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タイのパブリッシャーアライアンスによる新たなデータ提供に向けた取り組み

 

(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)

タイのパブリッシャー集団が新たにアライアンスを組み、自国における信頼性が高くて拡張性の高い在庫の不足解消、及び広告主から要望の強い高品質なデータが枯渇している問題に、取り組んでいくという。

タイでは2017年2月をめどに、Online Premium Publishers Association (OPPA)が12の現地パブリッシャーによって誕生しようとしている。これらのパブリッシャーにはBEC-TERO社、Dek-D社、Kapook社、Manager社、MThai社、Nation社、OTV社、Pantip社、Post Today社、Sanook社、SiamSport社、Thairath社が含まれる。デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(DAC)及びグループ企業のInnity社が、コンサルティング及びテクノロジー支援パートナーとして参画し、このアライアンスによる統合プラットフォームの立ち上げをサポートしている。

OPPAのプレジデントで、Nation Broadcasting Corporation Public CompanyのシニアバイスプレシデントでもあるAmnartTreenarat氏は、彼自身が最初にこのアライアンスのアイデアについて話を始め、パブリッシャー間にてアライアンスに向けての話を「数年間」行ってきたという。

Treenarat氏は、DACがアドバイザーとしてOPPAに加わったことで、アイデアを実行に移す機会が、「ついに」訪れたと述べてくれた。「DACは自社の知見及びノウハウを提供し、多くの面でこのアライアンスに携わってくれました。プロジェクト全体におけるDACのサポートによって、OPPAをスタートさせることができます」。

今週のQ&Aセッションコラムにて、このアライアンスに携わった7人の代表者がExchangeWireの質問に回答してくれた。

AmnartTreenarat氏 :Nation Broadcasting Corporation Public Companyシニアバイスプレシデント, OPPA社プレジデント
Sathitphongse “Add” Lenavat氏 :Thai World Media社のコンサルタント兼OPPA社バイスプレジデント
ChoakVisavayodhin氏 :Bundit Center社アシスタントマネージングディレクター,兼OPPA社取締役
Waroros “Note” Rojana氏 :Dek-d Interactive社共同創業者兼CEO
Choakchai “Kim” Eaimrittikrai氏 :BEC-TERO Entertainment社オンラインビジネス部門グループディレクター
Henry Liang氏 :Sanook Online社戦略パートナーシップ及びビジネス部門統括
Phang Chee Leong :Innity社CEO兼共同創業者

― OPPAのようなアライアンスを形成しようと思った背景について教えてください。タイのパブリッシャー市場においてどのような問題に直面していたのでしょうか?

Waroros “Note” Rojana氏

Waroros “Note” Rojana氏: グローバルなデジタル広告の世界では、オーディエンスターゲティングやプログラマティック対応などの事例が増えています。この分野で様々なイノベーションを提供するGoogleやFacebookのような主要なプラットフォームがデジタル広告費の拡大に大きく貢献しています。一方で、データマーケティングが世界的に主流になっていく一方で、タイ市場には広告主に品質の高いデータを提供可能な、信頼性の高く拡張性の高い在庫が欠けていました。

OPPAを通じて、アライアンスを組んだパブリッシャーたちが、品質の高い在庫及びデータ提供を行い、こういった状況に変化を与えていこうと考えています。

eCPMに代表されるデジタルメディアの価格は世界的に下降傾向にあり、タイも例外ではありません。この点についてもOPPAの取り組みを通じて改善したい点で、プレミアムパブリッシャーの在庫を統合マーケットプレイスに開放し、品質と拡張性を確保しながらより効果的な価格で提供したいと考えています。

― OPPAに参加しているパブリッシャーにはどういった企業があり、彼らは決定プロセスにおいて同等の発言権を得ているのでしょうか?また、今後より多くのパブリッシャーが参画する可能性はありますか?

