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国ごとの特徴を抑え、デジタルで情報の「導線」を作る-LIFE PEPPER流インバウンド市場開拓法

写真1:高橋 佑輔氏

訪日外国人の増加に伴い、企業や自治体のインバウンドを対象にしたマーケティング活動が盛んになっている。インバウンド需要を確実に取り込むには、海外の口コミサイトやブログ等の媒体、SNS等デジタル活用の手法も多様化しており、国や地域の特徴を抑えたコミュニケーション戦略が求められる。

それぞれの国・地域におけるプロモーション手法の特徴はどのように異なるのか。海外の幅広いエリアに向けたデジタルマーケティング支援を行っており、インバウンド支援や越境EC支援にも積極的に取り組んでいる 株式会社 LIFE PEPPER ソリューション事業部の高橋 佑輔氏に、同社の取り組みと合わせてお話を伺った。

聞き手:ExchangeWireJapan 川口幸映

「外国人目線」、「ツーリスト目線」、「消費者目線」で考える

自己紹介をお願いします。

2014年にLIFE PEPPERに入社しました。それ以前は経済産業省で原子力規制委員会の立ち上げに携わっていて、組織が安定化し一区切りがついたとき、日本の中だけでなく海外にも目を向けて働きたいと考えるようになったことが入社のきっかけです。現在は企業や自治体の訪日インバウンドの集客・マーケティング支援、越境EC支援等に取り組んでいます。

貴社が提供するサービスの特徴についてお聞かせください。

クライアントのゴール設定から、単発ではなくトータルのマーケティングを提案できる点が特徴です。当社にお声がけをいただいた段階では、クライアントが海外対応に慣れていないことがほとんどなので、課題の抽出から始まり、立地や予算、施設の強み等から、有効な施策を検討していきます。

マーケティングの観点は「外国人目線」に加え、インバウンドは「ツーリスト目線」、越境ECは「消費者目線」で考えることが求められます。両者はターゲットのセグメントが大きく異なるので、アプローチの方法も変わってきます。

対応エリアが世界中に亘っていることも特徴の一つで、東アジア、東南アジア、欧米豪に分かれています。手前味噌ですが、これほど広い国・地域へ戦略的な海外マーケティングを提供できる企業は少ないのではないかと思っています。

コミュニケーションで埋める、プレーヤーとサポーターとのギャップ

写真3:高橋 佑輔氏

インバウンド事業についてお聞きします。インバウンド向けのマーケティング支援をしていく中で、貴社ではどのようなことを重視していますか?

クライアントとのコミュニケーションが重要と考えています。インバウンド業界では、訪日外国人と直接やり取りして利益を受け取る「プレーヤー」と、そのマーケティングを支援する弊社のような「サポーター」が存在します。プレーヤーは訪日外国人と日々接しているので現場の状況をよく理解していますが、サポーターはそうではないので二者間のインバウンドに関する認識に差が生じてしまいます。このギャップを埋めるには、サポーターからプレーヤーに積極的にコミュニケーションを図っていくことが必要です。弊社では店舗に行って現場の方から話を聞いたり、インフルエンサーと同行してディスカッションをしたり、プレーヤーとコミュニケーションを取る時間を大切にしています。

現場に行かないと分からないことは本当にたくさんあって、例えば台湾人に人気の缶チューハイがあるのですが、その中でも特定の味の人気が群を抜いている、というような話は、実際に店舗の商品棚を見ながら聞くと説得力が違いますよね。詳細な消費動向や現場の状況は実際に見て話を聞くことで理解が深まるので、プレーヤーの方々がどのような思いで訪日外国人を迎えているのか、最新の状況にキャッチアップしていくように心がけています。

更に、プレーヤーの中でも店舗等の現場と本部とでは温度感が異なっています。プレーヤー内のギャップを埋めるのもサポーターの重要な仕事のひとつです。弊社では現場で聞いた話を本部に伝えたり、本部の人を連れてインバウンド最前線のエリアに視察に行ったりしています。

国ごとの特徴を抑え、デジタルで情報の「導線」を作る

インバウンド需要が特に見込まれるエリアは東アジアになると思いますが、その中でも国による違いはありますか?

インバウンドでまず注力すべきエリアは中国、韓国、台湾、香港と考えられています。同じ東アジア圏ですが、情報検索の方法も国によって異なっていて、各国の特徴を抑えたマーケティングが求められます。例えば、台湾と香港は情報収集にGoogleを、韓国はNAVERを使いますが、中国は検索エンジンではなくWeChat等のアプリで検索する層も増えています。

各国の特徴、それによるマーケティングの難しさはどのようなところにありますか?

韓国と台湾はブロガーの影響が大きいです。ブログは長年使われているソリューションではありますが、方法によっては絶大な効果が見込めます。各国でブロガーの仕事スタイル、いわば「文化」が異なるので、そこを理解して施策を進めるのがポイントです。

韓国の場合、ブロガーに固定ファンがついている訳ではなく、面白いコンテンツを書ける人の記事が読まれます。ブログ記事はフォロワーに向けて発信するものではないので、NAVERに最適化された、韓国流のSEO対策をする必要があります。

また、NAVERブログのカテゴリページでは、公開されたブログは必ず上位に表示されるという特性があります。表示されるブログは最大10件なので、例えば10人のブロガーに同じテーマの記事を書いてもらい、同じタイミングでアップしてしまえばそのカテゴリに関して表示される情報を独占することもできます。

韓国のNAVERという検索エンジンは本当に独特で、その特性をきちんと理解し、更に韓国人が実際どのようにNAVERを使っているのかを分析したうえでブロガーを起用すると効果的ですね。

台湾の場合、韓国とは異なりブロガーには固定ファンがついています。今の日本のYouTuberのように芸能人に近い存在で、ブロガーとして活躍できることは社会的にも認められています。そのため、台湾で活躍するブロガーはプロ意識が非常に高いです。

ブロガーが書いた記事にサポーターから直しを入れてしまい、ブロガーとのやり取りが上手くいかなくなったり、記事の面白みが失われて効果が出なくなったりすることは本当によくあります。台湾のトップブロガーはプロなので、ビジネスパートナーとして「コンテンツは一任する」という信頼関係のもと仕事を進めていかなければなりません。

「ブロガーの影響力が強い」という点は共通でも、特徴は大きく異なりますね。中国、香港の状況はどうでしょうか?

