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目指すは「Beyond Marketing」― データ市場を切り開くTreasure Dataの展望とは[インタビュー]

「各種のプライバシー制限を受けて、ファーストパーティデータの重要性が高まる」と喧伝されている。ただ「DX」や「業務改革」といった掛け声と並び「データ活用」の実態は分かりづらい。データ市場には今後どんな変化が待ち受けているのか。唯一無二のCDP事業者として同市場を牽引するTreasure Dataに今後の展望を聞いた。

(聞き手:ExchangeWireJAPAN 長野 雅俊)

 

立ち上がりつつあるB to B企業向けデータ市場

 

―自己紹介をお願いします。

 

山森氏:トレジャーデータ株式会社で事業開発・パートナーシップ担当執行役員を務める山森康平と申します。サードパーティCookie 廃止や個人情報保護法の改正及びEU 一般データ保護規則(GDPR)施行などを受けて、マーケティング活動に様々な制約が課され始めました。こうした環境下で、ソリューションベンダーとしてどのような機能を提供すべきかを検討すると同時に、関連事業者様とのパートナーシップ構築を管理しています。

 

大津留氏:戦略・社長室担当執行役員の大津留博文です。戦略的営業案件の提案活動や、APAC(アジア太平洋)地域の事業を管掌しています。

 

―改めて貴社の事業紹介をお願いします。

 

大津留氏:当社はカスタマーデータプラットフォーム(CDP)をSaaSとして提供しています。これまでは主にB to C企業のマーケティング活動に必要なデータ統合基盤としてご利用いただくことが多かったのですが、近年では「Beyond Marketing」をテーマにサービス対象範囲を拡張中です。

 

一例として、今年9月には法人営業を高度化するための新プロダクト「Treasure Data CDP for Sales」を発表しました。B to B取引を行う企業や組織において、様々なチャネルや部門に分散している企業・担当者データの統合や、営業・マーケティング・サポート活動の全体最適化を支援します。さらには「Treasure Data CDP for Service」というコンタクトセンターやコールセンターからウェブ、アプリ、広告、店舗といった多様な顧客接点を包括的に管理するプラットフォームの提供も開始しました。

 

また会員データだけでなく非会員データや行動及び購買データさらには天気情報を始めとする外部データ活用を含めたユースケースが多様化しています。

 

―B to B企業によるCDP需要はあるのですか。

 

山森氏:コロナ禍で法人営業が対面からオンライン主体に切り替わったことで、管理すべきデータの種類と量が圧倒的に増えました。従来の法人営業では営業支援システム(SFA)への商談記録の入力が主でしたが、最近ではオンライン動画の視聴ログやオンライン名刺など、管理及び統合すべきデータが多岐にわたります。こうした変化を受けて、今やB to B企業向けデータ市場とも呼ぶべき新規市場が立ち上がりつつあるのです。

 

―今夏にはArm傘下から独立した事業会社としての運営に戻りました。

 

山森氏:2021年6月にはArmから完全に独立した事業会社としてビジネスを運営しています。2021年11月にはソフトバンク株式会社等からの総額234百万ドルの資金調達を発表し、Yahoo Japan、LINE等のZホールディングス傘下の企業との連携、協業も今後強化していく方針です。

 

Cookie制限を受けてCRM市場が拡大

 

―Cookie規制を受けて、ファーストパーティデータの必要性が謳われています。

 

山森氏:ファーストパーティデータの収集及び管理に関心を寄せる企業が増えた結果、当社への引き合いは確実に増えました。多くの企業では、データ収集を目的とした新規アプリや会員向けサービスの開発の検討を行っている最中だと思います。

 

自社でデータ基盤を構築するのは大変です。例えばCookie制限が課せられた環境下で広告の効果測定を行うとなれば、FacebookのAPIに接続する機能を開発しなければなりません。その開発だけで数百万円はかかるでしょう。さらに定期的に機能の更新を求められます。その度に外注したり、社内リソースを割り当てるよりも、当社のようなSaaSをご利用いただいた方がずっと効率的というご判断をいただいているのだと思います。