写真:Sathitphongse “Add” Lenavat氏

Sathitphongse “Add” Lenavat氏: 現在12社のパブリッシャーが参加しています。

BEC-TERO社、Dek-D社、Kapook社、 Manager社、MThai社、Nation社、 OTV社、Pantip社、 Post Today社、Sanook社、SiamSport社、Thairath社になります。

もちろん全てのパブリッシャーそれぞれに独自の考え方があり、いつも考えが一致するとは限りません。そのため、私たちは、創立パブリッシャーのキーメンバーにより構成されるビジネス&セールスコミッティーとテクノロジーコミッティーを立ち上げ、常に決定プロセスに関わり、コンセンサスが得られるような取り組みを行っています。

また、OPPAのコンセプトと原則、組織運営に同調し、アライアンスに必要とされる品質及び規模を理解してくれるようなパブリッシャーには是非我々のアライアンスの一員になって欲しいと願っています。

― OPPAは広告主にとってどのようなメリットを生み出すのでしょうか?またパブリッシャーが得られる利点はどのようなものでしょうか?

Henry Liang氏

Henry Liang氏: タイには現在有効にデータ活用ができ、品質が高く拡張性の高い在庫プールが存在しません。それに加えて、ファーストパーティデータを別にすると市場で利用可能なデータは非常に限られています。

OPPAが提供しようとしている在庫及びデータによって、このニーズへの対応が可能となり、先進的で新たなアイデアに積極的なマーケターに対して、効果的なキャンペーンを実施できる環境を提供することができます。別の言い方をするならば、OPPAはパブリッシャーに対して、プレミアム広告スペース、オーディエンス、データといった既に所有しているアセットを活用し、より成長するためのサポートをしていくのです。

― データや在庫、及び統合プラットフォームに関してのOPPAの計画について説明してもらえますか?

Phang Chee Leong氏

Phang Chee Leong氏: Innity社がOPPAの統合プラットフォームにおける技術、機能、オペレーション面のサポートを行います。DACのコンサルティングサービス及びInnity社のテクノロジーに、私たちのこの地域におけるテック企業の運営ノウハウを合わせることで、このプラットフォームがタイのオンライン広告産業のゲームチェンジャーたる存在になると確信しています。

Choak 氏

ChoakVisavayodhin氏: 私たちはすでにOPPAのプラットフォームを通じて1億ものユニークブラウザデータを収集しています。これは、タイのインターネット人口が4500万人で、複数のデバイスを利用していることを考えても十分な数字だと思います。私たちのアライアンスパブリッシャーには、ビジネス、ITから、スポーツ・音楽・映画などのエンターテインメントが含まれます。私たちが収集したデータを効率的に活用し、オーディエンスの関心、デモグラフィック、行動に応じた品質の高いセグメントを構築することが可能です。

Phang氏: オーディエンスに対しては、標準的なバナーの他、動画、ネイティブなどをサポートし、データとクリエイティブを組み合わせた提供が可能です。また、データと在庫をPMPにて取引することもできます。また、メディア購入者が利用可能な、利便性及び管理面に優れたセルフサービスダッシュボードについても準備を進めています。

―それぞれのパブリッシャーがアライアンスにどのように貢献をしていくのでしょうか?

Choakchai “Kim” Eaimrittikrai氏

Choakchai “Kim” Eaimrittikrai氏: それぞれのパブリッシャーはユーザーのデモグラフィックとサイト履歴を包含した在庫及びデータを提供します。また、コミッティーメンバーはいかにOPPAを運営していくかについての運営案についても深く関与しています。

このアライアンスの鍵となる点の一つとして、それぞれのパブリッシャーが、自社で得た知識、経験、専門技術についての共有を活性化していくことが挙げられます。更に営業面においても、DAC、Innity社及び全てのパブリッシャーがOPPAを成長させるための協業体制を築いています。私たちの営業計画にはタイのローカルクライアントからインターネショナルクライアントまで含まれています。

― オーストラリアやニュージーランドのような国において、様々なアライアンス例がここ数年見られるようになっています。OPPAのパブリッシャーが日本やオーストラリア・ニュージーランドのような他の市場のアライアンス例から学んだことはどのような点で、これらをOPPAの取り組みにどのように生かしていくつもりでしょうか?

amnartnation

AmnartTreenarat氏: 競争の激しい市場で生き残るためには二つの要素が必要です。第一に、デマンド側の観点から、買手にとって何が魅力的でいかに市場での差別化を行うのかという点です。もう一つは、チーム内に専門知識をもったスタッフがいて、アライアンスを成功させるために、同じ目標が共有され実行できるかという点です。

