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Cookieレス時代のマーケティングとは?―SSP手数料開示のIndex Exchangeが描き出す日本市場の未来

グローバル市場の現在に目を凝らすと、日本市場の未来が透けて見える。そこでヘッダービディング及びファーストプライスオークション導入やSSPの手数料開示などで先行し、現在はCookieレスなターゲティング手法の開発に取り組むグローバル大手SSP/アドエクスチェンジのIndex Exchangeに日本市場の未来図を描いてもらった。
(聞き手:ExchangeWire Japan長野雅俊)

 

SSP手数料開示を推進

 

―自己紹介と事業紹介をお願いします。

 

2019年12月よりIndex Exchangeの日本担当マネージングディレクターに着任した香川晴代です。当社は2018年5月から日本市場での事業を本格化させており、SSP/アドエクスチェンジとして既に数多くのプレミアム・パブリッシャー様とのお取引があります。一般的にはヘッダービディングの老舗企業として知られていますが、今後は広告主様、広告会社様、DSP事業者様の間にも認知を広げ、より透明性の高いプログラマティック広告市場のエコシステム構築に寄与できたらと考えています。

 

―現在はどのような取り組みに注力しているのでしょうか。

 

パブリッシャー企業様のプログラマティック広告による収益化支援を拡大しつつ、プログラマティック広告の透明性を高めることに注力しています。2019年秋に日本アドバタイザーズ協会(JAA)から発表された「アドバタイザー宣言」では、デジタル広告における「サプライチェーンの透明化」が課題に挙がりましたが、当社は率先してこの課題に取り組んでいます。具体的には、SSP手数料やオークションデータの完全開示などを通じて透明化を図っています。

 

SSP手数料の開示は欧米及び東南アジアでは一般的ですが、日本ではいまだに珍しがられます。ただ実はつい数年ほど前までは、欧州市場においてもSSP手数料を開示する事業者は少なかったのです。当社が欧州に進出した際にSSP開示を打ち出したことで、他の事業者もこの動きに追随したという経緯があります。日本市場においても同様の環境整備を目指します。

 

―他の事業者がSSP手数料の開示を渋るのはなぜでしょうか。

 

例えばSSP事業者の中には、パブリッシャー側からだけでなく、隠れて広告の買い付け側からも手数料を徴収している場合があります。そうした説明がつかない手数料を徴収している場合は開示ができない。日本市場ではそのような事例がまだいくつも存在すると想像します。SSP手数料の開示が一般化すれば、事業が頓挫するSSP事業者も出てくるでしょう。

 

いずれにしても、開示すべき人々が開示し、またパブリッシャー側も開示を求めるという当然の権利を行使さえすれば、状況は変わり得ると信じています。

 

―SSP手数料の開示を通じて、オンライン広告取引における「サプライチェーンの透明化」を具現化しようとしているのですね。

 

透明化については他にも様々な取り組みを行っています。例えば当社の「Client Audit Logs」という機能では、プログラマティック取引の入札に関わるすべてのデータを提供。広告枠をいくらの元値で仕入れて、いくらのSSP手数料が発生したといった記録をすべて確認できるようになっています。

 

また「Exchange Fee Reduction」というプログラムは、プログラマティック広告におけるボリューム取引を可能とする仕組みです。これまで「広告枠をたくさん買えば買うほど一つの広告枠当たりの単価が安くなる」というボリューム取引を純広告以外で実施するには様々な課題がありました。ただし、当社では予め手数料を設定及び開示しているので、広告主、広告会社、DSPが一定規模以上の広告枠を購入した場合はその手数料を下げるという措置を公明正大に行うことができます。このボリューム取引によって、パブリッシャー側は支払う手数料が減り、また広告主側はオークションでの勝率が上がります。

 

ヘッダー入札とファーストプライスではGoogleに先行

 

―貴社はヘッダー入札及びファーストプライスオークションの老舗として知られています。

 

セカンドプライスオークションはウェブ広告において長らく一般的な方法として採用されてきましたが、ヘッダー入札が普及したことで数えきれないくらいの買い手が一斉に一つの在庫に入札するようになり、オークション方式の変更が必要になりました。

 

そしてファーストプライスオークションへの移行により、プログラマティック広告のエコシステムに関わる全員がその恩恵を得ました。パブリッシャーはフロアプライスの設定に多大な時間をかけることなく収益を拡大し、広告主や広告会社は落札価格の予測に多大なリソースを割かずとも広告予算の管理を行うことができるようになりました。

 

