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日本のインフルエンサーマーケティングがこれからな理由 [インタビュー]

indaHash社 野村 肇氏の写真1

世界83か国、92万人以上のインフルエンサーをネットワークするindaHashは2018年5月に日本でオフィスを開設、インスタグラマーを中心としたインフルエンサーマーケティング事業に本格参入した。ご存じの方も多いかと思われるが、この市場は参入障壁が低く、レッドオーシャン化している。またブランド側の需要も一巡していると聞く。にもかかわらず、後発の同社は現在ビジネスを大きく拡大させている。

indaHash Country Manager 野村肇氏によるインフルエンサーマーケティングに対する考え方や市場観に、どうやらそのヒントが隠れていそうだ。

(聞き手:ExchangeWire JAPAN 野下智之)

消費者に一番近い立場からのブランドメッセージ

インフルエンサーマーケティング需要拡大の背景についてお聞かせください

Paid、Owned、Earnedの3つのメディアのうちブランドが100%コントロールできるのはPaidとOwnedのメディアです。EarnedであるSNSの普及は、消費者の消費行動を大きく変えつつあります。消費者は、オンライン上で他の消費者が発信していることを情報源として重視するようになりました。ECでショッピングをするとき、ユーザーによるレイティングやレビューを確認することが、消費者の購買プロセスにおいてはごく当たり前のこととなりました。

消費者は、一度も会ったこともない他の消費者のほうが、ブランドよりも信頼できる情報源として位置づけるようになってきており、そしてこの消費者の情報源となるEarnedは、ブランドが100%コントロールすることが出来ない領域です。

この領域というのは、ある意味においてブランドにとって厄介な領域ですが、そこには自社ブランドに関する消費者同士のやり取りが日々行われており、ビジネスのヒントが溢れています。

インフルエンサーマーケティングは、この3つの領域で、PaidとEarnedとの間に立ち、Paidつまりブランドからの一方的なアプローチよりも、消費者に近い立場のインフルエンサーから発信することにより、ブランドメッセージをより消費者視点で深く伝えやすいという背景から、年々注目が高まっている。私はそのように見ています。

インフルエンサーマーケティングは“1.0”から“2.0”へ

国内のインフルエンサーマーケティングの状況をどのように見ていますか?

国内におけるインフルエンサーマーケティングは、元々マスコミュニケーション的なアプローチによる活用が一般的でした。購買ファネルにおいては最上位に位置付けられる、リーチを獲得する役割のみで使われてきました。

したがって、有名人でフォロワー数や登録者数が多いトップインフルエンサーを活用したマーケティングが主流でした。これを1.0と呼ぶことが出来ると思います。

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そして今、マイクロインフルエンサーとの協業が注目されています。リーチを目的としたインフルエンサーの活用において、そのフォロワーの数が重視される一方で、実際にどういうフォロワーがそこにいるのかということがあまり見られてきませんでした。例えばファッション系のモデルで100万フォロワー位の方が過去の投稿と文脈の合わない投稿をしても、リーチはしてもエンゲージは期待できません。昨今マイクロインフルエンサーが注目されているのは、自身の属するコミュニティーにいる人たちに対して深いエンゲージメントが期待できるということです。マイクロインフルエンサーと協業することにより、

リーチだけではなく、エンゲージメントやコミュニケーション深度を重視していく。これがインフルエンサーマーケティング2.0と呼べると思います。

消費者とブランドとが繋がり続ける“3.0”

そして先を行くブランドは、その先の3.0を見据えています。これまで多くのインフルエンサーマーケティングは、一定の期間内のキャンペーンごとに短期的に実施されていましたが、今一部のブランドにおいては、AlwaysOn(オールウェイズ・オン)型へ移行しつつあります。

一度きりの短期的なコミュニケーションだけで数字を求めると消費者から見てどのようになるでしょうか。

極論になるかもしれませんが、文脈としてはおそらく「はじめまして、こんにちは。さて当社の商品を購入してください。」というようなアプローチになってしまい、エンゲージするどころか敬遠されることになります。残念ながらこのような一方的なアプローチはまだ非常に多く、これではいくら消費者に近いインフルエンサーという媒介者を入れても、良好なコミュニケーションは成立しづらいでしょう。

ブランドと消費者とのコミュニケーションにおいては、自分たちのブランドがどういうものであり、どのようなストーリーを持っており、どのようなことを目指しているかということを、まずインフルエンサーが深く理解をし、フォロワーそして消費者へ恒常的に伝えていくという姿が望ましいのです。また消費者におけるブランド理解は、インフルエンサーを介してのみではなく、例えばテレビで見た、友達が話題にしていた、そしてインフルエンサーが紹介していた、など様々なチャネルを介した対話の積み重ねによって、醸成されていくことを意識することも重要です。

一度きりのキャンペーンで購買に繋げようとするよりも、インフルエンサーを介してブランドストーリーを伝えていきながら、購買者と言うよりもファンを作っていく、そして自然とその商品やサービスを手に取る雰囲気や環境を作り、自社ブランドを自分の意思で選んでもらうようなコミュニ―ケーションが望ましいのです。消費者とブランドが恒常的に繋がり、ファンを形成していくことを目指すAlwaysOn型。これを“インフルエンサーマーケティング3.0”と呼ぶ事が出来るでしょう。

ファンが次のファンを作る

インフルエンサーは、購買フルファネルのすべてに対応することが出来るということなのでしょうか?

