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「ぜんぶ議論しよう!」2019年のアプリマーケ業界と今後の行く末-前編-[インタビュー]

ビジネス環境が目まぐるしく変わるアプリマーケティング業界界隈では、夜な夜な様々な議論が交わされているが、実際にどのようなことが話題になっているのだろうか。

アプリマーケティング業界にあって、議論を先導するあの方々に、昨年に引き続き今年もお話を伺った。

 

(聞き手:ExchangeWireJapan 野下智之)

■大手広告代理店:覆面アプリ担当マネージャー

■バイサイド・DSP:天野 耕太氏(Liftoff Country Manager, Japan and Korea)

■セルサイド・SSP:池田 寛氏(Supership株式会社 プラットフォーム事業部 副事業部長(Ad Generation責任者))

 

※取材協力:十兵衛(東京 恵比寿

 

 

 

進む市場寡占、変わるプレイヤーの顔ぶれ

 -2019年の日本のデジタル広告市場は二桁成長と予想されているが、業界各社さんはその実感を伴っていますか?

 

池田氏(写真右):みなさん、乾杯しましょう。さて、大手広告プラットフォームを除き、デジタル広告市場で言われている成長率ほどの勢いを感じなくなってきた気がします。天野さん、いかがでしょう?

 

天野氏(写真左):アプリ/Webという違いは置いておいて、今Google、Facebook、Yahoo!JAPAN、Twitter、LINEなど大手広告プラットフォームのシェアは、7-8割くらいになっているという話もあります。残りの2-3割を、独立系の事業者が獲り合っているということですよね。(天野氏、いきなり勢いよく飲む)

 

天野氏:ウェブ媒体でも国内の広告枠として以前から良く名前を聞くサービスがサービスを終了したり広告枠を撤廃したりビジネスモデルを変えたというような話も聞きます。逆に日本に新たにサービスが続かないという様なこともありますが、大手広告プラットフォームだけで済んでしまうのではないか、というような話もあるのですよね?

 

覆面氏:独立系のローカルのアドネットワークに比べると、GoogleやFacebookは、自動化と機械学習によるアップデートが日進月歩で進み、結果としてサービスの差が開いてきている印象です。

 

天野氏:同じ機械学習でも、どれだけデータを集めて、それをもとに最適化をしていくかということが、サービスの差別化につながっています。GoogleやFacebookが機械学習の元にしているのは、膨大なユーザー単位のデータです。

一方でいわゆるアドネットワークが強みとしているのは、基本的には案件+配信面データですよね。

 

池田氏:でも、CPIも大事だけど、件数も必要とするパフォーマンス広告では、最初からあまりターゲティングで絞らずに配信面をベースに広く配信するほうが良かったりしないのですか?

 

天野氏:配信面は勿論重要な要素であると思うのですが、最終的に強いのはユーザーデータです。この点においては、アドネットワークに限らず、私が従事しているDSPも含め独立系のサービス事業者とは差があると思います。

 

池田氏:(Supershipとしてテンションが上がる)

 

覆面氏:配信面についていうと、数年前までは、効果が悪い同一の面というのが、名前を変えてSSPを渡り歩くという現象が起こりました。切っても切っても違うSSPから入ってくるという現象が起こっていました。

 

池田氏:(Supershipとしてテンションが下がる)

 

天野氏:一方でDSP側で配信面単位で制御しようとすると、一般的にはWebであれば配信サイトのドメイン、アプリであればアプリ単位で制御する事が主なので、実装方法などの問題で個別の配信枠だけが効果が悪い場合にも、そのサービス全体を止めて機会損失を起こす可能性がありますね。

 

 

自動化の進展で、問われはじめる広告運用者の役割

 

池田氏:自分はパブリッシャー側の仕事がメインだったので、覆面さんに聞きたいのですが、GoogleやFacebookなどの大手広告プラットフォームは運用の自動化が進み、誰でも簡単に同様の効果を得られるような進化を遂げつつあります。そうなると広告代理店の運用担当者による運用の差別化がしにくい。

また、大手広告プラットフォームを軸に予算配分するにしても、それ以外の新しい媒体を見つけるなどにより、いかに広告プランニングでオリジナリティーを出すかが、腕の見せ所であると思っていたのですが、もうここまで自動化が進むと、ベースの部分があまりにもよくなりすぎて、その他のところを試してみる意欲がなくなってしまうのではないかと思うのですが、いかがですか?

