「売らんかな」は絶対にしない-ファンサイト「エンゼルPLUS」を成功させた森永製菓のこだわり [インタビュー]

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オウンドメディア全盛の時代。とりわけ、自社商品に愛着を持つユーザーばかりが集うウェブサイトを構築したい、と願う企業は少なくないだろう。ただ優良顧客を集めるのは容易ではない。そこで24万人の会員を誇るファンサイト「エンゼルPLUS」を運営する森永製菓の担当者に、そのノウハウなどについて聞いた。

(聞き手:ExchangeWire Japan 長野雅俊)

マスメディアの広告効果減少を受けてファンサイト創設

自己紹介をお願いします。

森永製菓株式会社マーケティング本部広告部の松野員人と申します。1994年に入社し、主に営業やマーケティングを担当してきました。2017年から森永製菓のファンサイトである「エンゼルPLUS」の運営に携わっています。

エンゼルPLUSの概要についてお聞かせください。

2013年11月に開設し、現在の会員数は24万人。月平均で66万PV、8万UUという規模にまで成長しました。会員様が自ら森永製菓に関する様々なネタを投稿し、それらの投稿をまた様々なユーザーが閲覧し、そしてコメントをする、というサイクルを繰り返すことで、森永製菓のマインドシェアを高める役割を担っています。

サイトの構成は大きく4つに分かれます。①森永製菓の製品を購入したり、その製品を材料として料理したときにその模様を写した写真を投稿してもらう「エンゼルギャラリー」。②当社社員が会員に対して質問を投げ掛ける、または会員自らテーマを設定して意見を募る「エンゼルPLUS掲示板」。③キャンペーン情報や商品開発秘話を紹介する「エンゼルブログ」。そして、④「『チョコモナカジャンボ』をオーブンで30秒ほど温めるとモナカがパリパリになって美味しい」といった森永製菓にまつわる豆知識をお知らせする「KAZのつぶやき」。

「エンゼルPLUS」のトップページ

画像:「エンゼルPLUS 」スクリーンショット

写真提供:森永製菓

いずれも会員の皆様との交流の促進が目的です。また「エンゼルPLUS掲示板」と「エンゼルブログ」は、商品についての簡易的な調査を行うためのプラットフォームとしても機能しています。今では24万人もの会員様がいるので、当社のブランド担当者から「アンケートを取りたい」との要望を受けることが多くなりました。

どういった経緯で本サイトを開設したのですか。

一昔前と比べて、今では情報端末が劇的に増加しました、従来のマスメディアに広告を掲載しても、その効果が薄れてきているという実感があります。この課題に対する対策の一つとして、ファンサイトの創設に至りました。

どのような体制でサイト運営を行っているのでしょうか。

森永製菓からは私一人のみです。あとは外部のマーケティング会社に企画や制作の面でご協力をいただいています。この協力会社様とは、月1回の定例会に加えて、メールや電話で日々やり取りを行っています。

サイトを運営する上でのKPIは何ですか。

2つありまして、一つは月1回以上のログインを行うアクティブユーザー数。現在はこのアクティブユーザーが8万です。

写真2:森永製菓  松野員人氏

もう一つは、顧客ロイヤルティを計測するNPS(ネット・プロモーター・スコア)。会員様に対して、アンケートを通じて「森永製菓の製品を親しい友人や家族にどの程度お勧めしたいですか」と質問し、その程度を10段階で評価してもらいます。1~6は批判者、7~8は中立、9~10は推奨者と見なし、批判者と推奨者の割合を計る指標です。

批判者を多めに計上する設計のため、人気企業でもマイナス値となる傾向が強いのですが、エンゼルPLUSの会員様の間ではこのNPSが+53.2となっています。

広告部が費用負担することでサイトの独立性を維持

売上に関する目標値は設定していないのですね。

「エンゼルPLUS」においては、「売らんかな」という姿勢を出さないように徹底しています。森永製菓の製品を好きになってもらうことを何よりも優先するためです。「売らんかな」という姿勢を出した途端、お客様は離れていってしまいかねない。だからサイト上に「ぜひとも買ってください」というメッセージや「通販サイトはこちら」という案内は一切出しておりません。

ただし、エンゼルPLUSの会員様だけに発売前の商品をご案内するといったように、会員様に明確なメリットを提供できるのであれば、今後はサイトを通じた製品の販売活動を行う可能性もあります。

売上に直結しない事業を運営することに対して社内の理解は得られているのでしょうか。

その点については、エンゼルPLUSの運営にかかる費用を広告部が負担しているという点が大きいです。当社はブランドごとに分かれた事業部制を採用しているため、通常は例えば「ハイチュウ」と「チョコボール」でそれぞれ広告予算が用意され、それらの予算が広告部に下りてくる、という仕組みです。ただし、エンゼルPLUSに関してはどのブランドからも予算をいただいていません。

ブランドや経営戦略部に予算を紐づけてしまうと、ブランドごとの販売計画や会社全体の経営状況次第で年によって予算が付いたり付かなかったり、という状況になりかねない。すると、会員の方々と継続的なコミュニケーションを取ることができなくなりますよね。そのような状況に陥ることを避けるために、広告部の予算で運営するようにしています。

