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生活者モードを捕らえる-博報堂DYグループが取り組む次世代のメディア開発支援

博報堂DYグループは、2017年12月にデジタルロケーションメディア・ビジネスセンターを設立した。現在、グループ12社、44名に及ぶ。
「生活動線起点のメディアビジネス開発を支援するグループ横断型組織」と謳う同組織設立の背景と、具体的な取り組みについて、同組織を立ち上げ現在統括をする博報堂DYホールディングス マーケティングテクノロジーセンターグループマネージャーの佐藤 智施氏と、同センター 上席研究員 大倉 幸祐氏にお話を伺った。

(聞き手:ExchangeWire JAPAN 野下 智之)

生活者にとっての新しい発見と気付きを

2017年12月にデジタルロケーションメディア・ビジネスセンターを設立された背景と、その機能についてお聞かせください。

佐藤氏 博報堂DYメディアパートナーズのメディア環境研究所が継続して実施している「メディア定点調査」によると、生活者のメディア接触時間全体において、既にインターネットが半分を占めるに至っています。またその内、モバイルは、全体の33.6%です。

このように生活者のメディア接触時間の多くを占めるインターネットメディアですが、興味や関心を持っている情報を得られるメディアとして、生活者に「便利さ」を提供する機会を増やしています。

しかし、その結果、いま起こりつつあることとして、本来の広告の目的の一つである生活者に「新たな発見」や「気づき」を提供する「ためになる情報を、思いがけなく得られる」機会が徐々に減ってきているのではないか。そこで私たちはデジタルロケーションメディアというものを活用し、新たな発見や気づきを提供していきたいという想いに至りました。これが同センター立ち上げの背景です。

私たちは、人間を単なる“消費者”として見るのではなく、人間を多面的な「顔」を持つ”生活を営んでいる主体”=生活者として見ています。生活者は置かれる状況によって、色々な顔を持ちます。会社にいればビジネスマンの顔、店頭にいれば父親の顔であったりもします。

生活者に「新たな発見」や「気づき」を与えるためには、この生活者の「変化する状況」によって生活者の意識や情報行動が大きく異なることに着目することが必要であると考えています。

特に「新たな発見」や「気づき」の提供のためには、“あらゆるタッチポイント”で”受動的なフェーズを含むあらゆる生活者”を捕えることが必要だと思っており、元々生活者にとって潜在的、あるいは無関心であった領域について、“顕在化した行動”がない場合に関しても、新しい情報を与えたいです。

具体的な取り組みについてお聞かせください

佐藤氏 二つあります。一つ目はデジタルロケーションメディアを普及させるエコシステムを作っていくこと。そして二つ目は生活者データを活用して、生活者の置かれている状況に内包される潜在ニーズの抽出を行い、その潜在ニーズを捕らえていく仕組みをつくることです。

写真2

我々は、その状況に内包される潜在ニーズを生活者モードと名付け、その生活者モードを抽出して捕らえるマーケティングをデジタルロケーションマーケティングと定義をしました。デジタルロケーションマーケティングを実現するために、生活者モードを抽出するための生活者モードベースドプランニングと、生活者モードを捕らえていくデジタルロケーションメディアを開発していくことが重要になります。

今後は、このデジタルロケーションマーケティングを広めていきたいです。

兆しがみられるアウトドアメディアのデジタル化

デジタルロケーションメディアとは、具体的にはどのようなものでしょうか?

佐藤氏 私たちが定義するデジタルロケーションメディアとは、デジタル化されたアウトドアメディアに閉じたものではありません。時空間、すなわち時間×場所でメディアを再編成することにより生まれる全てのタッチポイントが対象です。ですので、移動する生活者のスマホやタブレットなども含まれます。

スマホやタブレットに関連するところでは、位置情報の活用が現在注目されています。大倉さんが開発に携わられた位置情報を活用したACTAGも、デジタルロケーションメディアに通ずるものですか?

写真3

大倉氏 「位置情報を活用している」という点では同じ取り組みとなります。ACTAGは位置情報を活用してインターネット広告を付加価値化するということで、Cinarra社とご一緒させてもらいました。生活者の過去の位置情報を使ってターゲットをセグメントしていこうというものです。デジタルロケーションメディアでは、位置情報を使って時空間により生活者をとらえるということを想定しています。ですので、スマートフォンに広告を配信するときも、どの時間や場所に配信するのかという観点でプラニングやメディア開発を考えていくこととなります。

佐藤氏 アウトドアメディアをデジタル化およびネットワーク化していくことで、新たな形でメディアバイイングの実現が可能で、それらの環境の整備をしていきたいです。さらに、今後は、インターネット広告と同様の概念でプランニングとメディアバイイングを一気通貫する仕組みも開発していきたいです。

