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2020年に日本のライブ配信はこう変わる― CCIとSpotXが語る展望[インタビュー]

東京五輪の開幕が迫り、オンライン動画のライブ配信に対する関心が日増しに高まっている。さらに公正取引委員会によるCookie規制の検討開始や、コネクティッドTVの日本上陸の可能性など動画広告にまつわる話題には事欠かない。動画広告の現場では一体何が起きているのか。放送局によるライブ配信事業を推進する2社に話を聞いた。

(聞き手:ExchangeWire Japan 長野雅俊)

 

SSP側のデータ整備を支援

 

―自己紹介と主な事業内容のご説明をお願いします。

 

原田氏:SpotX Japan合同会社のカントリーマネージャーを務める原田健と申します。2017年よりCCIとの事業提携を開始し、放送局向けのアドサーバー事業とPMP事業を共同運営しています。

 

鶴田氏:CCIで主に放送局向けのアドサーバーを通じた広告配信システムの導入支援を担当する鶴田亮と申します。各放送局のウェブサイトやTVerなどの動画プラットフォーム上に流れるインストリーム動画広告のPMP配信をSpotXとともに行っています。

 

 

この取り組みを通じたアドサーバーとSSPの国内導入局数は約15社。毎月1億インプレッション以上の配信実績があります。

 

丸田氏:CCIのDataCurrent(データカレント)事業を通じて、データに関するシステム構築、マーケティング支援、コンサルティングを担当する丸田健介と申します。DataCurrentでは、Cookie総数が4億UB、モバイル広告IDは1億IDを保有。そのデータをSpotXと連携しています。

 

張氏:SpotX Japanの張舜です。CCIのDataCurrentと連携するSpotXのAudience Management Engineは、さらに12個のDMPとつながっています。最大の特徴は、大量のサードパーティーデータをSpotXのSSPに連携させたことです。

 

 

丸田氏:従来のPMP取引ではDSP側からのみターゲティングがなされていましたが、サードパーティーデータをSSPと連携させたことで、SSP側からもターゲティングができるようになりました。この仕組みを使って、媒体社側がCCI保有のデータまたは自社データを活用した独自の広告商品を開発及び運用することが可能です。

 

日本におけるプライバシー規制の行方

 

―データの利活用が進むにつれて、個人情報の保護に対する意識も高まっているのではないでしょうか。

 

宮田氏:DataCurrent事業担当の宮田朋奈と申します。EU一般データ保護規則(GDPR)やカリフォルニア消費者プライバシー法(CCPA)などに続いて、間もなく日本でもウェブサイトの運営主はCookie情報という個人情報を取得する際に様々な条件を課せられることになる見込みです。そこで当社としては今後、ユーザーの個人情報取得に対する同意を管理するために必要となるコンセント・マネージメント・プラットフォーム(CMP)の導入を促進していく予定です。

 

張氏:GDPRにおいては、ユーザーが新しいウェブサイトを訪問する度に同意を取り、同意が示された場合に限り、そのユーザーに関する情報をDSP側に渡すことが許可されています。よって、サードパーティーデータを用いたターゲティングが行いにくい環境にあります。

 

一方のCCPAでは、サードパーティーデータをデータ取得者以外の企業と共有する場合はその旨を明示することを義務付けるというものなので、2020年1月の施行後もGDPRほどの大きな影響を及ぼすことはないと言われています。いずれにしても、今後日本でどのような規制が整備されるかによって、求められる対応は大きく変わることになります。

 

ちなみにコネクティッドTV向けストリーミング端末の中でも、とりわけRokuはデータの扱いが厳しく、デバイスIDやIPアドレスといった情報をDSP側に渡しません。ファーストパーティーデータの流出を避けたいと考えるこうした媒体社向けに、SpotXでは「オーディエンスロック」というプロダクトを通じて、DSP側に送る情報を媒体側で制御できる仕組みを用意しています。

 

オリンピックに向けたライブ配信の課題とは

 

―2020年1月時点では、テレビ局によるオンライン配信というと、テレビ放映後に視聴することができるいわゆる「見逃し配信」が主流です。東京五輪開催時にはテレビ放映と同時に視聴できるライブ配信が大々的に実施されることになるのでしょうか。

 

鶴田氏:現時点の想定では、インターネット上でもライブ配信として視聴できることに加えて、広告部分だけテレビとインターネットでは異なる内容が表示されるといった形態になる見込みです。

 

ただし、同時視聴者数が増えると映像配信サーバーへの負荷が増えるので、その負荷対策が課題となります。またテレビとインターネットさらにはインターネット上のユーザーごとに異なる広告を遅延なく配信する仕組みを整備することにも取り組んでいる最中です。

 

張氏:SpotXでは、ライブ配信で同時接続が多くなった結果、サーバーが処理できないときにはサーバー内に一旦「タメ」をつくり、返せるデータから徐々に返していくことを可能にするライブ配信専用の体制構築を行っています。

 

尚、既に米国ではスポーツ専門チャンネルのESPNが放映するNFL中継番組「マンデーナイトフットボール」を、また日本でも大規模なスポーツ中継のそれぞれインターネットを通じたライブ配信を実施しています。

 

