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目指すのはオケージョンの最適化―MADSが描くサイネージアドネットワークの未来とは[インタビュー]

マイクロアドデジタルサイネージ(MADS)はデジタルサイネージアドネットワークおよびコンテンツマネジメントシステム「MONOLITHS(モノリス)」を提供している。MONOLITHSを使うことにより、時間や場所など、ターゲティングを指定したうえで、インターネット上の管理画面からデジタルサイネージを一元管理することが可能となっている。また、配信面は美容室、ドラッグストア、タクシー、エレベーター、商業施設など多岐に渡っている。2021年のMONOLITHSの取り組みと今後の展望について、穴原誠一郎代表取締役に話を聞いた。

(聞き手:ExchangeWire JAPAN 柏 海)

約10万面のサイネージネットワークを構築

―デジタルサイネージアドネットワーク「MONOLITHS」とはどのようなサービスなのでしょうか。

一言でいえば、複数のデジタルサイネージを一元管理するシステムです。我々のMONOLITHSをハブとすることで、広告主や代理店からいただく広告配信リクエストに応じた配信を制御しています。

 

MONOLITHSを使うことによる、媒体社・代理店・広告主といった各プレイヤーに共通したメリットは、利便性や作業効率が高まるという点に尽きます。例えば、デジタルサイネージを設置しているロケーションオーナーには何かしら発信したい情報があるわけで、その情報コンテンツの差し替え作業は、漏れなく滞りなくスムーズ且つ簡素化したい、というニーズがあります。複数のロケーション展開をしている事業者なら尚更です。

 

また、広告代理店は広告主から「屋外広告を中心に複数媒体に広告出稿をしたい」というオーダーをいただいた際には、各媒体を管理するメディアオーナー1社ごとにお声がけをして、各社のルールに則した入稿手順や手続きを踏まなければならず、広告のコントロールも煩雑となります。複数のディスプレイを一元管理できるMONOLITHSではその工数を削減することが出来るので、各プレイヤーにとって大きな利便性が期待できます。

 

―現在の配信面数と配信場所は。

現在、配信面は約10万となっていますが、我々のネットワークはそのほとんどが交通機関などの移動体を含む屋内かつ、商業施設やインストアの店頭など、視聴者から物理的に非常に近い環境の媒体が多くなっています。我々のサービスは2014年に開始をしたものとなりますが、インストアにおけるデジタルサイネージの新規設置は非常に増えて来ていますね。

 

近年はコロナ禍で一層加速をしている印象ですが、インストアにおけるシンプルな需要としては、ポスターを印刷し店頭に配送してから現場のスタッフに張り替えてもらう、という一連の工程がデジタルサイネージを設置することにより、ボタン一つで中央集権的に展開することが出来てしまうからです。

 

要は店舗のDX化の延長線上ではありますが、ポスターが本来あった場所にデジタルサイネージ=ディスプレイを設置することにより、各店舗のコンテンツをコントロールし、販促など、来店客への様々な情報訴求を全国ないしは特定の店舗やエリアでしっかり行いたいというニーズは非常に高まっています。

 

また、店舗によるポスターの一斉張替えなどは徹底率(各店舗が本部の指示に従いポスターを張り替える率)は7割〜8割だと聞きます。会社本部としては徹底率を上げたいが、各店舗の人手の問題など様々な事情からなかなか管理が難しい。ただ、それがデジタルサイネージに置き換わることにより一元管理が可能となり、徹底率を100%にすることが実現できます。

 

ネコで話題。屋外3Dサイネージを展開。

―2021年の貴社の取り組みとしては、SNSでも大きな話題となった新宿の「屋外3Dサイネージ」がありますが、こちらはどのようなきっかけで始まったのでしょうか。

屋外3Dサイネージは「クロス新宿ビジョン」と言いまして、コンテンツと広告の運用管理を行っているユニカ社と配信システムの提供と維持管理を行うMADS、ビルオーナーのクロススペース社と共同運営をしています。ユニカ社が管理するサイネージには従来から我々がお手伝いをさせていただいていたのですが、今回は新宿に新しくビルが建つ際からお声かけいただき、広告商品設計・媒体のアレンジメント、配信の仕組みの整備を行いました。

 

今回は通常のサイネージではなく、3Dサイネージを採用しましたが、理由としては、設置される予定の場所と視聴者が見ると想定される場所が、3Dサイネージにとって最適な場所だったからです。3Dサイネージはいわゆる錯視を使用したもので、視聴されるポイント次第では3Dに見えません。新宿のあのロケーションは横断歩道があり、歩行者が特定の場所に滞留してもらえるため、しっかりと3Dで見せた訴求が出来る場所となっているのが決め手となりました。

 

3Dサイネージは滞留時間と滞留場所が大きな課題とはなりますが、2021年9月にはヒット社が表参道で3Dサイネージの展開を始めました。今後も3Dサイネージが日本国内で増えていく可能性は大いにあるかと思います。

 

商品棚に向かわせる導線にサイネージを利用

―2021年はリテールとの接続にも積極的に取り組まれました。

ウエルシア薬局1,500店舗、クリエイト300店舗への広告配信を開始したことを2021年は発表させていただきました。また、従来からの取り組みとしては、スーパーマーケットのマルエツ約150店舗に配信をしております。

 

