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プログラマティックDOOH広告配信の黎明期に見える風景とは―デジタルサイネージ市場進出のジーニーの戦略[インタビュー]

これまでウェブ広告市場を主戦場としてきたジーニーが、渋谷そして道頓堀という人気スポットに設置された大型デジタルサイネージへのプログラマティック広告配信に乗り出した。ウェブ広告業界で蓄積したノウハウを、デジタルサイネージ市場という似て非なる分野でも生かすことができるのか。同社のDOOH事業部に今後の構想について聞いた。(聞き手:ExchangeWire Japan長野雅俊)

 

渋谷や道頓堀へのプログラマティック配信システムを整備

 

―自己紹介をお願いします。

 

廣瀬氏:株式会社ジーニーで新規事業開発本部本部長を務める取締役の廣瀬寛と申します。当社創業期よりアドテク事業の立ち上げに携わり、現在はDOOHを含む新規事業開発を管掌しています。

 

酒井氏:新規事業開発本部DOOH事業部サプライグループマネージャーの酒井翔平です。2019年よりDOOH事業を立ち上げ、現在はその営業や提携事業などに従事しています。

 

磯部氏:R&D本部でプロダクトマネージャーを務める磯部勇太と申します。現在は、DOOH事業部での事業開発担当を兼任しながら、プロダクト企画・開発を担当しています。

 

―改めて貴社の事業紹介とデジタルサイネージへのプログラマティック広告配信事業に進出するに至った経緯をお聞かせください。

 

廣瀬氏:当社は国内最大規模のSSPをはじめDSPやDMPなどの創業当初から続くアドテクノロジー事業と、「マーケティングオートメーション」「SFA/CRM」「チャットボット」など急成長するマーケティングソリューション事業のそれぞれでプロダクトを自社開発している国内唯一のベンダー企業です。

 

既にウェブマーケティングの領域においては、広告枠をリアルタイムに最適な価格で売買する「RTB」など、複数のアドテクノロジーが普及していますが、その多くはOOH広告の領域においても同様に活用できるものです。そうした考えから、我々は2019年よりDOOH事業部を設立し、当該領域のデジタル化を推進するための事業を展開しております。屋外やタクシーの車内、または大型商業施設のフードコートに設置されたデジタルサイネージへの広告掲載手続きを自動化させるテクノロジーを開発及び提供しています。

 

2020年からは、屋外広告を専門に取り扱うヒット社様と業務提携を締結し、同社が運営するデジタルサイネージにプログラマティックOOH広告配信を行うシステムを整備しました。この取り組みにより、首都高速道路沿いに展開する大型屋外広告ビジョン12面ネットワーク、東京・渋谷駅ハチ公口のスクランブル交差点に保有する大型屋外広告ビジョン及び大阪・新御堂筋沿いに展開する大型屋外広告ビジョン4面ネットワーク、そして同じく大阪の道頓堀に保有する大型屋外広告ビジョンへのプログラマティック広告配信が実現しました。

 

デジタルサイネージ広告ではDSP事業者が不足

 

―貴社ではSSP、DSP、DMPなど様々な形態の業務を行っていますが、デジタルサイネージ分野においてはどのような立ち位置となるのでしょうか。

 

酒井氏:ヒット社様には、SSPとして媒体社様の広告収益最大化や媒体広告の運用効率化を実現するためのツールをご提供しています。このSSPを共通基盤とし、さらに多種多様な媒体社様へと提供していく方針です。

 

廣瀬氏:当社はDSP事業も運営しているので、広告の買い付け側へのご支援も行っています。デジタルサイネージ市場は少なくともプログラマティック取引という観点からはまだ黎明期であり、市場がウェブほど細分化されていません。アドサーバー、SSP、DSPといった事業者が明確に区別されておらず、またいわゆる買い付け元となるDSP事業者が圧倒的に不足しています。そもそもプログラマティック取引を実現するためのテクノロジーを提供している事業者がまだ少ないので、致し方ないという側面はあると思います。

 

-いまだ買い手側がプログラマティック取引を円滑には行いにくい状況において、貴社の広告配信システムを導入する利点は何でしょうか。

 

廣瀬氏:現時点におけるデジタルサイネージへの広告出稿には、多くの人的な作業が発生しています。この作業が自動化及び機械化されることで効率化を図ることができるというのが大きな利点です。「広告枠を登録して買い手に送付し、掲載可否を確認する」という一連の作業をオンラインで完結させることができます。

 

収益の最大化はその次のステップ。プログラマティック取引が活性化するにつれて、収益面でのメリットも大きくなっていく見込みです。

 

酒井氏:ちなみに一部の媒体社様は1週間分の広告掲載設定に10時間ほどの作業時間を費やしています。Excelを含めて様々なツールを使うことに手間がかかっており、これらのツールを当社のシステム上にすべて集約することで、作業時間を長くても15分程度までに短縮できるはずです。