はい、インフルエンサーマーケティングは一般的に言われるマーケティングファネルのフルファネルに対応する事が可能です。そして更にSNSの場合は購買した後のCRMの領域においても別のファネルを持っています。いわゆる、Advocateされる領域、つまり商品やサービスの体験後に発信される他の消費者への推奨です。このAdvocateが他の消費者に新たな購買をもたらすことになります。インフルエンサーに連れられファネルを下っていったフォロワーは、更にそのフォロワーのフォロワーを、新たにトップファネルに入れてくれることにもなり得ます。先に述べた3.0の様な考え方が重要なのは、この丁寧なコミュニケーションにより、伝えたいブランドメッセージをその先の消費者まで深く届けられることです。これこそが、本来インフルエンサーマーケティングが目指すべき美しい形だと思っています。

また、コンテンツを軸とすると、ブランドストーリーを伝えたいということと、買ってもらいたいということは、伝えるべきメッセージは異なるべきであると思います。

インフルエンサーを通じて認知を取りに行くのか購買を狙うのかによって、コンテンツも全く異なるはずですので、コンテンツが各ファネルとマッチしているかどうかという点も重要です。意外とここが整理されていないキャンペーンが多く、そこが大きく崩れてしまうと、消費者には伝わらないのではないかと思います。

indaHashが国内に参入した背景をお聞かせください

インフルエンサーマーケティング1.0の、ブランドへの需要が一巡し、一度はインフルエンサーマーケティングを経験したブランドの方に結果を聞くと、「あまり良くなかった」という声もしばしば聴かれました。さらに、何が良くなかったのかと掘り下げて聞くと、その理由も定かではありませんでした。

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インフルエンサーマーケティングは、1.0時代はデジタルではなくPR予算としてアロケーションされていたブランドが多いこともあり、評価軸すら定まっていない事がまだ多いのです。ですので、「なんとなく良かった」、「なんとなく良くなかった」というように、マーケティング手法としてはまだまだ成熟していない領域と感じています。

当社の国内での参入は後発組ではありますが、グローバルで培ってきた2000以上の最新の事例をもとに、国内市場の今後の方向性を提案することが出来るのではないかという自信を持って参入を果たしました。

国内では後発ですが、ユニークポイントについてお聞かせください

まず申し上げられるのは、indaHashが、この領域において量と質の両方を兼ね備えている稀有なプラットフォームだということです。まずは量の観点です。インフルエンサー登録希望者はスマホで”indaHash”アプリをダウンロードし、アプリから簡単に登録申請を行う事が出来ます。これにより現在世界の登録者数は92万以上の規模を誇ります。ブランドにとって自社にマッチしたインフルエンサーを見つけ出すことは簡単な事ではありません。例えば同じスポーツ系と言っても、ジョギングをしている人もいればサッカーをしている人もいます。誰と協業するべきかというのは非常に重要なポイントですが、弊社の様にネットワークしているインフルエンサーがこれだけ多ければ、その中からよりブランドにマッチするふさわしい人を見つけ出し易くなるという利点もあります。

一方で、質の観点も重要です。indaHashはまず登録時にインフルエンサーの審査を、厳しい基準で行っています。実際に、当社がミニマムの基準として定める一定の基準(日本の場合、300人以上のフォロワーがいて、70以上の投稿の実績がある方)で、アプリを通して申請を戴いた方のうち、インフルエンサーとして登録いただけた方は約10%程度という狭き門となっております。これは先の一定基準以外にも、フォロワーやエンゲージメントをお金で買っているフェイクインフルエンサーや不正アカウントが入ってこないように、システム及び人の目も使って徹底的に審査を行っています。これにより弊社ではブランドセーフティーを担保することが可能です。

グローバルクリエーターコミュニティ概要の画像

出典:indaHashインフルエンサー向けページ

更にindaHashでは、キャンペーン実施時にも投稿前にブランド側が、参加希望インフルエンサーの全てのクリエイティブをダッシュボード上で事前に確認し、承認作業を実施出来るシステムを提供しております。これによりインフルエンサーという人軸だけでなくコンテンツ軸でのブランドセーフティー、ブランドコントロールの担保も実現しています。これも多くのブランドから評価いただいているユニークなポイントだと思っています。

キャンペーンの流れ 説明画像

本投稿前に専用ダッシュボード上でインフルエンサー、コンテンツの両方を可視化した上でキャンペーン管理を行うことが可能

出典:indaHash

また、昨今日本はインバウンドやアウトバウンドという人の動きが活発化していますが、当社は83カ国、92万人以上のインフルエンサーがおりますので、クロスマーケットでのキャンペーンが可能なことも強みです。海外の消費者向けに、日本のブランドの認知を取る目的においても、当社の強みが大いに発揮されます。

