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Adroll CMOが語る日本事業の進展と今後の展望 [インタビュー]

 

2015年初頭に日本市場に参入し、国内で広告プラットフォームとして独自の地位を目指しているAdRoll。グローバル及び日本での事業の動向、直近の取り組みなどについてPresident & CMOのAdam Berke氏にお話をうかがった。

(聞き手: ExchangeWire Japan 野下 智之)

日本のビジネスは2年で急速に拡大

― 2016年はAdRollにとってどのような1年でしたか?

今年はAdroll ProspectingやSendRoll*1などの新製品の発売があり、拡大の時期でした。これらは2つとも私達にとってとても重要な製品です。

― 日本に進出されてから2年近くになりますが、日本のビジネスについて進捗を教えてください。

非常に目覚ましい2年間だったと思います。2年前にゼロから始めて、いまや例えば楽天市場などの、世界の中でも有数の洗練されたマーケッターの方々とお付き合いをさせていただいています。

― 日本と米国のマーケット環境を見て、どのような違いが印象的ですか?

日本の市場に関しては、非常に洗練された広告代理店(エージェンシー)や企業マーケターの方が多くいるというのが一つ言えると思います。日本の代理店の方々は技術に非常に長けているということ、そして技術を自ら触れて、使っていくということに対して前向きな姿勢でいる方が多いと感じました。私たちはユーザエクスペリエンスを向上させることに対して多く投資を行ってきていますので、その面では非常によいと思います。

― AdRollという会社の業界内でのポジショニングや、捉えられ方については、日本と米国の違いはいかがでしょうか?

米国では10年前からビジネスをしているので、米国市場の方が私達の製品や企業に対して認知が高いということは言えると思います。しかし日本ではまだ2年という短い期間であるものの、急激に成長できていると思っています。

世界の市場ではAdroll ProspectingやSendRollといった新製品がすでに普及していて、かつ、幅広い製品を提供しているということでは知られているのですが、日本ではまだ主にRetargetingという分野のみで知られている状況です。ですが、この状況も間もなく変わってくると思っています。

複数DSPの同時使用はリターンを減らす

― 日本の広告主は欧米の広告主と比べ、数多くのDSPから広告配信をしているともいわれますが、これについてどうお感じになりますか?

あまりにも多くのDSPを使うと、どこかの段階でいずれリターンが減ってしまうということになってしまいます。というのも、必ずしもDSPを多く使えば使うほどクライアントのゴールを多く達成できるというわけではないからです。

米国では、クライアントやエージェンシーの方々とより深い関係を築いた方がより問題解決しやすいといった考え方がだんだん浸透してきているのですが、日本では同じ指標を持つべきではない異なるソリューションであっても、とりあえず比べるために数を増やすという方向にいっているように思います。ですから、DSPの配信も単価などの単純な指標を比べるためにいくつものベンダーでキャンペーンを実施し、結果として配信競合による無駄な広告費用の投下へ繋がっているように思います。

結果、特定のクライアントやエージェンシーとじっくり問題解決をする機会が失われてしまい、大枠でのマーケティングの目標や企業としてのビジネスゴールへの寄与から遠ざかるという状況になりかねないとも言えます。

「クリック」は必ずしも良い指標とは限らない

― 貴社はインターネット広告に関するユーザー調査を実施され、その結果を一部ATS Tokyoで公表されました。広告に関する印象的な調査結果について、いくつかご紹介いただき、その背景についてお聞かせください。

そもそもの背景からお話をさせていただきますと、日本の消費者がデジタル広告に対してどのような感覚を抱いているのかをよりよく理解したいという思いから、調査を行いました。その結果から消費者に対してどのようなアピールをしたらいいかということもわかってきますし、マーケッターの方々に対してもよりよい結果をもたらすためのアドバイスができるのでは、と思ったからです。

調査の結果は、私達が想定していたものとだいたい同じでした。まず、一つわかったことというのは、「クリック」よりもよりよい指標があるのではないか、ということです。というのも、多くの回答者が広告をクリックしないと答えていますし、あるいはクリックをしたとしても、間違えてクリックしたと回答している方が多かったのです。

― 調査の結果を受けて、日本のマーケッターにメッセージがあればお願いできますか。

結果を測定するに当たって、より洗練された測定手法が必要であるということが出てきました。私達としても、マーケッターの方々がよりよい意思決定ができるように、このデータをパッケージ化していき、提示ができればというふうに思っています。

高いパフォーマンスが評価され実現した楽天市場との提携

― 楽天市場との提携についてもお聞かせください。いつごろからどういう風に始まったのでしょうか。

1年以上の話し合いを続けて今の形になった、とても長いプロジェクトです。提携することになった理由は、私達があらゆる規模のお客様に対応できる拡張性のあるソリューションを提供していたためです。他社が提供している製品やサービスというのは、主に大きなブランド向けのものになっていて、それ以外の小さな事業者の方々に向けたものではありませんでした。楽天市場はまさに大きな企業から小規模の個人商店まで多くのテナントがいるため、それぞれの出店者と連携ができるソリューションを探しており、私達と提携することによってそれを解決できるのではないかということになりました。

楽天市場側の選定の過程ですが、私達も含めて他のプロバイダーの方々とテストをした結果、AdRollがパフォーマンスや規模感、拡張性という意味でも彼らが抱えている問題を解決するにあたって最も優れているとして選んでいただきました。選定のプロセスに関しても、データ主導型のアプローチで取り組まれていましたし、楽天市場の中にも先進技術に明るい方々がたくさんいらっしゃいますので、2社のプラットフォームを統合するということもスムーズにいきました

― 貴社のプロダクトのどのようなところを楽天市場仕様にしたのでしょうか。

楽天市場が求めているような規模感に応えるためには、大量の広告主が使えるようなAPIを構築するということが必要でした。その中で重要だったのがパフォーマンスとROIを高くするということと、拡張性という点でした。

― 今回のような取り組みは、他のプラットフォーム企業向けにも展開されていく予定ですか?

今後も他のところに広げていく可能性はあると思います。今回のような取り組みはすでに他の地域ではあったのですが、楽天市場のケースが最も規模が大きく、また最も複雑でした。これまでにもプラットフォームソリューションとして提供させていただいているお客様はいますし、今後もパフォーマンスマーケティングのソリューションとして提供させていただく可能性は大いにあると思います。

今後も世界展開を加速

― 来年のAdRollの展望についてお聞かせください。

新製品を含め、AdRollのソリューションを世界中の様々な地域で先進的なマーケッターに提供できるようにしていきたいと思っています。米国ではすでに成功事例も出ていて、私達が提供している様々なソリューションを組み合わせて使って頂いたほうがよりよい結果が出るということが実証されています。
新製品に関しては、日本でも公開の準備を整えていますので日本のマーケッターの方々がよりよい結果が出せるよう、これからもお手伝いをしていきたいと思っています。

*1 SendRoll日本版の正式公開は2017年初頭を予定

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。