アプリのアトリビューションを基点にテクノロジー適用領域を拡充-統合プラットフォーム化を進めるAdjustの展望

写真:adjust ロゴ前に立つ

「モバイルアプリのアトリビューション計測」を専門として2012年に設立されたドイツ生まれのテクノロジー企業Adjust(アジャスト)が、統合型のプラットフォームへと変貌しつつある。6月には約250億円の資金調達をしたばかりだ。日本カントリーマネージャーの佐々直紀氏に今後の展望を聞いた。
(聞き手:ExchangeWire Japan 長野雅俊)

抽出できるデータの種類は業界最多と自負

自己紹介をお願いします。

キャリア当初はSIerとして2000年問題の対応などを行っていました。2000年からデジタルマーケティング業界に入り、数社を渡り歩いてオンラインモール、サーチ、リターゲティング、DMPなどを担当。Tune社に入社してアプリ計測に携わるようになり、2016年11月よりAdjustの日本カントリーマネージャーを務めています。

貴社の事業紹介をお願いします。

Adjustはモバイルアプリのアトリビューション計測プロバイダーです。追加オプションとしてアドフラウド防止機能や、任意にカスタマイズされたアプリユーザーのリストを作成することでリターゲティングなどのキャンペーンに活用できる「オーディエンスビルダー」などの諸機能をご用意しています。

さらには合計40億以上のインストールデータに基き、地域や広告プラットフォームごとのCPIや、不正なインストール率の平均値などを示すベンチマーク・ツールの無料提供なども行っています。

基幹事業であるアプリのアトリビューション計測以外の周辺サービスが増えてきているようですね。

アプリ外からの流入分析が業務の軸ではありますが、それ以外の関連領域も幅広く扱っています。例えばアプリをインストールした後のユーザーの行動ログ。アプリ内の行動についてはお客様が測定ポイントを無限に設定できるので、どのユーザーがアプリ内のどの機能をいつ使ったかを把握することが可能です。ウェブ、コールセンター、実店舗のデータなどと統合すれば、O2Oやオムニチャネル施策にも活用できます。

またモバイルウェブの計測も可能です。ウェブにはインストールという概念がないので、お客様が「初回訪問」または「サイト登録」などをインストール相当の行為として設定した上で、アトリビューション数を計測することになります。

さらに基本的にはインストール直前のラストクリックによるアトリビューションの判定を行っていますが、その前の段階における様々な広告のクリックやインプレッションが発生したときにログデータを飛ばすこともできます。

これらアプリ内行動、モバイルウェブ、ラストクリック以外のアトリビューションの計測については、生データとしてのご提供が可能で、お客様側でBIツールなどと連動していただくことで緻密に分析をすることができます。

貴社の差別化要因をお聞かせください。

抽出できる生データの種類は業界最多と自負しています。アプリユーザーが所有するOSのバージョン、端末の型番、言語といったユーザーの使用環境から、位置情報となるIPアドレス、地域情報、物理アドレス、さらには広告IDなどのデータが抽出できます。流入元のアドネットワーク特定はもちろん、どのキャンペーンにおけるどのアドグループのどのクリエイティブをクリックして流入したかといった情報がタイムスタンプとともに届きます。

写真2:佐々 直紀氏

もう一つは、アトリビューション計測企業としては先陣を切り、2016年からアドフラウド対策ツールの本格販売を始めたことです。マーケッターの余剰コストを削減するだけでなく、キャンペーンを最適化するためにアドフラウド対策は必須です。2017年には各アドネットワークとともにアドフラウド防止連合(CAAF)を結成し、現在に至っていますが、これもAdjustのユニークな点です。

アドフラウドが発生しやすいアドネットワークとは

広告の流入元を判定するだけではなく、アドフラウド防止対策を主導する立場となると、アプリ広告業界における貴社の権限はより強大になりますね。

そんなことはありません。アドフラウド不正防止連合には、現時点で日本のDynalist様、i-mobile様、nend様、Zucks様を含めて、世界中のアドネットワークを中心とする約30社が加盟しています。それら各アドネットワークにおける担当者たちと議論を積み重ねながらアドフラウドの定義をつくり、その定義は規格文書にも明記しました。つまり、業界の総意を得て作り上げたルールに則った上で、当社がアドフラウドの判定をしているわけです。

例えば「不正なIPリストに掲載されているIPをたどってきたもの」や「アプリのインストールが始まった後で広告をクリックしたことになっているもの」など、どのような根拠を持ってアドフラウド検知を行っているかについては出来る限り開示しており、アドフラウドと判定したデータを各アドネットワークにログデータとして提供できる環境をも用意しています。疑義が生じた場合は、アドネットワーク自身が調べられるようにするためです。

アドフラウドが発生する率やその量について、いわゆるグローバル・プラットフォームと独立系アドネットワークではどの程度の差がありますか。

アトリビューション計測企業としての中立性を保つ必要性から、特定のアドネットワークについての評価を申し上げることはできません。ただ一般論としては、同じアドネットワークを利用しても、広告主やキャンペーンによってアドフラウドの発生率は大きく変わる場合があります。結局のところ、様々な種類のメディアを束ねたアドネットワーク内のごく一部のメディアにアドフラウドが発生しているわけで、広告の配信量や対象地域が異なれば、それら一部の悪質なメディアへの広告配信の有無が変わり、アドフラウドの発生率も変動するからです。

