「広告枠販売とデータソリューション提供を両輪に」―ハースト婦人画報社がデータ事業専門部署を創設 [インタビュー]

写真1:ハースト婦人画報社 前西 克哉氏

デジタル広告のエコシステムにおいて、これまで広告主と対極に位置付けられていた媒体社が、広告主との距離を一気に縮めようとする動きが見られ始めている。そのうちの一社が、ハースト婦人画報社。データに基づいたマーケティング提案を行う同社の専門部署の担当者に、現在の取り組みについて話を伺った。

聞き手:ExchangeWireJapan 長野雅俊

データに基づいたタイアップ企画を提案

自己紹介をお願いします。

株式会社ハースト婦人画報社の広告本部ハーストプロジェクト推進室ビジネスマネージャーの前西克哉と申します。Yahoo!JAPANの広告営業を経て、2012年にハースト婦人画報社に入社。25ans(ヴァンサンカン)の雑誌及びオンライン双方の広告営業を担当した後、部門を横断したハーストプロジェクト推進室の責任者となりました。当社主催の美容イベントである「ハーストビューティフェスティバル」のプロジェクトマネージャーなどを兼務しながら、今年9月に新設したデータ事業専門部署であるHearst Data Studioの営業活動を管掌しています。

事業紹介をお願いします。

ハースト婦人画報社は、1905年に作家の国木田独歩が創刊した「婦人画報」を母体としています。現在はその他に「ELLE」、「25ansウエディング」、「ELLE gourmet」、「ELLE DÉCOR」「Men’sClub」など合わせて20以上の媒体を展開。2009年からはEコマース事業を本格的に開始しました。2011年より米国最大級のメディアグループであるハースト社の傘下に入っています。

当社は、女性誌「ELLE」のオンライン版を1996年に開始するなど、非常に早い段階からコンテンツのデジタル化に取り組んできました。さらに年間130以上のイベントを開催するなど、雑誌、ウェブサイト、イベント、SNS、ECを始めとするあらゆるチャネルを通じた「360°戦略」を全社の方針としています。

新設したデータ事業専門部署であるHearst Data Studioの概要をお聞かせください。

今年はまず1月にコンテンツマーケティング支援を専門とするHEARST madeという新部署を立ち上げました。さらに9月にはHearst Data Studioを新設し、媒体事業を通じて得た知見やデータを、媒体運営だけではなく、広告主のマーケティング課題の解決に役立てるための取り組みを行っています。

写真2:ハースト婦人画報社 前西 克哉氏

Hearst Data Studioは、米国本社では既に80名以上の規模で運営がなされている機能です。日本では15人体制を用意。広告主や広告会社に対して、データに基づいたタイアップ企画提案や、ターゲティング施策、効果検証などを実施しています。

媒体社だからこそできること

ターゲティング施策でユーザーを絞り込むと、媒体社としては減収になりませんか。また効果検証を実施すれば、効果がない場合もその事実が明らかになってしまいますよね。

これだけ広告テクノロジーが進化し、ターゲティングや効果検証が実施できる環境が整備されているにも関わらず、出版社だけが「できません」で通すのはもう無理なのではないかと思います。

いずれにせよ、広告主側は、今も昔も変わらず、広告効果を把握したいとの思いをずっと持ち続けてきました。出版社側がそうした思いにどこまで寄り添い、そして具体的にどのような支援を提供することができるのか。例えば「CPAを1万円にしてください」という要望を実現できたか否かだけではなく、購入に至る手前の段階において、「どのようなユーザーが優良顧客になりやすいのか」という分析や仮説検証を、媒体社保有のデータを使って行うべきなのです。

マーケティング支援を目的としたコンサルティングを提供するということですね。

今後は従来の広告枠の販売とデータソリューション提供を両輪とした事業運営を行っていきたいと考えています。先ほどターゲティング実施による減収の可能性についてのご指摘がありましたが、当社保有の20を超える媒体のポートフォリオをまたいだ横展開や別事業への発展につながるのであれば、全体としては増収となり得る。このようにバランスを鑑みた上で全体的な売上を伸ばしていくことが今後の課題です。

