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ぴあが先駆ける、データドリブンな広告ビジネスの次の一手 [インタビュー]

国内最大規模のチケット販売サービスを提供するぴあは、その事業特性にもよるところから、詳細な会員登録情報にとどまらず、ライブエンタメ分野における膨大なチケット販売情報を保有しているという、来るクッキーレス時代に対応する現状においては、非常に優位な環境にある媒体社である。

既にDSPやDMPを持ち、プログラマティックな広告ビジネスを展開している同社が、次にどのような手を打とうとしているのか。

現在同社はPubMaticが提供するオーディエンスデータプラットフォームの導入に向けた準備を進めているが、そこに至った戦略的な背景や今後の取り組みなどについて、ぴあ株式会社 デジタルメディア・サービス事業局 データマーケティング&ソリューション推進室 チーフプロデューサー 市川雅仁氏、同 デジタルメディア・サービス事業局 データマーケティング&ソリューション推進室 兼 営業推進部 廣瀬 仁氏、そして、パブマティック株式会社 カントリーマネージャー廣瀬 道輝氏に、お話を伺った。

 

(Sponsored by PubMatic)

(聞き手:ExchangeWireJAPAN 野下 智之)

 

 

国内最大規模のエンタメDMP

―まずは自己紹介をお願いいたします

廣瀬 仁氏(ぴあ):私は、大手IT企業の媒体社部門を経て、2020年4月からぴあに参画しました。主な業務内容はアドテクを用いたウェブメディアの収益化です。

 

市川氏(ぴあ):私はPIA DMPというデータソリューションを一から立ち上げました。データ周りの戦略やプロダクト周りの開発責任者をしています。

 

廣瀬 道輝氏(PubMatic):PubMaticに入社して7年目となりますが、この間広告を取り巻く環境が大きく変化してきており、とてもエキサイティングな環境に身を置いています。

 

-ぴあの広告・データビジネスの変遷と概要について、改めてお聞かせください

 市川氏(ぴあ):データの有効活用に目を付けたのはちょうど5年ほど前です。それまでは一媒体社として、サイト内のトラフィックをマネタイズするということに注力してきましたが、この頃より当社のチケットサービスでの会員データ、購買データなどを広告やデータソリューションに生かすことが出来ないかと計画し、データを集め始めました。

またデータを自社サイト内だけではなく、外部のサイトも活用しようということで、DMPとDSPのテストを開始し、その2年後の2017年にPIA DMPやPIA DSPの提供を開始、その後DMPを活用したソリューションビジネスの展開も本格化させてきました。

 

ここ2-3年でデータプロバイダーとの連携が10以上に増え、いろいろなところで当社のデータを使っていただけるようになりました。現在ではほぼ全ての大手広告代理店と連携をしていますし、DSP事業者とも戦略的に連携を進めています。

 

-PIA DMPの概要とお取組みについてもお聞かせください

市川氏(ぴあ):PIA DMPは、国内最大級のライブエンタメのデータを活用することが出来るDMPです。今年3月現在で1750万人超の会員登録情報と、年間約7500万枚以上のチケット販売情報を保有しています。エンタメに熱狂する1750万人のファンの趣味嗜好についてのデータを活用することが出来るということは、大きな特徴です。当社と提携するパートナーのデータも格納して、さまざまな施策に活用しています。

 

当社では保有しているデータを大きく3つのセグメントに分けて定義しています。一つ目はいつでも利用できるEssential、二つ目は季節性の高いセグメントであるUpward、そして三つ目は、完全にカスタマイズしたTailoredです。

このうち、例えばUpwardとしては、コロナ禍でオンラインライブがかなり増えてきており、これをセグメント化しております。

 

常時揃えているセグメントは、150程度。性別や1歳刻みでの年齢情報、居住地などの登録されている会員属性情報、ライブやスポーツ、演劇、アイドル・アニメなど20万に及ぶアーティストのチケット購買履歴、あるいは開催地情報や日時などもチケット購買に紐づく情報もすべてパラメーターとすることが出来ます。

 

お客様にはこれらのデータを使い、連携するDSPやSNSもしくはデータプロバイダーを通じた広告配信をしたり、ターゲット分析やメディアのパーソナライズなどに活用をしていただいています。

 

 

データドリブンな媒体社ビジネスのパートナー、選定の三つの理由

-今回PubMaticのAudience Encoreの導入を決めた理由についてお聞かせください。

廣瀬 仁氏(ぴあ):もともとの経緯はPubMaticの廣瀬さんとは前職でのお付き合いもあったのですが、理由は大きく三つありました。一つ目はPubMaticさんが持つ外資系商流を増やしたかったということ。今まで当社がお付き合いしてこなかった広告主にもデータを活用いただけるのではないかと期待をしております。

 

二つ目はPubMaticさんと、データビジネスにおいて、多くのことをご一緒させていただけると期待していること。PubMaticさんは、数あるIDソリューションのハブとなるIdentity Hubをリリースされるなど、サード・パーティー・クッキーの利用制限に関する対応もされていますし、ゼロ・パーティー・データやファースト・パーティー・データの活用を促進していくための取り組みもご一緒させていただけるのではないかと思いました。

