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テレビ業界人の視点:「テレビは時代遅れの恐竜」ではない

チャンネル4(Channel 4)の広告技術主任で「The Wires Global 2021」の審査員を務めるチャーリー・グリン氏が、ExchangeWireに寄稿した本記事で、従来型テレビが時代遅れだという考えに疑問を投げかけ、プログラマティックの新たな夜明けにテレビがもたらす利点について語ってくれた。

 

正直に言うと、私はちょっとしたテクノロジー通を気取ってきた。

メディア業界におけるキャリアの大半をプログラマティックに費やしてきた私は、業界の新参者であることに慣れていた。プログラマティックはかつて、適切な人に、適切な時間に、適切な場所でリーチすることを求めるクライアントにとって、最も画期的な広告技術だと見なされていた。

一方、テレビはいわば恐竜だった。レガシーなチャネルで、確かにリーチとインパクトはあったが、デジタルが持つような技術的な洗練さには欠けていた。1対1ではなく(ああ…)、まとまったレポートを見るのに7日も待たされる(おお、神よ…)。当時の私は、例えば局単価などといったテレビ業界特有の広範で複雑な慣習については、何も知らなかったのだが、CTV(コネクテッドTV)の台頭は、従来のテレビを暗黒時代から脱却させ、先進のデジタル世界に呼び込むものだと考えていた……。

だが、私の考えは完全に間違っていた。

 

これからの時代

プログラマティックがディスプレイ広告と動画広告の有力なバイイング手法となった今、「新興の」テクノロジーは、プログラマティック対予約型の構図から、より特定の分野を強化する方向へと進化してきた。これまでは、まるで月替わりメニューのように、オーディエンスターゲティング、ブランドセーフティ、コンテクスチュアルターゲティングなどが次々と注目されてきたが、今は、間違いなく、CTVがスポットライトを浴びる時期を迎えている。

デジタルにおける新技術はいつも刺激的だ。何ができて、何が(まだ)できないのか。自社のキャンペーンに何をもたらしてくれるのか。ここに来てCTVが業界人の心をつかんだのは、デジタルとテレビという一見異なる2つの世界を統合するものだからだ。

どんな新技術でもそうだが、コントロール面は往々にして発展途上であり、「基本的」な設定の多くはいまだに調整できていない。CTVの場合、現在待ち望まれている機能としては、フリクエンシーキャップやブランドセーフティなどがある。一方で、従来のテレビでは、そうした「デジタルの基本」は期待されておらず、進歩はわずかなものにとどまっている。

しかし、私が見落としていたのは、すでに多くの放送局がこれらの基本をカバーしており、デジタル世界の競合相手の大半よりも準備を整えているということだ。

 

コントロールの過小評価

デジタルの世界は、迫りくるサードパーティCookieの廃止に激しく動揺したが、放送局は微動だにしなかった。放送局の多くは、当初からCookieレスの環境でVODソリューションを運用しており、技術的な必要性から、(チャンネル4とスカイの場合)フリーホイール(Freewheel)などのパートナーと共同で独自の識別子を開発し、EU一般データ保護規則(GDPR)に準拠したユーザー特定機能を提供してきた。フリクエンシーキャップはどうか?――対応済み。プラットフォーム間のトラッキングは?――対応済み。パーソナライズ?――もちろん対応済みだ。

 

ユーザーデータの保護

このような緊密なID統合はまた、有力なIDソリューションとのシームレスな連携も可能にする。事実、最近はそうになっている。チャンネル4の「Brandmatch」プロダクトは、広告主が自社のファーストパーティデータを持ち込んでチャンネル4の登録ユーザー2500万人とマッチングさせることで、ターゲティングだけでなくアトリビューション測定なども可能にする。

そして、インフォサム(InfoSum)のような信頼できるサードパーティを、分散型の「クリーンルーム」として活用することで、各社は貴重なデータを漏洩させることなく統合作業を行える。現在、ITVもインフォサムをIDパートナーとして採用しており、業界がその価値を認めていることは明らかだ。

加えて、多くの放送局はログインユーザーも抱えているため、データに関する同意とその情報を最高レベルのコンプライアンスで直接管理することができる。ユーザーは、BVOD(放送動画オンデマンド)コンテンツも受賞作を無料で視聴するために、公正な価値交換の結果として、自身のデータが広告に使用されることを正しく認識している。

これがますます重要となるのは、企業の個人データ利用に対するユーザーの信頼度が高まれば、同時に価値交換の認識も高まってくるはずだからだ(アップルの同意フレームワークを管理している人なら実感しているだろう)。

 