リテールで大事なのは購買促進につなげることですが、特に我々が注目をしたのが比較的低価格帯の商品を対象とした非計画購買、つまり“合わせ買い”や“ついで買い”と言われている部分です。マス広告などで商品認知はしているものの、来店した時点では忘れていることも多い。そこにお店のエントランスに置いてあるディスプレイに接触した人に再想起を促し、商品が置いてある棚に向かわせることに注力をしました。

 

プロモーション効果を最大化するために、オンデマンド配信の強みを生かした広告の配信量やタイミングの調整、天候データとの連動にも取り組み、売上データ(POS)と照らし合わせた広告効果の可視化を行っています。

 

現在までで多数のメーカー、ブランドにご出稿頂いておりますが、POSデータを元にしたレポーティングの結果、多くの出稿いただいた訴求で購買リフトが現れており、メーカー担当者様より嬉しい言葉もいただいてます。

 

その他にも、「クオール薬局」や「なの花薬局」など調剤薬局の配信ネットワーク構築、女性個室トイレメディア「OiTr ads」への接続にも取り組みましたが、総じて2020年がメディア開拓のための準備の年だとすれば、2021年はそれらが形になり情報解禁をさせていただいた年だと思います。

 

サイネージはオケージョン訴求がメリット

―アドネットワークによるサイネージの配信が進むにつれて、ウェブ広告などの他の広告とサイネージが比較される機会も更に増えていくのではないかと想定されます。他の広告と比較した際のサイネージのメリットはどこにあるのでしょうか。

広告に限りませんが、デジタルサイネージはその日・その時・その場所にいる人に情報を伝えられることがメリットだと思います。ポスターやビルボードのアナログ媒体では柔軟に広告やコンテンツを変えることが出来ないので、それらがデジタルサイネージに取って代わることになれば、我々が目指すオケージョン(場合)の最適化も実現できると考えています。オケージョンマッチした広告は受取手にとって有益な情報になり得ると考えています。

 

また、ウェブ広告におけるリターゲティング広告は非常に効果的ですが、技術がコモディティ化し多用されてきた近年は、自分のデバイスであるが故に「自分が訪れたサイトの広告である」ということが生活者にとって一般的な認識となっており、接触頻度によってはネガティブに捉えられてしまうこともあるのではと感じます。その点、公共端末であるデジタルサイネージが行うオケージョンにマッチした訴求ならば、生活者や消費者に対してより浸透がしやすい情報や広告を提供できるのではと考えています。

 

いずれにしても広告手法にはそれぞれ求められる役割があると思います。どの広告手法が良し悪しではなく、役割に応じた様々な広告手法を組み合わせて展開することが、マーケティング施策の成功には重要なポイントだと思います。

 

Cookie制限もあり、今後はクラスタリングベースのターゲティングで、1対1から1対Nのターゲティングにウェブ広告も変わっていくと仮定すれば、それはMONOLITHSで配信しているデジタルサイネージ広告と同じような考え方になります。そうなれば、広告在庫の共通化といった考え方から、それぞれの役割に合わせて広告主側で判断して、ウェブの広告配信プラットフォームから接続可能なデジタルサイネージに配信するような使い方も出てくるのではないでしょうか。

 

―サイネージ広告では効果の指標や測定方法等が課題の一つとして挙げられますが、この課題についてはどのように考えていますか。

何をもって広告効果と定めるか、に対する議論は媒体やロケーション毎にも異なりますし、継続的な課題であると思いますが、何かしらファクトデータを活用したレポーティングは当たり前になっていくと考えています。我々が展開しているウエルシアやクリエイトなど購買モーメントでのPOSデータを活用した購買リフト分析など、様々なデータや技術を活用した計測などによるレポートの充実化は進んで行くと思います。

 

鉄道3路線で販売実証実験を実施

―改めて、今後の事業展望についてはどのように考えていますか。

MADSでは小田急線・京王線・東急線の3路線と共同で、データを活用した新しいデジタルサイネージの販売実証実験を実施しています。コロナ禍をきっかけとして、交通広告媒体は今までの在り方から進化させなければならない、という意識や空気感は鉄道各社からも強く感じているところですので、まずはそこのアップデートに貢献をしていきたいと思います。

 

人々の生活導線にある交通広告の媒体価値は依然として高いものですが、今まで純広告のみで販売されていたものに対して、我々が広告ビジネスとしての新しい販売方法やプロフィットポイントの提供を行う。接触の可視化や曜日や時間帯を指定したオンデマンド配信などを可能にし、広告主ニーズに即した需要を取り入れることによって、取引額も増加し、より交通広告の媒体価値が高めることが出来るのではないでしょうか。

 

ウェブ広告の目覚ましい進化と市場拡大によって、マーケティングの在り方も多岐に渡る手段を活用することが可能になり、大きく変化していると感じています。しかしインターネット自体は本来ツールであり、従来からある媒体もインターネットを活用することで時代に求められる媒体へアップデートする余地は多分にあると考えています。

 

その時・その場所にいる・その人にとって最適な情報を届けること。発信する側も受け取り側にも価値のある情報の提供を実現する仕組みを創っていきたいと思います。

ABOUT 柏 海

柏 海

ExchangeWireJAPAN 編集担当 日本大学芸術学部文芸学科卒業。 在学中からジャーナリズムを学び、大学卒業後は新聞社、法律・情報セキュリティ関係の出版社を経験し、2018年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。デジタル広告調査などを担当する。