 

覆面氏:その通りであると思いますね。広告代理店担当者が割と好んで提案しがちなスマホアドネットワークの予算も減ってきているという印象もあります。

 

天野氏:僕もそう思っていて、例えば極端な話予算がかなり限られているアプリの広告主が、大手だけに予算を寄せるケースは増えている気がします。

 

池田氏:大手広告プラットフォームがそこまで完璧な機能に仕上がってきたとき、広告運用者は個々の技で勝負することが出来なくなりますよね。

 

覆面氏:今後は、ただの広告運用者というのは価値が下がっていくのではないでしょうかね。個人的な意見として、私は、広告代理店で、ほぼ運用だけしか経験していない人たちにマーケッターを名乗って欲しくないと思っています。

 

天野氏:広告代理店の立場の方にとっては頭の痛い問題だと思いますが、そうなってくると広告代理店さんの価値というのはどこに求められるようになるのでしょうか。これは良く出る話題だと思うのですが。

 

覆面氏:大切なのは運用した結果に対するアウトプットであり、そこに価値を出さないといけないと思っています。

 

これまで蓄積した知見やユーザーインサイトをもとに、仮説を立てて実行をし、アウトプットをし、それをまた検証する。このようなPDCAを回せることが、最低限の広告代理店の価値だと思います。

ですが、今、広告代理店で頑張っている人たちは、運用することが主な仕事になってしまっている人が多い気がします。

 

池田氏:「俺の技だとあいつよりCPIを合わせられる。」というのがバリューになってしまっていると。

 

覆面氏:大手広告代理店の場合、Facebook担当、Twitter担当などと分かれていたりしますが、このような組織形態のあり方が、5年後にどうなるのだろう?と思うことはありますね。

 

池田氏:広告プラットフォーム側の自動化が進めば、広告代理店で運用をしている人たちは、今のままでは価値を発揮することが出来なくなる。これは、クライアント自体のインハウス化が進むことにもつながりますよね。

 

覆面氏:GoogleやFacebookの広告運用に関しては、インハウス化しているクライアントは増えていますよね。

 

池田氏:Webメディアの記事などを見ていると、クライアントは一旦インハウス化をしても、その後また、広告代理店との取引を再開しているケースが多々あるようですね。

 

覆面氏:クライアントが広告代理店と取引をすることのメリットの一つは、競合他社の事例を知っているうえでの仮説検証が出来ることです。あとは、クライアント側がメディア出稿担当の部門にそれほど多くの人材を抱えることができにくいので、その部分が広告代理店取引に流れてきているということはあると思います。

 

池田氏:日本の大手広告主の場合、ジョブローテーションがありマーケティング部門の担当者は2-3年で交代するという状況もあることから、インハウスに対する向き合い方は海外企業とは異なるのではないでしょうかね。

 

覆面氏:そうですね、日本の大手広告主の場合、インハウス化はなかなか定着しないかもしれませんね

 

 

改めて考える、広告代理店の機能と価値

-インハウスというキーワードも今年話題になりましたが、日本でも普及が進んでいくと思いますか?

天野氏:最近私たちがアプリマーケティングをテーマにイベントをするとき、クライアント環境がインハウスになっていくことを前提にやることが多いです。勿論私は、日本の市場でインハウスが進めばいいとは別に思ってはいませんし、インハウスを後押しするような論調で話すことはありません。

ただ、マーケッターに登壇してもらうと、やはりかなりの確率でインハウス化の話題が挙がります。最近は広告代理店出身のインハウスマーケッターが増えていますし、あるいは広告代理店から独立してマーケティングコンサルを立ち上げる人も増えています。

自分の中でピリッとする、日本における広告代理店の介在価値があることにつながる論理が見つけられていません。アプリのマーケッターとのパネルディスカッションでよく話に上る広告代理店の価値は、大きく三つあります。一つ目は労働集約型のサービス。二つ目は新しい媒体や競合などに関する情報の収集力。そして三つ目はクリエイティブです。

Webの世界では、例えば私の前職の商材は当時はリターゲティングしかなく、やはりサーチで人がどうやって入ってきて・・。というようなことも含めて、マーケッターの悩みに向き合って、色々な媒体を使って何が出来るのかというグランドデザインを考えるのはやはり広告代理店ならではの価値なのかなと思っていました。

ですが、こと現職で向き合っているアプリのプロモーションにおいては少し違うなと感じることが多くて。アプリのマーケッターと話すと、グランドデザインに付き合ってくれるほど広告代理店も時間がないし、そんなことに付き合ってくれる人になかなか出会えない、ということをおっしゃる方もいます。

 

覆面氏:恐らく天野さんのおっしゃることは正しいのではないでしょうか。それ以上にそのあたりまで考えることができる人材が広告代理店界隈に非常に少ないというのが現状だと思います。

 

池田氏:その、「いない」というのは、広告代理店にとってそこがビジネスの主戦場ではないから誰もやらないからなのか、それが出来る人が本当にいないからなのか、どちらなのでしょうか?

