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ダイレクトレスポンスマーケティングのファネル拡張 [インタビュー]

デジタル広告の活用用途は広がり続けている。かつてはダイレクトレスポンス目的が主であったが、近年はブランディング目的での利用も増えつつある。このような環境の変化は、Eコマースサイトやアプリ運営企業のような、元来ダイレクトレスポンス目的でデジタル広告を活用してきた企業においても同様であろうか?またブランディングの指標設計をどのようにしているのか。

Septeni Japanブランド広告本部部長、山崎貴大氏と同社マーケティング戦略本部第二コミュニケーションプランニング部マネージャー、柳裕貴氏にお話を伺った。

(聞き手:ExchangeWire Japan 野下智之)

ダイレクトレスポンスマーケティングのファネル拡張

これまでデジタル広告をダイレクトレスポンス目的で活用してきた広告主が、ブランディング目的で活用しようと意識するようになったのはいつ頃からなのでしょうか。

山崎氏 ここ数年で加速したという印象です。新たなデバイスとして、市場にスマートフォンが普及し、各社スマートフォンを中心にデジタル広告を強化してきました。ご存知の通りデジタル広告費は年々上昇していますが、スマートフォン出荷台数の増加が頭打ちとなり、必然的に各社による顧客獲得競争が激化しています。

そんな中でターゲットを改めて俯瞰(ふかん)して見たときに、「(今までアプローチしてこなかった)〇〇層へのアプローチが必要ではないか」「新たなターゲット層には(今まで使っていなかった)こんな訴求でアプローチをするべきではないか」という動きが、この数年間で増えてきました。新たな顧客ゾーンの発掘からエデュケーション、そしてコンバージョンまでの3ステップを、改めて見直そうという取り組みが加速化していると感じます。

そのため、ブランディング目的と言いつつも、ダイレクトレスポンスマーケティングの延長上でもあり、新たな顧客層に向けたミドル・アッパーファネル向けアプローチでもあり、捉え方によって少しニュアンスは変わってくると感じます。

具体的にどのようなブランディング活用を目的としてデジタル広告を出稿していますか?また、その際どういった指標でデジタル広告を評価していますか?

写真2:山崎氏山崎氏:広告主がブランディング目的でデジタル広告を出稿するケースは、プロダクトをリリースしたばかりで認知や第一想起を獲得する必要があるケースと、成熟期を迎えて既存顧客の育成に加えて新しい顧客ゾーンを見つける必要があるケースの大きく二つに分けられます。この二つのケースでも追うべき指標が異なりますが、さらにアプローチ手法の観点から、マス広告も同時に出稿しているケースと、デジタル広告のみを出稿しているケースでも、デジタル広告の指標の取り方は分かれるでしょう。

直近で私たちが主にお付き合いさせていただいているのは、前述した二つの必要性どちらかを感じており、かつマスとデジタルの両方を活用している広告主企業です。このような企業は、ユーザーがデジタルにシフトしている現状に対して、広告の媒体別予算配分がミスマッチであるという懸念をすでにお持ちですので、ダイレクトレスポンス以外の目的でデジタル広告を活用した施策を行うことに対して前向きです。

このときデジタル広告の指標は、コンバージョンなどの主要 KPI から逆算して、広告運用上のKPIを作っていくモデルが多いです。例えば、事前にアンケートリサーチを活用し、各態度変容に対するファネルダウン係数の推定値を取得できた場合、最終的な獲得件数目標からパーセンテージで逆算し、手前のマイクロKPIを算出することができます。その指標をコストで割り戻せば、「コストパー◯◯」という運用調整上の基準値を設けることができるため、デジタル広告ならではの細やかな運用調整を行っていくことができます。

マス広告に比べ、デジタル広告は精緻なターゲティングやデイリーの運用調整が可能な点が大きな強みであるため、指標をブレイクダウンし、できる限り数字に落とし込んでいくことが理想です。さらに言えば、クリックを経由した先のサイト滞在時間や、サイトの閲覧ページ数などのような各種指標をスコアリングし、コントロールしやすい手前の指標を調整できると、より顧客の目的に近い運用が実現できるはずです。

柳氏 ダイレクトレスポンス関連で指標を設定することのいいところは事業貢献度が分かりやすいところですが、一方でブランド認知などを中間指標に置くケースもあります。例えば、消費者があるブランドの購入を検討するにあたって、その商品カテゴリ内で「平均で3ブランドに絞ってから検討する」と仮定した場合、その選択肢に入る確率を上げるためにどう認知を獲得していくのか?また、その選択肢の中でどのようなポジション(イメージ)を目指していくのか、といったことを指標とするケースですね。

この場合は、ターゲットの範囲や、その範囲の中における競合との認知度の差分をどのように埋めていくのかをシミュレートしながらプランニングし、認知やブランドイメージを指標として、施策自体を評価していきます。ただ、このやり方に関しては、業種やビジネスモデル及び競合の捉え方によって、ブランドにとってその時に重要視すべき変数(パーセプションチェンジを起こすべきステージ)は異なるため、それぞれの固有の指標設計やモニタリング設計を行う必要があります。

