動画広告市場、サイバーエージェントの2018年と2019年 [インタビュー]
サイバーエージェントは、11月29日に動画広告市場調査結果を公表した。 2013年以降5回目となる今回の調査結果の背景にある、同社から見た2018年の市場の動向と2019年の見通しについて、インターネット広告事業本部 統括の淵之上 弘氏にお話を伺った。 |
(聞き手:ExchangeWire JAPAN 野下 智之)
動画は当たり前に
―動画広告市場の直近の市況についてお聞かせください
2017年と比べて、2018年は動画という言葉をあまり言わなくなりました。私たちを取り巻く市場環境において、もはや動画が当たり前になったからです。
広告会社が広告のクリエイティブを作って配信をしていくとき、かつては静止画が普通でしたが、現在はクリエイティブに関しては、動画と静止画とセットで用意することが当たり前になりました。ですから、あえて動画という必要がなくなりました。
媒体側にも変化が見られます。インスタグラムが提供する動画コンテンツ「IGTV」に象徴されるように、ユーザーが見るコンテンツの動画化がさらに進みました。またこれまではSNS上のタイムラインなどに静止画と動画とが混在する状況でしたが、「TikTok」のように、動画コンテンツのみの媒体が登場し、コンテンツとしての動画が当たり前になりました。
プランニングにおいても、ブランド広告主向けの場合には動画を提案することは大前提です。動画の媒体や広告フォーマットが増えて来る中で、ダイレクトレスポンス系の広告主も動画をいかに活用するかということに関心を寄せています。
―極論を言うと今後静止画はなくなっていくのでしょうか?
動画を作るか、静止画を作るか?またはその両方か?という判断は、動画制作1本あたりにかかるコストを上回る成果が見込めるかどうかによります。静止画には静止画の良さもありますので、将来的に動画100%ということにはならないでしょう。動画と静止画とは共存していくでしょう。
例えば、EC系のサービスの場合、ユーザーに一定量の商品情報を見てもらったり、クリックをしてECサイトに遷移をしてもらうために、静止画のほうが適していることも多いです。
ただし、静止画だけかというと、。例えばインスタグラムなどでは、動画内の洋服などの商品に値段が表示され、そこから購入することが出来るようになるような機能も出始めています。このように、動画広告から購買に結び付けやすくなる導線を作る取り組みを各媒体が進めています。
―クライアントニーズについての変化はいかがでしょうか?
先ほどのお話と重複しますが、動画か静止画かを指定されることはなくなりました。KGIやKPIに応じてどういうアプローチがいいのかを提案し実行することを求められています。
動画広告に対するニーズは、ほぼデジタル広告に対するニーズと同義ということですね。
注目は縦型フォーマット
―媒体の取り扱い状況について変化は見られますか?
やはりFacebook/インスタグラム、Twitterのニーズは引き続き高まっていると感じています。
いわゆるインフィードといわれる枠の中でも、SNSと、その他のメディアのようなものとでは、少し使い方が分かれていたかなと感じています。
今注目している媒体はユーザー数が急激に伸びているTikTokです。TikTokは動画コンテンツのみのメディアであることそしてフォーマットが縦型であることが注目すべき点です。
TikTokは近々、本ローンチの予定です。これからが楽しみです。
―広告主はどのような企業が想定されそうでしょうか。縦型の広告フォーマットは今後増えていきそうでしょうか?
縦型の媒体が増えつつある中、今後恐らく、スマートフォンに適した縦型のフォーマットは増えるでしょう。
効果検証の解は、引き続き追及
―動画広告市場に関連した課題が何かあればお聞かせください
各媒体やプロダクトの成果に対する計測の方法がいまだに違いがあります。媒体ごとに視聴完了であたり、視聴秒数であったり、クリックであったりというように、どのようなユーザーの行動によって、エンゲージメントが高まったり、アクションに繋がるかということが明確ではありません。
動画広告は市民権を得つつありますが、それでも明確な効果の検証についてはまだ試行錯誤を繰り返している段階です。
効果がよりはっきりとしてくれば、動画広告の需要は爆発的に伸びて来るのではないでしょうか。
とは言え2014年に300億規模であった動画広告市場は今では5倍以上の規模になっています。皆試行錯誤しつつも、その需要はますます大きくなっていることには変わりありません。
―動画広告に限りませんが、ブランドセーフティやアドフラウドに関連して何か影響は受けていませんか?
やはり配信先が開示されていないネットワークで配信する動画広告に対しては、広告を出す側も慎重になっています。私たちも、ネットワークで動画を配信をする場合には、独自の効果指標とするなどの対策を行っています。出稿先はFacebook、Twitter、LINE、スマートニュースなど、配信面ほぼ単一で、管理しやすい媒体の比重が高まっている状況です。
動画広告の伸び=顧客ニーズに向き合うこと
―貴社の動画広告の取扱高は業界でもトップクラスですが、今後も動画広告の取り扱いを伸ばしていくためにどのような取り組みをされていきますか?
各媒体の広告における動画比率は過半数を超えるとひと段落するのではないかと見ており、ここからはデジタル予算全体をいかに伸ばしていくのか、というところに尽きますね。動画を頑張っていれば伸びていくというフェーズはある程度終わりに近づきつつあります。顧客のニーズに対して真摯に向き合って応えていけば、インターネット広告全体の取り扱いが増えて、結果動画広告の取扱高が増えていくのではないかと考えています。
―2019年以降の貴社の動画広告市場と貴社の取り組みについてお聞かせください
媒体の観点から申し上げると、従来YouTubeに一極化していた、動画でしか広告を出せない媒体、例えばTikTokやインスタテレビ「IGTV」などのような媒体が今後更に増えていくでしょう。
従来のSNSなどで見られた動画と静止画とが混在した状態でなく、動画のみを見ているユーザー、動画のみプロダクトに向き合って、どのような動画を作っていくか、あるいはどのように伝えていくかということが、2019年に業界が新たに取り組んでいかなければいけないことでしょう。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長 慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。