中国は国民性の理解からスタートしなければならないという点に難しさがあります。デジタル広告は非常に進んでいて様々な媒体があるので、それらをどのように使いこなしていくかがポイントです。今、中国マーケティングでおすすめしているのは「微信(WeChat)」の戦略的な活用の他、口コミサイトの「大衆点評」、旅行口コミサイトの「馬蜂窩」の2つです。中国のインフルエンサーはKOL(Key Opinion Leader)と呼ばれていますが、KOLに口コミを書いてもらうと効果があると言われています。しかしKOLの影響力頼みではダメで、商品・サービスのUSPやそもそもの戦略をみて、「何故これを中国人が話題にするのか?」と俯瞰して見ることから始めなければなりません。

一方で香港は人口が少ないので、中国のようなインフルエンサー起用は効果が見えにくいと考えています。メディア掲載やリスティング広告、雑誌掲載等を組み合わせる方法もありますが、まずは韓国や台湾で成果を出してから、より大きな市場へ展開していくことを勧めています。

東アジア各国の特徴をお聞きした通り、マーケティングの手法は様々です。マーケティングにおいてデジタルが果たす役割はどのようなところにあるのでしょうか?

基本的に海外旅行のメインは観光になるので、買い物は二の次になると考えなければ、誤ったマーケティング手法、考え方に陥ってしまいます。インバウンド向けマーケティングで追求すべきは「買ってもらうまでの導線をどう整備するか」という点にあります。

訪日外国人が様々なエリアに足を運ぶ中で、「ここで買い物をしたい」と思ってもらい、行き先として選んでもらうために、効果的に情報を提供して導線を作る。それがデジタルマーケティングの役目です。逆に言うと、デジタルマーケティングでできることはそれくらいしかないと思っています。デジタルが最高の手段と言われている世の中で、それがメインの武器になり得ないところにインバウンド向けマーケティングの面白さがあります。

成果の積み重ねがインバウンド市場拡大の鍵 

写真2:高橋 佑輔氏

インバウンド市場で課題に感じられていることを教えてください。

インバウンド向けにマーケティングを検討し始めるとき、対象国が最初から決まってしまっていることです。多言語対応は、英語、中国語繁体字、中国語簡体字、韓国語の4つで始めるのが定石になりつつありますが、「その4言語以外の国の人は来ないでいい」ということでは決してないですよね。「何故その4言語なのか」という問いを誰もしていないのです。よくある分け方に沿うのではなく、実際に来ている人を見て、どこの国に注力するべきかをしっかり分析しなければなりません。「外国人目線」と「ツーリスト目線」をベースに、インバウンド需要を増やしたい国、伸ばしたい数字を選定し、早い段階から時間をかけて情報を発信していけば「日本に行くならここに行かないと」という場所、いわば「インバウンドの聖地」にすることができます。

個人的にはロシアがチャンスだと思っています。非常にニッチなので実際にロシア向けにプロモーションをしようという企業は今のところないのですが…ロシア語でロシア人向けに情報を発信している企業はほとんどないので、効果が期待できるのではないかと思います。

2020年に東京オリンピック・パラリンピックを控えています。今後の市場の伸びをどのように見ていますか?

2020年のオリンピック・パラリンピックの期間は、直近の訪日外国人観光客の動向とは違う傾向が出てくるはずです。ゆえに、その時期は海外にPRする場だと思いきり割り切って、翌年の2021年からを主戦場と考えるべきだと考えています。また、2025年まで、インバウンド市場は大阪を筆頭とした関西圏が牽引してくれることを期待しています。

このように、訪日外国人を相手にビジネスをするインバウンド市場はオリンピックによる一時的な増加ではなく、永久に続く産業だと思考をシフトする必要があります。そのため、インバウンド向けのマーケティングは単発の成果を見るのではなく年間の施策で売上を伸ばし、継続性のある取り組みをしていくべきです。

インバウンド市場における本当の成功というものはまだ一つも出ていないと思っています。というのも、訪日外国人数は今後も伸びていくので、現時点での成功は通過点にすぎません。インバウンド市場の成長のためには、一つでも多くの成功パターンを見つけて作っていくことが重要です。

最後に、今後の目標を教えてください。

サポーターは中小企業やベンチャー企業が多く、一貫した良質な支援サービスを提供できるところは多くないのが現状です。プレーヤーはインバウンドのデジタルマーケティングをいよいよ本格的に進めていこうという段階にきているので、LIFE PEPPERがその旗振り役になれたらと思っています。

インバウンド市場を国内で1番の産業にするためにも、日本が本当の意味で世界の一員になるサポートをしていくためにも、まずは今取り組んでいる事業をひとつひとつ頑張っていきたいと思います。

ABOUT 川口 幸映

川口 幸映

ExchangeWire 編集担当
同志社大学文学部英文学科卒業。教育書・実用書の出版社等を経て 2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 IT関連他、インフルエンサーマーケティング領域の調査などを担当する。