実際のところ、「エンゼルPLUS」は貴社製品の売上には貢献していないのでしょうか。

「『売らんかな』は絶対にしない」を標榜している以上、売上に関する詳細は公表できませんが、一般消費者に比べて、会員様の年間購入額は明らかに高いです。その差額から推計すると、数億円単位の売上効果を生み出していると思います。

収集したデータは商品開発やイベント集客に活用

会員登録を促すことで、貴社には大量の会員情報が集まることになります。それらのデータをどのように保存していますか。

名前やメールアドレスといった個人情報は外部委託しているマーケティング会社に厳重に管理するようお願いしており、森永製菓の社員は誰も触れることができません。ただし、エンゼルPLUSを含む森永製菓のHPを訪問したユーザーの匿名データについては、すべてDMPで全部管理しています。

収集したデータはどのように活用しているのでしょうか。

写真3:森永製菓  松野員人氏

一つは、開発担当者が事前にスクリーニングした会員様に対して、当社の新製品について質問し、掲示板上で答えてもらう、という試みを行っています。当社としてはファンからの貴重な意見を得る機会となりますし、会員様の中には商品開発に関わることに喜びを見出してくれる人もいます。

市販品ではないのですが、実際に「東京ピーナッツマニア」という製品は、会員様のご意見を踏まえて、包装、個数、小売価格などを変更しました。来年は市販品でも会員様との共同開発を実現したいと考えています。

また会員様を対象としたリアルイベントを全国で開催中です。昨年は7都市で合計28回開催し、総計650人が来場。森永製菓のお菓子が食べ放題、ハイチュウを使った工作や、ホットケーキがうまく膨らむ焼き方の実演などを行いました。また当社社員から商品開発秘話を聞くことを楽しみにしていらっしゃるファンの方々もいます。

いわゆるオンラインとオフラインの融合ですね。

先ほどサイト運営においては外部のマーケティング会社の協力を仰いでいると申し上げましたが、イベントは全面的に自社運営し、司会も私自身が務めています。

イベントの模様を記した体験レポートを、ブログやSNSを通じて発信してくれる会員様も非常に多いです。その結果、またさらにオンラインの新規会員が増えて、その会員がアクティブユーザーとなり、マインドシェアを高める、という好循環を作り出すことができていると思います。

広告施策にはデータを活用していないのでしょうか。

昨年までは、DMPに溜め込んだ匿名データをリターゲティング広告や拡張配信に活用していました。しかしながら、最近ではスマートフォンを通じて例えば「過去1カ月以内にスポーツクラブに行った人」「○○というお店で□□という商品を買った人」といったユーザー情報を取得できるようになってきています。つまりオンライン上の行動だけではなく、実際の生活行動まで把握できるようになったわけです。リターゲティング広告にかかる広告単価が一般的に割高であることに加えて、生活行動に応じて広告配信した方がユーザーの反応は良いとの感触も得ていることから、最近ではDMPを使った広告配信は行なっていません。

お菓子という商材だからこそ成功しているのかもしれない

エンゼルPLUSの運営を通じて、小売店や流通を飛び越し、消費者と直接的なつながりを持ちたいという狙いもあるのでしょうか。

流通を通じての販売を基本とする事業モデルを変えるつもりはありません。そもそも、お菓子という商品は通販ではあまり売れないのです。お菓子の販売の8割を非計画購買が占めるからです。つまり、店頭で見かけてそのとき初めて「あっ、このお菓子を買ってみよう」という気持ちになるという代物。主戦場はあくまでも流通であり、エンゼルPLUSは流通での購入を促すことを目的としてマインドシェアを高めるための施策のひとつに過ぎません。

ファンサイトという消費者生成メディア(CGM)を運営する以上、炎上やヘイトスピーチなどの問題への対処が必要になるのではないかと想像します。

実際に、他のユーザーを誹謗中傷するユーザーの存在により、それまで積極的に交流してくれていた会員様が辞めてしまったという事例は過去にありました。そのような事態に陥らないように様々な工夫を凝らしていますが、そのうちの一つが「キャンペーンハンターやバーゲンハンターを呼ばない」。値引きやプレゼント企画で入会促進を図ると、エンゼルPLUSの趣旨を理解していないユーザーが入り込み、サイトが荒れる危険性が一気に高まります。またサイト上に誹謗中傷が見つかればすぐに削除し、削除した理由を書き込んだ当人にきちんとメールで説明するなどの対応を取ることも重要です。

最後に、ファンサイトを成功させるための秘訣を教えてください。

エンゼルPLUSがここまでの規模にまで成長したのは、当社がお菓子という商材を扱っているからという点がかなり大きいと思います。お菓子は、誰にとっても、幼少時代から常に身近にあるもの。消費者の愛着を得やすいのです。他の商材でファンサイトを運営してみなさいと言われても、成功させられるかはわかりません。

ただあえてヒントとなりそうなことを申し上げるのであれば、アウトドアブランドの「スノーピーク」もウェブサイト会員に対して、キャンプイベント企画とともに同社製品を実際に使ってもらうという体験型のイベントを運営し、話題を集めていますよね。この「体験型」というのは成功の秘訣となり得るかもしれません。オンライン会員にリアルなイベントを通じて自社の製品を使ってもらい、その良さを知ってもらい、感動が生まれて、ファンが増える、という仕組みをつくることができれば、ファンサイトの意義は深まるのではないでしょうか。

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長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。