私たちはこのデジタルアウトドアメディアを、デジタルロケーションメディアの入り口として考えています。

日本において、アウトドアメディアがフィジカルからデジタルに置き換わり、デジタルサイネージ市場は着実に拡大しています。デジタルロケーション・ビジネスセンターでは、メディアの開発においても、コンサルティングサービスを提供支援しています。

ロケーションオーナーの方のメディアビジネスを支援するSpace Booster(スペースブースター)™というコンサルティングサービスを開発し、メディアビジネスにおける収益化支援を行っています。

どのようなロケーションオーナーをターゲットにしているのですか?

主に交通、屋外、インストア、商業施設、その他の計5つのセグメントがあります。その他は、例えばF1層にリーチするために、ネイルサロンにデジタルサイネージメディアを導入するなどの取り組みであり、いわゆる特定の年代・性別を想定したターゲット性の高いメディアです。

ロケーションベースで生活者にアプローチをする

広告主に対して、デジタルロケーションメディアをどのような文脈で提案されるのでしょうか?

佐藤氏 デジタルロケーションメディアは、広告主のリーチするべき生活者の「変化する状況」に内包される潜在ニーズ、いわゆる生活者モードを捕えるために大変効果的です。様々な業界で従来のビジネスモデルの見直しが迫られるなか、“潜在ニーズ”を起点としたビジネス革新には大きな可能性があります。

現在、デジタルサイネージの普及は進んできていますが、ネットワーク化においては、現状、まだまだ進んでいません。デジタルサイネージをネットワーク化することで、ロケーションベースでバイイングが実現をします。メディア毎の境界が消え、時間と場所を特定したロケーションベースで生活者にアプローチを行うことができます。真の意味で生活者の「時空間に内包する潜在ニーズ」を捕えることが可能になります。生活者の時空間に内包する潜在ニーズである生活者モードを抽出し捕らえることで、生活者に「新たな発見」や「気づき」を提供していきたいです。

大倉氏 広告主の一部では、近年モーメントと呼ばれているような、生活者の瞬間をとらえてブランドと結びつけるという考え方が出てきています。例えば飲料メーカーの商材であれば、のどが渇いた時こそがブランドと結びつきやすい瞬間であり、生活者とのコミュニケーションがとりやすいタイミングです。例えば自動車のブランドの高級感を打ち出したいときに、どこで広告が出ているのかで、その効果は異なります。

このようなブランドと生活者の結びつきを時間と場所の視点で考えることは、どのような業種の広告主にも当てはまるので、様々な広告主にその重要性をご提案していきたいと考えています。

プログラマティックによる買い付けも進む?!

ネットワーク化が進むことで、デジタルロケーションメディアの買い付け方は、今後大きく変わってくるのでしょうか?

佐藤氏 欧米の現状を見ると、この領域はインターネットメディア市場におけるアドテクと同様なテクノロジーによるエコシステムが出来つつあります。トレーディングデスク、DSP、SSP、測定ツールなどのプレイヤーが介在しています。

インターネットメディアとデジタルアウトドアメディアのエコシステムの大きな違いは、アウトドアメディアでは掲載面に物理的な制約がある点です。ですので、プログラマティックでの買い付けにおいて中心となるのは、オープンRTBではなく、在庫予約型によるプレミアムな市場です。日本が今後どうなるのかはまだ定かではありません。ですが、インストアメディアやタクシーメディアの領域に、アドテクベンダーが参入しているという動向もあり、欧米のような市場の形成に向かう可能性があります。

タクシーからモビリティー、そしてリアル流通のメディア化へ

ロケーションメディアとして、今後注目すべき媒体をお聞かせください

佐藤氏 タクシーメディアは注目されるべきです。これまではダイエットなどのコンプレックス系の広告が紙媒体で提供されていましたが、デジタル化してクリエイティブも含めて新しいコミュニケーションが可能になると、ものすごくリッチなメディアになりますよね。

タクシー企業は、より上位概念のモビリティー企業にシフトしていくと想定されるため、どのようにモビリティーをメディア化していくのか、ということの入り口に過ぎないと思います。リアルな流通企業も注目すべきです。ECの普及がさらに進むと、今後はリアルな流通企業が、メディア化していくと想定されます。リアルの売場の役割が変わり、メディアとして活用されるようになると考えられます。この変化を上手く活用し、新たな情報発信の方法を模索していきたいです。今はインストアメディアという形で入り口はスタートしていますが、それぞれの流通企業がどれだけメディア化に取り組むのかは、業界における注目ポイントでしょう。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。