「アドテクの理想と現実」にパブリッシャーはどう向き合うべきか―大手ポータルサイトが語る課題と未来- [インタビュー]

プログラマティックが普及して以降、メディアを取り巻く広告ビジネス環境が変わったといわれているが、日本におけるその実態や実務を担う関係者による現場の声は、実はあまり多くが取り上げられているわけではない。

パブリッシャー・トレーディングデスクとして日頃メディアを近くで支援しているbrainyが、メディアのプログラマティック広告実務担当者へのインタビューを通じて、日本のメディアが置かれているビジネス環境や、昨今のアドテクノロジー界隈のトレンドについて率直に感じていることなどをお伝えするシリーズ。

第四弾は、NTTレゾナントの今年で20周年を迎えたポータルサイト「goo」を運営する広告事業部門の責任者・実務担当者に伺った。

★インタビュー対象

NTTレゾナント株式会社 デジタルマーケティング事業部

広告営業部門長 福武 雅則 氏 (写真 真ん中)

同部門 事業推進グループ 担当課長 藤岡 功生 氏
総括・開発・審査を担当 (写真 右から二番目)

同部門 事業推進グループ 担当課長 岡野 敬太 氏
自社の広告メニュー以外のマネタイズを担当 (写真 左から二番目)

★聞き手

株式会社brainy

2017年3月、株式会社オプトから会社分割により設立。様々なアドテクノロジーを駆使することでネット広告収益の最適化を支援する「パブリッシャー・トレーディングデスク」を、国内プレミアムメディアを中心に展開している。

代表取締役社長CEO 山岡 真士 氏 (写真 一番右)

パートナーブレイン戦略部 塚本 くるみ 氏 (写真 一番左)

月間10数億PV、国内有数の大規模サイト「goo」のマネタイズとは

― 塚本氏(brainy  はじめに「goo」についてご紹介をお願いします。

写真1

福武氏(NTTレゾナント ポータルサイト「goo」は今年の3月27日で20周年を迎えました。ポータルサイトとして扱っているのはニュースや各種の情報系サービスで、カテゴリは50以上に及びます。中でも特徴的で大きなサービスが「教えて!goo」です。サイトの規模は月間10~12億PV、UUは1.2億程度です。

― 塚本氏(brainy  国内サイトとして有数の規模ですね。それだけ大きいと、広告在庫のマネタイズにはどのような影響が出るのでしょうか。

藤岡氏(NTTレゾナント 効率性も考えて一括りで考えたい部分がありますが、やはりそれぞれの面の特徴に合わせた広告マネタイズの手法を考えるべきであり、それを実践しています。

岡野氏(NTTレゾナント データ活用によるマネタイズも実施しています。

藤岡氏(NTTレゾナント 枠の位置もすべて同じではなく、サイトごとにチューニングして最適化しているので、大変です。1つの方法でマネタイズを行いたいけれど、カテゴリや枠が多くできていないのが現状です。

― 塚本氏(brainy  なるほど、単一カテゴリではないポータルサイトならではの影響ですね。実際、枠数はどのくらいあるものなのでしょうか?一般的にはいちサイトで10~20枠程度かと思います。

藤岡氏(NTTレゾナント 多岐にわたりすぎて「何個です」というのはなかなか難しいです。

― 塚本氏(brainy  数えられないほどの数、ということですね(笑)カテゴリや枠が多いことを活用し、マネタイズしなければならないことが特徴になるかと思いますが、それ以外に広告枠を設計する上で重要視していることはありますか。

福武氏(NTTレゾナント 一時期「面から人へ」ということが言われた時期がありました。人にターゲットすれば、面は重視しなくてもいいと。どんなサイトでも同じというくくりに流れていた時もありましたが、面の特徴やユーザビリティを考慮した広告のあり方の検討は実直に続けてきたと思います。

いまは多少揺り戻しがあり、ターゲットも重要だけれども、出ている面も重要になってきています。もともとわかりきっていたことなので、そうではない時期があったことに対して、歯がゆい思いがあります。いまは広告もユーザーが見ているコンテンツの中身との親和性の大切さ、広告の掲出位置も含めて、ユーザビリティに配慮した設計を心がけています。マネタイズだけを考えるのではなく、ユーザビリティも考えて。