 

三つ目は、当社はPIANO社のDMPを活用しているのですが、PIANO社とPubMaticさんとのデータ連携が既に出来ているので、新規の開発が不要であったことです。

 

-Audience Encoreを市場に投入した背景について教えてください。

廣瀬 道輝氏(PubMatic):日本ではまだ主流ではありませんが、グローバルではサプライサイドがバイヤーサイドに直接働きかける動きが活発化しています。その中の一つで、現在トレンドとなっているものに、SPO (Supply Path Optimization) があります。

SPOの詳細はここでは割愛しますが、海外の大手広告代理店は取引する事業者数を統合していく潮流にあるため、SSPである当社がバイサイドである広告主や広告代理店、DSPと直接コミュニケーションを図り、デマンド側にROIを高める提案をすることでPubMaticの独自商流を作っていくという戦略です。

当社とグローバル大手広告代理店との契約の一環で、日本でも適用されている広告主、広告代理店もいます。グローバルな広告主はデータを活用したバイイングを好みますが、日本でも同じような商流環境を当社としてもご用意するために、Audience Encoreをご紹介しております。

Audience Encoreは、ぴあさんのようなファースト・パーティー・データをお持ちの媒体社様と直接接続させていただくことで、バイサイドに対して、セグメントをされたユーザーがどのくらいいるのかを可視化することが出来ます。さらにそのユーザーに対して、ぴあさんのような、データオーナーがセグメントごとに価格付けができるようになります。

そして、バイヤーである広告主や広告代理店は、このセグメントを使い、PMPでDeal IDを通してバイイングをすることが出来るようになります。

基本的には、オーディエンスデータを持っている媒体社様に、PubMaticが持っている広告在庫を結合させて可視化するというものになりますので、これまでのメディア収益にプラスしてデータ収益も期待できます。また当社に接続するセグメントは任意であり、また提供範囲もコントロールできます。

日本における当社のAudience Encoreを導入は、ぴあさんが初めてのケースになります。ぴあさんのデータは、バイサイドから要望されやすい特性を持っています。例えば消費財や嗜好品を提供しているグローバルの大手広告主の場合、デモグラフィックを気にされるケースが多く、ぴあさんが持つデータはまさに適しています。また、日本では誰もが知っているエンタメサイトであり、ユーザーのクオリティーも高いという評価が定着しています。そして既に多くの広告代理店との取引実績もお持ちです。

 

 

アライアンスを進め、データ×広告ビジネスを加速

-今回の取り組みにおいて、ぴあさんはどのようなことを今後期待されますか?

廣瀬 仁氏(ぴあ):先ほども触れましたが、今まで実績がなかった広告主様とのお取引を広げていくということと、今話題になっているサード・パーティー・データ利用制限の代替案としてのファースト・パーティー・データの活用や、その価値を高められる取り組みが出来ればと思っています。

通常PMPを作る場合、媒体社の広告在庫とオーディエンスデータで構築するというものです。今回の取り組みではセグメントを当社から提供しましたが、広告在庫自体は、当社以外のものも活用することが出来ます。これによりPMPの拡販に大きく貢献できるのではないかと期待しており、今後注力してまいります。

 

市川氏(ぴあ):提供するデータは、今後は提携パートナー企業のデータも当社のDMPに集積させていくという戦略も立てています。一部のパートナー企業とは、データだけではなく、広告の配信面も一緒に作っていこうという取り組みを志向しています。

データ、広告、そしてチケット販売を掛け合わせたビジネスを一緒に展開していこうという話し合いをしているところです。

 これまでさまざまな事業者さんとのデータアライアンスをさせていただいたことで感じたことは、当社のデータが、どのような広告主と相性がよく、また当社にとっても高い収益性をもたらし得るのかということが見えてきたことであり、媒体社としてデータ×広告ビジネスを行っていくうえで大変大きな収穫であり、今後のビジネスにも活かしてまいります。

 

 

SSPならではの役割でプログラマティック取引を拡大

-PubMaticは、今回のぴあさんとの提携を受けて、今後データビジネスをどのように展開していきたいと考えていますか?

廣瀬 道輝氏(PubMatic):オーディエンスデータの質はもちろんボリュームを確保していく必要があります。セグメントはすればするほどボリュームが少なくなっていきます。バイヤー向けに、ボリュームが確保できるセグメントをどんどんと増やしていきたいと考えています。

ファースト・パーティー・データを持っていらっしゃる媒体社様との接続を進めていきたいと思っています。

このような取り組みは、SSPであるからこそできることであると考えています。通常バイサイドは、オーディエンスデータをDSPと接続させて活用するケースが多かったと思います。ただ、複数のDSPを使用して同様のことをしようとすると、複雑ですし工数も必要です。またDSP,SSP間のシンクロスも見逃せません。あらかじめ多数のセグメントをSSP上で用意出来ていれば、広告主や広告代理店も効率的に買いやすいはずです。このようなプラットフォームを提供することで、新たなプログラマティック取引の場を増やしていくことが出来ればいいと思います。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。