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藤田氏が語るAbemaTVの事業戦略―ネット広告の「クリティカルな問題」を解決

写真:AbemaTV

サイバーエージェントの関連会社であるAbemaTVは広告代理店向け事業戦略発表会「AbemaTV Ads CONFERENCE 2019」を開催した。藤田晋社長が登壇し、AbemaTVの事業方針について語ったほか、AbemaTVにおける広告活用事例や成長戦略が紹介された。

国内最大級のインターネット動画サービスに成長

「AbemaTV」は無料で楽しめるインターネットテレビ局として、2016年4月にテレビ朝日との共同出資で設立・開局した。オリジナルの生放送コンテンツやニュース、音楽、スポーツ、ドラマなど、約20チャンネルを全て無料で提供している。

現在の月間放送番組数はリニア(テレビのようにチャンネルを合わせて現在放送している番組を見る視聴形態)で約5,500エピソード、オンデマンド(ビデオのように好きな番組を好きな時に見る視聴形態)で約18,000エピソード。AbemaTVではオリジナル番組の企画にも積極的に取り組んでおり、総視聴数7,400万を記録した「72時間ホンネテレビ」をはじめ、「那須川天心にボクシングで勝ったら1000万円」「和田アキ子史上初の誕生会生中継」など、他社メディアにも大きく話題が取り上げられるコンテンツも次々と制作している。

藤田社長は冒頭、「『AbemaTVはどうなっていますか』と知り合いの経営者の方々からよく聞かれる」としながら「これは非常に応えづらい質問。そこで『ぼちぼちです』とすれば、営業損失で毎年200億の赤字を出している話がはじまり、『絶好調です』ではまるで見通しの甘いベンチャー経営者の様にも映ってしまう。ただ、私自身はAbemaTVの現状としては、しっかりと成長を続けていると認識をしている」と述べた。

開局から4年目を迎えるタイミングで、AbemaTVは4000万ダウンロードを突破した。また、藤田社長が予てより"ビジネスモデルを成立させる最低条件"として設定していた、WAU(週間アクティブユーザー)1000万についても、現在は900万にまで届き、目標達成まであと少しの段階まで伸びてきた。

「サイバーエージェントでの経験からすると、中規模メディアで広告ビジネスモデルを成立させるのは非常に難しい。とにかく多くの人が見に来る大型メディアでの広告商品を作らなければ、このビジネスは成立しないと踏んでいた」(藤田氏)

MAU(月間アクティブユーザー)はWAUの約2倍となる1900万。この数字は他のインターネット動画配信サービス(CGM除く)と比較した場合でも、国内最大級のサービスとなっている(「App Ape」により分析)。またユーザー課金が中心ではなく、広告による収入を得るビジネスモデルのメディアのなかでは、他サービスのMAU数を大きく引き離した。

視聴ユーザー層については、当初のテレビ離れが進む若者というターゲットの通り、18~24歳が29%、25~34歳が28%となっている(「Googleアナリティクス」により分析)。また、分析ツールの対象に含まれない18歳未満も含めれば、実際の若年層ユーザーはより多い想定となる。一方、想定以上に、オンデマンド配信を使い、テレビに対して受け身ではなく、自らコンテンツを探す視聴体制が需要を伸ばしていることを取り上げ、今後はオンデマンド市場にも対応していくための広告商品も新たに開発していくとしている。

写真:スライド「電通と博報堂DYメディアパートナーズの2社によるAbemaTVとの資本業務提携」

また、藤田氏が「満を持して出資してもらった」と語ったのが、電通と博報堂DYメディアパートナーズの2社によるAbemaTVとの資本業務提携である。大手広告代理店の2社はパートナー企業として広告の販売をしていた立場から、今後はAbemaTVの広告拡販や、コンテンツ調達など、本格的に協力していくこととなる。

この資本参加について藤田氏は「大手広告代理店の協力が必要になることはずっと考えていた。しかし、インターネットテレビ局のメディアとしてある程度の成功を納め、AbemaTVが無視できない存在になってからのほうが、彼らにも本腰を入れてもらえると踏み、この段階でお声がけをするにいたった」と説明した。

大型メディアの広告商品を作りあげ、ビジネスとして成立させることに注力をしてきたAbemaTV。それはネット広告における「クリティカルな問題」を解決するためだと藤田氏は提起する。

「ナショナルクライアントが出稿するブランド広告の一部がネット広告に移れば、ネット広告市場はこのぐらいの規模になるだろう、とはアナリストの方々も展望している。しかし、実際に現場を見てみれば、ネット上で本当に安心して出稿できるブランド広告の出稿先というのは非常に少ない」(藤田氏)