 

覆面氏:当事者の感覚でいうと、おそらく後者ではないでしょうか。アプリの広告市場はここ数年で一気に市場が伸びました。同時にデジタル広告代理店では、アプリ業界を担当する人たちの社内での評価とプレゼンスが上がりました。

もちろんすべてではないにしろ、CPIを合わせて売上を上げることだけで実力とは関係なく役職が上がったケースも少なからずあるのかもしれませんね。

媒体側にとって、インハウス化はどのような影響が及ぶのでしょうか。今までは代理店数社と取引をしていればよかったですが、インハウスになると取引先は増えますよね。

 

天野氏:前職のCriteo時代に代理店制度の立ち上げを経験しましたが、広告代理店重視のビジネスをしてきました。日本では広告代理店とのパートナーシップ強化が必然でした。

現職のLiftoffはどうしてもサービスの規模や知名度、マーケットにおけるポジションなどが理由で、なかなかリソースを割いてもらうことが出来ないので、予め直接広告主にアプローチし、その後担当する広告代理店を巻き込ませていただくという方法を取ることも多いです。ですが一方で、広告代理店からすると大手広告媒体への対応に多くの時間を割く必要があり、結果として小さな媒体に気を遣うことも限られることでしょうから、ときに、ご迷惑をかけているのではないかと、感じることもあります。

 

覆面氏:そこでうまくできないのは、広告代理店側の媒体に対する発注力にも課題があるのでしょうね。

本来であれば、何らかの発注をする際、これはどのような意図で発注するのかというところの解像度を高く発注先に伝えるべきです。広告代理店の担当者は、広告主がどのような意図で発注をしてきたかを、可能な限りくみ取った上で媒体側に伝える必要がありますよね。ですが、解像度が低いと、媒体側に対して「忙しい」というメッセージしか伝わらない・・。ということなのでしょうかね。

 

池田氏:でも、広告代理店を通さずに、媒体が直接広告主にアプローチすると嫌がられたりすることはないものでしょうか?

 

天野氏:いわゆるブランド領域は分かりませんが、アプリの領域ではそのようなことはないです。マーケッターの方も媒体と積極的に情報や接点を探している方が多い気がしますし、イベントやセミナーなどの交流の場も多いので。商流についてはむしろ、広告主側から広告代理店を通してほしいといわれることはあります。広告主側も、媒体側と1社1社アカウントを開設するのが面倒であったりもするからです。

 

覆面氏:例えば契約書を一つ交わすにしても、とても大変なので、広告主にとって、広告代理店に間に入ってもらうと助かる部分はあると思います。相手が外資系の企業の場合はなおさらです。

 

天野氏:例えばクリエイティブを強みとする広告代理店があります。従来からのブランド領域のクリエイティブエージェンシーという意味ではなく、パフォーマンス広告の運用において介入する意義としてクリエイティブに特化するという意味です。

何かを見出してそこに特化することは重要だと思いますが、Liftoffの場合はこちら側でクリエイティブを用意するモデルなので必ずしもそのポイントにマッチしなかったりするのですが、これは自動化が進んでいる大手プラットフォームにも言える事なのかなと思います。代理店側が強みを出すためのクリエイティブ制作が、媒体によっては向いてないものであったり。このあたりもインハウスの流れの背景にはありそうですが。

 

 

ITPは、GAFAを潤す?!

-ITPについては、アプリの業界ではどのように受け止められているのでしょうか?何か影響がありますか?あるいは相対的に、何か追い風になるような側面もあるのでしょうか?

 覆面氏:ITPに関してはアプリの業界では、そこまでこの話は話題にはなっていないですね。

 

池田氏:ITPの影響はリリースされて数年経過していることもあり、iOSのSafariでのターゲティングなどは既に「できない前提」で事業者は動いている気もします。

アプリ業界に追い風なのか、という意味ではITPの主旨を考えると、このままではiOSのアプリにも適用されていくと考えるのが自然な感じがしますね。

結局、程度の問題でユーザーが不快になるほどリタゲで追い回したり、と、そういう状況を放置していた業界全体の自業自得感は否めません。ユーザー側にもちゃんとわかりやすく選択権をもたせる仕組みが必要です。僕なんか一度ミスタップした薄毛対策の広告に未だに追い回されてます 笑(あくまでミスタップですよ)。

ITPはターゲティングに限らず、広告の効果計測にも影響がありますよね。やはり、独自のIDなどを活用できるであろう大手広告プラットフォームが有利になっていき、他の広告事業者は不利になっていくのでしょうか?

