サイバーエージェントグループが思考する、店舗のデジタル化 [インタビュー]
広告業界において、多くの広告会社が“店舗×デジタル化”の領域に参入を進めているが、サイバーエージェントはこの市場をどのように見て、攻略しようとしているのか。
その一端について、最近ユニークな取り組み発表したCA Retail Marketing取締役 赤木 伸之氏にお話を伺った。
(聞き手:ExchangeWire Japan野下智之)
目指すは、小売企業を軸にした店舗のデジタル化支援
―自己紹介をお願いします
サイバーエージェントには6年前に入社し、インターネット広告事業本部でコンサルティング業務やアルゴリズムの解析やシステム面での広告運用の仕組みづくりをしました。1年ほど前に、当時設立後半年の当社に経営メンバーとして参画しました。
―事業概要と会社設立の背景についてお聞かせください。
当社は、小売店舗のデジタル化を支援することを主な事業としています。
今の小売店の店内は昔から変わらず、消費者と紙ベースのPOPでコミュニケーションがなされています。またその作業の為、多くの人件費を必要としている場合が多く、このような状況について、デジタル広告における手法が上手く適用できるのではないかという感覚があります。シンプルにデジタル化をしていくことで、ユーザーとのコミュニケーションをより活発に、よりよくしていくことで、消費者の購買体験を高めていきましょうということで、店舗のデジタル化をキーワードに活動をしています。
当社の設立は、サイバーエージェントグループのインターネット広告事業における戦略と 深いかかわりがあります。インターネット広告事業において、販促領域における広告活用は市場として非常に伸びてきています。この販促領域における広告活用というのは何かというと、結論は店舗への送客です。これまでチラシなどの紙で行ってきた送客を、GoogleやLINEなどのプラットフォームを活用して行うという取り組みが、販促領域におけるデジタル広告の使い方です。
サイバーエージェントとしては、現在この販促領域に注力しています。それにあたり、デジタルを使ってお客様を店舗へ送客するだけではなく、送客した後、店舗内での購買体験を高めるところまで考慮したプランニングと実行が出来る状態を目指しています。CA Retail Marketingが立ち上がった背景の1つには、このような店舗内の施策をしっかりと実行出来るオペレーション部隊が必要であったということがあります。
―貴社の顧客は、店舗で販促をしたいメーカーになるのでしょうか?あるいは小売企業側なのでしょうか?
当社は、小売企業を軸にしており、小売企業が店舗でどのようなことをされたいのかということを起点にした活動をしています。ですので、小売企業の課題について一助となりうる取り組みについて、様々な提案をし続けております。
店舗の数を多く展開されている、ドラッグストアやスーパーなどとのお付き合いが多いのが現状です。
当社がデジタルで培ってきた運用力やマーケティング力がそのままお役に立つような業態の小売企業との親和性が高いのではないかと思っております。
―サービスフィーは、小売企業から得られているのでしょうか?
なかなか難しいというのが現状です。この1年強この業界に携わってきて感じるのが、小売企業における販促は、メーカーからの提案と、全面的な支援を受けて取り組みをされているケースが多く、これが商習慣として定着しています。小売企業が主体となり、ソリューションを導入して新しい取り組みをすることについては、消極的な場合が多いように感じています。
私たちとしては、何かしらのソリューションを導入してより良い状況を作りたいと思っているのですが、それに要する膨大なコストをどのようにペイしていくのか、どのような設計でこの取り組みを進めていくのか。小売企業が費用をかけることについてリスクを感じず、また意義を見出していただけるかということを踏まえたサービスの設計をしてご提案をしないと、受け入れていただくことは難しいです。
―小売企業における相手先はどのようなところになるのでしょうか
様々ですが、最近では商品部のバイヤーの方とお話をさせていただくようなことも増えつつあります。
店舗のデジタル化、小売企業の三つのニーズ
―店舗のデジタル化に関して小売企業側がイメージをしているのは、デジタルサイネージの導入などの施策でしょうか?
小売企業の店舗のデジタル化に関連する取り組みに対するニーズは、大きくは三つに集約されると考えております。
一つ目は売上を上げるための取り組み。紙の静止画から動画のデジタルサイネージに変えることで、シンプルな購買のアップにつなげるという点です。
二つ目は、メーカーとの関係性における販売奨励金の増加や、それに向けた交渉材料に寄与するような取り組み。普段であれば、100個しか売れなかったがこの取り組みをしたことで150個売れたとすると、それは小売側にとって交渉材料になり得ます。
三つ目は、広告によるマネタイズ。オフラインの店舗の大量のトラフィックを広告で収益化しようとする取り組みに対するニーズは、最近高まっています。
また、現状において当社の戦略として、デジタルサイネージを提案していくというのは本筋です。ビーコンやカメラなど、様々なデジタルツールがある中においても、やはり提案としてはデジタルサイネージが一番シンプルで、先方からのご理解も得やすい施策です。そしてまた、動画のクリエイティブや、デジタルマーケティングにおける運用という、サイバーエージェントグループの強みが活かしやすいということも大きな理由です。
-今後の取り組みについてお聞かせください
出典:同社プレスリリース
新しい取り組みとして、小売企業との取り組みで、CAリテールマーケットという取り組みを始めました。
ネット上で話題になって売れている商品を、小売企業の店舗に配荷・陳列をして物販をするという内容です。この提案が小売企業からの反響が大きいです。
サプライヤー(メーカー)の商品で、これまでECサイトやソーシャルを通して拡販をしているものの、リアル店舗で販売をしていないケースは多くあります。「オフラインの店舗に並べることで、新規顧客層へのリーチを増やしましょう」という話を、サプライヤーさんにさせていただきます。
一方の小売企業ですが、現在商品の仕入れ先は確立化されており、言い換えるとマンネリ化されつつあるという事だと思うので、バイヤーの方からすると面白い商品を仕入れて売り場活性につなげたいというニーズがあります。そこで小売企業に新しい商品を紹介し、両者のニーズをマッチングさせるというのが今回の取り組みです。
当社では、このような新しい取り組みを通して、小売企業における店舗のデジタル化の推進や収益拡大に貢献したいと思っています。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長 慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。