オーストラリア及びニュージーランドや日本における過去のアライアンスに関しては、私たちのアライアンスを検討する上では、特定の前例に捉われないようにしました。その代わりに、タイのローカル市場の状況に合わせて、どのような形態が適しているのかという観点からアライアンスの取り組みを行いました。他の地域で形成されているアライアンスには、当初の目標を遂げていないものもあります。私たちは、経験と知識を生かして、市場が直面している問題にダイナミックかつ機敏に対応していきます。

― タイのパブリッシャー環境にて、他の市場と異なるユニークな点について共有してもらえますか?また、このような違いが市場においてどのような問題点と機会をもたらすのでしょうか?

Add氏: タイはデジタル市場の成長に合わせて多くの注目を集めるようになっています。 結果として、多くのグローバルプレイヤーがタイに参入し、現在グローバルなトレンドがタイ市場に入ってくる転換期を迎えています。これらのトレンドには、プログラマティック対応や、データマーケティング、様々なフォーマットサポートなどが含まれています。

私たちの独自の分析によると、タイ市場は現在急速にモバイルにシフトしており、80%のインターネットアクセスがモバイルからによるものです。OPPAはこのタイ市場の独自性を認知しており、この変化を機会として捉え柔軟に対応に取り組んでいきます。

― OPPAが今年達成したいと考えている目標について教えてください。

Choak氏: OPPAの組織を維持していくために、広告主が価値を実感してくれるような広告商品及びサービスを広告主に提供していく必要があります。そのため、最初の年は多くの経験が必要で、トライアンドエラーを行う年になるでしょう。新たな取り組みの最初の年であることを考えると、多くの困難が伴うことは想定しており、これらの困難に適切に対応し、PDCAサイクルを回し、市場及び広告主にとって価値のある商品を開発していきたいと考えています。

― どのような課題に直面し、それらにどのように取り組んでいこうとお考えですか?

Liang氏: 新たな課題としては、クロスデバイス対応、広告検証技術、透明性の確保、広告ブロック、新たな広告フォーマットの対応などが考えられます。市場は非常に早いスピードで動いており、常に変化をしています。これらの変化に目を光らせ、迅速い対応することが必要です。

Kim氏: ローカルパブリッシャーはタイの文化に合致したより優れた広告を配信し、企業や広告主の目標達成につながるようなサポートする必要があります。こういった対応を通じて、私たちはグローバルプラットフォームへの差別化をはかり、効果的に競争を行うことができます。

例えば、私たちは適切なパブリッシャーのコンテンツを見つけ、ネイティブ広告を適切なオーディエンスに対して配信することができます。これは私たちがオーディエンス及び企業にとって提供できる価値の一例です。

― パブリッシャーによるアライアンスは、市場が成熟しプログラマティックがパブリッシャー内の予算及び収益の多くを占めるようになるに伴い、パブリッシャーがインハウスでの管理ソリューションの提供を始め、解消されていく傾向があります。この考えに賛同しますか?また、OPPAのパブリッシャーが、アライアンスによる成果をより大きなものにしていくために、今後3年から5年の間でどのような戦略を抱いていますか?

Note氏: 私たちはプログラマティック市場の拡大を、OPPAにとって成長のための機会と捉えており、当然私たちのプラットフォームにおいてもプログラマティック取引をサポートしていきます。オープンなRTBの代わりに、OPPAはよりPMPモデルに近い形で運用していきます。パブリッシャーにとって、オープンなRTB上で在庫を販売すると、価格やメディアに配信されるコンテンツについての統制を失うことにつながります。加えて、データをサードパーティー事業者に提供されてしまうリスクもあります。

OPPAは大手パブリッシャーが保持するデータへのアクセスが可能なタイ唯一のプライベートなプログラマティッックマーケットプレースとなるでしょう。このようなアライアンスは他の市場でも稀で、この点を私たちは差別化として活用していきます。私たちは市場に提供する商品・サービスの優位性を維持し、広告主にとって魅力的でパブリッシャーのデータ及び在庫の価値を最大化するセキュアなプラットフォームを提供していきます。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。