マーケティング支援を目的としたコンサルティング事業領域には、今や広告会社、コンサルティング企業、テクノロジー企業がひしめき合っている状況です。これらの事業者とはどのように差別化を図っていくのでしょうか。

当社の優位性は、コンテンツを制作できることにあります。その他の事業形態は豊富なデータや高度なテクノロジーを売りにしていると思いますが、コンテンツ自体をつくることはできません。広告主の要望やユーザーの嗜好に応じたクリエイティブを自前で用意できるというのが、最大の差別化要因になると考えています。

さらに、米国本社が先行して技術開発を行っていることも当社の強みです。本社と連携することで、米国で蓄積した知見を効率的に活用していきます。

KPI多様化に応じたソリューション開発が必要

広告主は、媒体社との直接的な連携を深めたいとの思いを持っているのでしょうか。

広告主のファーストパーティーデータと当社固有のユーザーデータをつなげたいという需要は確実に増えました。Apple社によるITP(Intelligent Tracking Prevention)制限の影響で、トラフィック情報の精度が今後悪くなってくることが想定されます。ファーストパーティーデータを保有する当社の役割は今後増していくのではないでしょうか。

またこれまでも購買意向や認知度を計測するための読者アンケート調査は随時実施してきましたが、広告主のKPIが多様化したことに伴い、ソリューションの種類を増やしていく必要があります。今後はHearst Data Studioがその任務を担うことになります。

貴社の事業全体の中で、デジタル事業の割合はどれほどですか。

デジタル関連売上が全体の5割を占めます。デジタル事業の中ではEC事業が稼ぎ頭で、デジタル広告に限定すると純広告とタイアップ広告の割合が大きい。米国市場では運用型広告が高い割合を占めているのとは対照的です。

日本市場では、とりわけラグジュアリーブランドによる広告の指名買いが顕著です。ブランドセーフティやビューアビリティといった観点から、純広告やタイアップ広告が好まれる傾向があります。

写真3:ハースト婦人画報社 前西 克哉氏

とりわけ、近年ではバナー広告枠において、動画やインタラクティブな表現ができるようになりました。ラグジュアリーブランドは、こうしたリッチ広告クリエイティブの配信先を求めているので、純広告への需要が引き続き根強いというのが現状です。

先行している米国本社が手掛けたデータ事業関連事例にはどのようなものがありますか。

当社グループでは、編集部が「Media OS」という独自のコンテンツ管理システム(CMS)を利用しています。米国ではそのCMSに組み込まれたオンライン上の簡易アンケートを実施できる機能を用いて、媒体ごとの読者属性と興味関心を示すデータに基づいたタイアップ企画を実施するなどしています。同様の施策は日本でも試験的に実施する予定です。

ただ米国市場の保有メディアはいわゆるマスメディアであり、富裕層に支持されたプレミアムメディアを多く持つ日本市場とは読者層が異なるといった違いがあります。今後は日本支社固有の富裕層を中心とした読者層を、データに基づいた具体的なペルソナとして明示及び分析できる環境も整備していきたいです。

データ事業創設にまつわる変革に対して、編集部は対応できるのでしょうか。

以前よりデータを社内の共通言語にすることを全社を挙げて取り組んできたので、特に問題はありません。例えば編集部は当然のことながらPVやUUなどのレポーティングや、広告のターゲティングに必要なコンテンツのメタデータ入力を自ら行っています。さらに当社ではデータドリブン企業となるべく、「データユニバシティー」という名の独自の大学講座を米国で運営しており、全社員が半年間で4講座を必ず受講しなければならない決まりとなっています。Hearst Data Studioの創設は、こうした動きを後押しすることになるはずです。

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長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。