入札価格と落札価格の関係性が明らかでないセカンドプライスオークションには常に不確実性が付きまといますが、ファーストプライスオークションでは常に最高入札額が落札額です。取引の透明化を実現するためには必須と考え、当社は早期からこのオークション方式を積極的に推進してきました。

 

―セカンドプライスオークションには「言い値よりも低い金額が落札価格となる仕組みを通じて入札者の心理的負担を軽減し、入札価格を割高にする」という目的がありました。ファーストプライスオークションに移行したことで値崩れなどの問題は起きなかったのでしょうか。

 

ファーストプライスオークションへの移行によって当社のアドエクスチェンジを利用するパブリッシャー様の広告収入が減少することはありませんでした。むしろパブリッシャー全体の99%が売上を増やし、その後数カ月かけて徐々に標準化させています。

 

ただし、セカンドプライスオークションからファーストプライスオークションへの移行の最中には両モデルが併存したため、両方に対応することの面倒を避けるためにファーストプライスへの移行を躊躇する動きはありました。現在は当社が主催するオークションの99%がファーストプライスによるものです。

 

ちなみに日本市場は、米国から約3年遅れてヘッダー入札とファーストプライスオークションが普及しました。グローバル企業が中心となって移行を進めていたので、日本の事業者も自ずとその他の国々の動きに追随したという印象です。

 

―2019年からは、Googleのアドエクスチェンジもファーストプライスオークションに移行しました。貴社の大きな強みが一つ減ったのではないでしょうか。

 

Googleがファーストプライスに移行したことは、2017年の終わりから弊社が取り組んできたことが市場で支持された証としてポジティブに捉えています。ファーストプライスオークションが市場競争を促進し、サプライチェーンが可視化されやすくなることが、バイヤーとパブリッシャーのメリットとして市場で広く理解されるようになったと考えます。

 

Googleのファーストプライスオークション採用により、当社の強みが失われたとは考えていません。市場全体で入札方式が統一されることで、広告運用は確実に行いやすくなりました。オンライン広告業界が一致団結して良い方向に進むための一助となるはずです。

 

Cookieレス時代の新たなターゲティングのあり方

 

―ウェブサイト上の広告枠にオンライン広告を出稿した事業者が個人ユーザーのネット閲覧履歴などを把握するための「サードパーティーCookie」の利用を制限する動きが世界的に強まっています。

 

サードパーティーCookieの利用制限がかかることで、ウェブ広告は大きな転換期を迎えます。当社としては、オープンウェブで「人ベース」のマーケティングを実現することで、パブリッシャー企業様の支援を行っていく計画です。

 

概要としては、ウェブサイト上のコンテンツを閲覧するために、電話番号やメールアドレスなどの個人情報を用いてログインを促す仕組みの整備です。

 

より具体的には、当社が独自で開発・提供しているヘッダー入札のラッパーと、オープンソースとして市場で普及しているPrebid のラッパーの両方で機能するCookieレスの「アイデンティティー・ライブラリー」という装置を用意しています。この装置を用いて、いずれかのラッパーを導入しているパブリッシャー様がCookieレスな人ベースのキャンペーンを行うことができるようになります。

 

―オープンウェブでの人ベースのターゲティングは既に実践されているのでしょうか。

 

米国では既に大手スーパーマーケットチェーンが保有するCRMデータを、当社がネットワークしているウェブサイトに適用するという試みを行っています。例えば子供の生活用品の購入層に対して広告キャンペーンを実施したいというときに、このCRMデータ上で関連商品の購入歴があると記録された人々が閲覧した様々な提携ウェブサイトの広告枠に広告を表示することができるのです。サードパーティーCookieを利用したターゲティングと比較して、格段に広告の投資対効果が高いキャンペーンが実施できます。

 

―Cookieレスのターゲティング手法が確立されつつあるのですね。

 

サードパーティーCookieでターゲティングされているオンライン広告と比較するとその量はまだ圧倒的に少ないというのが現状です。ただし、個人情報と引き換えにしてでも無料で読みたいと思わせるような質の高いコンテンツを有するウェブサイトは、アドレッサブルで高単価な広告在庫を販売できるようになるのですから、プレミアム・パブリッシャーにとって大きなチャンスです。

 

この取り組みは当社だけではなく、市場全体が一体となって取り組まなければ進みません。そうした協力体制を築いていくことが最も難しく、また面白い部分でもあります。当社としては、たくさんのパブリッシャー様が「人ベース」のマーケティングを実施できる環境を整備するために、引き続き果敢にチャレンジを続けていきます。

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長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。