ブランディング目的におけるデジタル指標

従来のような、クリックやコンバージョンなどの指標は取り払ってしまうのか、それとも引き続き利用することもあるのでしょうか。

写真3:柳氏柳氏:例えば、ブランドリフトの最大化を目標として設定する場合には、クリックなどを直接的な評価指標にはしないケースが殆どです。なぜなら、CTRや視聴率が高い広告が必ずしもブランドリフトにつながる広告であるとは言いきれないからです。では、そういったクリックや視聴数などの指標を軽視してしまうかというと、そういうわけではありません。

先ほど例に挙げたようなコストパーブランドリフトなどを指標に置く場合、その単価を下げるため、リアルタイムの運用の中でコントローラブルな変数は「リーチ単価」になることが多いのですが、その「リーチ単価」を下げていく場合には、やはりCTRや視聴率などを一つの運用指標として取り入れるべきだと考えております。

ブランディングにおいてどのような指標を評価するかは、やはりケースバイケースということですね?

山崎氏 はい、予め決められた型には落としづらい点が難しいところです。広告主ごとのオーダーメードでプランニングするケースが大半です。広告活用目的は何か、ターゲットユーザーはどういった層なのか、サービスはどのような強みと弱みを保有しているのか、属する業界がどのような状況にあり、その中でどのようなポジショニングにあるのか、あるいはこれまでどのように広告に投資をしてきたのかなどを複合的に考慮し、場合によっては広告主の組織体制にも合わせて評価指標の設計をしていくこともあります。

フルファネルマーケティングをデータドリブンに意思決定していく未来の実現に向かって

ダイレクトレスポンスではできたけれどブランディングではできないこと、またはその逆の場合での、課題などはありますか。

山崎氏 広告代理店視点での課題としては、やはりまだブランディング目的でデジタル広告を活用することへの理解や積極性は、広告主ごとにバラつきがあるというのは感じます。普段マス媒体に出稿されている広告主であれば、デジタルシフトの流れでデジタル広告の予算を確保していただき、私たちも実際に効果を出すことが出来ているのですが、ダイレクトレスポンスマーケティングを主軸としてきた広告主においては、ブランディング目的での広告施策に対しては積極的でない場合が多いです。

前述した上位ファネル向けのアプローチはダイレクトレスポンスの指標に何カ月後かに反映されるであろうという仮説の提示も含むので、短期的に数字が跳ね上がるものではありません。それ故に月毎の獲得件数のような短期指標を設定している広告主としては、ビジネス構造や組織構成上、上位ファネル向け施策を予算面含め積極的に取り組んでいくことが難しいのだと思いますし、もちろん我々もその考えは理解しております。しかし直近では、なぜ必要なのかを継続的にお話ししご理解をいただけて、ご予算をお預かりしながら取り組みを支援するケースが増えつつあります。

中長期的にみたとき、今までマスだけに出稿してきた広告主がデジタルに広告費を寄せていく動きが加速化していくと、前述の通り顧客獲得競争が激化する中で、今後インプレッション単価は上がっていくと想定しています。また、アドベリフィケーションなどの重要性が高まる中、アドネットワークで無数にあるメディアに露出をしていく動きから、インプレッションやビューの価値を見直していくようになり、必然的にインプレッションの価値も高まっていくはず。そうすると、1回の広告枠のオークションに参加するために、従来よりも高い単価の入札が必要になります。今までと同じ獲得単価を維持できなくなった場合、特にダイレクトレスポンスマーケティングを主軸とする広告主はその影響を直接受けざるを得なくなります。そのため、潜在層に対する新たなアプローチ方法への投資・検証の必要性が認識されるのは、ある意味時間の問題であるとも感じています。今がちょうど過渡期ということなのでしょう。

貴社では今後この領域にどのようにビジネスとして注力されるのでしょうか。

山崎氏 既に一部のオフライン広告の領域においても、デジタルが融合することで各種数値がリアルタイムに把握でき、我々のようなインターネット専業代理店がこれまで実践してきた、細かなターゲティング設計やPDCAサイクルを回すことによる最適化プロセスが出来るようになりつつあります。つまり、オフライン×オンラインによって、プランニング・施策実行・可視化・改善アクションがより細かい粒度と短いスパンで可能になることは、広告主が求めていることでもあり、私たちの強みを一番発揮できるようになるということだと考えています。そういった意味で最注力の領域だと認識しています。

柳氏 山崎が申し上げているように、私たちデジタルのエージェンシーがこれまで取り組んできたことの本質的な価値は、「データドリブンな意思決定」なのではないかと考えております。つまりは、広告投資の「前」「後」しいてはその「施策途中(リアルタイム)」においてモニタリングできる状態を設計し、データドリブンに意思決定を可能にするということです。

オン・オフラインはもちろん、フルファネルに渡って統合的にマネジメントできる体制を構築し、広告主の利益、ひいては業界への貢献を目指していきたいと考えております。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。