 

天野氏:冒頭の話につながりますが、こういうインパクトがあるごとに広告主は広告予算をGAFAをはじめとする大手広告プラットフォームに寄せていかざるを得なくなります。これは我々にはどうしようも出来ません。

私は現職ではWebをやっていないので、ITPに対するWeb側の感覚は持ち合わせていませんが、WebでのITPへの影響が、アプリの追い風になっているかという考え方については否定的です。Webとアプリとは、未だに分断された別世界のような状況です。

とはいえ、強いて言うならば、インパクトがある変化があるとまた大手にビジネスが寄っていくことになるのでしょうか。(天野氏 ここでグイっと飲む)

ITPに限らず、大手広告プラットフォームの戦略や方針に周囲が影響を受ける流れは加速化しています。極端な例として、もし仮にAppleがIDFAの利用を中止したら、アプリの広告事業者のビジネスは一気に吹き飛んでしまうほどのインパクトがありますからね。

IDFAが禁止になった途端、アプリ広告の計測が出来なくなったり、RTB取引そのものも成立しなくなってしまいますので。

 

池田氏:最近グローバルで決まるルールが私たち日本の広告ビジネスに直接的に影響を及ぼすことが増えてきていますね。それ自体は正しい方向を示したルールであることは理解していますし、拒むというわけでもありません。

ただ、そのアナウンスメントから実施までのリードタイムが、まぁ短かったりするのです。また、新しいルールに対応するために必要な情報の入手にも、苦労しています。

日本国内の事業をメインでやっている場合、後回しでも良いのでは?と甘えてしまいそうになりますが、大手広告プラットフォームは協業先であったりしますので、先方が対応する場合、そのタイミングに合わせてリリースする必要がでてきます。

日本の広告事業者は、グローバルのルール変更に対応していくのに手いっぱいでなかなか他のことに手が回らないという状況もあると思います。もう一杯飲みますね。

 

天野氏:パワーバランスが、大手広告プラットフォームに寄り過ぎてしまっており、彼らのルールに則って、ビジネスをやりくりしていくのに必死ですね。こちら側から彼らのルールに対して問題提起をしても、刺さらないというのが実情です。

 

池田氏:大手広告プラットフォームは競合の側面もありますが、協業パートナーでもあります。目的地はおそらく同じだと思うので、みんなで同じ車線を走って渋滞を起こすのではなく、違う車線を賢く走ることでうまくやっていく必要がありますね。

 

天野氏:私はもともとそう思っています。もちろん悪い意味ではなくて、同じ土俵ではない前提で展開を考えないといけないという意味です。環境の変化が増える事はフットワークの軽い事業者にとっては新たなチャンスが生まれるという側面もあるので。

もともと米国のスタートアップには、GoogleやFacebookが今はまだ手を付けていないから、先手を打ってやっていこう、ということで立ち上がり、数年後のイグジットを目指すケースもあり、そこはそこでエコシステムが成り立っていますよね。

 

天野氏:私はポジティブな意味において、アプリ広告市場と括りはなくなってほしいとずっと思っています。もともとアプリ広告市場というのは、ゲーム会社の予算が大きく、Webとは違う世界があります。ここで一点突破した一部の広告会社があります。

アプリとWebとでは、広告代理店の担当者も違ったりします。

 

池田氏:それは、プロモーションのくくりでWebやアプリというカテゴリ分けがなくなって欲しいということですね。

 

天野氏:今はスマホゲームの市場の成長が少し頭打ちになり、アプリ広告市場の状況も変わってきたと言えますね。

非ゲーム領域の事業者がゲーム会社に変わってアプリ広告業界にそのままお金を落とすようになったかというと、実際のところそんなことにはなっておらず、アプリ専門の広告会社からすると、中にはゲームの足踏みの影響を受けただけという結果になっていたり、大手プラットフォーマーにさらに予算が寄ってしまっただけと捉える人も多いと思っています。そういう変化の中でどうチャンスを見出して活かすかがポイントだと思います。

 

後編に続く)

 

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。