運用体制とデータ活用でメディアの信用を創り上げる

― 山岡氏(brainy  社内体制や販売手法も規模に合わせて対応されているのではないかと思うのですが、その点はいかがでしょうか。

岡野氏(NTTレゾナント サービス担当と広告担当に大きく分かれていて、枠の置き方やポリシーでいうとサービス担当と協議してユーザビリティを考慮しながら設計をしています。広告担当は、純広告の企画・販売の部隊とプログラマティック取引の部隊、その他に技術・審査等の部隊がいるという体制です。
手法についてですが、自社の広告商品があり、空き枠はSSPやアドネットワーク等ベンダーを使ってマネタイズしています。手売りに関しては、gooが保有する大量のコンテンツとユーザーの行動データを、言語解析と機械学習により、5万クラスタの興味関心で分類し、データの付加価値をつけることで、他メディアよりも高く売れるように努力をしています。SSP、アドネットワーク事業者さんは、15~20社とお付き合いしています。

― 山岡氏(brainy  ボリュームも大きいので、人員も他メディアよりも多いのではないかと想像しますが、いかがでしょうか。

藤岡氏(NTTレゾナント プログラマティック取引の運用部隊は3名、掲載可否3~5名、技術数名で行っています。

― 山岡氏(brainy  掲載可否の担当者がいるのが他メディアさんとの大きな違いになりそうですね。

写真2

藤岡氏(NTTレゾナント 対外的にはそれをアピールはしていません。なかなか「それはいいですね」というふうには受け取られないので、掲載可否3~5名はセールストークにならない悩みがあります。「goo」を昔から使ってくださっているユーザーさんから意見を頂戴することもありますので、そこに配慮した広告を配信するように留意しています。
ユーザーからのクレームは割と少ないほうでしょうね。リスクヘッジの観点も考えています。

福武氏(NTTレゾナント 日本ではWeb広告も、掲出したメディアの責任という判断になります。「gooに出ていた広告だから信用して申し込んだのに・・・」と言われたら、メディアの信用が傷付きます。また、当社では純広告の販売もしています。メディアの信用を担保することにはとても気を遣っています。プログラマティック取引だけでマネタイズしているメディアさんは、審査のために担当をおく必要はないという判断になるのかもしれません。

― 山岡氏(brainy  運用の担当者が3名というのは意外でした。少人数でまわすための工夫や仕組みなどはありますか。

岡野氏(NTTレゾナント いろんなネットワークやSSPを使うので各枠の収益性を把握できるよう各社の数値をAPIから集約する仕組みを作って一元管理し、効率化を図っています。そのレポートツールで日々データを分析しています。

― 塚本氏(brainy  なるほど。そこでもデータ活用に注力されているのですね。

藤岡氏(NTTレゾナント アドネットワークを配信することで得られる情報はすごく少ない中、2016年あたりからそのログをできるだけ集めて分析しています。どういった出し方をしたらよりパフォーマンスが上がるのかという点について、これまでは結果だけを見ていたのを、事前に仮説を立てて試す作業を始めました。

福武氏(NTTレゾナント 自社で持っているオーディエンスのデータも使います。広告のインプレッションやビューアブルなども含めて総合的に解析しています。

求められる「メディアプロテクト」な世界

― 塚本氏(brainy  では次に、御社が感じる「メディアから見たアドテクの理想と現実」を教えていただけますか。

写真3

岡野氏(NTTレゾナント アドテクを使って公平に競争させて、メディアが正当に評価されることを期待したいです。プラットフォームが一元化されているのが理想だと思いますが、メディアが意図的に集約してコントロールするのは難しく、勝者総取り的に一社に集約されてしまうと、経済条件の変更対応やシステムトラブルによるサービス品質影響など、主導権がメディアを離れるのでそれはそれで一社依存がリスクになるでしょう。良い点と悪い点が混在しているので、どうバランスを取るかということはジレンマになります。

ヘッダービディングなどで、SSPをいくつか共存させるというものも出てきているので、ベストな方法はまだわかりませんが、試しています。ヘッダービディングなどで一社依存を避けるのがよいと思います。透明化により、メディアがRTBをコントロールできるくらいのものになるのが理想ですね。複雑になりすぎて、どこでなにが起きているのか、広告主側は勿論、メディア側でもわからなくなってきています。SSPなどのベンダーがログを開示する等、透明性を高めていただくと有難いです。

― 塚本氏(brainy  双方でコントロールしていけるのは理想ですね。また、岡野さんが仰るようにアドテクには「一存と共存のジレンマ」がありますね。話に上がった「透明性」というキーワードにおいてはデマンド側とサプライ側で見解が分かれるかと思いますが、ブランドセーフティなどはどのようにお考えですか?