市場活性には同業とも提携

国内ではビジネスの展開の仕方についてお聞かせください。誰とどのようなパートナーシップを組んでいかれるのでしょうか。

まず広告代理店さんとの協業です。日本のオフィス開設前から複数の広告代理店さんに注目していただいておりました。協業は単なるセールスパートナーや、リファレンスパートナーにとどまりません。インフルエンサーマーケティングは、先述のとおりブランドストーリーという、心臓の部分がないとワークしません。どうやったらインフルエンサーのフォロワーに、そしてその先の消費者に伝わっていくのかという一番コアのパートを考えていくということが非常に重要になってきており、そのあたりを中心に広告代理店さんとご一緒させていただく機会が多いです。

また国内では、コンテンツやビジュアルマーケティングの最先端を行くプロ集団であるamana(アマナ)さんとも提携をさせて頂いています。この施策においての強みは主にライツチェックの領域です。当社を介したインフルエンサーがアップしたコンテンツは、ブランドに二次利用をしていただくことが可能となっており、このコンテンツをブランドのSNS公式アカウントや別の広告クリエイティブとしてご活用いただくことが出来る仕組みにしています。しかし、この二次利用を想定した際、インフルエンサーの投稿したコンテンツとしては問題ない場合でも、著作権、肖像権の観点から商用利用する際には問題となるコンテンツがある場合がございます。ここはライツチェックのプロフェッショナルであるamana(アマナ)さんと提携することで、ブラントにより安心安全な活用を担保出来るようにしています。

インフルエンサーマーケティングがまだ未成熟な現状においては、私は同業他社も提携先であると考えています。当社と同じ領域にいるから競合視するということはなく、例えばトップレイヤーの著名なインフルエンサーを強みとされているキャスティング会社さんなど、当社にない強みを持っている同業他社とも協業をさせていただき、一緒にサービスを提供するというようなことも積極的に行なっております。

課題はKPI設定とブランドセーフティ―

今のインフルエンサーマーケティングの課題はどこにありますか?

一つはKPI設定の仕方についてです。インフルエンサーマーケティングがデジタルマーケティングの中にいる以上は、ブランドはトラッキングすることを望まれます。

そのKPIはビジネスゴールから逆算して設定していくことが重要と考えておりますが、どうしても短期的なマーケティング指標がゴールとなりがちです。

例えば、「20代~30代の層に〇〇リーチ」という数字だけで設計しても、それだけでは背景が見えないのでインフルエンサーが上手くフォロワーにアプローチができません。

事業課題からブランドストーリー、実施の背景を弊社がヒアリングした上で深く理解し、それをしっかりとインフルエンサーに伝えられるか否かで、大きく実施結果が異なってきます。実際に私たちも多くのキャンペーンでこれを実感しています。

他のデジタルマーケティングの施策と同様に、まずブランドとして何を目指しているのか、そしてこの施策で何を実現したいのかというベースがあり、そこから一体であるべきクリエイティブとメディアプランニングの考察、そして最後にそれに付随するKPIやKGIが設計出来ると思っております。。私たちもこれを意識して日々KPI設定も含め提案をさせていただいております。

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またKPIも昨今、よりダイレクトレスポンスよりのオーダーが増えてきておりますが、例えばindaHashではinstagramのストーリーズ投稿のCTAにユニークのパラメーターを振ったり、インフルエンサーの投稿の中にユニークのクーポンコードを入れていく。またはインフルエンサーのコンテンツを二次利用し他の広告メニューと組み合わせることにより、どのインフルエンサーから、またはどのコンテンツから流入してきたかをトラッキングできるというような取り組みも積極的に行っております。

二つ目はインフルエンサー選定です。当社では、審査だけではなく、よりブランドやキャンペーンにマッチしたインフルエンサーを探し出すことを大切にしています。

indaHashは、インフルエンサーの過去投稿をAIで分析するシステムを開発し、該当のインフルエンサーがブランドやキャンペーンにどれだけマッチしているかを、感覚値ではなく定量的に評価出来る様になりました。これによって、これまでの様に人の感覚だけではなく、早くそして正確にブランドマッチしたインフルエンサーを探し出すことが可能です。

インフルエンサーマーケティング3.0の普及を

今後の国内での展開についてお聞かせください

本来あるべきインフルエンサーマーケティングの形を、広告代理店さんやコンテンツパートナーさん、同業他社と一緒に。そしてご活躍いただいているインフルエンサーの皆さんと本質的で効果的なインフルエンサーマーケティングの形を考えていきたいと思っています。

その今ある一つの答えとして、3.0であるAlwaysOn型があります。AlwaysOn型のコミュニケーションを行なっていくことで、フォロワーそしてその先の消費者がブランドのファンに変わる。この3.0を取り組まれているブランドが弊社のクライアントでも増えて参りましたので、まずはその領域でしっかりとインフルエンサーの皆さんと実績を作っていき、多くのブランドでこの成功事例を共有させていただきながら、普及させていきたいと考えています。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。