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アサヒ飲料が魅せた、動画広告の購買効果[インタビュー]

普及が著しい動画広告であるが、その広告効果をどのように計測し、評価するかについて、多くの広告主が試行錯誤を繰り返している。

現在はまだ取り組みは限られているが、出稿した動画広告が、実際に店舗への来店や購買にどの程度寄与しているのかを計測したいというニーズは、ますます高まっていることも、調査結果で明らかになっている

 

炭酸水市場トップシェア「ウィルキンソン」ブランドを提供するアサヒ飲料は、昨年実施した新商品「ウィルキンソン タンサン エクストラ レモン」とファミリーマート「ファミチキ」との共同販促で動画広告が店舗での購買にどの程度寄与したかを可視化し、その効果を明らかにした。

マイクロアドの「Pantry」が提供する実購買データを活用し、広告への接触者と非接触者を比較したところ、動画広告接触者の購買率は、非接触者よりも2割の上昇がみられたという。

具体的にどのような取り組みであったのか。キャンペーンに関わった、アサヒ飲料、電通、マイクロアドの関係者にお話を伺った、

(聞き手:ExchangeWire Japan 野下 智之)

営業サイドから問われ始めた動画広告の効果

―自己紹介をお願いします。

松丸(まつまる)氏(写真左から一人目):アサヒ飲料株式会社マーケティング本部宣伝部の松丸です。宣伝部内のメディアグループの中でデジタル担当をしています。主にオウンドメディアであるLINEやメルマガ、流通企業様とのデジタルの取り組みなどを担当しています。

養父(ようふ)氏(写真右から二人目):株式会社電通 第五ビジネスプロデュース局の養父です。アサヒ飲料様のデジタル部門の担当をしており、アサヒ飲料様が運用するTwitterや、流通企業様とのコラボ企画などの施策を担当しています。

中富(なかとみ)氏(写真左から二人目):マイクロアドの中富です。代理店様向けの営業として、電通様との取り組みを担当しています。

山口(やまぐち)氏(写真右から一人目):マイクロアドの山口です。製品戦略部に所属し、Pantryをはじめ、業界に特化した製品の設計や販売促進を担当しています。元々は代理店様向けの営業を経験し、現在の業務を担当しています。

 

―ウィルキンソンエクストラレモンの発売開始の背景や概要をお聞かせください。

松丸氏:日本の炭酸水市場はここ数年右肩上がりで伸び続けており、今後も拡大が見込まれます。

当社が提供する「ウィルキンソン」は、圧倒的No.1のシェアを持つブランドとして、長年提供してきましたが、今から2年前に体脂肪を吸収する機能性を持たせた「ウィルキンソン タンサン エクストラ」という新商品の販売を開始しました。

これがとても好調であり、ファミリーマート様限定で昨年5月に新たに「ウィルキンソン タンサン エクストラ レモン」の販売をするに至りました。

炭酸水はかつてお酒の割り材として使われていましたが、今ではそのままで飲んでいただけるようになり、売上も過去10年で10倍に伸びました。

 

―今回のキャンペーンに至った経緯や概要についてお聞かせください

養父氏:アサヒ飲料様と、デジタル分野におけるファミリーマート様とのお取り組みは2018年から始まりました。何か少しデジタルを使った販売促進が出来ないかというお声掛けをいただきました。ファミリーマート様には、ファミチキ先輩という分かりやすいアイコンがありますので、これを活用させていただき動画を制作し、これを大手動画配信サイトで動画広告を配信。その効果を検証することになりました。効果検証はブランドリフトサーベイを活用し動画広告への接触者、非接触者の来店意向を比較。この結果をもとに、「来店意向が増えたから販売につながっているであろう。」と結論付けしました。

2019年は、よりそれを進化させたいというアサヒ飲料様のご意向もあり、動画広告に接触した人への実際の購買寄与を可視化させるということが、今回の施策実施に至った経緯です。マイクロアドさんの「Pantry」を活用し、過去にファミリーマートで特定商品を購買したユーザーに動画広告をターゲティング配信し、その実購買効果を計測することをご提案しました。

 

 

 

 

松丸氏:動画広告を使ったデジタル施策の購買に与える影響までを可視化することについて、社内から強い要望があったことが、今回の施策実施の背景の一つです。

デジタルの施策を活用したファミリーマート様とのお取り組みは、これまで三回行ってまいりました。ファミリーマート様のファミチキと当社商品の両方の売上に寄与することを期待し、キャンペーンを通してファミリーマート様への来店誘因につながることが目的です。

ある時、社内の営業サイドから「本当に来店や購買につながっているのか」という声が上がりました。「お金を払って広告をしていることが、本当に効果につながっているのか。」という話になったのです。これを実証する方法を探してみたのですが、対応しているサービスが見つからず、電通さんに相談したところ、「Pantry」を紹介いただきました。

マイクロアドさんの「Pantry」が提供する実購買データを活用して動画広告を配信し、広告接触者と非接触者の実店舗での購買率を計測して比較をしました。その結果、動画広告接触者の購買率は、非接触者と比べて2割の上昇が認められました。

 

流通からも注目が高まるデジタル広告の効果

-飲料業界におけるデジタル広告活用の課題は、どのようなところにあるのでしょうか?