CGMメディアなどは大型の広告商品を作り上げてはいるが、コンテンツのコントロールが出来ず、常にブランド毀損のリスクが伴っている。しかし、現実には他に広告を出せる場所も限られているため、「試し出稿」という形で広告出稿が続いているという。これが藤田氏の考える、ネット広告のクリティカルな問題であり、この問題を解決するため、テレビをインターネットにそのまま持ってくる=インターネットテレビ局のビジネスモデルを作り上げ、新たな広告市場の開拓を続けてきた。

藤田氏は今後のAbemaTVの方針について①競合のいないビジネスモデルをパイオニアとして確立させていく②コンテンツ強化を最優先する③ネット接続テレビの普及や5Gなど環境の変化に合わせて投資、の3点を挙げ、1,000万WAUを超えた日本を代表するメディアを目指すとした。そして最後に「赤字続きだとずっと言われてはいるが、私は何を言われても執念深く最後までやりきる。そのためにも、皆さんには是非ご協力をいただきたい」と来場者に呼びかけ、プレゼンを締めくくった。

AbemaTVらしく、見て楽しい広告コンテンツを展開

写真:山田陸氏

AbemaTVの広告活用事例については、山田陸広告本部本部長が説明。インターネットテレビ局として独自に取り組んできた広告ラインナップと活用事例について紹介した。

AbemaTVの広告コンテンツのラインナップとしては、大きく分けて①CM配信②タイアップ(連動)企画の2つがある。

①のCM配信はいわゆるテレビ型の広告配信となり、デモグラで切り分けたユーザーに配信するターゲティング配信、チャンネルと時間を指定するゾーン配信、指定の番組のみを対象としたプログラム配信の3つが可能となっている。

②のタイアップ企画ではスポンサー企業のオリジナル番組の制作、AbemaTVでレギュラー放送中の番組とのタイアップ、最長300秒のオリジナル長尺CMの作成などを行っている。

インターネットテレビ局として、これらの広告コンテンツを用意するなか、山田氏がAbemaTVの広告メリットとして一番に挙げたのが、藤田氏も取り上げていた「ブランドセーフティ」である。

ユーザー投稿型の動画媒体であるCGMのメディアと違って、AbemaTVで流れる動画は全てがプロコンテンツとなる。また、AbemaTVのCM広告は動画の冒頭に流れるスキップ型プレロールではなく、動画(番組)の途中に自然と挟まる編成型ミッドロール広告を採用。これにより、利用するユーザーの広告視聴に対するストレスを軽減するとともに、CM広告の高い視聴完了率を達成している。山田氏は「年間で約500ブランドの広告企業から出稿をいただいており、広告主の皆さんからも、AbemaTVのコンテンツが広告商品としてご納得いただけているのではないか」と説明した。

「とにかく短期間でリーチを最大化させたい」「オリジナルの番組企画を作り話題化(Twitterトレンド1位)させたい」など、AbemaTVに広告出稿を行うクライアントは様々な課題があるとしたうえで、山田氏は問い合わせが増えているという「AbemaTVとテレビへの同時出稿事例」について取り上げた。

写真:スライド「テレビCMとの同時出稿事例」

若年層のリーチを図ったテレビCMとの同時出稿事例では、テレビCMだけでなく、AbemaTVに広告の同時出稿をした場合は、若年層へのリーチが投下する予算に対して36%少ない予算でリーチが達成できている。また、ブランドリフト効果実績としても、テレビCMだけでなく、AbemaTVのCMに最低1度でも触れたユーザーのほうが高い結果となった(いずれも約10案件に基づき算出)。

山田氏はこの結果について「AbemaTVはデジタル動画メディアとして順調に成長し、他媒体にも無い独自リーチが取れるまで来た」と振り返りながらも「まだまだAbemaTVは地上波のテレビとはメディアの規模が比べ物にならない。相乗効果だけではなく、単体でリーチが伸ばせるメディアにしたい」と語る。

また、AbemaTVでは番組を企画する段階から、本当に面白いか・話題性が高いか、という視点で取り組んできた。それは広告に対しても同様で、広告もコンテンツの一つとして、ユーザーに楽しんでもらえるものを企画・制作し、成功事例を増やしていくことを掲げている。

「他サービスには課金をすれば広告を消せるメニューも多く、広告が邪魔なもの扱いされている。しかし、単なるタイアップではなく、オリジナルコンテンツとして楽しめる広告を作れば、ユーザーにも見てもらえることが分かっている。AbemaTVらしく、デジタルとテレビの良いとこ取りを実現していきたい」(山田氏)