 

大津留氏:データ収集に関しても課題は多くあります。そもそも多くのユーザーに使ってもらえるアプリを開発すること自体が容易ではありません。まずはLINEやPayPayといったプラットフォームを通じて会員を増やしていくことの方がはじめの一歩としては適しているとは思います。

 

―いずれにしてもサードパーティCookieが廃止されれば、マーケティングのあり方が大きく変わりますね。

 

山森氏:これまでオープンインターネットを舞台としてサードパーティCookieやIDFAを最大限に活用してきたアドテク市場が収縮し、Googleなどのウォールドガーデンの存在が相対的に大きくなっていくでしょう。加えて電話番号やメールアドレスを使ってターゲティングを行うLINEなどのSNSが手掛けるCRM市場が、従来のサードパーティCookieに基づく広告配信市場と入れ替わる形で伸びていくでしょう。

 

―貴社のように会員情報などを扱うCDP事業者には追い風となりますか。

 

山森氏:CDPにはIT投資予算が割かれることが多いので、必ずしも広告費がこちらの市場に流入してくるわけではありません。ただCRM関連のソリューション全般に投入される予算は確実に増えていくのではないでしょうか。具体的なイメージとしては、多くの企業が年間1千万~数千万円規模のツールを1、2個追加することになると予想します。

 

なぜデータ基盤構築に特化するのか

 

―メール配信やウェブサイト解析までを含めた多機能性を打ち出すDMPやCDPは珍しくありません。その中で貴社があえてデータ管理・統合業務に特化するのはなぜですか。

 

山森氏:データ取得、管理、活用に関わるすべてを特定の一社に委ねると、いわゆるベンダーロックインに陥ります。せっかくオンプレミスからクラウドの時代に移行して技術を組み替えやすくなったにも関わらず、特定企業に絞ってツール一式を揃えると柔軟なシステムやツールの入れ替えができなくなるので結果的に非効率です。

 

大津留氏:また複数の子会社を抱えていたり、事業部制を採用している企業となると、同じ企業グループであるにも関わらずA社はαツール、B社はβツールを利用していてお互いのデータが統合できないという事態が発生し得ます。そうした環境下では、異なるツールと接続及び統合しやすい独立性と柔軟性を兼ね備えた当社のCDPがその強みを発揮しやすいです。

 

 

―複数の子会社や事業部を持たないいわゆる中小企業と貴社のツールは相性が悪いのでしょうか。

 

大津留氏:確かにデータ環境の整備には一定の費用がかかります。ただ最近ではデータ基盤整備に1000万円前後の投資を行う中小企業も珍しくありません。

 

また当社ではパートナー企業との提携を通じて、当社CDP機能をリーズナブルな価格で部分的にご利用いただける枠組みもご用意しています。またそうしたパートナー企業と提携することで、データ活用のノウハウをより広く伝えることができるという利点もあります。

 

山森氏:CDPに限らず、データ活用を行う上で前提とされるIT知識が日増しに高度化しています。当面は広告会社、コンサルティング企業、SIerといった各企業のデータ活用の支援を打ち出す事業者と連携する機会も多くなると思います。

 

―今後の事業展望についてお聞かせください。

 

山森氏:既に申し上げた通り、「Beyond Marketing」をテーマとして、扱うデータの種類とそのユースケースを拡大中です。加えてソフトバンクグループの投資先であるマレーシア企業のAxiata Digital Advertising社との協業を通じてアジア展開を強化していきます。

 

CDP機能を有するツールは世に数あれど、CDPをSaaSとして提供する独立系事業者は希少であり、この観点から当社と競合する企業は事実上ありません。だからこそ、当社は常に新規市場を開拓していかなければならない立場にあると痛感しています。今後も引き続きCDP市場を牽引しつつも、新しい市場を切り開きながら進んでいきたいと思います。

ABOUT 長野 雅俊

長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。