 養父氏:飲料業界における課題としては、カスタマージャーニーが描きづらいことが挙げられます。

デジタル広告に接触したユーザーの購買に至るまでのプロセスがそもそも可視化しづらいことです。先ほど松丸さんもおっしゃっていたようにデジタル広告を出稿しても、実際にそれが効いているのかが判別できないというケースが非常に多いのです。

流通様に対するデジタルの施策のご説明についても、かつては広告の表示回数を基準にしていたものが、その後「これって本当に態度変容につながっているの?」という疑問を引き起こし、そして今は「これって本当に購買につながっているの?」というところまでを求められるようになってきています。

広告代理店は、飲料業界のお客様に対して、広告の施策がしっかりとパフォーマンスを出していることの証明を今後ますます求められるようになってくるであろうと思っております。

そこで、マイクロアドさんの様なテクノロジーベンダーの方々のお力を借りることによって、私たち広告代理店も、お客様のご期待に応えられるようなパフォーマンスを発揮することが出来るのです。

 

松丸氏:流通企業様の担当者の方のテレビへの注目度は引き続き高いですが、ここ1-2年ではメーカーによるデジタル施策への関心も高まりつつあります。デジタルとテレビとを同じ土俵で数値化することが出来ないかという点も課題であり、今もトライ&エラーを繰り返しながら取り組んでいます。

 

中富氏:私たちもお客様から課題としてお聞きするのは大きく二つ。一つ目は広告配信において、どのようにして購買に寄与するユーザーをターゲティングするかということです。

そして、二つ目は、広告効果計測において、広告を配信した結果、それが購買に寄与しているかどうかをそもそも可視化出来ないということです。どのクリエイティブが、あるいはどのようなユーザーが購買に寄与したのかが分からないということを課題視されています。

 

-「Pantry」についてお聞かせください

山口氏:「Pantry」は飲料食品メーカー様向けのマーケティングサービスです。購買データを活用した広告配信とオフラインでの実購買計測をすることが出来ます。購買データ以外にも、例えばウェブ行動をもとにした配信も可能です。

今回は、ご指定いただいた特定商品を購買したユーザーセグメントで動画広告配信を実施しました。およそ380万impというそれなりのボリュームを担保しつつ、ここまでユーザーをセグメントして配信をすることはなかなか実現できません。これを実現したのが「Pantry」の強みです。

 

-アサヒ飲料さんでは、これまでにも実績はあるのでしょうか?

中富氏:はい。「カラダカルピス」「ワンダ」でも活用いただいている実績があります。

 

養父氏:各ブランド担当の方も、「ここまで可視化することが出来るのはいいね。」とおっしゃって評価いただいているようです。

 

―「Pantry」を実際に使われてみていかがでしたか?

松丸氏:今回この施策にかけられる費用が限られていました。少額で広告効果を実購買まで確認することが出来るという点において、とても貴重な存在でした。

 

―結果を社内の方にフィードバックされたとき、どのようなリアクションでしたか。

松丸氏:効果が得られたことが明らかになったので、次回以降もデジタルの取り組みを強化していきたいねという話になりました。ファミリーマート様に限らず、流通企業様とのデジタルにおける取組を進めていこうという流れになっています。

 

養父氏:今回の施策の効果で、特に興味深かったのは、imp数、クリック数、視聴完了数の全てが、動画広告への接触ユーザーの方が、非接触ユーザーよりも高かったということです。これは私たちにとっても新たな知見であり、社内のチームにも共有して、今後も広く提案していこうと思っています。

 

山口氏:私たちにとっても、imp、クリック、視聴完了の全てを計測するというのは、実は今回初めての試みでした。内心少し不安な部分もありましたが、全てにおいて綺麗にリフトが起こるという結果が出ました。

ユーザーの広告に対するアクションと実際の店舗での購買とが相関しているということが改めて明らかになりました。

 

効果の可視化実現で広がる次への展開

-率直なところ、結果が出なかったときは、流通企業様はもとより、社内からも厳しい目で見られるのではないかと心配になりませんでしたか?

松丸氏:社内でも、動画広告の施策をやり始めた最初の頃は、「流通向けに動画が作れるのはすごいことだ!」と言っていただいていたのですが、回を重ねるごとに結果を求められるようになってきました。

ですので、キャンペーンが走り出してから、しっかりと結果につながるのかどうか、当然ながら心配になりました。ですが今回結果が数字で可視化されたことは、とても意義があることです。

 

養父氏:今回、初めての取り組みでしたので、その意味でも結果が数字としてしっかりと結果が出たことの意義は大きかったです。

 

山口氏:Pantryの提供を開始したのが1年ほど前で、これまでの経験値で申し上げると、8-9割は結果として明確に数字に表れています。

 

中富氏:最近ではどのような配信をすれば購買のリフトが起きやすいのかということも、ノウハウとして蓄積されています。最近ではほぼ必ず結果につながりますし、そうでなければPDCAを回すことで、結果につなげていくようにしています。

 

―今回のお取り組みから、今後の展開につながることはありますか?

養父氏:アサヒ飲料様での動画広告を活用した流通施策は、これまでホップ・ステップと段階を踏んで取り組むことが出来ましたので、2020年は中富さんがおっしゃっていたような、クリエイティブの検証により広告効果を最適化するような取り組みをしていきたいと思っています。

「このクリエイティブのほうがファミチキを買いたくなる。」あるいは「ウィルキンソン炭酸を買いたくなる」というようなところまで踏み込んでいけると、「このメッセージはこういう人に刺さる」というような、ブランドの施策にまで還流することが出来るとすると、デジタルマーケティングをより踏み込んですることが出来るのではないかと思います。

 

中富氏:私たちも全く同じことを考えております。「Pantry」でA/Bテストを実施して、Aが良かったということになればそれを全体のプロモーションで活用していただいて、より良いプロモーションにつながっていけばいいと思います。

 

 

山口氏:計測だけではなく検証まで実施して戴くことで、その結果をより広く活用いただけるようになれば嬉しいです。

 

 

 

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。