大きくしていきたい、同じ想いを共有する仲間を増やしコミュニティを広げていきたいと思っていたのにも関わらず、良いテーマが見いだせずにいたのです。逆に言うと、テーマにこだわりすぎてガムシャラさがなかったということなのかもしれませんね。

楽天が2021年に広告取扱高2000億円という大きな目標を設定していることを聞いて感じたのは、広告プロダクトの会社でこのような大きな目標を目指すことが出来る機会は、おそらく日本では今後なかなかないチャンスだということです。

起業はしたいけどテーマが見つからない、なにをやっていいかわからないという若者はたくさんいますが、私も全く同じような状況でした。その状況で燃えるようなテーマをいただけたことがやはり大きかったです。そのテーマを会社のメンバーに伝えると目の色を変えてワクワクしていることが伝わってきました。そこで「大きなテーマやビジョンがあるから採用がうまくいく」と言うことに気づきました。それこそが、大きな会社、大きなコミュニティを作っていきたいと考えている僕の志向とぴったりマッチしていたのです。

最終的には、本当に多くのスタートアップ企業がある中から楽天が自分の会社を選んでくださったのだと考え、「是非やらせていただこう」という思いに至りました。

楽天からは「今後も会社として存続していってほしい」と言ってもらっています。うまく楽天と開発連携をして、M&Aの成功事例と言われるように尽力していこうと思っていますし、また楽天プロダクト以外にも広告代理店関連プロダクトの事業もあるので、そちらも継続的に成長させていきたいと思っています。

スタートアップなのに大企業のプラットフォーマーの仕事ができるという「いいとこどり」な状態であると解釈をすることにしました。

一つの広告プラットフォームに向けて

― 楽天の広告プラットフォーム構想のどの部分を担うのでしょうか?

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楽天が目指していくプラットフォームでは、まず一つのプラットフォームというベースを大前提として、多様なサービスに紐付けます。

「楽天市場」の出店店舗さん向けの広告配信のシステムも、楽天のデータを使った外への配信もその対象です。さらに海外にも「Rakuten Marketing」といったアフィリエイトの会社などがあり、海外でジョインしてもらったスタートアップもあります。そういうところも一つのプラットフォームにつなげていこうという構想を持っています。

― 今後の予定についてお聞かせください。

早いうちに国内の広告プラットフォームとして使われる製品をリリースしなければいけないので開発を急いでおりますが、大きくは楽天としてグローバルに使われるような広告プラットフォームを作り、スケーラビリティのある製品にする必要があると考えています。現在は目下の開発に加え、「Rakuten Marketing」や海外子会社のチームとの連携をし始めているところです。

中期で見ると、最も面白くやりがいのある部分はやはり「データ」です。楽天のデータは質、量ともに非常に魅力的です。最も購買に近いデータで、かつ「楽天市場」、「楽天トラベル」とさまざまな事業ドメインのサービスを複数持っていることが特徴的だと考えています。

また、新しいテーマにもチャレンジしていかねばならないと思っています。広告主が細かい運用作業をしなくてもデジタルマーケティングができる世界に、いまはどんどん向かっています。私たちも、出来るだけ広告主が何もしなくてよい状態で高い広告効果を提供できる世界の実現に挑戦していくことも、大事なミッションの一つです。そのためには言語解析や画像解析、クリエイティブの自動生成なども当然必要なテーマとなってきます。

楽天の広告事業でAI領域をやる面白味は、事業として立ち上がる可能性が高く、売上貢献度も高いところだと思います。またその開発プロセスにもリアリティがあります。LOBだけではなく、楽天にもデータ関連の専門部署があり、今後更に連携は深まっていくと思います。

広告として最先端の部分に取り組めて、こんなにも規模の大きなビジネスを経験することは、きっと私や会社のメンバーの次のキャリアにも活きるかけがえのない経験になるはずです。アドレナリンを大量放出しながら、今後も会社を大きく成長させていきたいと思っています。

最後に、LOBでは、「私たちの技術や知見をみなさまと共有したい」という想いから、9月13日(木) の夜、独自の勉強会、「LOB Tech Night」を開催することとなりました。

当社で利用している Google Cloud Platformで広告配信システムを開発した話をします。奮ってご参加ください。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。