データをコントロールする

チャンネル4 広告技術責任者、チャーリー・グリン氏

放送局にとってのデジタルへの移行、特にプログラマティックへの移行は、「ウサギとカメ」の寓話のように、ゆっくりと着実に進めていくことで勝利につなげることができる。VODが成長していることを否定する人はいないが、一方、リニア(従来型)TVの強みは、放送局が技術スタックを進化させる過程で妥協する必要がなかったということだ。

ここで「妥協」と言ったのは、急激な成長の結果として、多くの人がデータ漏洩防止などの各種コントロールを諦め放置していることを意味している。放送局としてチャンネル4が提携した信頼できるSSPやDSPパートナーは、ユーザーが誰によってどのように追跡されるかを完全にコントロールし把握することができている。

これにより当社は収益とユーザー保護の重要なバランスを保っている。

さらに、放送のリニア送信のために必要なコントロールは、デジタルにおいても当初から装備している。コンテンツの区切りごとに挿入される複数の広告、映像のクオリティ、視聴体験に関する要件等がデジタルとは異なるため、放送局は「新しい世界」に踏み込む前に、予めこれらの違いを解消するための基礎的な仕組みを構築する必要があったのだ。

 

高い基準

放送局には、膨大なメタデータによってブランドセーフティをサポートできるというメリットもある。英国では従来型のリニア放送は厳しく規制されており、放送局が出資する業界団体クリアキャストは、広告が広告基準局(ASA)の定める規則を順守しているかどうかを個々の広告ごとに(人が審査して)承認している。それによってはじめて広告は放映可能となっているのだ。

放送局は、VODに関しては、広告実践放送委員会(BCAP)がリニア放送を対象に定めているような厳しい規則に従う、法的な義務はないものの、そうすることが視聴者の利益につながると判断し、当社を含む多くの放送局は、責任ある事業者として、これに従うことを選択している。さらに、コンテンツがダウンロードされた場合など、ユーザーが任意の時間帯にコンテンツを視聴する際も、時間による制限(例えば、ギャンブルのコンテンツは午後9時以前に視聴できない)が守れるようにコントロールしている。

 

こうした広告に付随するメタデータの存在、オリジナルコンテンツを放送するメリット、そしてすべての広告や番組が実在する視聴者の目に触れていることなどから、コンテンツがリニアであれオンデマンドであれ、信頼できる放送局であれば、広告における最高基準とブランドセーフティが守られていることを確信しているだろう。

このメタデータをプログラマティックバイイングにも流用する必要があるのでは?――簡単だ。HFSS(高脂肪・高糖分・高塩分)食品広告に関するガイドラインの変更が迫っている?――当社は既に対応済みだ。

 

地理的な違い

CTVに関する話題の多くが、米国から発せられているのは確かだが、欧州域内の多くの市場とはさまざまな違いがあることにも留意すべきだろう。米国には、欧州には存在しない、視聴番組に関する多種多様な規定や、MVPD(マルチビデオチャネルサービス事業者)と放送局(ローカル局と全米ネットワーク局)のあいだの、多数のクロスセルおよび再販の機会などがある。そうした違いにより、広告主側の要望と放送局側の販売傾向の両面で異なる市場ニーズへの対応が必要となる。結果的に、ひとまとまりの広告枠に複数の広告を重複なく配信することや、ビジネスロジックを改めて順守するといったCTVの課題は、かなり前に解決されている。

 

テレビの今後

アドレサブルリニア広告(ALA)では、放送局が確立した効果的な放送基盤から、広告主は真のメリットを得ることができるだろう。IPを介してリニアTVのコンテンツを送信する能力は、VODだけでなく、従来のテレビ放送にもあらゆるデジタル機能をもたらす。デジタルのリアルタイム信号が混合されることで、パーソナライズされた広告クリエイティブや、視聴効率の向上などを実現することができる。そして最終的には、これらすべてを大画面のプレミアムな環境で視聴することができる。

これらのことを総合的に考えると、チャンネル4が、5年にわたる「Future4」戦略で、VODの成長に注力すると決めたのは理にかなっていた。今回紹介したソリューションやデータ基盤は、放送局がすでに十分な準備をしていることを意味しており、もはや時代遅れの恐竜のようには見えないだろう(少なくとも私の目には見えない)。実際テレビは、それとは遠くかけ離れた存在なのだから。

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本記事は、ExchangeWire.comに掲載された記事の中から日本の読者向けにCARTA HOLDINGSが翻訳・編集し、ご提供しています。

株式会社CARTA HOLDINGS
2019年にCCIとVOYAGE GROUPの経営統合により設立。インターネット広告領域において自社プラットフォームを中心に幅広く事業を展開。電通グループとの協業によりテレビCMのデジタル化など新しい領域にも積極的に事業領域を拡大している。