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「パン屋に魚を注文する人はいない」の意味とは?

一般社団法人マーケターキャリア協会(MCA)は、9月26日と27日の2日間にかけて、「MCA 道場 マスタークラス」の本日程を開催した。

 

 

本クラスは、フェイスシールドやマスクを着用するなど新型コロナウィルスの感染拡大防止対策を取った上で都内の会場にて実施。MCA理事で株式会社ニューバランスジャパン マーケティング部ディレクターの鈴木健氏による講義と、議論やプレゼンテーションを始めとする参加型のワークショップを中心に行われた。

 

自身を物語化する意義とは

最初の課題は他己紹介。二人一組になり、一方が「自分を最も表現するもの」について5分間で説明後、もう一方がその内容に基づき3分間で相手の他己紹介を行う。この際、他己紹介を行う側は伝書バトのように相手から受け取った情報をただ繰り返すのではなく、自分なりの分析を含めるようにとの注意点が伝えられた。自己紹介が話し相手にどう伝わっているかをきちんと把握するための措置だという。

 

この課題を通じて、例えばレゴブロック好きの参加者については「論理性と独創性を両立しているとの印象」、一般的な自転車を用途に応じてカスタマイズしている参加者は「リソースが限られていてもあらゆる手段を駆使して課題を解決する力がある」といった分析的な見解と合わせた他己紹介が披露された。

 

その上で鈴木氏は、自身に対するイメージをありのままに伝えるだけでは他者に上手く伝わらないと指摘。相手が理解しやすいように物語化する必要があるとの考えを述べた。

 

キャリアシートから物語を引き出す

続いて、以下の手順で自身の物語を引き出すためのワークショップが実施された。

 

①「幸せの定義」「象徴的な仕事」「不満」など記入項目が多岐にわたるキャリアシートの記述。

②自身のキャリアを振り返り、各段階における幸せ度を折れ線グラフで表示。

③自身のキャリアを「私は~のために~という役割で~をしたことで~という変化をもたらし、自分も~を学んだ」という表現にまとめる。

 

一般的なキャリアシートは事実のみを列挙し、面接を通じて各事実の背景などの補足説明を行う。鈴木氏によると、この面接時に語る背景や経緯、動機を含んだ説明が物語化の作業に相当するという。

 

物語化の目的は、他己紹介を行うためだけではない。その物語には「お金を得るために働く」という一般的な動機を超越した個性や独自性が含まれている。キャリア構築のあり方を検討する際には自身の都合が優先される傾向にあるが、「誰のために何をするか」という観点を意識することで独自性は上がり、かつ働く動機を再確認するにも役立つ。

 

さらに鈴木氏は「個性とは他者からみた自分への評価であり、必ずしも他者との差別化を意味しない」と強調。またマーケティングとは「他人のために考え、行動することが最終的に自分を活かし、成長させる社会の仕組みであり、それこそがマーケティングの最も面白い部分である」とも付け加えた。

 

この課題を実施した参加者からは「しっかりと理念を持つ企業に働きたいと思い転職したが、次は理念にズレが生じたときが心配」「数字作りではなく、プロジェクトや他人のためと実感できるときに幸せ度が上がる」といった自己分析結果が示された。

 

「弾み車」と自身のプレスリリース制作

次に鈴木氏は、大手IT企業Amazon創業者のジェフ・ベゾス氏が描いた「弾み車(フライホイール)」の図を紹介。ベゾス氏はこの図を用いて、「より多くの商品をオンラインで安く売る」→「より多くの顧客が集まる」→「より多くの売りたい人が集まる」→「より多くの商品をより多くの人に売ることができる」→「売上に対する固定費が下がり利益が出る」という好循環を作り出すことを構想したと伝えられている。

 

鈴木氏は、この弾み車の図を参考にしながら、次の問いに答えることで自身のキャリアを好転させる仕組みを把握することを参加者に求めた。

 

・自分自身のエネルギーの源は何か

・そのエネルギーを使って自分が出来ることは?

・自分が出来ることは誰の役に立つか?

・役に立つことで世の中がどう良くなるか?

・それを通して自分が成長することは何か?

 

弾み車の作成を通じて、自身のキャリアを他者に伝えやすくなるだけでなく、好循環を生み出すことでキャリア形成において最も重要な継続性を獲得しやすくなるという。

 

弾み車の図例

 

各自が作成した弾み車の図に基づく具体的な目標や必要なステップなどを整理した後、次に出された課題は「自分の将来についてのプレスリリース制作」。未来の日付で自身がどのようなリリース配信をし得るかについてそれぞれ発表した。

 

この課題を受けて、組織に所属し続けるイメージが持てない一方で会社組織に入り込まないとできない仕事が多くあると認識している参加者は「スペシャリストとしてフリーエージェント契約を発表」と謳うリリースを制作。また特定の分野だけに偏ることなく様々なプロジェクトに関与したいと考える参加者は「表舞台には出たくない。『有名人を支える裏の人』をさらに裏で支える人になりたい」と述べた。

 

鈴木氏は「やりたいことがあったらそれを口に出すのが基本」と明言。5時間半にわたって実施されたマスタークラスの1日目を締めた。

 

自身の「型を決める」

マスタークラス2日目は、1日目に整理し直した考えをいかに実社会の中で生かすかという点が主なテーマとなった。その上で重要なのは自身の「型を決める」ということ。鈴木氏は「パン屋に『魚を売ってください』という人はいない」という例を用いながら、自身の能力を最大限に発揮し得る環境を構築するために、まずは得意領域を把握し、またそれを世の中に対して示すために各自の「構え(スタイル)」「技(スキル)」「得意とする環境」を明らかにするよう求めた。

 

この作業において目立ったのが、真っ白な状態から事業を立ち上げる「0→1」タイプか、もしくは既にある事業を大きく成長させる「1→10」タイプのいずれであるかという観点に基づく整理。「事実をベースにボトルネックを見つける」ことをスタイルとする場合は「1→10」、「課題を吸い上げて既成事実をつくってしまった上で承諾を得る」ことが多い場合は「0→1」ではないかなどの意見が出た。

 

その後、予め鈴木氏が用意した5つの自由課題から1つ以上を選んでプレゼンテーションを行うワークショップを実施。実在するグローバルIT企業や国内老舗企業を例に取り、マス広告やデータ活用のあり方などについて各自の考えを発表した。参加者の大多数がマーケティング担当者としての豊富な経験を持つことから、専門的な企業分析に基づく要点を押さえたプレゼンテーションが次々と披露された。

 

プログラムの最後には、参加者の将来計画を他の参加者と共有した上で、鈴木氏との1対1でのチュートリアルも実施。2日間を終えた参加者たちからは、「思っていることを可視化することの重要性に気付いた」「他人の話に対してこれほど真剣に耳にする機会はあまりない」「既に自身のスタイルを確立したように見える人たちが、どのような経緯を経てそのスタイルに辿り着いたかの過程を知ることができた」などの感想が出た。

 

また参加者の一人は「マーケターとしてのキャリアをどうするかを本気で考え、自分と向き合える2日間だった。自分のことは自分だけでは分からなかったので、『マーケティング』という共通点を意識した人が仲間と出会えることができ、貴重な財産となった」と振り返った。

 

MCAでは、今後もマーケターのキャリアを支援する様々なプログラムを実施する予定。

 

 

 

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長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。