福武氏(NTTレゾナント デマンド側がブランドセーフティを気にしていますが、本当の意味での「セーフティー」をアドテクは作れるはずです。メディアと広告主が認め合って尊重し合えば、きれいな「セーフティー」が出来るはずです。双方から働きかける世界ができるのが理想だと思います。広告主とメディアが歩み寄れるような世界にしていきたいです。

― 山岡氏(brainy  広告主側が安心して広告配信できる仕組み、つまり『ブランドセーフティ』には「ads.txt」などの方法がありますが、一方でメディアのコンテンツ品質を保護していく『メディアプロテクト』も重要ですよね。

藤岡氏(NTTレゾナント 「ads.txt」はプラットフォームを縛るものですよね。メディア視点では、その先の広告主が見えません。PMPが3年くらい前に日本で出始めた時には、その辺りに期待した部分もありますが、いざ始めてみるとDSPからの配信が圧倒的に多く、買い手が明白になることはありませんでした。

― 山岡氏(brainy  たしかにデマンド視点だと、PMPを利用すれば配信先から低品質な掲載面を除くことは可能ですよね。ただ反対に、サプライ視点ではPMPの広告主は無数にあり、メディアのブランドを毀損しないクリエイティブだけを流すように制御するのは難しいのが現状です。
写真4更に、PMPだけでは100%在庫が埋まらないので、PMP以外にもマネタイズ出来る方法を使わざるを得なくなり、結局その配信にメディアのブランドを毀損するクリエイティブが紛れてしまうことが課題ですよね。PMPだけしか配信しないようにすればいいかもしれないですが、メディアを運営していく上ではマネタイズ面で厳しいと思います。デマンド視点の『ブランドセーフティ』とサプライ視点の『メディアプロテクト』を実現するにはPMPの一歩先の仕組みが必要かもしれません。

福武氏(NTTレゾナント 海外では純広とPMPだけというメディアの事例もあると聞いています。日本はCPMが低いので難しいですね。

― 山岡氏(brainy  理想と現実に差はありますね。他にアドテクの課題として感じていることはありますか?

岡野氏(NTTレゾナント 人から面への回帰が言われつつも、なかなかリターゲティング偏重主義から脱せていません。我々もオーディエンスデータには価値があると考えているので、ユーザー分析レポートを提示する等、その価値を認めてもらえるような努力を継続しています。ただし、求められるのがCPAのみだと、果たして意味があるのかという話にもなってしまい、知ってもらう、興味を持ってもらうという広告とはフィールドが違うので、うまく使えないものが多いのです。ディスプレイ広告が今まさに買おうとしているユーザーにだけフォーカスしたものが大半となってしまっている現状は、引き続きの課題だと思います。

― 山岡氏(brainy  確かに、普及している効果指標はなかなか変化しませんね。ただそんな中で、最近デマンド側からの買付け方法もいろいろと変化してきていますが、キーワードとして、どのあたりに注目されていますか?

岡野氏(NTTレゾナント ヘッダービディングはメディア側にコントロールする主導権があり、メディアにとってプラスになりそうな気がしています。メディア側としては使い方にもよりますが、武器になる大きな可能性を感じています。

福武氏(NTTレゾナント あとは動画です。自社の商品を含めて動画はさらに盛り上がっていくでしょう。動画への対応は進めていきたいです。ユーザーに嫌がられないように掲出できる方法を広げていきたいところです。

― 塚本氏(brainy  ありがとうございました。では最後になりますが、国内の他メディアに聞いてみたいことはありますか。

藤岡氏(NTTレゾナント 『メディアプロテクト』の観点での審査や運用を内部で行なうのは、リソース的にも大変だし、欧米流だと一旦は受け入れて何かあれば事後対応しますという方法が主流ですが、他メディアも本当にそれでいいと思っているのか聞いてみたいです。「しかたない」なのか「それで十分」なのか。gooは20年、利用してくれるユーザーの方々に安心・安全で信用できるインターネットを提供してきましたが、この先20年も同じようにやっていくには、広告の質も大切だと思っています。

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ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長

外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。