―ライブ配信実施に伴う広告事業における課題は何ですか。

 

鶴田氏:ライブ配信枠の広告販売が意外と難しい。実際に中継が始まるまでどれほどのユーザーが視聴するかを予測しにくいため、広告在庫の規模を予め把握することができないからです。そこでインプレッション保証型ではないPMP取引をライブ配信で生かすべく、現在準備を進めています。

 

このPMPで重要となるのがターゲティングなのですが、ライブ配信だとこれがまた難しい。ブラウザを通じた一般的な配信であればCookieを活用できますが、ライブ配信に適した配信技術であるServer-Side Ad Insertion(SSAI)では、Cookieを利用しにくいからです。そこでSpotXの技術や動画配信プラットフォームなどの関係会社を巻き込んで、精緻なターゲティングを実現するための検証作業を行っています。

 

平野氏:放送局のデジタル領域のビジネス開発支援をしている平野千恵子と申します。各放送局のオンライン広告販売においては、まだまだ「手売り」と呼ばれる予約型セールスが主流です。よって、これまで放送局は自社で独自にアンケートを実施した上で入手した視聴者の居住地や性別などの情報のみしかターゲティングに活用できる材料を持ち合わせていませんでした。

 

ただし、SpotXのアドサーバーやSSPを導入いただいている放送局では、CCIのDataCurrentのデータを連携いただくことで、ターゲティングをより精緻にし、さらには広告における需要と供給のミスマッチを減らしています。

 

というのも、一般的なプログラマティック広告では、DSP側でデモグラフィック情報を制限してしまうので、放送局がそれらの情報を保有していたところでデータに反映されない。つまり広告在庫を確保していても。その在庫に応じた広告案件が出てこない。ところがSSP側でデータ連携ができれば、需要と供給を一致させることができるわけです。

 

コネクティッドTVは日本市場で普及するか

 

―動画の視聴方法の一つとして、米国ではコネクティッドTVが台頭してきたと言われています。日本でもいずれこのコネクティッドTVが普及すると思いますか。

 

原田氏:米国では既に当たり前のように利用されていますが、米国でコネクティッドTVが広まったのは、月100ドル(約1万円)前後の視聴料を求めるケーブルテレビ契約に対する反発があったから。民放放送局による無料放送が普及している日本とは事情が大きく異なります。

 

ただし、NetflixやHuluなどの動画配信サービスと、それらの動画をテレビ画面で視聴することを可能にするAmazonのFire StickやGoogleのChromecastといった端末が日本市場で流通し出したというのも事実。加えて、J:COMなどの日本の事業者が動画配信とテレビ放送を組み合わせた面白い新規サービスを今後実施するといったことは大いにあり得ると思います。

 

張氏:米国では、2006年から2008年あたりにかけてメーカーと卸売店がスマートTVの販売に本腰を入れたので、一気に普及しました。日本でもインターネット接続されたテレビがもっと増えれば、様々な関連アプリで作動する環境が整い、コネクティッドTV市場が活性化するはずです。

 

鶴田氏:民放テレビ局のプラットフォームであるTVerは、Android TVやAmazonのFire Stickに対応したアプリを提供しています。また静岡朝日テレビとCCIは、コネクティッドTVアプリである「SunSetTV」の提供を通じた実証実験を実施していました。

 

―コネクティッドTVが普及すれば、広告市場にはどんな影響を及ぼすでしょうか。

 

原田氏:放送局が今まで不得意としていたターゲティングをより効率的に行うことができるようになります。放送局がファーストパーティーデータを活用する機会が増えてくるはずです。

 

張氏:今でも30分以上の長尺コンテンツとなると、テレビ視聴する傾向が非常に高い。テレビ視聴率が落ちているのは、NetflixやAmazonプライムビデオなどがインターネットを通じて提供する長尺コンテンツがコネクティッドTVを通じてテレビ画面でも視聴できるようになったから。そうであるならば、放送局は逆にアプリを制作して、Netflixなどに対抗できるオンラインサービスを提供すべきなのです。コネクティッドTVの普及により、オンライン上に新しい広告枠が創出されつつあると思います。

 

―動画配信事業はまだまだ発展途上の段階にあるのですね。

 

宮田氏:さらに新たな取り組みとして、セカンドパーティーデータに基づいたサービスであるMedia Mercato(メディア・メルカート)があります。今まで「自動車関心層」へのターゲティングといっても、本当に自動車関心層なのかよく分からないという側面がありました。

 

しかし、Media Mercatoであれば「自動車の見積もりを取っている人」「最新情報をチェックしている人」といったことがきちんと見分けられるように、ターゲティングに利用したメディア元の情報を開示しているのです。こうしたデータも今後はSpotX上で活用できるようになる見込みです。

 

張氏:SpotXではマルチビッドリクエストとマルチビッドリスポンスに対応することで、ライブ環境により強い体制を構築していきます。DSPのサーバー負荷を軽減するため、一つのビッドに対して複数の広告をDSP側から持ってくるという仕組みです。

 

ライブ配信事業はまだまだ発展していく余地があると考えています。東京でオリンピックが開催されるころには、さらなる展望が開けているはずです。

ABOUT 長野 雅俊

長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。