 

広告枠を小分けすることで収益を最大化

 

―渋谷や道頓堀といった人気スポットでは、広告枠の売れ行きが良いのではないかと想像します。純広告扱いのままでも十分な需要があり、またプログラマティック取引に対応することで値崩れする可能性があるのではないでしょうか。

 

酒井氏:値崩れに対する懸念については、商品設計の柔軟性やオークションの仕組みで対応することができます。例えば、純広告販売では少量・小予算、短期間での広告出稿を希望される広告主様や広告代理店様のニーズを満たすことが営業・運用上で難しい課題がありましたが、純広告よりも小さいロットで再生単価が高い商品を受け付けることができれば、従来の放映ないし再生単価を崩さずに全体的な収益を向上させることができます。

 

あるいは、天気や時間、オーディエンスなど、特定のターゲティングで広告配信ができる商品もこれまでのOOH広告では一般的ではありませんでしたが、プログラマティックの仕組みではそうした商品設計にも対応ができます。

 

また、設計した商品の間での優先順位や掲載条件を予め設定しておき、配信できる広告をオークションすることで、最も経済効率が高い広告を自動的に選定、配信でき、更に収益性は向上します。そうした一連の対応から、従来の放映ないし再生単価を崩さずに、媒体社様の全体的な収益を向上させることができます。こういった細かな商品設計に対応できる機能を持った国産のDOOH広告配信プラットフォームは、私の知る限り弊社以外にありません。

 

また、従来はウェブ広告のみを扱ってきた広告主様や広告会社様に対しても販売のチャネルを広げることができるので、収益機会は拡大します。

 

―多数の人々が目にする屋外広告となると、広告掲載基準はウェブ広告と比べてより厳しくなるのではないでしょうか。

 

磯部氏:広告の掲載基準はより厳しくなるでしょう。当社は、いわゆるPMP(プライベートマーケットプレイス)のような形で事前の掲載可否の確認機能をプラットフォーム上に装備し、広告の質を確保します。

 

―デジタルサイネージ市場におけるプログラマティック取引がこれまで活性化していなかった原因は何だと思いますか。

 

磯部氏:端的に申し上げると、技術不足と広告効果測定の業界基準の統一化がされていなかったからだと思います。媒体社の課題や要望に対応できる技術力を持つ当社だからこそ、プログラマティックな広告配信システムを整備できたと自負しています。

 

効果測定に関する課題は引き続き検討

 

―デジタルサイネージ広告ではウェブ広告のような精緻な効果測定ができないことが課題視されています。

 

磯部氏:デジタルサイネージ広告の効果測定については業界全体の課題です。デジタルサイネージコンソーシアム様と共に効果指標や効果測定に関わるルール作りに取り組んでいるところです。

 

廣瀬氏:基本的な考え方としては、ウェブ広告が「広告表示:閲覧者=1:1」となるのに対して、屋外広告はこの割合が「1:N」となるので、このNがいくつになるのかを論証することが課題です。GPSやWi-Fi、キャリアデータ等を用いてデジタルサイネージ端末の周辺にいる人数を特定したり、位置情報サービスと連携してその精度を高めるといった手法があり得ますが、まだ検討中の段階に過ぎません。

 

―効果指標が整備されない状況下においてはどのように広告出稿側の理解を得ようと考えていますか。

 

廣瀬氏:効果指標に関する課題は、従来から屋外広告へ出稿されている企業様と、今後出稿が見込まれるウェブ広告重視型の企業様を切り分けて考える必要があります。

 

前者においては、プログラマティック化が進むことで、これまで通りの屋外広告をより効率的かつ機能的に出稿することができ、また、オンラインで効果指標の把握をすることができるので、現時点でメリットが大きいと考えております。後者、つまりこれまでウェブ広告のみにしか出稿したことがない広告主様などにとっては、今後ウェブ広告と共通した効果測定方法が整備されていくことがやはり重要です。逆に言えば、効果指標が整えば、DOOH広告への出稿量は飛躍的に伸びるでしょう。

 

―今後の展望についてお聞かせください。

 

廣瀬氏:ヒット社様以外にも既に複数の引き合いをいただいており、取引媒体社数は今後拡大していく見込みです。当社が注力してきたウェブ広告市場と同等またはそれ以上の市場性がこの領域にはあると感じています。

 

酒井氏:DOOHの媒体数300前後存在すると言われています。その中には主に交通媒体、屋外媒体、インストアメディアの3種類が存在しておりますが、主要媒体社へ我々のプロダクトを提供し、広告収益最大化と運用工数削減等の価値提供ができたらと思います。

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長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。