IoTで広がるデジタル広告―ベッドルームで家族と会話する広告―
就寝前のベッドルーム。部屋の壁に映し出された広告から、次の休暇に計画した旅先のアクティビティーや現地で人気のレストラン情報を家族と一緒に見ながら予約する。こんな風景が日常に広がっていくのかもしれない。
PCやスマホ、コネクテッドTVに限らず、モノがとインターネットが繋がることで、ブランドとユーザーによるデジタルを介した新しいコミュニケーションが生まれ、広がりつつある。
2018年11月に登場したプロジェクター付シーリングライト「popIn Aladdin(ポップイン アラジン)」。
デジタル広告業界ではコンテンツ型ネイティブ広告「popIn Discovery」や、読了率解析ツール「READ」の提供で知られるpopInが提供するプロダクトだ。「popIn Aladdin」は、シーリングライトに内蔵されたプロジェクターを通して、自宅の壁に色々なコンテンツを映し出すことができる。Android OSが搭載されており、いわば自宅の壁が、巨大なスマホ画面になったようなイメージを想像していただけるとよいかもしれない。Harman/Kardon社製の高音質スピーカーも内蔵され、「音が天井から降り注ぐような体験」(同社)とのことである。
搭載コンテンツは、同社が「インテリア」、「エンタメ」、そして「キッズ」と三つに分類したカテゴリそれぞれにおいて自由に楽しむことができる。
利用者が契約していれば、NetflixやAmazonプライム・ビデオで映画や海外ドラマを観たりできる他、地上波TVも大画面で視聴ができる。
また、画面を消してSportifyで音楽を聴いてスピーカーのみで音楽鑑賞を楽しむなど、エンタメコンテンツだけでも様々な楽しみ方がある。
ベッドルームにある壁に投影し、家族そろって一緒にコンテンツを楽しむというような利用イメージだ。
なかでも同社が特に力を入れて開発しているのがキッズ系のオリジナルコンテンツ。親子で一緒に考えるクイズ形式の「なんでなの」や、紙の図鑑の世界を飛び出し、ライオンやゾウなどが実物大のサイズで投影され、鳴き声や動画とともに体験可能な「等身大動物図鑑」などのコンテンツを自ら開発しているという。
そこまで力を入れている理由は、「popIn Aladdin」のそもそもの開発背景にもつながる。
このプロダクトを開発したのは、代表取締役社長の程 涛(テイ トウ)氏本人。驚くことに前出の本業である広告事業の傍ら、自宅を利用して、何度も試行錯誤を繰り返し開発したという。子供が3人いる程氏は、一緒に家にいても各々がスマホを見てばかりであった「家族は一緒にいるが、断絶してしまった時間」の折に触れ、もっと家族一緒の時間を豊かにできないかと考えた。そこで寝室という空間と時間に着目。寝室の壁を媒体に、様々なコンテンツを映し出すことで、親子のコミュニケーションが活性化されることを狙った。
「popIn Aladdin」の価格は1台79,800円(希望小売価格)。決して安くはないが、発売以来出荷台数は4万3000台に達したという。※(新作の据え置型プロジェクターZ6 Polar Meets popIn Aladdinの出荷台数も含む2020年1月現在)
マネタイズの方法として、同社は一部コンテンツを有料化しているほか、広告モデルにも着目。本体を操作しないとき、PCと同じくスクリーンセーバー状態になる際に、ニュースコンテンツや、時計、世界の風景などを自然に表示する「未来の壁」を表現するために搭載したAladdin Modeをうまく活用し、寝室の壁に広告やタイアップコンテンツを配信する取り組みを行っている。
「popIn Aladdin」のマーケティング責任者である岡本岳洋氏によると、映画配給会社や、大手航空会社、大手飲料会社事業会社、海外ラグジュアリブランド、ITサービス企業、大手小売GMSなどとの取り組み実績が既にあるという。今の段階では、「ブランドを大事にされている広告主の方に限定して提案をしている段階。」(岡本氏)とのことだ。
【Aladdin Mode流した素材の一部(映画のキービジュアルポスター)】
(C)2019 Universal Pictures. All Rights Reserved.
2019年7月に日本で公開されたユニバーサル・ピクチャーズの映画『ペット2』 の新作プロモーションにおいては、popIn Aladdin内での予告篇やタイアップコンテンツに接触したユーザーの映画鑑賞意向は、非接触者と比べて3.2倍も高かったという。キャンペーン全体のプランニングを行った、株式会社 電通 コンテンツビジネス・デザイン・センター マーケティング・プランナー原口 怜矢 (はらぐちれいや)氏は、「スマホやTVよりも「大きな画面」と「迫力のある音声」にて映像を見せこめる選択肢は少なく、寝室という新しいコンタクトポイントを発見することができた。劇場で流れる予告編やCMのように、スクリーンに対する集中度が高いため、広告の与える印象が明らかに強い。」と、キャンペーンにおける同プロモーションの役割を振り返る。
台数普及の観点からスケールこそ限られるが、ブランドとユーザーとがとても贅沢な会話ができる媒体だ。「”家族が共視聴する習慣の中心にある家庭内プラットフォーム”こそが提供価値というポイントにおいて、他のメディアとは一線を画していきたい」(岡本氏)
同社によると、国内ホームプロジェクター市場の年間端末販売台数は、2019年で年間8万台と言われている。大きい市場とはいえないが、年間約450万台の販売台数のテレビ市場も視野に入れつつ、また東京オリンピックに向けた大画面需要を見据えて、「popIn Aladdin」の販売台数をスケールさせて行きたいと考えているとのこと。また、 2019年 11月には、 据置き型タイプの新型端末Z6 Polar Meets popIn Aladdinの発売を開始。HDMI接続でゲームやBlu-rayの利用ができるようになるなど、天井型とは異なる特徴を備えたモデルを打ち出し、普及に弾みをかける。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長 慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。