貴社のアトリビューション計測用SDKはオープンソースであると理解しています。ソースが公開されていることでアドフラウドに対する懸念はないでしょうか。

オープンソースに対して大きな誤解があるように思います。まず世の中に普及しているシステムの多くはオープンソースです。またアドフラウド業者の多くは、SDKとサーバー間の通信を傍受し、その通信に似せたデータをつくって当社のような計測事業者に対して偽のデータを送るという手法を用います。この方式において、SDKがオープンソースであるか否かと、アドフラウドに対する脆弱性との因果関係はありません。重要なことは通信を高度に暗号化する仕組みであり、この暗号化の部分についてはAdjustのコードもクローズドであり、見破ることはできません。ちなみにセキュリティに厳格なメガバンクの多くのアプリにもAdjustが採用されています。セキュリティ上改善すべき点が見つかった際に、第三者からの意見を取り入れて修正ができるということもオープンソースの利点です。

自社サーバーの運用にもこだわりを持っていると聞きました。

競合他社の多くはGoogleやAmazonといったクラウドサーバーを利用していますが、当社は自社サーバーを運用する体制を敷いています。金融系の事業者など自社データを第三者へと預けることができない、つまりクラウドが許容できないお客様にも安心してお使いいただきたいという点と、サーバーに何か問題が生じた際に自社で解決できる強固な体制や環境を自ら作り出すためです。また当社ではデータ送信時にお客様のサーバーからレスポンスがなければ、データがきちんと届くまでリトライする設計にしています。このようにデータをきちんと届ける環境を構築するには自社サーバーを持つべきであるというのが当社の考えです。Adjustはデータが欠損なくしっかりと届く、という点は多くのパートナーに評価いただいているポイントです。

「抽出できる生データの種類は業界最多」とのお話がありましたが、マーケッターが処理できるデータ量には限界があるのではないでしょうか。とりわけダッシュボード上には表示されない、生データの分析にはマーケッター側にも一定のスキルが必要とされます。

お客様によって必要とするデータは異なります。それぞれのお客様がほしいと思ったときにほしいデータが揃っているというのが重要なのです。生データの送信について言えば、インストールが発生した際に、広告IDとユーザーIDを飛ばして紐づけデータをつくるというのが最もシンプルな手法です。そこから取得するデータの種類を徐々に増やしてデータを溜め込めば、今度はセグメントデータを抽出し、リターゲティング広告の配信時に活用できるようになります。

データ分析作業を広告代理店に委託する広告主が多いかと存じますが、貴社提供のデータを手にした広告主と広告会社は、両者間でどのようなコミュニケーションを持つべきだと思いますか。

当社は基本的にはお客様と直接契約をしています。代理店様と一緒にお客様の元へご提案にうかがうということも多々あります。各機能の利用法などについてお客様からお問い合わせがあれば、直接的に提案に動くことができるという環境にあります。

また昨年12月には、Acquired.ioというキャンペーンの一括管理機能を提供する企業を買収しました。従来であれば、当社の画面で流入分析を行った後で、各アドネットワークの管理画面を一つひとつ開き直して操作を行っていたと思いますが、このプラットフォームをAdjustに統合すれば、各アドネットワークの予算管理や買い付けを同一環境で実施できるのです。一部のアドネットワークに関しては目標値さえ入力すれば自動最適化も行います。このような形でマーケッターや広告代理店の業務負担削減にも貢献したいと考えています。

日本オフィスは劇的に拡充予定

6月に2億2700万ドル(約250億円)の資金調達を完了したとの発表がありました。今後はどのような事業展開を予定していますか。

写真3:佐々 直紀氏

機軸であるアトリビューション計測機能を拡充していく予定です。販売するプロダクトが増えてきているので、販売やサポート体制も強化しなければなりません。とりわけ日本オフィスの体制整備を進めていきます。日本を含めたAPAC市場は売上の3割を占める重要な市場です。日本単体でもUS に次いで2番目に大きなリージョンです。今後は日本オフィスの人員を劇的に増やしていくことになると思います。

日本市場における市場占有率はどれほどと認識されていますか。

App Annie社が提供する市場データのアプリランキング上位100社のうち、45社が当社のSDKを実装しています。さらに今年になってアドウェイズ社より事業譲渡を受けたPartyTrackを導入しているアプリを合わせると、市場占有率は5割を超えます。

またAdjustは、アトリビューション計測プロバイダーとして、Google、Facebook、Twitter、LINEなどの主要メディアの計測を行うことのできる、公式パートナーとして認定されています。マーケッターが利用しているメディアのうち一つでも測定できないとなれば、それだけで選定対象から外れてしまいます。その意味で参入障壁はかなり高い事業です。

アトリビューション計測以外の事業領域も拡大していく見込みなのでしょうか。

今年1月には、モバイル端末に入っているセンサーを通じて、スワイプの速度、タップの圧力、端末の傾きなどを分析することでアプリ内の不正なボットを検出する技術を持ったUnbotifyというイスラエル企業を買収しました。例えばゲームアプリには機械にプレーをさせてレベルアップを図る「チートツール」というものがあるのですが、これを検知できるわけです。またEコマースのアプリであれば、セール実施時に機械的に大量に商品を購入して転売するという不正ボットを検知することもできます。

Unbotifyに関しては、マーケッターというよりは主にセキュリティ担当者やアプリプロデューサー向けの機能ですね。このような形で、今後もアプリ計測を基点として事業領域をますます広げていきたいと思っています。

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長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。