AbemaTV×ネスレ日本×カメラを止めるな! 強力コンテンツでブランド理解を促進

写真:スライド「「カメラを止めるな!」スピンオフドラマの事例紹介」

ネスレ日本とのタイアップ企画で実現した「カメラを止めるな!」スピンオフドラマの事例紹介がトークセッション形式で行われた。広告主からネスレ日本の村岡慎太郎マーケティング&コミュニケーションズ本部媒体統括部媒体統轄室マネージャー、媒体主・企画主から、AbemaTVの古賀誠隆広告本部コンテンツプランニング局マネージャー、サイバーエージェントの金子雅也インターネット広告事業本部ブランドクリエイティブ部門局長が登壇した。

本企画はネスレ日本提供の元、日本アカデミー賞も受賞し、大きな話題を呼んだ映画「カメラを止めるな!」のスピンオフドラマとして、「カメラを止めるな!スピンオフハリウッド大作戦!」を制作・放映したもの。本編のキャスト・スタッフの全面協力のもとに映像は作られ、その長さは約60分。一つの作品として見ても楽しめる内容となっている。

本編中の随所にネスカフェのコーヒーマシンが登場するほか、映画の途中には作中の演者が出演したコーヒーマシンのオリジナルCM(インフォマーシャル)が数回挟まれる。強力なコンテンツを用いながら、スピンオフドラマの映像作品とCMをシームレスに連動させた広告企画だが、本作品はAbemaTVでの放送に留まらず、ミニシアターでの劇場公開・グッズ化・DVD化など、コンテンツとしての広がりも見せている。

取組背景・目的としては、ネスレ日本のコーヒーメーカー「ネスカフェバリスタ(自宅向けサービス)」と「ネスカフェアンバサダー(オフィス向けサービス)」への理解となる。認知では無く、理解を主とした理由について村岡氏は「ネスカフェのコーヒーマシンである、バリスタ・アンバサダーはそれぞれ名前を知られているが、利用者アンケートを取っても、両サービスの違いが全然伝わっておらず、その違いを明確に伝えたかった」と語る。

写真:スライド「本企画のポイント」

企画主である金子氏が「本企画のポイント」としたのが、①話題化②本編視聴最大化③広告効果最大化、の3点である。

「AbemaTVと相談して戦略を組み、柔軟な番組編成が出来たのも大きかった」と金子氏はしながら、カメラを止めるな!が大きな話題となるタイミングとして、日本アカデミー賞の授賞式と、日本テレビ/金曜ロードショーによる「カメラを止めるな!」本編が放送されるタイミングに注目。AbemaTVによるスピンオフの独占放送を、日本アカデミー賞の翌日夜、金曜ロードショー放送直後の同日夜、の計2回行うことで、本編視聴最大化および広告効果最大化を狙った。

写真:スライド「コメント総数 8万超え」

実際にCMが本編中に流れたところ、AbemaTVではユーザーがコメント機能を使い、CMの内容に対して、様々な反応を見せた。コメントでは、本編にも連動した「攻めたクリエイティブのCM」に対し、ユーザーは驚きながらも、1分間の長尺CMを通じてしっかりと商品内容を理解するなど、好意的な反応も目立っている。

村岡氏は地上波テレビでも、ドラマの演者がドラマの設定のまま出演・紹介するCMが広告として利用されるケースは過去にもあるとしたうえで、「AbemaTVでの広告主としてのメリットはこのコメントにある」と話した。

「地上波テレビではそのCMが視聴者にどのような印象を与えたか、瞬間のCM効果というのが全く分からず、可視化が全くできない。そこをAbemaTVは常にタイムリーに反応が得られ、コメントで可視化ができる。可視化が出来るということは、キャンペーン期間中に次の手が取れるということで、このメリットは非常に大きい」(村岡氏)

また、もう1つの効果として村岡氏は、ユーザー同士による信頼性の高い情報発信が見込めることについても触れた。広告主が「この商品は安いです」と伝えるのと、CMを見たユーザーが「これは安い」と反応するのとでは信頼性や納得感も大きく異なってくるという。

今後の展開として村岡氏は「今回はコンテンツとシームレスなCMを作り、認知・理解共に、想定以上の結果を残すことが出来た」と今回の広告コンテンツ企画に対しての手応えを述べながら「次に大事なのは、ネスレの商品を実際に体験してもらうことだろう。例えば店頭やカフェ。オンラインからオフラインの展開にどうやって移せるかの施策を次は考えていきたい」と話した。

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柏 海

ExchangeWireJAPAN 編集担当 日本大学芸術学部文芸学科卒業。 在学中からジャーナリズムを学び、大学卒業後は新聞社、法律・情報セキュリティ関係の出版社を経験し、2018年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。デジタル広告調査などを担当する。